東方騎士譚   作:城縫威

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あら?さっきまでいたあの強い魂はどこに行ったのかしら?

まぁ、ひとつ魂がどっか行ったとしてもどうにかなるでしょう。それよりお腹がすいたわ。

「妖夢~ご飯~。」

「え!?さっき食べたばっかでしょ!!?」

それにあの魂、多分面白いことが起きそうね。

     ──────────◆──────────── 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

日は沈み夜になる。

紅く染められた屋敷から飛び出た大きなバルコニーに椅子をだし、丸い大きな満月の下で優雅にくつろぐ少女が一人。

「咲夜~紅茶が切れた~。」

誰もいないバルコニーで言う少女の横に、さっきまでいなかったはずのメイド服の少女がどこからともなく出てくる。

手慣れた手つきでカップに紅茶を入れる。

「ありがと、咲夜。」

満ち足りた表情で少女は咲夜と呼ばれる少女に礼を言い、口に紅茶を含む。

口いっぱいに紅茶の香りが広がり、少し肌寒い外の空気の中、自分の身体を温めてくれる。

「ねぇ咲夜。」

「なんでしょうかお嬢様。」

お嬢様と呼ばれた少女は顔に微笑みを浮かべながら言う。

「ここ最近面白いことが何も起きないわね。」

「そうですね。ここ最近”異変”は全く起きていません。」

咲夜は丁寧な言葉で答える。

「ホント退屈。何にもない日がこれ以上続くと死んじゃうわよ。」

「平和な事は良いことなんですけどね。その所為で美鈴がよく居眠りをするので困ったものです。」

溜息と共に愚痴が零れる咲夜に少女は言う。

「まぁ、中国はやる時にはやるからいいのよ。でもね咲夜、今日はこんなに良い満月なの。私のような吸血鬼には力が湧く一番の時でもあるし、それは夜に生きる者たちも一緒。こんなに良い満月だもの、今日明日に何か起こるわ。」

妙に自信めいた口調で少女は言う。

「何か心当たりでも有るのですか?」

「勘よ。」

「勘、ですか。」

「ええ、勘。どこかの守銭奴な巫女じゃないけどそんな感じがするの。もし何もなかったら私が暴れてやるわ。」

容姿に見合わず物騒なことを言う。

「あまりやり過ぎないでくださいね。この屋敷を直すのは私と妖精達なんですよ?」

少女は少しだけ顔を顰める。

「あら?私の心配じゃなくて屋敷の心配をするのかしら?」

「ええ、お嬢様は絶対に負けませんから。」

咲夜はそう少女に言う。

言われた少女は顰めた顔を元に戻し微笑み浮かべる。

「そう、ならいいわ。」

今度は見た目に見合い、おだてられて気分を良くしている。

そんな二人の所へと飛来して来るものが一つ。

辺を照らす月の光よりも淡く、けれどとても明確な蛍火のような物がゆっくりと。

「ねぇ、咲夜?」

不意に少女は口を開く。

「なんでしょうか。」

「あれなんだと思う?」

少女の指を差す方向、咲夜にはどこに何があるのかよくわからない。

「あれ、と言いますと?」

「あれよあれ、何かこっちに近づいてくる光。」

目を凝らしてみてみると、ようやくなんの事を行っているの理解する。

「何でしょうか…。蛍は此処らへんには来ませんし。」

二人の不思議と感じる感情は解消されることはなく、ただその光を見ていた。

光はゆっくりとこちらへやって来る。

少し経つとそれが炎の様に揺らめいてるのが見て取れた。

「なんでしょうか、あれは。撃ち落としますか?」

いつの間にか咲夜の手には小型のナイフが握られていた。

「駄目よ。もし面白いことだったらどうするのよ。こっちは被害も何もいけてないんだから傍観にてっしてなさい。」

「わかりました。」

握っていたナイフはあたかもなかったかのようになくなっていた。

少女は咲夜の紅茶を楽しみ、咲夜は少女の隣にじっと佇んでいた。

そして、そろそろ部屋に戻ろうかという話しが持ち上がった時、とうとうその光は目の前までやって来ました。

「なにかしらね、これ。」

「さぁ、わたしには。」

大きな欠伸をした少女は、今はその光に構うより寝たいようだ。

「咲夜、適当な瓶にいれて保管しておいて。眠いから今はいいわ。」

「了解しましたお嬢様。」

咲夜は少女を寝室に連れて、忽然と姿を消した。

次、姿を表した時には、手に少し大きめの瓶を抱え、光の前へと歩み寄る。

光を瓶に入れると、通り抜けることなく、瓶の中に収まり、ゆらゆらと光を発している。

咲夜はそれを物置へと仕舞い自分の残った仕事を片づけ、自分も自らの寝床へと入った。

     ──────────◆──────────── 

「パチェ~。」

間延びした声が図書室内に響き渡る。

「あら、また来たの?珍しいことが続いて今日は雨でも降るのかしら?」

「雨なんて降ったらたまったもんじゃないわ。それよりパチェ、これなんだと思う?」

少女から差し出されたのは瓶。

便の中には淡く、炎の様にゆらゆらと光る物が入ってる。

それを見た瞬間パチェと呼ばれた少女は目を見開く。

「あなた何でこんなもの持ってるのよ。」

「昨日の夜に外出てたら何か来たわ。」

「来たってこれ...。」

「で、それ何なのよ。そんな反応してるんだから知ってるんでしょ?」

早く答えを知りたいと矢継早に長髪の少女に言い寄る。

「これは魂よ。それもそこらの人間とは違うとても強い魂。」

「へ?魂?これが?」

答えに納得が付いてこないようで少女は聞き返す。

「魂ってこんなにはっきり見えるものなの?もっとほら、眼に見えないものだと思ってたけど。」

誰もが思う必然の考えを少女は言う。

当たり前のことだ。いきなりこれは魂だと言われて信じる人がいるのか。いや、彼女は人ではないがそれでもやはり魂という共通概念の中、こんなにもはっきりと肉眼で見える魂というのは信じられないだろう。

「まぁ、そう思うのは当然ね。実際魂なんてものは見える人には見える様な物だし、普通は肉眼で見ることは出来ないような物なのよ。」

「じゃあなんで見えるのよ。私は今まで魂なんて見えたことなかったわよ?」

怪訝な顔をして少女は聞く。

魂というのは普通は見えないはずのもの。誰もが知っている事を肯定されるがそれが見える矛盾が解決されない。

「そうね、魂は普通は見えない。まぁ、特殊な場所、冥界とかなら見れるかもしれないけど...。」

「じゃあこれ何なのよ、なんで魂がこんなにはっきり見えるの?」

焦らされるような回答に少しだけ苛つきが見える。

「この魂の存在が強すぎるからよ。だから肉眼で見れる。」

「存在が強いってどのくらい強いの?」

「そこらの人間、私達であっても、魂は見えないわね。人外ですら見えないのにこれは見える。よほど強くなければ肉眼で見るなんて不可能よ。」

「そんな強い魂の持ち主ってどんな奴なのよ...。」

「これだけ強い魂なら、少し手を加えれば多分肉体を取り戻すわよ?」

興味深そうに少女は聞く。

「へぇ、面白そうじゃない。やってみてくれない?」

長髪の少女は少しの沈黙の後口を開く。

「いいわよ、私もこれだけの魂を持った者がどんなのか気になるから。」

長髪の長女は瓶から魂を掴み取る。

「どうやるの?」

「簡単よ。肉体を得るきっかけを作ればいい。」

「ふぅん。」

長髪の少女は魂に意識を集中させていく。

「具体的にはどうするの?」

「魔力を送り込んでこの魂を包んでいる殻を破るの。魂は殻をなくして、世界に在るために肉体という依代を作る。弱い魂はそれが出来ないけどこれほどの強い魂なら出来るはずよ。今やるから少し静かにしてて。」

長髪の少女は無言になり、少女もそれを無言で見守る。

無言の間、周りから見たら短い時間なのだろうが、彼女たちにとってはすごく長く感じるだろう。一人は暇を持て余し、新たな出来事が起こりそうだという期待に胸を膨らませ、一人は知的好奇心擽られる事を今自分がやっている。

魂に少しヒビが入るとあとは早く、どんどんと広がり終いには割れて光の放っていた物は霧散してしまった。

「え?まさか失敗した。」

その光景に失敗という言葉が頭に浮かんだ少女。

「いいえ、成功よ。これから身体の構築が始まるわ。」

周囲に霧散した光の粒子がまた一箇所に集まっていく。

それは先程のように小さな塊じゃなく、より多くの光を連れて集まってくる。それは形を形成し、身体を形成し、遂にその者を作った。

黒く傷だらけの鎧を来た騎士が放られた乱雑に置かれている本の上に姿を表したのだ。

 

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