闇を歩く。そして私はこの闇の中を知っている。
いや知らないという方がおかしいのだ。私を蝕み侵食し飲み込んだ闇だ、忘れもしない。
私の救い主レオン。彼が私を、深淵に飲み込まれた私を救ってくれた戦士、彼の御蔭で私は深淵から出ることが出来、私が何をやっていたかを示してくれた。
我友キアランも私の最期を見とってくれた。
私は最期を迎え、死んだはずなのだ。
だというのに何故私は此処を歩いているのか。
私が深淵を歩いていた時とは違い、左腕は動き、鎧は深淵に入る以前の頃のように、傷はない。
だが盾も剣も持っていない。長年連れ添った友であり相棒であるシフも隣に歩いてはおらず、アルヴィナもいない。
有るのは私を包む鎧だけだ。
私の歩くこの闇に音はない。甲冑の擦れ合う音もしなければ、視界の中に映る物などなにもないのだ。
──オオォオォオォオオオォオオ──
雄叫びが聞こえる、おぞましい雄叫び、どかで唸っている。自分以外のありとあらゆる物が欠落したかの様なこの世界で、いきなり聞こえるこの雄叫び。
なんだ、身体に緊張が奔り、言いようない悪寒が包む。どこだ、何が居る。
姿見えない闇の中、歩みを止め、辺りを探る。雄叫び、言い様のない悪寒、そこから何かを引きずる音が聞こえてくる。身体はすでに臨時体制に入っており、何時でも迎撃の準備は整っている。
音が、...消えた?
引きずる音も、悪寒も雄叫びも何も聞こえない。静寂、何も聞こえない、闇、何も見えない、緊張は残る。何がいた何が動いていた。この深淵の中何かが私の近くで動いている。
油断は出来ない、精神を集中し辺を探りながらまた歩き出す。
歩く、歩く、歩く、歩き続ける。鎧の中は気持ちの悪い汗がベッタリと身体を濡らしている。あの雄叫びが頭のなかで響き渡る。静寂な世界が嫌に恐怖を煽る。
そして歩みを止める、いや止めざる終えないのだ、身体が動かない、まるで金縛りにあったように、頭の中で危険だと警報がなっている、またあの悪寒がする、止まってはいけない動かなければ、だが動かない、何も、指も足も何も。
──オオォオォオォオオオォオオ──
まただ、また雄叫びが聞こえる。叫び声と大差無いような雄叫び、それが頭上から、そう頭上から。
身体は動かない、だが無理にでも首だけを動かす。
痛みが、激痛が身体を襲い奔り抜ける。
痛い、だが痛みに声をあげる事は出来ない、ただ動かす、視線を上へ。
そして、目が上を向いた時、見えるその正体。
それは──
身体は動かない。
鎧と胸を突き抜け身長以上まである大剣が地面と私を縫いつけているから。
かろうじて残る意識でそいつを見る。
口だけやけにはっきりと見えるのだ。
三日月状に醜く歪んだその口が。