いつから悟と僕は出会ったか……それは遡ること僕達が産まれる前。どうして産まれる前なんてことを言ったかと言うと、僕の母親と悟の母親が、小さい頃からの幼馴染で……そしてお互いに相手を見つけて結婚し、子供が出来た。それが僕と悟……つまりは、僕達はさっきいった通り、産まれる前から出会う運命だったとも言える。
「なんでそんな事になっちゃったんだろうな……」
決して悟と出会った事が嫌なわけじゃない。悟に出会えたおかげで手に入れたものもあるし、悟のおかげで知り合えた縁もある……けど、失ったものもたくさんあった。
好きになった人が悟を好きになったこと……強制的に悟と比べられ、蔑まれてしたことで生まれなかった自分への自信。周りの世の中からの僕への期待……それらを……それ以外のたくさんのものを、僕は失った。
「……今日は雲一つないな」
僕はそんなことを呟きながら、空を見上げ……昔、母さんが言っていたことを思い出していた。
『悟君のお母さんの旦那さんはね……私の初恋の人だったのよ。結局……私には振り向いてくれなかったけど、ね』
母さんも……きっと、僕のような思いをしたことがあるのだろう。そして悲しんで、苦しんだはずだ……。それが原因だったかは分からないが……僕がもっと小さい頃、母さんと父さんは離婚した。僕を産むほどには愛し合っていたはずだけれど……やっぱりだめだったのかもしれない。
「そして母さんは……」
もうこの世にはいない。
別に……母さんに振り向かなかった悟の父親のせいとは言うつもりは無いし、母親のせいでも、ましてや悟のせいではない……それがわかってしまっているから、苦しい……誰かのせいに出来れば……それが一番楽なのに……あなた達の……悟のせいだって、思いっきり言えればいい、僕の母親のことも、僕の恋のことも……。
「……馬鹿馬鹿しい」
自分の考えに嫌気がさし、吐き捨てた後ため息をついた。そんなんだから……僕はだめなんだ。まったく、嫌になってくるな。
そんなことを考えているから、ますます暗い考えになってしまうのだろうが、今更どうしようもないことは僕が一番わかっている。
取り敢えず、気にすることをやめ……もう時間も遅いので、取り敢えず家に帰ることにした。だがしかし、帰ろうとした瞬間……道に一枚のカードが落ちているのに気がついた。
別に……下を向きながら歩いていたから気づいたとか、そういうわけじゃない……そう、そういうわけじゃないんだ。
「つか……なんだこのカード、騎士甲冑を身につけた人の絵が書いてあるけど……なんかのトレーディングカードか?」
そんなことを言っていると、いきなりカードが光だした。
「な、なんだ!? カードがっ」
僕が驚いている間にも、カードの光はますます強くなっていく。耳をつんざくような音も鳴り響き、僕はそれに耐えるように歯を食いしばる。あまりの光と音に、カードを投げ捨てようとも考えたが、何故かカードを離すことが出来ず、自分の手のはずなのに、まるで何者かによって指が固定されているかのように動かなかった。
「くそっ……なんなんだよっ!」
僕はそうやってカード叫ぶが、カードは反応を変えることなく……まるであざ笑うかのように、カードはますます光と音を強めていく。
「くそったれぇぇぇぇ!」
自分の目の前がホワイトアウトする瞬間……僕はカードを睨みながら、精一杯の恨みを込めて声を出した。
**
決して気持ちがいいとは言えない、生温い空気に当てられ……僕は目を覚ました。
「ヤットメヲサマシタカ……」
「っ……誰だ!」
突然声が聞こえ、飛び起きるようにして体を起こし……声が聞こえた方を向くと……そこにはナニカがいた。なぜナニカという曖昧な言葉にしたのか……それは、実際に目の前にいる……ように感じられる声の主を感じればわかる。
感じれば……というのはもちろん、語弊ではない。そこには言葉にならないナニカがいたのだから。僕が見てきたものとは違い……これはナニモノでもないことを、僕は直感的に感じ取ったのだ。
「ダレ……トイウガイネンハワタシニハナイ」
「……どういうことだ」
「ワタシハ、ナニモノト……クベツスルヨウナソンザイデハナイカラダ」
「それが意味わからねぇよ……」
「キサマラセイブツハ、モノ……トイウガイネンデ、ソレラノソンザイヲニンシキシテイルガ……ワタシハモノデハナク、タダソコニ……ナントナクソンザイシテイル、トイウワケダ」
なるほど……さっぱりわからん。たかが小学生にそんな哲学的なことを言われてもわからねぇよ……むしろ哲学者みたいな奴らもわからないんじゃないか……?
「マァイマハ、ソンナコトハドウデモイイ」
「そうだ……そうだよな、なんで僕はこんなところにいるんだ? 僕は確か海の近くにいたはずなんだが……突然カードが光だしたと思ったら、こんなところに」
「リカイガハヤイヨウデナニヨリダ……コレデコンランシテワメクヨウデアレバ、キサマノクビヲトッテヤロウトオモッテイタノダガ」
うわ……こいつ超やべぇ奴だ。顔も何もかもわからねぇけど、少なくとも一番かかわり合いたくないようなおかしな奴だ。
「い、一応混乱はしてるけど……大事なのは現状の確認だしな……取り敢えず、お前が何者なのかはもう面倒臭いから知るのは諦める……けど、今がどういう状況なのかくらいは教えてくれないか?」
「ワタシニムカッテメイレイトハ……イイダロウ。キサマハ、アノカードノマリョクガカルクボウソウシタコトニヨッテ、ソノカードニトリコマレタノダ。」
「ま、魔力? なんだそれ……」
魔力……という言葉を聞いたことなかった訳では無い。物語の中なんかでよく出てくる魔法使いが、魔法を使う時に使用するものだろう……しかし、どうしてこの状況で、そんな単語が出てきたのか……。
「シンジラレナイ……トイッタヨウスダガ、コノヨニハソウイッタモノガソンザイシテイルノダ……」
「なっ!?」
僕は正直驚いてしまった。魔力……つまりは魔法……そんか物語の中だけのようなものが、この世に存在している……? 確かに、今目の前に感じられるナニカのようなモノがいるのだから、魔法なんてものがあっても……おかしくはないのかもしれない……。
「クワシイハナシハ……キサマガ、ノチニシルコトニナルダロウ……ダカラワタシハキサマニハ、ナニモカタルツモリハナイガ……」
「ないが……?」
そのナニカは一拍おいてからまた話し始めた。
「キサマガメヲサマスノガオソカッタセイデ……オモテデハオモシロイコトニナッテイルゾ」
「面白こと?」
僕がそう問うと、暗がりがいきなり光り始めた。するとそこには……
「へ……?」
黒い騎士甲冑を身につけた女と、悟とアインツベルンさんとエーデルフェルトさんが戦っている光景だった。
「ちょ……あれ、どういう意味だ!」
振り返りながらナニカに聞いた。この意味がわからない現状を聞くために。
「ワタシニキカレテモコマルナ……タダワタシハオモテデハ、イマドウナッテイルカヲツタエタダケダ」
「くっ……」
確かにそうだ……こいつは知っていることはあれど、あの状況のことを知ってるわけじゃない……、一体どうすれば……。
「キサマガココニキタリユウハ、マリョクノボウソウニヨッテ、ワタシノチカラがハンノウシタカラダ……」
「……力が反応って……どうして反応なんかするんだよ」
「ソレハ……ワタシハキサマノカラダノナカニ、モットイエバ……キサマノココロノオクソコニイルカラダ」
「は……?」
ナニカはさらにおかしなことを言い出した。コイツが……僕の心の中にいた……?それって一体どういうことだ? 魔力の存在……3人が戦っていること……そして、俺の中にコイツがいる……さっきから、突然過ぎてもうなにがなんだか分からない……。
「イマハイイ……イズレハナスコトニナロウ、イマハソンナコトヨリモ、アヤツラヲタスケニイカナクテイイノカ?」
「っ……そうだ、こんなところでただ見ているわけにはいかない……どうにかできないのかっ!?」
「ソウダナ……デキナイワケデハナイ、ワタシノチカラヲキサマニカセバナ……」
力を貸す……きっとそれは可能なんだろう。しかし、僕の中の警報が鳴り響く。もしもコイツの力を借りてしまったら……戻れなくなる。少なくとも、今までの僕ではいられなくなる……
「サァ……ドウスル、カリルノカ……カリナイノカ」
僕はごくっと唾を飲み込む。これは賭けだ……もしかすれば、皆を……エーデルフェルトさんを、助けられるかもしれない……けれど、こんな得体の知れないやつに、本当に力を借りてもいいのか……。
そんなことを思いながら……もう一度、僕は戦っているエーデルフェルトさんの姿を見た。少し目のやり場に困る格好ではあるが……必死な顔で、どうにかして状況を脱しようとするエーデルフェルトさん。敵に押されているエーデルフェルトさん。そして……傷つくエーデルフェルトさん。
あぁ……そうだ。僕は……一体何を迷っていたんだろう。
「力……借りるぞ」
「……イイノカ?」
「あぁ……あの黒騎士はエーデルフェルトさんを傷つけた……なら、ぶっ飛ばさねぇと気がすまねぇ!」
「フッ……オモシロイ、イイダロウ……カシテヤル」
そして僕は、ナニカから放たれた黒い煙のようなものに包まれた。自分が自分ではないような変な感覚を味わいながら……それでも心の中で思っていることがある。
無事でいてくれよ……エーデルフェルトさんっ!