僕と世界のきまぐれと   作:楠木 蓮華

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戦闘と勝利

「イリヤっ! おい、しっかりするんだ! イリヤ!」

 

相川悟は、イリヤスフィール・フォン・アインツベルンを抱き抱えながら、必死に呼びかけていた。先程までイリヤスフィール・フォン・アインツベルンは、夢幻召喚という言葉とともに、超絶的な力を手に入れたものの、あと一歩のところで届かず、敗北を喫したのだった。

 

「……相川、イリヤスフィールを連れて逃げて……」

 

「何を言っているんだ! そんなことできる分けないだろう!」

 

「貴方はこのままイリヤスフィールを殺したいの?」

 

「っ……そ、それは……」

 

「あの敵の攻撃で、イリヤスフィールは大きな怪我を負っている……放って置くのは危険、それは貴方もわかっているはず」

 

「でも、エーデルフェルトさんをおいていけるわけがないっ!」

 

「……なら貴方はあいつを倒せるの?」

 

「それは……」

 

美遊・エーデルフェルトはステッキを構えると、敵を睨みながら言葉を続けた。

 

「貴方は確かに強い……さっきのイリヤスフィールくらいには……でも、それには時間制限がある……そうでしょう?」

 

そう美遊・エーデルフェルトが相川悟に問うと、相川悟は俯き、少し間を開けた後……あぁ、と返した。

 

この男、相川悟も最初は戦い……黒騎士と互角以上の戦いをしていたが、その力には時間制限があり……今は疲労しているせいで、充分に戦える状況ではなかった。

 

「あの二人もいない今、敵に応戦できるのは私だけ……なら、わかるでしょう?」

 

相川悟は葉を食いしばると、苦虫をかみ潰したような表情をした。

 

「イリヤを安全な場所に連れていったら、なるべく早く戻ってくる……そしたら力も少しくらい使えるはずだ……それまで、絶対に死ぬんじゃないぞ」

 

「わかってる……」

 

相川悟はイリヤスフィール・フォン・アインツベルンをお姫様抱っこすると、森の奥へと入っていった。

 

「美遊様……敵は強敵です。一人では……」

 

美遊・エーデルフェルトの握っていた青いステッキが喋り出す。

 

「わかってるよ、サファイア……それでも、カードは絶対に回収する……そうしないと、いけないから」

 

「美遊様……」

 

「行くよ……サファイア」

 

「わかりました……」

 

青いステッキ……サファイアがそう言うと、美遊・エーデルフェルトは思い切り踏み込み、黒騎士に急接近する。それと同時に頭上へ飛び上がり、魔力弾を放った。

 

しかし、その魔力弾は容易く黒騎士の剣によって切り払われてしまう。

 

「くっ……魔力弾じゃ全然歯が立たない……」

 

美遊・エーデルフェルトは悔しそうに黒騎士を睨みつけると、距離を取った。

 

「生半可な攻撃じゃまた弾かれるだけ……サファイア、なにか策はある?」

 

「お恥ずかしながら……なにも」

 

「そう……なら、やるだけやるしかないっ」

 

美遊・エーデルフェルトは黒騎士に近づくと、サファイアの先を剣に変え、黒騎士に斬り掛かる。しかし、剣のパワーでは敵の方が何倍も上のせいで、すぐに吹き飛ばされてしまい、木に激突してしまった。

 

「あぐっ!?」

 

「美遊様!!」

 

「だい……じょうぶ……はぁ……はぁ」

 

美遊・エーデルフェルトは立ち上がろうとするも、吹き飛ばされた時に足を捻ってしまったらしく、立つことが出来なかった。

 

「美遊様! 大丈夫ですかっ!」

 

「さっき……足を……っ!?」

 

気づくと、もう黒騎士は目の前に来ていた。そして黒騎士は美遊・エーデルフェルトを一瞥すると、剣を振りかぶった。

 

「美遊様! 避けてくださいっ!」

 

「っ!!」

 

美遊・エーデルフェルトは避けられなないことを悟り、咄嗟に目を閉じた。しかし……いつまでも美遊・エーデルフェルトは体に痛みを感じることはなかった。切り裂かれる感覚も、死ぬ感覚もしなかった。

 

それを不審に思った美遊・エーデルフェルトは、恐る恐る目を開ける。

 

「え……?」

 

するとそこには……

 

「危ねぇ……死ぬかと思ったぜ」

 

黒騎士の剣を素手で受け止めている、柔風一稀の姿があった。

 

 

**

 

 

「危ねぇ……死ぬかと思ったぜ」

 

ナニカに力をもらった後、僕はいつの間にか森の中にいた。あの黒騎士のカードの中に取り込まれたはずの僕がどうして外にいたのか、それはきっと、あのナニカが移動させてくれたのだろう。

 

そして、切られそうになっていたエーデルフェルトさんを見つけ、守るために、なんとかその剣を片手で受け止めたわけだが……最初は手が吹き飛ぶかと思った……しかし、そんな痛みが来ることはなく、僕はその剣を握っていた。

 

「これなら……なんとかなりそうだな」

 

「貴方は……」

 

「ん……?」

 

後ろから声が聞こえ、振り向くと……そこには驚愕の表情を浮かべたエーデルフェルトさんがいた。

 

「一体……何者なの?」

 

そしてそう僕に問いかけた。それは僕が誰なのか知りたいのか……それともこんなふうにこいつの剣を受け止めたことに関して、僕は人間なのか~みたいな意味での何者なのか……前者だったら僕は泣く自信がある。一応クラスメイトなんだが……。

 

「僕は柔風一稀……エーデルフェルトさんのクラスメイトだよ」

 

「クラスメイト……?」

 

きょとんっとした顔で首をかしげるエーデルフェルトさん。あら可愛い……じゃなくて、やっぱり覚えてもらってなかったか……まぁ直接話したことがあるわけじゃないし、当然と言ったら当然か……べ、別に悲しくなんてないしっ!

 

「えぇっと、一応……エーデルフェルトさんと同じクラスにいるんだけど……話したことはなかったし、仕方ないかな……」

 

「そう……」

 

……会話終了である。え……え……?もっとなにかないの? その……もっと言葉のキャッチボールをだね!? 自らボールを床においてキャッチボールを拒否しないでほしかった!

 

「ハァアァァァァ!!」

 

「うぉっ!? 危ねぇじゃねぇか!」

 

「ウァ!?」

 

ずっと無視していたことに怒ったのか、黒騎士は剣に力をさらに込めて切ろうとしてきた。それに対して僕は黒騎士の懐に入り、思いっきりぶん殴る。すると黒騎士は吹き飛んでいった。

 

「ったく……人が話してる途中で話しかけるなって教わらなかったのかね……」

 

「……誰かって言うのはわかった……けど、その力は……」

 

黒騎士を吹き飛ばした後、エーデルフェルトさんは僕にもう一度問いかけてきた。

 

「ん~……悪い、なんでこんなことが出来てんのか、僕自身もわかってないんだ」

 

「そう……」

 

「それよりも……ほら」

 

「……?」

 

エーデルフェルトさんに手を差しのべると、またエーデルフェルトさんは首を傾げる。

 

「ほら……そのままじゃ立てないだろ? だから手を貸そうかと……」

 

「別にいい……そんなことより油断しないで、あの程度であの敵は死なない」

 

そう言うと、エーデルフェルトさんは俺が黒騎士を吹き飛ばした方を睨んだ。それと同時くらいに、土埃を吹き飛ばした後、こちらに歩いてくる黒騎士の姿が見えた。

 

「わかってるさ……」

 

そう言いながら、俺は奥歯を噛み締める。今の俺の状況からして、体は凄く頑丈になっているらしい……それから力も上がってるし、戦い方もそれなりに様になってる……ナニカの言ってた貸す力っていうのはこの事なんだろうか……だとしたら。

 

「おらぁぁ!」

 

「ハァァ!」

 

「くっ!」

 

殴りかかり、自分の拳と黒騎士の剣を交える。迫ってくる剣を避け、懐に一発食らわせたが、すぐに体制を立て直した黒騎士の剣に吹き飛ばされてしまった。体に対してのダメージはそんなにはない……

 

けれど……僕の攻撃だけじゃ、黒騎士を倒す決定打にはならない。

 

でも……エーデルフェルトさんは今動ける状態じゃない……

 

「これじゃあ無駄に時間が長くなるだけか……」

 

くそっ……あのナニカめ……あんな重々しい事言っておいて、力ってこんなもんか。これじゃあ倒せねぇぞ……それともあれか、死ぬまでリンチしろってことか……? あの黒騎士相手に今の僕じゃあ、そんなのはただの無理ゲーだ。

 

「無事かっ! エーデルフェルトさん!」

 

「っ……悟! いいところに来たっ!」

 

イリヤスフィールを安全な場所にでも運んで帰ってきたのか、悟がちょうどいいタイミングで戻ってきた。僕が声をかけると、悟は驚愕の表情を浮かべ、俺の方を見ていた。

 

「一稀!? どうしてお前がこんなところに……」

 

「話は後だっ! 一稀、お前も何か使えるんだよな……? なら、あいつに一発当てれば倒せるような攻撃を出すことは可能か?」

 

「す、少しは回復しているから……可能だ。しかし、相手に動き回られると当てるのは難しい」

 

悟はそういいながら、顎に手を当て……俯きながら何かを考えているようだった。何か策を考えているのだろうが、正直……もうそんなに長くは続けられないだろう。きっと、集中力が切れちまう……なら、方法は一つだけ。

 

「安心してくれ、僕があいつの動きを止める。そして僕が合図したら……一発かましてくれ!」

 

「なっ!? 無茶だ! あんな奴とタイマンなんて……」

 

心配する悟に向けて、僕は親指を上に立ててにっこり笑って返してやった。

 

「一体誰がさっきまであいつとやりやってたと思ってんだ。 安心しろ、時間は稼いでやる」

 

「……わかった、頼む。でも無茶はするんじゃないぞ」

 

「へいへいっ」

 

「わ、私は……」

 

立ち上がろうとするエーデルフェルトさんを、僕は手で制す。するとエーデルフェルトさんは俺の方を見ながら、まるで……なに? とも言いたげな顔をしていた。

 

「エーデルフェルトさんは怪我してるだろ? ならそこで大人しくしててくれ」

 

「でも……」

 

「大丈夫大丈夫、なんとかなるさ」

 

「……わかった」

 

「よしっ、ありがとな」

 

「別に……お礼を言われるようなことじゃない」

 

「言うさ、だって僕は、エーデルフェルトさんに傷ついてほしくないんだからな、だから、聞いてくれてありがと……」

 

「え……?」

 

……声に出てた。やばい、超恥ずかしい!! なにが傷ついてほしくないんだからな……だよっ!そんなのは僕のセリフじゃないっての!

 

「こほん……さぁ黒騎士っ! てめぇの足止めは僕の仕事だっ! 大人しく足止めされてもらうぞ!」

 

ダンっと地面を揺らしながら足に力を入れ、黒騎士に接近する。

 

「フワァ!」

 

僕が近づいてきたことを察知したらしい黒騎士は、その禍々しい剣でまた僕のことを切りにくる。左足を軸にして回転し、剣を避け……しゃがみこみ、下から抉り込むようにしてアッパーを食らわせる。

 

「グぁ!?」

 

「吹っ飛んどけ!」

 

そのまま続けて腹に回し蹴りを決め、吹き飛ばす。

 

「おい悟っ! まだ時間はかかるかっ!」

 

「いや、もう充分だ! 鏖殺公!!」

 

悟がなにやら叫ぶと、悟の手には1本の大きな剣が握られていた。

 

「今から光線のようなものを放つっ! 一稀、当てやすいようになんとかしてくれっ」

 

「頼まれた!」

 

吹き飛ばされた後、ゆっくりと立ち上がろうとする黒騎士に近づき。

 

「おらぁぁ!!」

 

「グファ!?」

 

後頭部から思いっきりかかと落としを食らわせてやる。あまりの勢いに顔が地面に埋まっていたが、この際気にしない。

 

「地面とのキスのお味はどうだい、黒騎士様っ」

 

挑発もこめて黒騎士にそう言うが、黒騎士は返事にうなり声を上げながら地面に埋まった状態から抜け出そうとしていた。

 

「避けてくれ一稀! やるぞ!」

 

「了解だっ!」

 

「はぁぁぁぁぁ!!」

 

悟の剣から放たれた攻撃は、物凄い轟音と光をもって……黒騎士を飲み込んだ。その攻撃が止んだ後にあったのは、抉れた地面と……その地面の中心にあったあの時の騎士の絵が描いてあったカードだけが残っていた。

 

「やった……のか」

 

「みたいだな……」

 

「「いよっしゃぁぁぁぁぁ!」」

 

ひとまず何もわかってはいないが……この勝利と、エーデルフェルトさんを守れたことに関しては……素直に喜んでもいいだろうと、僕は思った。

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