陰陽師少女   作:花札

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炎天下の中、麗華は買い物袋を手に道を歩いていた。


「暑っつ~……」

「輝三の所の方が、涼しかった」

「だよねぇ……

ハ~……?」


ふと広い公園に目を向けると、そこに屋台が建ち並んでいた。中央には大舞台が設置されていた。


「へ~……お祭りあるんだ」

「年に一度の、この地区の巫女が集まり神楽舞いを披露するお祭りなの!」


聞き覚えのある声に、麗華は後ろを振り返った。そこにいたのは、同じクラスの斎藤真鈴(サイトウマリン)だった。


「斉藤……」

「私も呼ばれてるのよねぇ……神社の娘だから巫女として」

「フーン」

「そういえば、今年は呼べるのかしら」

「誰を?」

「山桜神社の巫女。

十年前まで出てたみたいなんだけど……何か巫女が死んだか何だかで、出なくなったのよねぇ」

「あっそ」

「そうだ!

神崎さん、良かったら見に来てよ!屋台もあって結構楽しいよ!」

「気が向いたらね」


そう言うと、麗華は去って行った。その様子を舞台を作っていた作業員の一人が見ていた。


「オーイ!」


境内に続く階段を上ろうとした時、声が聞こえ麗華は足を止めその方向に顔を向けた。頭にタオルを巻いた中年の男が、手を振りながら駆け寄ってきた。


「ハァ…ハァ…ハァ……


き、君……この神社の子?」

「そうですけど……」

「ねぇ、出ない?お祭り」


夏の踊り巫女

「ねぇ、今年の神楽祭りでるの!?」

 

 

学校の夏期講習に来た真凛に、クラスの女子が駆け寄り話した。

 

 

「もちろん!やっと、見世物になったからお母さんが良いよって!」

 

「楽しみぃ!真鈴の舞!」

 

「私、絶対見に行くね!」

 

「ありがとう!

 

あ!神崎さんも星崎君も、見に来てよ!」

 

「気が向いたらなぁ」

 

「行けたら……行くよ」

 

 

目を逸らしながら答えた麗華に、大輔は少し疑問を持った。

 

 

 

 

帰り道……

 

 

「え!?お前も出るのかよ!?」

 

「そう……

 

 

毎年出てたみたいなんだ、母さん……けど、兄貴を産んでからは出なくなってそれっきり……

 

 

一昨日、母さんの舞を見てた人が私を見て」

 

「お前のお袋さんとそっくりで、神社の子だって分かったってか?」

 

「その通り。

 

一応神主の兄貴が許可出したけどね。顔を出さないことを条件に」

 

「お前が出るなら、見に行くか」

 

「いいけど、私は自分の舞いをやるから期待に応えられないかもね」

 

「それなら、尚更楽しみだ。

 

祭りは確か」

 

「明後日」

 

「日曜か……バイト入れないようにしとくか。

 

じゃあな」

 

「あぁ」

 

 

道を歩き、麗華は階段を上がった。鞄に入っていた鍵を取り戸を開けようとした時、中から音が聞こえた。

 

肩に乗っていた焔と顔を見合わせて、恐る恐る開けようとしたその時だった。

 

 

 

突然戸が開き、中から陽一が出て来た。

 

 

「よ、陽」

 

「オッス!元気そうやな!麗!」

 

「な、何でアンタが?」

 

「夏休みやからな。

 

京都いても面白くないし、暇ならお前ん家行けって母ちゃんがうるさく言うから」

 

「来たって」

 

「そう言うこと!」

 

「……あれ?美幸姉さんは?」

 

「夕飯の買い出し。

 

なぁ、これからどっか行こうぜ!」

 

「無理」

 

「何でや!」

 

「明後日、舞披露しなきゃいけないからその練習」

 

「舞?また妖怪達に見せるんか?」

 

「違う。

 

人に見せるの」

 

「フ~ン……!なぁ、俺も一緒に出てええか!?」

 

「ダメに決まってるでしょ!!」

 

「ええやないか!

 

相方っちゅうことで!」

 

「相方連れてくる奴なんざおるか!!」

 

 

 

夜……

 

 

宴会をする妖怪達……麗華は大狼の姿となった焔の胴に寄り掛かりながら座り、深くため息を吐いた。そこへ時雨が酒瓶とお猪口を手に、隣へ座りながら話し掛けた。

 

 

「何だ?ため息なんざついて」

 

「明後日の祭りが嫌になったの」

 

「何で?」

 

「……」

 

 

“タァン”

 

 

下駄の音と共に、手首に着けていた鈴の音を鳴らしながら、陽一は舞っていた。その舞に来ていた妖怪達は歓声を上げていた。

 

 

「まさか、陽の奴が出来ていたとは……舞」

 

「あの兄ちゃんの舞、結構いいな」

 

「当たり前や。

 

うちの神社、陽の舞目当てで来る妖怪達、多いもん。(昔は私の舞目当てやったのに)」

 

 

酒瓶を運んでいた美幸は、悔しそうに陽一を見ながら麗華に話した。

 

 

「取り合えず、陽一の要望は受け入れた」

 

「じゃあ明後日は……」

 

「アイツと一緒に出てもらう。

 

明日は土曜だ。俺と美幸の二人でお前等をみっちり鍛えてやっから、そのつもりで」

 

「へ~い」

 

 

「桜巫女!!お前も舞ってくれ!!」

 

「ハーイ!」

 

 

頭に着けていた狐の面を被り、麗華はその場から助走をつけ勢いよく飛び、舞台へ降り立った。

 

扇子を広げ自身に向ける麗華に、陽一はどこからか投げてきた棍棒を手に取り構えた。二人は武器を振り回しながら、華麗に舞い出しそれに妖怪達は歓声を上げ盛り上がった。

 

 

「何か、あの子等練習必要無さそうやな……」

 

「だな……」

 

 

 

そして日曜日……

 

 

賑わう屋台……金魚掬いをやる子供や、綿あめやたこ焼きを食べる子供達。奥の方にある舞台の前には、本日の出し物である神楽舞を見に来た観客で溢れ返っていた。人だけでなく、空や地面木の上などに妖怪達が集まっていた。

 

 

「うわ~……スゴォ」

 

「真鈴、くれぐれも失敗しない様にね。じゃないと、うちの家が大恥かくんですから!」

 

「分かってるわよ!

 

 

?あの二人……」

 

 

舞台裏の奥にいる、二人組……黒い生地に若竹の柄が入った袖なしの道着に身を包んだ男(陽一)と、白い生地に紫陽花の柄が入った踊り巫女の着物に身を包み、髪を紫陽花の簪で纏めた女(麗華)が、狐の面を顔に付けてベンチに座っていた。

 

 

「相変わらず、派手なところねぇあそこは」

 

「え?お母さん知ってるの?」

 

「あの二人、山桜神社の巫女と巫覡よ。

 

人に見せるだけなのに、何であんな派手な着物を着るのやら……」

 

 

 

“ドン”

 

 

太鼓の音が公園に響いた。舞台の中央に司会者であろう人が上り、マイクで喋り出した。

 

 

「お待たせしました!

 

これより、各神社の巫女と巫覡の神楽舞をご披露させて貰います!皆様、どうぞ楽しんでいって下さい!!」

 

 

軽くお辞儀をすると、観客から盛大な拍手が送られ司会者はそれを受け止めながら舞台裏へと降りた。居なくなると灯りが消え、そして楽器の音が聞こえてきた。

 

舞台の中心にはいつの間にか出た女性が一人立ち、舞を披露した。

 

 

「え~!!麗華達の舞、まだなのかよ~!」

 

 

焔の隣に座っていた安土は、文句を言いながら頬を膨らませた。

 

 

「あの二人は最後だって、龍が言ってた。

 

だよな?姉者」

 

「そうだ。

 

陽の事もあって、急遽最後になったんだ」

 

「陽?誰それ?」

 

「三神陽一。麗の許婚だ」

 

「え?!麗華にも、許婚いたのか?!」

 

「いるわ!!

 

ったく、人の主なんだと思ってんだよ」

 

 

順々に行われる舞……真鈴の出番となり、彼女は息を整え舞台へ上がり舞を披露した。

 

今までの舞を見ていた妖怪達は、うんざりしたような表情を浮かべ、木に座っている焔達の元へ寄ってきた。

 

 

「おい白狼、いつまでヘタな舞を見せるんだよ!」

 

「これの次だから、もう少しの辛抱だ」

 

「早くしろよ!!」

 

「私達は、桜巫女の舞を目的にこの地に来たのよ!見れないんじゃ、無駄骨じゃないか!」

 

「そうだ!そうだ!」

 

「大人しく見てろ!!すぐに麗達は出る!!」

 

 

下駄を鳴らした真鈴は、その場に正座し礼をした。その姿に観客達は、盛大な拍手を彼女に送った。彼女はもう一度礼をすると、そのまま舞台へ降りた。ふと舞台裏の階段を見ると、そこに先程の二人が並び立っていた。そして……

 

 

“ドン”

 

 

太鼓の音と共に、二人は舞台へ上がった。

 

静まり返る観客席……各々の楽器を鳴らそうとした時、二人は同時に地面を強く踏み下駄を鳴らした。

 

 

「まだ、鳴らしてないのに……」

 

 

するとどこからか、笛や三味線、琵琶の音色が聞こえてきた。その音に合わせて、二人は鈴を鳴らし手に持っていた棍と扇子を構え、それを振り回しながら舞を始めた。

 

 

二人の舞に、妖怪達は満足げに見ていた。

 

 

「へへ!やっぱ、この舞だな!」

 

「しかしよくもまぁ……楽器持ってたな」

 

 

琵琶を弾く氷鸞、三味線を弾く時雨、笛を吹く丙と渚が音を奏でていた。

 

 

「嬢さんの舞には、俺等の楽器じゃねぇとな」

 

 

“タァン”

 

 

下駄を踏み、麗華と陽一はまるで戦うかのようにして扇子と棍を振り回した。陽一が振り下ろした棍棒の上に、麗華は飛び上がり片足だけで立ち扇子を構えた。彼は彼女が乗ったまま棍棒を勢いよく振り上げ、それに合わせて麗華は空中でバク転をし、地面を力強く踏み鳴らした。

 

息を呑む観客達……陽一は棍棒を投げ捨て、手首に着けていた鈴を鳴らし舞をし出し、彼に合わせて麗華も扇子を振りながら舞い出した。

 

 

「オラ、こっから盛り上がるぞ!」

 

 

そう言いながら、時雨は立ち上がり三味線を激しく引き出し、彼に続いて氷鸞達も楽器を激しく鳴らし出した。

 

そんな彼等を見た龍二は、太鼓の前にいた人と交代し撥を持ち、そして……

 

 

“ドォン”

 

 

激しい太鼓の音を鳴らし出した。太鼓の音に合わせて麗華は扇子で隠しながら札を構え、それを見た陽一は軽くバク転をすると、手を構え差し出した。次の瞬間麗華は、助走をつけジャンプし彼の手の上に足を乗せた。陽一は乗せた手を力任せに振り上げ、麗華を飛ばした。宙を舞った麗華は、扇子を仰ぎそこから氷の雨を降らせた。

 

 

「氷だ!」

 

「涼しい」

 

「どんな種になってんだ?」

 

 

宙を舞った麗華は、そのまま落下し落ちてきた彼女を陽一は受け止めた。彼の腕から降り、二人は前を向き礼をした。

 

呆気にとられていた観客達は、盛大な拍手と声を上げて騒いだ。観客達と同様、妖怪達も歓声を上げた。

 

 

「ヒュー!やっぱ麗華の舞は、天下一品だ!」

 

「桜巫女!最高だぁ!!」

 

「巫覡も最高だったぞ!!」




着替えを済ませた麗華と陽一……二人は、龍二達に買って貰ったかき氷を美味しそうに食べていた。


「くぅ~!!やっぱり、動いた後は冷たい物に限るなぁ!」

「食べ過ぎて、腹壊すなよ」

「壊さへん!俺の腹、頑丈だから!」


「お!いたいた」


その声に顔を上げると、そこには大輔がいた。


「星崎」

「アクロバットな舞、ご苦労さん。

結構良かったぜ」

「あれくらいやらないと、妖怪達が喜ばないからねぇ」

「そういやお前達の番になるまでの間、焔だっけ?アイツ等の所に、いろんな妖怪達が寄って集って、文句言ってた」

「ハハハ……やっぱり」


「お前、誰や?」


食べ終わった容器を麗華に渡した陽一は、彼女の前に立ち大輔を睨んだ。


「ちょっと陽、落ち着いて」

「誰やって、聞いてんねん……答えろ」

「……星崎大輔。

神崎のクラスメイト。一応霊感持ちで、妖怪とも戦える」

「……ホンマか?」

「本当だ」

「さっき、焔のこと話してたでしょ!」

「あぁ!そういえば!」

「阿呆!!」

「(こいつ、大丈夫か……)

そういう、お前誰だ?」

「俺か?俺は三神陽一。

麗の従姉弟や!」

「へ~……」

「夏休みだから、こっちに遊びに来てんだ」

「普段はどこに?」

「京都」

「そりゃまた、いい所に。


じゃ、俺帰るわ」

「じゃあね。また夏休み明けに」

「あぁ」


流れていく人混みの中へ、大輔は入り帰って行った。その中を鼬姿になった焔と渚に続き、時雨達は姿を消して通り、麗華達の元へ駆け寄っていったところを、大輔は振り返り見た。


(いい従姉弟だな)


そう思いながら、大輔は帰って行った。



その頃、真鈴は……


「誰なのよ!あの二人は!?何者なの!?」


呼んでいたクラスメイトの前で、そう問い叫んでいた。
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