何で……
何で、礼を言うの!?」
動かなくなった獣の元へ麗華は駆け寄り、亡骸を見て怒鳴った。
「あいつ等のせいで、お前は襲いたくない人間を襲った!!
それで、何で!!」
「麗、止せ!」
「何でよ!!」
雪を激しく叩きながら、麗華は涙を流した。
「全部とは言わないけど……ほとんどの妖怪がそうだよ。
皆、昔から私達人が住む前から、地に住みその自然を守ってた……それを勝手に入ってきた人がそこを壊して、住み着いた。
お前等だって……ここに静かに暮らしてた。大事な宝を守って……
それをあの男達が、宝を盗んだ……それを知ったお前等は、普段から積もっていた怒りが爆発して……形振り構わず私達を攻撃しただけ……」
「……」
「ごめん……何にも出来なくて……
ごめん」
二匹の亡骸を寄せた麗華は、頭を強く抱き締めながら涙を流して謝った。
「!」
静かになった山を見る氷鸞……その時だった。突然地面が揺れ出した。
「麗様!!雪崩です!!」
「!!
すぐに、宿に戻って!!」
二匹は空へと飛び、急いで下山した。麗華は着ていた上着を腰に巻き、焔に飛び乗った。彼はすぐに空へと飛んだ。
その数分後、麗華達がいた場所に上から崩れた雪が覆い被さり、あの二匹の獣と玉は雪の中へと埋まった。
「この山をずっと守ってた二匹が、いなくなったせいで雪崩が起きたんだろう……
あの玉は、雪崩を起こさないためのもの。だが、それも壊れた」
「……急ごう。
何としてでも、この雪崩を防がないと」
麗華の言葉に、焔は急いで宿へと急いだ。
その頃、宿では……
寝床で寝ていた猫達が、突然家具の下へと逃げ込んだ。それを見た杏莉は疑問に思ったが、すぐに謎が解けた。
微かに揺れる地面……生徒達は、戸惑いながら外を見た。宿に向かって流れてくる雪が見えた。
「な、雪崩だ!!」
「キャァアア!!」
慌てだした生徒達は、悲鳴を上げて一斉に宿から出ようとした。
宿から出て来る光景を、下山してきた氷鸞達は気付き後から来る麗華達の方を向いた。
「ヤバい!!
氷鸞はすぐに宿の屋根から、氷を張って!!」
「分かりました!」
「雷光は、外に出て下山しようとしてる皆を宿に戻して!」
「はい!」
下山しようとした生徒達の前に、馬の姿になっていた雷光は降り立ち前足を激しく動かしながら彼等を宿へと戻し、それを見た氷鸞は翼を輝かせて宿の周りに氷を張った。
近くに降り立った麗華は、焔から飛び降り宿から出て来た竃の元へ駆け寄った。
「雪崩を防ぐ!
竃、焔と一緒に雪を溶かして!」
「応!」
「星﨑、頼む!
雷光と一緒に、ここに向かってる輝三達の車を止めてきて!お願い!」
「分かった!」
大輔はすぐに雷光に飛び乗り、下山した。麗華は焔に乗り空へと飛んだ。
流れ落ちる雪に、焔達は一斉に炎を吹き溶かした。だが雪崩は勢いを緩めることなく、流れ続けた。
「この勢いじゃ、氷鸞の力で防ぎきれない……」
「くそ!せめて、白水の力があれば」
「……竃!!
すぐに輝三を迎えに行って!!今なら、雷光と星﨑が止めてるはず!!」
「分かった!」
「焔、私を氷鸞の所に。
降ろした後は、できるだけ雪崩の勢いを緩めて」
「了解」
宿を覆う氷の上に立つ氷鸞の背中に、焔は麗華を降ろすとすぐに雪崩の方へ行った。
麗華はポーチから札を取り出し、頬から出ていた血を指で拭いそれを札に着けた。
「氷鸞、氷を出して!」
「はい!」
「大地の神に告ぐ!!汝の力、我に受け渡せ!その力を使い、この地を守る!!
出でよ!!氷室」
氷鸞が放った氷に交じるようにして、麗華は氷を放った。氷は三重に宿へ覆い被さった。氷が張られたとほぼ同時に、雪崩が壁に激突した。激突した氷に皹が入り、そこから雪が流れてきた。
「嘘!!」
「氷の壁が!!」
割れたところへ、麗華は屋根を伝い地面へ降り札を出そうとした時だった。
「氷術!氷壁!」
どこからか聞き覚えのある声と共に、皹が入った箇所に新たな氷が張られた。ハッとした麗華は、上を見た。そこには白水と竃に乗った輝三がいた。
「輝三!!白水!!」
タイミングよく来た焔の背に飛び乗り、麗華は彼等の元へ行った。
「フー、どうにかこうにか間に合ったか」
「ここ一人で仕切るの大変だったんだからぁ!!」
「悪い悪い。
しっかし、かなり勢いがいい雪崩だな」
「焔達がずっと溶かしてんだけど、全然勢いが収まらない」
「……」
「そりゃそうよ。
この雪崩はこの山にあった宝を社に戻さないと、収まらないよ」
「宝?
!!」
流れる雪を、麗華は目を凝らして見つめた。その中に薄らと淡い光が見えた。
「焔!あそこ!」
「応!」
「待て!!今この中に行ってみろ!
確実に凍死するぞ!!」
「でも、あいつ等が守ってた宝はあそこにあるんだ!!
宝を社に戻せば、この雪崩は止まるはず!」
勢いで言った麗華……息を切らす彼女の脳裏に、ある映像が流れた。
山頂にある洞窟……その奥に、小さな社が有りそこにあの二匹が座り玉を守っていた。
「あそこだ……
焔!すぐに玉を回収するよ!」
「何言ってんだ!玉はもう」
「欠片でもいい!!
あいつ等が待ってんだ……あの洞窟にある社で」
山頂を眺める麗華に、焔は体に纏っていた炎を更に強くして、雪崩の中へと突っ込んだ。
中へ潜った二人は、血眼になって玉を捜した。
その時、淡い光が見えた。麗華は焔から身を乗り出し、玉の欠片を手にした。それを見た焔は急いで地上へ出て彼女の指示通りに、どこかへ向かった。
その間、輝三は氷鸞の元へ白水を置き自身は竃と共に雪崩の勢いを止めようと動いた。
山頂へ来た麗華と焔……腰に巻いていた上着を羽織り、麗華は洞窟の中へと入った。
「……!」
小型の懐中電灯が照らす所に、小さな社があった。その両傍らには、あの獣が二匹座っていた。二匹を見た焔は、すぐに攻撃態勢入った。
「焔、大丈夫だよ」
「?」
「こいつ等は、待ってたんだ……戻ってくるのを」
「……」
二匹を交互に見た麗華は、社の扉をゆっくりと開けそして握り締めていた玉の欠片を、ソッと置いた。
玉は白く光った。その光は、曇っていた空に光りの柱を貫かせ空を晴れさせた。晴れた空から太陽が顔を出し、雪崩の勢いを弱めた。
雪崩は、山下にある川に流れ着き徐々に溶けていった。