『ありがとう、人の子よ』
『我々を止めてくれて』
どこからか聞こえた声に、麗華は後ろを振り返った。そこには頭を下げる二匹の獣の姿があった。二匹は顔を上げると同時に、風と共に消えた。
「……あいつ等、名前あったのかな?」
「……さぁな」
その頃宿には、救急隊が到着し共に迎えのバスも来ていた。輝三は竃から降りると、救急隊と後からやって来た警察の人達と話をし出した。
宿の傍で雷光達と一緒に座っていた大輔は、彼等の手当てをしていた。
「これで、大丈夫だ」
「忝い」
「ありがとうございます」
「どうって事ねぇよ」
「星崎君!」
彼の元へ、翼と卓也がやって来た。卓也は雷光達を見ると、目を輝かせて二匹の元へ駆け寄った。
「淒ぉい!!馬の次はデッカい鳥だ!
翼!僕の思った通り、鳳凰はいたんだよ!!」
「分かった分かった!
ったく、ガキみてぇにはしゃぎやがって」
「ああいう奴の方が、妖怪に好かれやすいんじゃねぇのか?」
「ねぇ、星崎君!
この二匹、これからどうするの?」
「どうすもこうするも、こいつ等は神崎の式神。
あいつが帰ってきたら、何とかするだろう」
「じゃあ、その間は……
観察だぁ!」
持っていたノートとペンを手に、卓也は目をキラキラさせながら氷鸞と雷光を見ながら、何かを書き始めた。
そんな彼に、大輔はどん引きし翼は深くため息を吐いた。
「駄目だ……
完全に、妖怪モードに入ってる」
「見りゃ分かるよ」
宿へ戻る焔と麗華……飛行中、焔は目眩を起こし落下しかけ、ハッと我に返り慌てて態勢を整えた。
だが、妙に背中が軽かった……背中に目を向けると、自身の背中に乗っていたはずの麗華の姿は無く、冷や汗をかきながら焔は下を見た。
「麗!!」
人へと姿を変えた焔は落ちていく麗華を受け止めた。だがまた目眩がし、そのまま落下し雪の上へ落ちた。
意識を失った二人の元にあの人影が出た。影は倒れている麗華に掛かった。
「……陽炎」
「あぁ」
麗華を持ち上げた秀二は、大狼になった陽炎に乗せ鼬姿となった焔を持ち彼の背に飛び乗った。彼が乗ったのを確認すると、陽炎は空へと飛びだった。
「……遅いな、あいつ」
雷光達の傍にいた大輔は、山頂を見ながら言った。
「ここから頂上まで、そんなにないと思うけど」
「どっかで道草してんじゃねぇのか?」
「かなり体力を消耗してんだ。あいつならすぐ帰ってくるはずだ……
ちょっと、オッサンの所行って来る」
「あぁ」
輝三の元へ行った大輔の後を、氷鸞と雷光はついて行った。その時だった……
山付近に鳴り響く木笛……その音に、輝三はハッとし竃に飛び乗り、山へ向かった。
笛から口を離した秀二は、雪の上に寝かした麗華を見下ろした。
「……借りは返した」
陽炎に乗ると、秀二はその場から消えた。
その数分後、輝三は彼女達の元へ辿り着いた。
「麗華!!」
口と鼻に血を流した彼女を見付けた輝三は、すぐ彼女に呼び掛けた。彼の呼び掛けに、麗華はゆっくりと目を開き見た。
「輝……三」
「麗華……
よかったぁ」
「……焔は」
「大丈夫だ。竃が傍にいる」
「私……咳が出て来て……
そしたら……鼻血が出て……そんで」
「もう喋るな。
病院行って、怪我の手当だ」
着ていた上着を掛けると、輝三は麗華を横に抱き上げ竃に乗った。
ふと弱い風が吹いた……輝三は何気なく後ろを見た。
「……竃」
「?」
「あの笛の音……」
「……
分からない。
けど、生きているのかもな」
「……」
「行くぞ」
竃は言うと、空へと飛び去った。遠くから双眼鏡で眺めていた秀二は、彼等を見届けると去って行った。
宿へ着いた輝三は、麗華を救急隊に渡した。
「すぐにこいつを、病院に!!」
「分かりました!」
「神崎!」
「神崎さん!」
運ばれていく彼女の元に、大輔達は駆け寄ろうとしたが他の隊員に止められた。
受け渡した輝三は、携帯で誰かに掛けながら氷鸞と雷光を隊員から離し、その隙に彼等を下へ降ろさせた。
「お前等は美子の所に行ってろ。
後で迎えに行く」
「……」
「白水、連れてけ」
「ハーイ。
ほら、行くよ」
二匹の背中を押し、白水は行った。彼等を見送ると、竃から焔を受け取り輝三は、救急隊が待つヘリの元へ行った。
大輔達も行こうとしたが、剛田に止められ彼等はヘリが去って行くのを見送った。そしてバスに乗り込み、雪山を後にした。
ヘリの中……目を覚ました麗華は、傍に座っていた輝三に目を向けた。
「ここ……」
「ヘリの中だ」
「……焔達は!」
「氷鸞と雷光は、俺の家に。
焔はここだ」
輝三の手の中で、静かに眠る焔を麗華に見せた。それを見て、彼女はホッとした。
「……あいつ等、私達を殺す気はなかった」
「……」
「宝を守リながら、あの山で静かに暮らしてた。
それを……あの野郎達が、宝を盗ったせいで……
襲いたくもない私達を…!!」
出て来た涙を拭いながら、麗華は話した。
「あいつ……私を殺そうとした時、涙流したんだよ……
山男は、何も流さなかったのに……あいつは……
殺したくなかった……」
「……」
「殺したくなかった……倒したくなかった……
あいつ等を化け物にしたのは、私達なのに…!!」
涙を拭い泣きじゃくる麗華を、輝三は慰めるようにして頭を撫でた。
「悔しい……どんなに私達が妖怪から人を助けても、人はすぐに同じ事を繰り返す。
あの島の奴等もそうだった……結局、私達が助けなきゃいけなかった。
あの時だって……あの時だって、どんなに注意してもあいつは止めようとしなかった……
それで怪我して、夢を奪われた何だ言われて……私達のせいにされて……」
麗華の泣き声は、病院に辿り着くまでいつまでもヘリの中で響いた。
とある屋上……
煙草を吸う一人の少年……彼は風に当たりながら思い出していた。
体から血を流す自分……担架で運ばれていく中、そこにいた。
セーラー服を着た中学時代の麗華が……
(……許さねぇからな。
化け物)
吸い殻を捨て、少年は建物の中へと入っていった。