暗い路地を歩いていたサラリーマン。ふとどこからか唸り声が聞こえ辺りを見回した。
すると暗いトンネルから赤く光る二つの目が見えたかと思った瞬間、それは風の如くサラリーマンを襲った。彼の悲鳴は、夜の路地に響き渡った。
桜の花が散り、青葉が生い茂る時季になった。
学校が妖怪に襲われてから、一ヶ月が経とうとしていた。生徒達は皆、何も無かったかのようにして学校生活を送っていた。
「うぉぉおお!神崎が帰ってきたぁ!」
「我等の女神がぁ!」
弓道場に着た麗華を見て、中村と藤宮は大泣きしながら彼女を歓迎した。
「……頼みますから、先輩……
新入部員の前で泣くのはやめて下さい!」
「皆、怯えてますから」
ゴム弓を持った八人の新入部員は、泣く彼等を見て身を引いていた。
「お前等ぁ、早く外に出ろー」
「は、はい!」
「水戸部達、頼む」
「はい」
「よぉし!この俺がビシビシと!」
「お前等二人は、練習だ。
大会と交流試合近いんだから」
「うぉーん!神崎ぃ!」
「練習しなさい!」
放課後……
夕暮れの道を、麗華は華純達と歩いていた。
「はぁー、疲れたぁ」
「今日も先輩達、凄かったなぁ!」
「ねぇ!
練習しながら、新入部員を指導する私達を覗き見てたよね!」
「あれ、練習しないと試合ボロボロになるぞ」
「平気平気。
先輩達、本番には強いから」
「けど、文化祭終わったらあの先輩達も引退だよなぁ」
「そうだね……」
「あのテンションに付き合うのも、残り僅かか」
「次の部長は、神崎か?」
「さぁね」
「俺は神崎だと思う。
そんで副部長は、守部!」
「それは無い」
「部長になったら、私やめるわ」
「やめないでぇ!!」
商店街で華純達と別れた麗華……歩いて行くと、人が群がっていた。
「……微かだけど、妖気を感じる」
「俺もだ」
「危ないから下がって!!」
聞き覚えのある声と共に、野次馬の中から灰色のシートを被され担架に乗せられた遺体と、野次馬を退かす池蔵達の姿が見えた。
「……池蔵さん、ちゃんとしてる姿初めて見た気がする。
!?」
向こうの野次の中……煙草を銜える少年と彼の傍に、長い尾を持ち二つの白い目を光らせる獣がいた。
駆け寄ろうとした時、前に人が通った。通り終わるとそこに、少年達の姿は無かった。
「……何で」
「?麗、どうかしたか?」
「……何でも無い(どうして……あいつが)」
解剖室……死体の検診をする解剖医と池蔵達。
「致命傷は……まぁ、見ての通りこのポッカリと空いた胸だな。
見事に心臓を貫いてる」
「凄いなぁ……」
「せ、先輩……俺、もう無理っす」
口を抑えながら、新米刑事は出て行った。そしてその直後に、嗚咽と共に吐く音が聞こえた。
「まぁ、慣れだからな……」
「そうだね」
検診を終えた池蔵達は、術衣を脱いでいた。着替え中池蔵はふと口にした。
「けど、またこんな死体が出るとは……
確か、三年前にも同じ死体が出たんだよなぁ」
「三年前にもですか!?」
「犯人は?」
「それが……
犯人と目星を付けていた子が、未成年プラス親が有名企業の社長で……あっさり揉み消されたって話だ」
「マジですか……」
「未成年って言っても、確か高校生だったっけ」
「え?高校生?」
「そう。しかも、その事件確か童守中学で起きたんだよ」
「俺、そこのOBです!」
「凄い偶然だな」
その夜……
中学の卒業アルバムを見る麗華……捲るページには、制服を着て笑みを浮かべて写る広達と自分、さらに部活の動機が写っていた。その他にも、体育祭・修学旅行・移動教室で撮られた写真がいくつもあった。
ふと部活のページに差し掛かった時、捲っていた手が止まった。
剣道の防具を身にまとい、前で正座をする麗華と女子部員。後ろには男子部員と、顧問とコーチが写っていた。そこを広げながら、別のアルバムを手に取り麗華はそれを開いた。
そこには、剣道部の先輩達と写る自分が写っていた。アルバムに張られた写真には、麗華とある男子先輩が共に写っているものが多かった。だが、ある時期になるとその写真はぱたりとなくなっていた。
思いつめた顔で、その写真を眺める麗華を心配そうに焔とシガンは鳴き声を上げ、手の項と頬を舐めた。
「大丈夫だよ。
ちょっと、昔の事を思い出してただけだから」
そう言いながら、麗華は焔とシガンの頭を撫でた。
翌朝……あくびをしながら、通学路を歩く麗華。その時、路地裏から何かが駆け出て来て彼女にぶつかった。
「いきなり飛び出すな!
って……は、長谷川?」
ぶつかったのは、腕や足に切り傷を着けた奈々だった。彼女の後から、新川を背負った渡辺秀とレンズに皹が入った眼鏡を掛けた金田駿がやって来た。
「か、神崎……!!」
「!?」
途轍もない妖気を感じた麗華は、人の姿になった焔と共に彼女達を自身の方へ引っ張った。その直後、何かが爆発する音と共に爆風と黒い煙が立ち上がった。
「麗!」
「分かってる!」
すると、黒い煙の中から火傷を負ったサラリーマンが出て来るなり、麗華達に助けを求めるかのようにして手を差し伸べてきた。次の瞬間彼の胸に鋭い何かが突き刺さり、サラリーマンは手を伸ばしたまま力なく倒れた。
「害虫駆除、一匹完了」
そう言葉を放ちながら、黒い煙の中から人が現れた。
その者の姿を見た麗華は、目を見開いて驚いた。赤黒い髪を結い、口に煙草を加えた男がそこに立っていた。
「久し振りだなぁ?
化け物さんよ」