……母さん?
『初めまして、大輔』
……お前、母さんじゃない。
『もう、あの子の面倒を見るのは嫌よ』
『我慢してくれ』
『ねぇ、あの子をあの女に渡せば?
私達には、もう子供いるんだから』
『そうはいかない。
こんなことが知られたら、世間体が』
あんな女いらない……
母さんの所に行く!
『我が儘を言うな!!』
“バチン”
「……」
目を覚ます大輔……ふと隣を見ると、自身の服を掴み眠る樹梨と海斗が布団を剝いで眠っていた。
「あ、やっと起きた」
「九条……」
「夜中、樹梨ちゃんが泣き出してね。
仕方ないから、海斗君と一緒にアンタと寝かせたのよ」
「……!?
俺、寝てたの?!」
「ぐっすりと」
「……」
「魘されてたみたいだけど、大丈夫?」
「嫌な夢見ただけだ」
起き上がった大輔は、掛け布団を二人に掛けた。部屋を出て来た彼の手を、久留美は握り止めた。
「何か悩んでんなら、相談してよ」
「……」
「私、もっとアンタのこと」
「知らなくていい」
「……」
「何も、知らなくていい」
無理に笑いながら、大輔は久留美の頭に手を置き撫でた。そして、彼女の手から離れその場から去って行った。
(……少しは、私に頼ってよ……)
目に涙を浮かべながら、久留美は去って行く大輔の背中を見た。
海沿いを歩く大輔……賑やかな声に、目を向けた。水着を着て、海ではしゃぐ翼達。杏莉に水を掛けられた麗華は、笑っていた……
(……あいつは、ここへ帰ってきて笑ってる……
けど、俺は……)
「星崎くーん!!」
呼ぶ声にハッとした大輔は、声がした方に顔を向けた。
浜辺で手を振る卓也が、自分の元へ駆け寄ってきた。
「今日は用事ないの?」
「あ、あぁ……」
「だったら、一緒に」
「悪い……」
「?」
「今は……そんな気分じゃないんだ」
そう言って、大輔はその場を去った。彼の傍を歩いていたシガンは、鳴き声を上げながら追い駆けた。
「あれ?シガンちゃん、大輔にあげたの?」
「あげてない。
勝手にくっついてるだけ」
「フーン……」
その時、浜辺に漁船が上陸した。不審に思った麗華は、龍実と目を合わせてた。
「龍実ぃ!」
海から声が聞こえ、振り返ると海を泳いでいた鮫牙が人の姿になって、浜辺に上がり龍実の元は駆け寄った。
「鮫牙、どうかしたか?」
「また漁船がやられた!」
「?!」
「やられたって、何に?」
「分かんねぇ。
今、緊急上陸したんだ」
「……麗華」
「?」
「すぐに皆を海から上げさせて、家に帰れ」
「え?何で」
「後で話す!」
それだけを言うと、龍実は服を着て漁船の所へ駆けていった。麗華は、海に入っていた杏莉達を呼び掛け浜辺へ上がらせ家へ帰った。
夕方……
町長の家へ来た麗華は、龍実と一緒に写真と書類を見ていた。
「今年に入ってから、漁船が故障する……」
「行く前に、点検しているんですけど……海に出た途端に故障したかのように、エンジンが壊れていたり」
「……最近、変わったことは?」
「町開発のために、島を一個星崎さんに任せてるんだ。
そこに住んでいた妖怪達や動物達には、静代さんに頼んで全部移動させました」
「となると、多分まだ島に未練を残してる奴が今回の事故を起こしてるのかもしれない」
「そんな……何とか、出来ないかな?」
「取りあえず、工事を中止にさせます。
星崎さんには、私から頼みますので」
「お願いします」
町長の家を後にした麗華は、龍実と共に夕暮れの道を歩いていた。
「まさか、星崎の付き合いで来ただけなのに仕事の依頼が来るなんて」
「まぁまぁ」
「星崎の家に寄るから、先帰ってていいよ」
「いや、一緒に行くよ。
あそこのおばさん、一人で女が歩いてるだけで怒鳴るから」
「……星崎の継母って、そんなに怖いの」
「一言で言うなら、ヒステリック」
「……」
日がすっかり沈み込んだ頃二人は星崎……いや、大輔の家に着き玄関前に立っていた。
「……星崎の家って、こんなにデカかったの?」
「一応、この島の霊媒師かつ建築会社の社長だからな」
「もう星崎を、馬鹿に出来ない」
「入るぞ~」
龍実が笑いながら、インターホンを鳴らした……その時。
「あ、星」
「何時だと思ってんの!!!樹梨と海斗はどこ?!!
アンタ、他人の分際でこの私に迷惑掛けないで頂戴!!」
突然の怒鳴り声に、龍実は驚き仰向けに倒れた。それを見かねた麗華は、インターホンのカメラに顔を近付かせ恐る恐る話した。
「あの~……
町長に頼まれて、こちらの旦那様とお話があって来た者ですけど」
「え?町長に頼まれて?
……!!」
インターホンが切れた直後、家から慌てた様子で女の人が出て来た。
「ご、ごめんなさい!!てっきり、息子達かと思って……」
「い、いえ……大丈夫です(二重人格?)」
「主人はすぐに帰ってきます。さぁ、上がって下さい」
「あ、はい……
龍実兄さん、入るよ」
「……あ!
何だ!?何があった!?」
慌てふためく彼の頭を、麗華は軽く殴り正気に戻した。
リビングへ案内された二人……数分後、スーツに身を包み眼鏡を掛けた男が入ってきた。
「お待たせしてすみません。
星崎俊輔と言います」
「ご無沙汰してます。川島龍実です。それから」
「神崎麗華です」
「神崎……まさか、大輔の」
「はい……息子さんには、いつもお世話になっています」
「いえ、こちらこそ。
東京では、息子がお世話になってます」
「いえ、そんな……
お喋りはここまでして、本題に入らせて下さい」
「あ、はい」
「実は……」
書類を見せながら、龍実は今起きていることを淡々と話した。俊輔は難しそうな顔をしたり、少し困ったような顔をしながら話を聞いていた。
「ですので、島の工事を一旦中止に……」
「それは無理だ」
「……」
「今中止すると、会社に負担が掛かる」
「それは承知しています。
けど、今止めないと漁師達の仕事が」
「こっちだって仕事だ。
悪いが、帰ってくれ」
「……」
書類を片付け、龍実と麗華は帰ろうと身支度を調えていた時だった。
「神崎さん」
「はい?」
「……大輔は、東京でちゃんとした生活をしていますか?」
「……それは、自分で本人から聞いて下さい」
それだけを言うと、麗華は軽く一礼をして龍実と共に出て行った。
家へ帰ってくると、門前に大輔が立っていた。
「星崎?」
「どうしたんだ?お前、こんな所で」
「……一晩、泊めて下さい」
「別に構わねぇけど……」
「九条と何かあったの?」
「何もない……」
答えない大輔……彼の顔はどこか悲しそうな表情をしていた。傍にいたシガンは、鳴き声を上げながら麗華の肩に乗り体を擦り寄せた。