陰陽師少女   作:花札

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迫りくる津波……


ニアが撥で小太鼓を叩き出すと、扇子を広げたメルは扇ぎ風を起こし、二人に合わせてリユが傘を広げ雨を降らせた。小太鼓の音に、彼等の頭上に黒い雲が広がりそこからバチバチと雷が鳴りだした。風を起こしたメルの足元から海水が渦を巻き上へと昇ってき、同時に曇り空から雨が降り出した。


「ニア!リユ!」

「うん!」
「うん!」

「せーの!!」
「せーの!!」
「せーの!!」


それぞれの力が海水で出来た渦に融合し、三人はその渦を津波目掛けて放った。だが大津波を前に、その渦は押し寄せてくる波により消されてしまった。


「駄目だ……力が足りない」

「早くしないと、島が」

「某の雷と風を使っても、ビクともしないとは……」


大津波

押し寄せてくる大津波に、呆気にとられている彼等の元へ焔の背に乗った麗華が辿り着いた。

 

 

「麗殿!」

 

「この波、止められそう?」

 

「無理」

 

「はぁ?!」

 

「力が足りない」

 

「信仰がなかったから、力が弱まってるのかもしれない」

 

「そんな……」

 

「ねぇ、どうにかできない?」

 

「どうにかって言われても……」

 

「考えてる暇はない!

 

早く、この津波を止めないと」

 

「さっきの技、もう一回使える?」

 

「う、うん。使えるよ」

 

「その技に、私達の力を加える」

 

 

そう言いながら、麗華はポーチから三枚の札を取り出した。三人は顔を見合わせると頷き、もう一度力を繰り出した。その力に、白馬の姿へと変わった雷光は、角に雷の玉を作り出しその周りを風で覆った。

 

 

「大地の神告ぐ!汝の力、我に受け渡せ!その力を使い、目の前の障害を消滅させる!

 

 

出でよ!海神!志那都比古神!」

 

 

両手に持っていた札が輝きだし、そこから水と風が出てきた。リユとニアが力を出し、最後にメルが力を出そうとした時、突如として苦しみだした。地へ落ちかける彼女を、慌てて力を消したニアが支えた。

 

 

「メル!!どうしたの?!」

 

「わ、分からない……いきなり、苦しく」

 

「一旦あの小島に下ろす。その間、アンタ達二人は時間稼いで」

 

「でも……」

 

「ニア、そいつの言うとおりだ」

 

「……」

 

「雷光、ここを任せた」

 

「はい」

 

 

メルを連れて、麗華達は小島へと降り立ち彼を木陰に座らせた。浅く息をするメルは、胸を押さえながら薄っすらと目を開け彼女を見た。

 

 

「どうにか……できない?」

 

「悪いけど、無理だよ。

 

多分、星崎が何かを訴えてんだよ。お前に」

 

「……」

 

 

「麗華ぁ!!」

 

 

聞き覚えのある声……振り返ると、小島に巨鳥の姿になった氷鸞が舞い降りそこから久瑠美が降り、麗華達の元へ駆けよった。

 

 

「な、何でここに!!」

 

「何にも連絡しないから、心配になって様子見に来たのよ!!

 

大輔は!?見つかったの?!」

 

「いや、それが……」

 

 

後ろで息をするメルは、立ち上がるとゆっくりと久瑠美に歩み寄った。久瑠美は麗華を退かし、歩み寄ってきたメルの元へ行くと、彼の頬を包むようにして手で掴み自身の方に向かせた。

 

 

「……」

 

「……大輔?」

 

 

見つめる久瑠美の顔を、メルは触った。髪の毛、目、頬、耳と順に触れジッと彼女を見つめた。

 

 

「……こいつか」

 

「え?」

 

「うるさいんだよ、その声」

 

「だ、大輔?」

 

「うるさい!!もう何も言うな!!」

 

 

突然、大輔の体が光り出した。氷鸞を殴り叱っていた麗華は、その光に気付くと久瑠美の前へ立った。彼から離れた光が宙に浮き大輔はそのまま倒れ、麗華は人方の紙を出し光の玉を紙の中へと入れた。人方の紙は男の子の姿へと変わり、頭を振った彼は自身の手を見ながら起き上がった。

 

 

「大輔!!」

 

 

倒れた彼の元へ久留美は駆け寄り、麗華は起き上がった少年の元へ行った。

 

 

「な、何が起きたんだ?」

 

「拒絶または、星崎の意識が戻ったか」

 

「戻った……あいつ、あの女の声を聴く度に反応していた」

 

 

頭を振り起き上がった大輔を、久瑠美は半泣きしながら抱き締めた。

 

 

「馬鹿!!心配したんだから」

 

「……俺、一体」

 

「覚えてないの?

 

いきなり苦しみ出して、私ん家から飛び出て行ったんだよ」

 

「……全然覚えてねぇ」

 

「妖怪に憑かれていた間の記憶は、覚えてる人いないから。どっかの誰かさんみたいに」

 

「っ」

 

 

そっぽを向く久瑠美に大輔は軽くため息を吐き、そしてメルの方に目を向けながら立ち上がった。

 

 

「……やはり、目つきと良い霊力といい……お前は明子にソックリだな」

 

「神崎、こいつ何?」

 

「島の精霊で、名はメル」

 

「メル?

 

 

お前、まさか扇子持った女形の精霊か?」

 

「何だ?見たことあったのか?」

 

「死んだ祖母さんの遺品の中に、確かそんな絵があったような気が」

 

「そんなものあったの?大輔の家に」

 

「お喋り後にしてくれない?

 

目の前に、大津波が迫ってんの」

 

 

大津波を目にした大輔は、ポカーンと口を開けながらその光景を疑った。そんな彼に、麗華はメルを見ながら事の流れを説明した。

 

 

「気を失っている間に、そんなことが……

 

 

って、人の体何勝手に使ってんだ!!テメェは!!」

 

「隙を作るのが悪い」

 

「テメェ……」

 

「喧嘩してる場合じゃない!波がもうそこまで来てる!!」

 

「星崎、メルに体貸してやれ」

 

「非常事態じゃなかったら、絶対貸したくない」

 

「それは貸すという意味か?」

 

「そう捉えろ」

 

「氷鸞、九条連れて高台に避難」

 

「分かりました」

 

「それから、次命令違反したらただじゃ置かないから」

 

「は、はい……」

 

 

巨鳥の姿になった氷鸞に、麗華は久留美を乗せ避難所へ行かせた。大輔は彼女から教わったやり方で借りた数珠を手に持ちながら、メルを自身の体へ憑依させた。人方の紙を麗華は回収すると、意識を持った大輔と共にニア達の元へ向かった。

 

 

 

雷光達の元へ戻ってきた麗華達……変わったメルを見て、ニアとリユは目を見開いて驚いた。

 

 

「え?!メル、どうして!?」

 

『明子の孫が、目覚めたんだ。了承を得て体を借りた』

 

「妖怪に貸し出すとは、思いもしなかった」

 

「話はいいから、早く津波を止めるよ」

 

 

札を出す麗華に続いて、雷光は角に風と雷が融合した玉を作り出し、ニアとリユも力を出すが先程と変わらない玉が作り出されたが、メルは先程より大きい力を出し巨大な球を宙に作り出した。

 

 

「す、凄い……」

 

「メル、どうやって」

 

『分からない。ただ、自然と』

 

「星崎の霊力を使ってるからだよ。

 

体に憑依してるから、自然と使えてるんだ」

 

「……」

 

「……(だったら)

 

 

神崎、そこにいる二人も俺の体に憑依させろ!」

 

『そうか、バラバラじゃ無理だけど……

 

 

一緒になれば』

 

「メルの言う通り、二人共星崎に乗り移って」

 

「いいの!?」

 

「そんなことしちゃダメって、明子が」

 

「目の前にいるのはその孫!

 

孫が許可してるんだから、いいんだよ!!」

 

 

二人は互いを見合うと、魂へと姿を変え大輔の体へと入った。


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