陰陽師少女   作:花札

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帰っていく妖怪達を、麗華は鳥居の前で提灯を手に持ちながら彼等を見送って行った。すると、一人の妖怪が立ち止まり彼女の方に振り向いた。


「桜巫女、今宵は桜巫覡がいなかった分ご苦労であったな」

「お褒めの言葉、ありがとうございます。

楽しまれて結構です」

「これからも、主等二人でやるのか?」

「……いいえ。


あと数年すれば、巫覡は京都の方へ行きます」

「ほぉ……それはまた、残念だな。

いつになる?」

「決まり次第、ご本人の方からご報告させていただきます」

「そうか……分かった。


巫覡は、別の者と変わるのか?」

「次に来る巫覡は、京都にある山藤神社の藤巫覡ですよ」

「おぉ、あの巫覡か。

それはそれで楽しみだ。


また来る」

「お待ちしております」


深々と例をする麗華……妖怪達は、白い霧を出し各々の場所へと帰って行った。


世代交代

後片付けをする麗華達……神楽殿の前に敷かれた敷物を片付け、元通りに戻すと麗華はそこを箒で掃いた。

 

 

「ふー、何とか終わった」

 

「お疲れだな、神崎」

 

「あ~~、着替えて早く寝たい」

 

「でもお前、この後また舞うんだろ?」

 

「……やる?」

 

「できるか!」

 

 

「ねぇ麗華」

 

 

ゴミ袋を持った朝妃は、少し心配相は表情を浮かべながら彼女に話しかけてきた。

 

 

「ん?どうした、立花」

 

「さっき、耳にしたんだけど……

 

 

 

 

お兄さん、京都に行っちゃうの?」

 

「さっきの話聞いてたの?」

 

「ちょっと、聞こえちゃって……」

 

「私が高校卒業したら、京都に行っちゃうよ」

 

「え?そうなの?」

 

「大輔が知らないなんて」

 

「星崎にも話してないからね、これは。

 

家の問題だからね」

 

「麗華も、京都に行っちゃうの?」

 

「行かないよ、私は。

 

こっちに残る……というより、山桜神社を兄貴から引き継ぐんだよ」

 

「世代交代ってやつ?」

 

「まぁ……そう…かな」

 

(代替わりというより、引継ぎだと思うんだが)

 

「じゃあ麗華、卒業後は一人暮らしなんだ。ここで」

 

「いや、違うよ」

 

「え?」

 

 

周りに吊るされた提灯を一つ一つ片付けながら、麗華は話した。

 

 

「京都に住んでる従兄弟が、こっちに来る予定だから一人暮らしじゃないよ」

 

「従兄弟って、あの陽一っていう子?」

 

「そうだよ。

 

あっちも、世代交代だって言って兄貴があっちに婿養子になってるから」

 

「……え?!

 

婿養子になってたの!?」

 

「あれ?話さなかったっけ?

 

 

婿養子になったから、三神になったって」

 

「聞いたような……聞いてないような」

 

「そういやお前、高校卒業後はどうすんだ?進学すんのか?」

 

「まだ悩み中。

 

皆は」

 

「私は演劇関係の大学か専門に行くつもりだよ」

 

「私は音大。お父さんの勧めでね。

 

ヴァイオリン、もう少し極めたいし」

 

「俺も音楽系統の専門に行くつもりだ」

 

「僕は大学かな?親が望んでるし、妖怪達の事もっと知りたいし」

 

「案外しっかりしてるなぁ……」

 

「大輔はどうすんのよ?将来」

 

「さぁな。

 

親父達の世話にはなりたくないから、卒業後は大工にでもなるよ」

 

「そうなの?

 

久留実ちゃんは?」

 

「こっちに出てきて、美容院の専門に通うって言ってた。

 

両親からの許可も得たし」

 

「え?じゃあ、一緒に暮らすの?」

 

「ンなわけねぇだろう。

 

九条の親父に殺されるわ」

 

 

「麗華ぁ!」

 

 

どこか嬉しそうな声で、安土は彼女に抱き着いた。反撃しようとした瞬間、牛鬼が安土の頭に空手チョップを食らわせ即刻止めさせた。

 

 

「いきなり何」

 

「神楽舞……見せて…(頭痛い……)」

 

「片付けが終わったらね」

 

「今がいい!

 

今だったら、月が見えてて月見酒が飲める!」

 

「お前は酒が飲みたいだけだろう」

 

「美味い酒には、お嬢さんの舞が無きゃな?」

 

「毎日酒飲んでるアンタに、言われたくない」

 

「片付け早く終わらせれば」

 

「私達も見ていいって事よね!?」

 

「そうだな」

 

「時雨!!」

 

「麗華!お願い!!」

 

「絶対、皆には言わないから!!」

 

「秘密守るから!」

 

「……」

 

 

「約束を破った場合は、餌にしていいってことだな?」

 

 

聞き覚えのある声に麗華が振り向く前に、彼女の背後から何者かが抱き着いてきた。振り向くと自身に抱き着くのは雛菊で、背後には大狼姿をした渚と彼女の背中から降りる丙だった。

 

 

「うわ……嫌な女が来た」

 

「安土、その首へし折るぞ」

 

「何で渚達が?」

 

「龍の仕事が今さっき一段落して、私達をこっちに送ったんだ」

 

「もっと早く送ってほしかったんだけど」

 

「龍も龍で、大変だったんだから大目に見てくれ」

 

「帰ってきた瞬間、飛び蹴り食らわせようと思ったけど……腹パンだけにしとく」

 

「殴ることには変わりねぇのか」

 

「それだけストレス溜まってんだよ、麗華は」

 

「よっしゃー!役者は揃った事だし、ちゃっちゃと片付けて麗華の舞見るぞぉ!!」

 

「勝手に決めんな!」

 

「片付けが早く終われば……」

 

「麗華の舞が見られる……」

 

「私達も手伝います!」

 

「どんどん手伝え!」

 

「牛鬼、帰った後あの愚弟の首、絞めといて」

 

「あぁ」

 

 

 

 

数時間後……

 

 

大太鼓の音が鳴り、琴と笛、三味線と琵琶が鳴り響く中、麗華は両手に扇を持ち二つを同時に広げると、勢いよく足を上げ思いっ切り地面を蹴り叩いた。

 

 

“タァン”

 

 

「あんな音出して、下駄がよく壊れないね…」

 

「やっぱ、舞やってると綺麗に見えるよねぇ」

 

「演劇やってる白鳥さんも、綺麗に見えるけどなぁ」

 

「卓也、それどういう意味?」

 

「だって、演技やってる人って背筋や言葉遣いを意識するから、周りから見ると綺麗に見えるって」

 

「……」

 

「それ、告白か?少年」

 

「……っ!!

 

ち、違う!!べ、別にそんな意味で……」

 

「卓也、顔赤いぞ」

 

「翼、余計なこと言わないで!!」

 

 

大声を出す卓也を黙らせるようにして、時雨は三味線を荒々しく響かせた。それに合わせて、麗華は下駄を鳴らすと扇を閉じ、開脚しながら地面に尻を着いた。

 

 

「あっ!終わっちまった!」

 

「時雨の奴、相当キレてるぞ」

 

「え?何で」

 

 

神楽殿から飛び降りた麗華は、時雨の元に駆け寄り何かを話した。時雨は、酒瓶を口に付けながら頷くと神楽殿の方へと行った。

 

心配そうにしている杏莉達の元へ、麗華は歩み寄り腕を組みながら軽くため息を吐いた。

 

 

「あんた等、騒ぐなら帰れ」

 

「ご、ごめん」

 

「私の舞は、あくまでも妖怪に見せる舞だ。人間に見せる舞じゃない。

 

 

(おかげで、またもう一回舞をする羽目になった)」

 

「今度は騒がないから!」

 

 

懇願する杏莉だったが、その思いを壊すようにしてポツリと水滴が石畳に落ちた。

 

 

「え?雨?」

 

「舞は中止だな。

 

おら、帰る支度しろ。家まで送ってやるから」

 

「えー!泊まりたい!」

 

「ダーメ。明日、親戚が来るから居られたら困る」

 

「……そういう事なら」

 

「仕方ないか……」

 

「秋か冬にまたやるから、その時に呼んであげるよ」

 

「本当?やったー!」

 

 

喜ぶ杏莉と朝妃の姿を見て、麗華は軽くため息を吐きながらも笑みを溢した。




その夜……

お風呂から上がった麗華は、濡れた髪をドライヤーで乾かしていた。すると、携帯から着信コールが鳴り響きドライヤーを止め、携帯の画面を開き電話に出た。


「はい神崎。


輝三?どうしたの?」

「龍二の方に連絡入れてんだが、折り返しがねぇからお前に聞こうと思って。

お盆はこっちに来るんだろう?」

「私はその予定だけど。

兄貴は届け出出してるから、一応行けるけどすぐ戻るって言ってた」

「まぁ、そうだろうな。


例の件はどうなってる?」

「話はしたけど、あとはあっち次第。


本当にいいの?」

「昔、教わったんだよ。


精霊を使って、妖怪を退治する奴を」

「……ねぇ、何で知ってるの?


星崎の家のこと」

「その島に行った野郎が、うちの家系にいるんだ。

その野郎に、俺が教わったんだ」

「静代さんじゃなくて」

「別の奴だ」

「……輝三、ちょっと聞いてもいい?」

「何だ?」

「うちの分家って、神崎と三神と月神の三家しかないんだよね?」

「……まぁ、そうだな」

「もう一家族、あったりした?」

「……」


麗華の言葉に一瞬、輝三は言葉を失った。沈黙が続く中、麗華は寄ってきた焔の頭を撫でながら言葉を発した。


「ごめん、何でもない。

忘れて」

「何かあったのか?」

「別に。


ただ、気になっただけ」


そう言って、麗華は電話を切った。切られた音が響く中、輝三は画面を閉じ本棚にある古いアルバムを出しあるページを開いた。そこには、まだ幼い自分と青年、その背後に雰囲気が麗華に似た女性とぎこちない笑顔を浮かべた男性が写っていた。


(……今話すべきか……もう少し、延ばすか)


写真を見る輝三に、竃は心配そうに顔を寄せた。寄せてきた彼の頬を、輝三は笑みを浮かべながら撫でてやった。
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