陰陽師少女   作:花札

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「先に走って来い!」

「まだ眠いよ~」

「文句言わずに!ほら、走った走った!

陽、お願い」

「はい……」


果穂の眠そうな声に、大輔は目を覚ました。目の前には既に起きたニアが顔を覗かせており、何かに髪を引っ張られる間隔があり目を向けると、そこにはメルとリユが自分を起こそうとしていた。


「……髪を引っ張るな。

起きるから」

「星崎、起きてる?」


障子が開き、外に出ていた麗華が現れた。大輔の髪を引っ張っていたメルは、彼女の元へ寄り頭に乗った。


「お前、いきなり開けるなよ」

「起きたなら、早く着替える。

山、走るよー」


そう言って障子を閉めた麗華は、運動靴を履き庭で軽く準備運動をした。大輔はあくびをしながら、着替えをし玄関に置かれていた運動靴を履きながら、庭へと回った。


「にしても、よく起きられたね。この時間に」

「俺は一応、一人暮らしだ。


朝早く起きねぇと、昼飯と洗濯が出来なくなる」

「おぉ、頼もしい」

「で?この山の中、走るのか?」

「軽くね。

大丈夫でしょ?剣道部なんだし」

「まぁ、島へ行く前に合宿行ったからな」

「私も同時期だったわ。


じゃ、行くよ」


髪をまとめ上げた麗華は先に走り出し、それに続いて大輔も走り出した。ニア達は彼等の後を追いかけて行き、傍にいた焔は人の姿へとなり追いかけて行った。


母親の記憶

一時間後……息を切らしながら庭に座り込む、果穂と大雅。二人の後から、息を切らした麗華と大輔が庭へと辿り着いた。二人を出迎えるようにして、陽一は清々しい笑顔を浮かべて振り返った。

 

 

「おぉ!帰って来たか」

 

「ただいま」

 

「山ん中、足が取られて、走り辛い」

 

「お、一句出来たな」

 

「獣道ばっかで、本当疲れた」

 

「そういや、初めて走ってた頃道に迷ったりして……一時間で戻ってくるはずが、2時間以上かかってた記憶がある」

 

「え?補助無し?」

 

「泰明さんがいなかった時……一人で走ったら、迷子に」

 

「焔はどうした?」

 

「知らない間に行っていて、俺が捜索した(あん時は生きた心地がしなかった)」

 

「……そこにいる陽一は?」

 

「俺は親父の都合で、行けなかったんや。

 

黙って行こうとしたら、ぶん殴られたっけ」

 

「……お前の親父、怖っ」

 

「普段は優しいで」

 

 

座り込む果穂と大雅を立ち上がらせて、陽一は麗華と共に二人を家の中へと入れさせた。突っ立っている大輔を、周りに飛んでいたニア達は、彼の手を引っ張り家の中へ連れ込んだ。

 

 

 

 

「憑依……ですか?」

 

 

朝食の味噌汁を飲んでいた大輔は、向かいに座る輝三の言葉を繰り返した。

 

 

「精霊に自分の肉体を貸してその代わりに精霊の力を己が使用して妖怪や悪霊を祓う……これを憑依祓いと言われている」

 

「何か、前に読んだことある漫画のネタみたい」

 

「俺の家系が、その一族だったって事ですか?」

 

「そうだ。

 

恐らく、お前さんの祖母さんもその三匹を遣って祓い屋をやっていたはずだ」

 

 

握られたおにぎりを、美味しそうに頬張るメル達を大輔は見た。

 

 

「まぁ、朝飯食ったらやり方教える」

 

「よろしくお願いします……」

 

「麗華、陽一、お前等は引き続き果穂達見ろ」

 

「へーイ」

「ホーイ」

 

 

朝食を食べ終えた後、靴を履く果穂達の元へ麗華と陽一は竹刀を持って歩み寄った。大輔は、メル達を連れて輝三の元へと行った。

 

 

太陽がジリジリと差し込んだ……体を動かす彼等の体中から出る汗が、地面にヒタヒタと流れ落ちていた。その汗を果穂は縁側に置いてあったタオルで、思いっ切り拭いた。

 

 

「めっちゃ暑いー!」

 

「小学生のやることじゃないような気が……」

 

「大雅、私は既に今の果穂と同じくらいの時にこの修行を始めた」

 

「……姉ちゃん、凄え」

 

「俺は中学入ってからやな。

 

けど、体鍛えていたのは小学生の時からや」

 

「……流石、陽一兄ちゃん」

 

(さぁて、星崎の方は……)

 

 

輝三達の方に目を向けると、上半身裸になった大輔が地面に倒れており、そんな彼の顔にリユは水を与えていた。

 

 

(……相当扱かれてるな)

 

 

「麗華お姉ちゃん、修行終わったら宿題見て」

 

「そういえば、最後の一個が残ってたね……いいよ」

 

「やったー!」

 

「陽一兄ちゃん、俺の宿題見て!」

 

「応!任せとき!」

 

「じゃあ、早く修行メニュー終わらせようか」

 

「うん!」

 

 

嬉しそうに果穂は、竹刀を持ち麗華達の元へと駆け寄り、彼女に続いて大雅も駆け寄った。

 

 

 

 

夕方……

 

 

ヒグラシが鳴く頃、突然輝三達の方から強風が吹いてきた。振り向くと、そこには姿を変えた大輔が立っており、手には二本の扇子を持っていた。目を開くとともに風は止み、大輔は変貌した己の姿に見回した。

 

 

「……え?これ、成功……ですか?」

 

「成功だな。

 

 

精霊に乗っ取られるかと思ったが……その傾向もないし(かなりの信頼を置いてるな、三匹共)」

 

「輝三、こっち終わったよ」

 

「分かった」

 

「見ての通りって感じだね」

 

「お前の言った通りだな。

 

少し鍛えただけで、ここまでになるとは思わなかった」

 

「プロ級になると、どれくらいになるの?」

 

「まぁ、三匹同時に身体に入れられて技の切り替えが難無くできる」

 

「銃の弾を別の弾に変えるって感じだね」

 

「太刀と脇差を使い分けるようなものだ」

 

「わー、分かり易い」

 

 

身体からメルが出ると、大輔はその場に座り込んだ。メル達は心配そうに彼の元へ行き、寄ってきた三匹を大輔は順々に撫でた。

 

 

 

 

「痛ったぁ!!」

 

 

体中に響く筋肉痛に、大輔は悲鳴を上げて布団の上にうつ伏せになっていた。そんな彼の体に、麗華は湿布を貼っていった。

 

 

「筋肉痛ごときで、ここまで叫ぶとは」

 

「痛いもんは痛い……」

 

「まぁ、成功してよかったけどさ。

 

あとは体力作りと入れ替えが自由自在に使えるようになる特訓」

 

「……身に付けば、お前の手伝いできるのか?」

 

「え?」

 

「見てるだけじゃ、やっぱ歯痒いというか何というか……

 

事情も知ってるし、学校で何か起きた時、一番に助けられるのは俺くらいだろう?」

 

「……命取りになるような戦いが多数だよ。

 

戦闘時、もしかしたら体の一部を無くすかもしれないし、嫌な呪い掛けられるかもしれない。

 

 

誰も責めることもできないし、失敗すれば全責任が自分に来るんだよ」

 

「……それでも、俺は手伝いたい。

 

それに身に付ければ、島に戻った時あいつ等を守れるだろう?」

 

「本当、危険なこと好きだね」

 

「それはお互い様。

 

で、いいか?」

 

「好きにして。

 

でも、先にこの修行をきっちり終わらせてからね!」

 

 

そう言いながら麗華は、大輔の背中を思いっ切り叩いた。叩いた箇所から激痛が走り、大輔は悲鳴を上げた。

 

 

「テメェ……」

 

「喝入れてあげたんだから、感謝しなさいよ」

 

「誰も頼んでねぇわ!!

 

 

 

 

あぁそうだ……

 

 

なぁ、神崎」

 

「?」

 

「お前さ、母親の夢見たことあるか?」

 

「え?」

 

 

湿布を貼り終えた大輔は、ゆっくりと起き上がりながら麗華の正面に体を向けた。胡坐をかいた彼の膝にニアとリユがチョコンと座り、メルは肩に座った。

 

 

「ここ最近、妙に母親の夢を見るんだ」

 

「アンタの母親って確か、アンタが物心つく前に出て行った……」

 

「あぁ……母親の記憶、そこまであるわけじゃないんだけど……

 

どういうわけか、最近よく見るんだ。小さい俺を膝に乗せてお喋りする母親の姿が」

 

「……」

 

「母親亡くしたお前に、聞くのはどうかと思ったんだけど……」

 

「昔見てたよ。

 

 

この家で」

 

 

救急箱を片付けた麗華は、チリンと鳴った風鈴を見ながら庭にいた狼姿になった焔の頭を撫でた。ちょうどその話をしている時、お風呂から上がった陽一はタオルで髪を拭きながら足を止めた。

 

 

「島から童守町に帰ってきてからは、全然見てなかったんだけど……

 

 

こっちで過ごし始めてから、何か妙に母さんが夢に出てきてね。

 

始めはさ、嬉しくて出て来る母さんに抱き着いて凄い甘えてた。

 

 

でも至福の時は長く続かない……目が覚めるとそこに母さんはいない。

 

寂しさと母さんが亡くなったっていう現実が身に染みて、夜中よく泣いてた」

 

「……」

 

 

その言葉に、陽一は少し悔しそうな表情を浮かべて拳を強く握った。そんな彼に、波は慰めるようにして頬を舐めた。

 

 

「けど、星崎は良いじゃん。生きてるかもしれないって希望があるんだから」

 

「生きてるっていっても、どこで何してんだか……」

 

「仕事は何かやってた?手に職を持ってたとか」

 

「……さぁな。

 

アイツ(親父)、何も教えてくれないから」

 

「何か分かれば、手掛かりになると思ったんだけど……

 

名前って分かる?母親の」

 

「知らねぇ……

 

あ、でも」

 

「?」

 

「うろ覚えなんだけど、確か親父おふくろの事“しづ”って呼んでたような」

 

「しづ?」

 

 

「お姉ちゃーん!

 

 

晩御飯出来たよー!」

 

 

果穂の呼び声に、麗華は返事をした。彼女は大輔に手を貸し立たせると、居間へと向かった。




その日の夜……


眠る麗華の部屋に、陽一は静かに襖を開け中に入った。鼬姿で眠っていた焔は目を覚まし、寄ってきた波の毛を舐めた。

座った陽一は、寝息を立てる麗華の頭にソッと手を置いた。


(……大変だった時期に、傍にいてあげられなくて……ごめんな。

本当なら、俺が麗の傍にいなきゃいけへんのに)


眠る彼女の頬を軽くキスをした。ふと視線を感じた陽一は、瞑っていた目をスッと開けた。

眠たそうな表情で薄らと目を開けている麗華……陽一は驚きの余り固まってしまい、動けずにいた。すると麗華は、彼の頬を手で包むと自身に引き寄せ、彼の唇に自分の唇を重ねた。


「……お相子」


唇を離した麗華は、静にそう言った。顔を赤くしながらも、陽一は嬉しそうに笑いそして彼女の額に自身の額を合わせてた。
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