プロローグ
これは昔の記憶。
俺は幼い頃、両親から虐待を受けていた。
最初の頃は父さんと母さんと俺の三人家族で幸せな日々が続いていた。毎日が暖かく。幸せで。俺は両親のことが大好きだった。
しかし、ある日を境にその幸せは簡単に壊れてしまった。始まりは父さんの死によるものだった。父さんはいつものように会社に出かけた帰りに交通事故にあったらしい。
母さんは泣いた。それはもう可哀想なくらいに泣き続けた。俺はそんな母さんを見ているのが辛く。他の部屋に閉じこもった。今思えば、あの時なんで声をかけてあげられなかったんだろう。一言でもかけてあげれば変わっていたかもしれないのに。
母さんはいつしか泣かなくなり、お酒を飲むようになった。朝から夜までひたすら飲み。お酒が無くなると俺にあたるかのように熱湯をかけたり、殴ったりするようになった。そしてある日、母さんは遺書を残し、自殺した。
俺は母さんの姉に預けられた。
母さんの姉はとにかく男癖が悪く。日頃から男を家に連れ込んでいた。そこでも俺は暴力を振るわれた。殴る蹴るは当たり前のこと、熱湯の中に投げ入れられたり、アイロンを押し付けられたり、俺が叫び声をあげるたびに笑い声が聞こえてきた。
そんな日々が続く中、虐待はピタリとして止まった。母さんの姉は人が変わったかのように優しくなり、俺はそれに甘えてしまった。これからは楽しい人生が待ってるんだと心躍らせながら母さんの姉が初めて作ってくれた手料理を食べた。すると意識が遠ざかり始め、眠ってしまった。
次に眼が覚めると、どこかの山の中だった。
そして俺はようやく気がついた。捨てられたという事実に。気味の悪い鳴き声が、静寂の闇の中に響き渡る。俺の心を折るには十分だった。俺は絶望した。自分の運命に。世界に。この世の全てに。
全てを諦めた瞬間、正面に純白の剣士が現れた。
月明かりに照らされ神秘的な光を放つ純白の長い髪。神々しさすら感じる白銀の双眸。伝承に出てくる戦乙女の装束から覗く初雪のように白い肌。凛とした体躯はしなやかで、女性特有の丸みが帯びており、大きいと分類される胸はまるで芸術家が三日三晩精巧に作り上げられたかのようだった。
「何故ここにいるのですか?」
まるで歌のように典雅な響きを持って、静寂に包まれた常闇の森の中に響き渡った。
対し、俺は半ば自棄になりながら答えた。これまでにあった出来事の全てを。
それを聞き終えると、純白の女性は俺を包み込むようにして抱き寄せた。
「そうですか。それは辛かったですね」
その体温は暖かく。俺の冷え切っていた身体を溶かし始めた。
「よく頑張りましたね。もう大丈夫ですよ」
その声には慈愛が含まれており、俺は久方ぶり人の温もりを感じた。
「今日から私があなたの家族になりましょう。あなたは私が護ります。絶対に」
その言葉には確固たる決意と覚悟が含まれており、冷え切っていた心が溶けていくのを感じ、俺は我慢が出来なくなり、純白の女性の腕の中で泣いた。
「わたしの名前はエーデルワイス。あなたの新しい家族です。あなたの名前は?」
「……ゆうぎり かずき」
「じゃあ帰りましょうか。私たちの家に」
「うん!」
こうして世界最強の剣士と少年は出会った。
この二人の出会いは何を生むのだろうか?