落第騎士の英雄譚 勇者となりし少年   作:スヴェート

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二話 落第と勇者

破軍学園。

国際魔導騎士連盟の認可を受けた七つある学校の一つ。

一樹は始業式を真面目に受けて………はいなかった。

そもそも一樹は小学校と中学校には行かず、通信教育だった。そのため始業式という概念はなく、何が真面目なのかがわからなかったため、一人魔力を練ったりして遊んでいた。周りから見れば、それはかなり高度な技術なのだが、一樹からしてみれば日常の中でいつもやっていることなので、特に疲れたりはしなかったが、周りからしてみればかなり目立っていた。

 

「な、なんであいつこんな時にあんなことしてんだよ」

「あんなこと普通できないよね」

「何者だよあいつ」

 

ヒソヒソと話し声が聞こえてくるが、一樹は一人淡々とその作業をこなしていた。そんな事をしていると不意に隣から声をかけられた。

 

「そんなことしてると怒られますよ」

 

声をかけられた方を向くと、そこには妖精がいた。否、妖精に見える可憐な美少女がいた。短い銀色の髪に、淡い翡翠色の瞳。全体的に色素は薄く、儚い雰囲気を醸し出している。

一瞬だけその姿に見惚れていたが、我に返り答えた。

 

「これくらいみんな出来るだろ?」

 

「いえ、少なくとも魔術制御がBはないと出来ませんよ」

 

「え、マジ?」

 

「大マジです。理事長の顔を見てください」

 

そう言われ、指を刺された方を見ると、そこには黒いスーツ姿の麗人が、破軍学園理事長・新宮寺黒乃が笑顔で座っていた。だが、その目は一切笑っていない。

………うん。見なかったことにしよう。

 

「俺の名前は夕霧 一樹。君は?」

 

「清々しいくらい話題を変えましたね」

 

少女はふふっと可憐に笑った後、答えた

 

「わたしは黒鉄 珠雫です。よろしくお願いしますね夕霧さん」

 

「こちらこそよろしく黒鉄さん。それと俺のことは一樹でいいよ」

 

「でしたら私も珠雫って呼んでください」

 

「わかったよ。これからよろしく珠雫」

 

「はい。一樹さん」

 

一樹と珠雫はお互い握手をし、始業式が終わるまで他愛のない会話をした。

 

◼︎◼︎◼︎◼︎

 

「クラスはここか?」

 

始業式が終わり、各々自分のクラスへと向かった。一樹は途中まで珠雫と一緒であったが、クラスが違うため少し前に別れていた。教室に入ると、色々な視線が突き刺さった。

 

(あれ?俺なんかしたっけ?)

 

そんな事を考えつつ空いている窓際の席へと座った。絶えず視線が突き刺さっているが、気にすることなく清々しいほど雲一つない空を見上げながら、時間が過ぎるのを待った。すると……

 

「はーい☆ 新入生のみなさんっ!入学おめでとーーーーーーッ!♡ 今日からみなさんの担任をさせていただく、折木有里です。担任を持つのは初めての新米教師だから、気兼ねなく友達感覚で『ユリちゃん☆』って呼んでくれたら嬉しーな!」

 

『パーン』とクラッカーの音が教室の中に響き渡り、嬉しそうなことが伝わってくる若い女性の声が聞こえてきた。そちらの方を見やると、教壇に立つ若い女性教師が満面の笑顔を浮かべていた。

 

(へー、これが学校のテンションか。高いな)

 

これから毎日このテンションは辛いなと、一樹は一人だけ場違いなことを考えていた。

 

「みんな、生徒手帳出してくれる?」

 

ユリちゃんの指示通り、一樹は制服の胸ポケットから破軍学園から配布された手のひらサイズの液晶端末を取り出す。これは学生手帳でもあり、身分証明から財布、携帯電話、インターネット端末など、多くの機能が備わっている優れ物である。

そしてユリちゃんからの説明が大体終わり、最後に活気付けようとした瞬間、

 

「えいえい・オブファーーーーーーーーッッ‼︎(吐血)」

 

ユリちゃんの口から致死量を超えてるんじゃないかと思うほどの血が出てきた。

 

「「「ゆ、ユリちゃぁぁあぁああああん⁉︎⁉︎」」」

 

「漫画みたいだな」

 

「「「冷静過ぎない⁉︎⁉︎」」」

 

いきなり起こった目の前の惨劇にクラスメイトたちが騒然とする中、一樹は思ったことをそのまま声に出すと、クラスメイト全員からツッコミを入れられた。

 

「あー、大丈夫大丈夫。みんな落ち着いて」

 

好青年を感じさせる優しい声音が聞こえてきた。そちらの方を向くと、首筋あたりまで伸びた黒い髪に黒い瞳、柔和な顔が優しそうに感じさせる青年がいた。

 

(どこかで見たことあるなー?)

 

一樹はその青年に見覚えがあり、考えていると、いつの間にか青年はユリちゃんに肩を貸し、保健室へと向かっていった。一樹は帰っていいのかなと思いつつ、再び外に視線を向けた。

 

◼︎◼︎◼︎

 

『先生が、今日はもう帰ってもいいってさ』

 

十分くらい経っただろうか?

青年が教室へと戻ってきて、先生からの伝言を伝えてくれた。一樹は帰るかと思い、席を立つと黒髪の青年が慌てたようにこちらへとやってきた。

 

「久しぶりだね、一樹君!」

 

「?」

 

青年は本当に嬉しそうな顔で笑いかけてきた。一樹は誰だっけ?と思いながら、その顔を凝視していると、後ろから燃えるように赤い髪をした少女が割り込んできた。

 

「イッキ、その人誰?」

 

「昨日話した、僕の恩人だよ」

 

「えっ⁉︎本当に?」

 

「うん!間違えるはずないよ!」

 

「でもその人忘れてるみたいよ?」

 

「えっ⁉︎覚えてないのかい?あの雪山でのこと」

 

イッキという名前と雪というワードをヒントに記憶たどっていくと………

 

「あっ!あの時の!」

 

それはエーデルワイスに拾われてから、半年経った時のことだ。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

今でも夕霧一樹はその日のことを鮮明に思い出せる。それは初めてエーデルワイスと喧嘩した日のことだった。喧嘩の原因は覚えていないが、その日一樹はエーデルワイスに《お前なんて家族なんかじゃない!》と言ってはいけない言葉を言い放ち、山の中へと逃げた。

どれくらい走っただろう。気がつくと、日は沈み始めており、気温はどんどんと下がり、粉雪が降り始めてしまった。帰らなきゃと思い踵を返すが、もう帰る場所はないことに気がつき、心細い気持ちになりながら雪の山の中を歩いた。粉雪は吹雪へと変わり、体力と精神力が削られていくのを感じる。このまま凍死してしまうのかなと考えていると、同い年くらいの黒い髪の少年が雪の中でうずくまっているのを見つけた。

その姿は過去の自分と重なって見えた。絶望の淵に立たされ、悔しい気持ちにかられるあの頃の自分と。そう感じた時、一樹は無意識にその子に話しかけていた。

 

『どうかしたの?』

 

『きみは?』

 

その少年はなんでこんなところにいるんだろう?という疑念を抱いているのか、少し警戒気味に問いかけてきた。

 

『ぼくのなまえはかずきって言うんだ。きみは?』

 

『くろがね いっき』

 

『それでいっきはこんなところで何をしてるの?』

 

一樹が問いかけると一輝はポツリポツリと話し始めた。一樹はその全てを黙って聞いた。全てを話し始めると一輝はその瞳から涙を流し、今まで溜め込んでいた心の悲痛を叫んだ。

 

『なんで!なんでぼくがこんなめにあわなくちゃいけないんだ!だれからもいないものにされるくらいならうまれたくなかったのに!』

 

一樹はその言葉を聞いた後、昔自分がしてもらったように一輝の体を包み込むようにして話した。

 

『うまれてたくないなんていっちゃだめだよ。たしかにきみはつらいおもいをした。それはぼくにはけっしてわからないくるしみだとおもう。でもね、しんだらそこでおしまいなんだよ?そんなのもったいないじゃん。いま、きみはどういうきもちなの?』

 

一輝は今までの仕打ちを思い出し、思った。

悔しい。才能がないことではなく、僕のことを信じてくれないことが悔しい。そう思った時、涙が出た。するとどこか重みを感じさせる渋い声が聞こえてきた。

 

『その悔しさ()は、まだ小僧が諦めてない証拠だ』

 

そちらの方を向くと、白髪にカイゼル髭を蓄えた大柄な老人が立っていた。一樹は一輝の身内だということを悟り、一輝を老人に預け、来た道に向かって走り出した。老人にはこんな雪山では危ないと言われたが、一樹の心には早くエーデルワイスに謝らなくちゃという気持ちしかなかった。

走っていると、どこからかエーデルワイスの声が聞こえてきた。一樹はその声のする方へと向かい走ると、エーデルワイスがいた。エーデルワイスは一樹の姿を見つけると、一瞬でその距離を詰め、一気に抱き抱える形で抱き込んだ。そして涙を流した。一樹は腕の中で謝り続けた。ひどいことを言ってしまったこと。心配させてしまったこと。そして泣かせてしまったこと。すると、エーデルワイスは言ってくれた。

 

『あなたがどんなに迷惑をかけても私はあなたを見捨てません。私はあなたに嫌われてもあなたを護り続けます。だけど、少しだけ願いを聞いてもらえるなら、私の前からいなくならないでください』

 

その言葉は一樹の心に深く突き刺さった。

エーデルワイスの涙は頭の中に焼きついた。

そして一樹は誓った。二度と悲しませないと。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「やっと思い出してもらえた」

 

一輝はホッと胸を撫で下ろしているところ見つつ答えた。

 

「どこかで見たことあるとは思ってたけど、まさか君だったなんて」

 

「あれから十年だからね。忘れられてても仕方ないよ」

 

一樹はあの時に見た自分と似ている少年がここまで変わっていることに驚いた。それは容姿だけではない。その瞳だ。その瞳には遥か高みを目指す野心が見えた。

 

「うん。この十年、君がどんなに努力してきたかがわかるよ。これからよろしくな一輝。」

 

「こちらこそ一樹君!」

 

一樹と一輝は固く握手を交わした。

こうして運命に否定された少年と落ちこぼれだった少年は再会を果たした

 

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