あれから一輝は楽しそうに一樹に話している。その様子を見てステラは少しむくれていた。
(あんな楽しそうに話してる姿見たことない)
まだ出会って日は浅いものの、黒鉄 一輝の過去がどんなだったかは知っている。絶望の瀬戸際手を差し伸べてくれた少年のことも。わかっていてもモヤモヤした感じはなくならない。
そんなこととは露知らず、一樹はステラからの視線に気がついていた。
(どうしたんだろう?)
一樹は悪意や害意といった負の感情には敏感だが、今まで恋愛といったものとは無縁であったため、それらに関しての知識は浅い。否、皆無であった。
そんなことを考えていると、快活そうな声とともに一人の女の子が一輝へと抱きついた。
「せーんぱいっ!」
「うわっ⁉︎」
「わたし日下部加賀美っていいます!あの試合見てから先輩のだ〜〜〜〜いファンなんですよぉ〜!」
突然、女の子に抱きつかれたことに驚いたのか、一輝は声を上げた。しかし、一樹はそれ以外のことに気になった。
「先輩?」
そう呟くと、一輝はバツが悪そうな顔になり渋々ながら答えた。
「僕は留年生なんだよ」
「で、でもそれは理由が「あっ、なるほど。じゃあ俺はラッキーだな」へっ?」
ステラが慌てながら答えるのを遮り、一樹が答えると、ステラは間の抜けた声を発した。
「ラッキーっていい方は一輝に悪いか。でも、初めて学校ってとこに通うことになったから、知らないことが多くてさ。知り合いがいて良かったよ」
「け、軽蔑とかしないのかい?|留年して「そんなの気にするな。なんか理由があるんだろ?そこまでの強さを持っているのに留年なんて、理由がない方が驚きだよ。」う、うん。ありがとう」
一輝が少し悲しそうな表情で言い始めたのを遮り、一樹は繕わず本心をそのまま伝えた。すると、一輝は嬉しそうにお礼を言ってきた。しかし…………
「えっ?い、今まで一度も学校行ってなかったの?」
さっきの話で学校に通っていなかったことにステラは驚きを隠せなかったのか、声のトーンが自然と大きくなった。そのせいか、クラスに残っている同級生たちは驚いたようにこちらを見てきた。
「ご、ごめんなさい」
申し訳なさそうに謝るステラを見て、一樹は苦笑しながら答えた。
「平気平気、気にしなくていいから。それに通ってないって言っても通信教育で勉強の方はしてたから学力はそれほど変わらないと思うから。それより試合って?」
話題を変えるため一樹は加賀美が言った試合というのを聞いた。すると、誰よりも早く加賀美が興奮気味に答えた。
「すごいんですよ!この動画みてください」
そこには一輝とステラが戦いを繰り広げている姿が映っていた。
「……これって、あたし達の決闘じゃない!」
本人たちは知らなかったようで二人とも驚いた顔をして、
覗き込んでいた。一樹はその試合を見ていると、いつの間にか一輝が女子たちに囲まれていた。
「すっごくカッコよかったです!」
「黒鉄センパイ、良かったら稽古つけてください!」
「あー、ずるい私もやってください!」
「ちょ、ちょっと待って確かに気軽にとは言ったけど、そんなに一斉に来られても困るよっ」
一樹はその光景を見て、エーデルワイスの気持ちが少し分かった気がする。成長して人が変わっていくことの素晴らしさを。昔、誰からも必要とされなかった少年が、今ではキラキラと輝く瞳を尊敬の眼差しを向けられている。
(よかったな、一輝)
一樹はそう思っていると、隣でステラが仏頂面で立っていた。一樹はようやくステラが一輝に惚れていること理解し、声をかけた。
「気に入らない?」
「べ、別に一輝が誰と仲良くしようと関係ないわ!」
「誰も一輝とは言ってないけど?」
少し意地悪して聞くと、顔をカァァと紅潮させた。その様子が可愛く思ったが、流石にこれ以上からかうのはいけないと思い、ステラの頭に手を置き、諭すように優しい口調で言った。
「俺とあった頃のあいつはあんなに優しい目はしてなかった。だから今のあいつは誰よりも優しい」
「いきなりどうしたのよ?」
「だからこそあいつは自分のことには疎い。さっきの戦い方を見て思ったけど、あいつは自分が傷つくことに慣れている。だからこそ気がつけない子もある。だからステラ、あいつのことは頼むよ。あいつの素晴らしさがわかる君なら任せられる」
「それってどういう?」
「それよりステラ。一輝が助けを求めてるけどどうする?」
ステラは一樹の言葉の意味が理解できなかったのか、もう一度聞こうとしたが、一樹の言葉で一輝の方を向くと、加賀美に胸を押し付けられ取材を迫られている見た瞬間、頭が一気に冷え、再び仏頂面になり言い放った。
「よかったじゃない。
その言葉に冷や汗をかき、こっちに助けを求めてくる一輝に向かい一樹は言った。
「ハーレム状態になれてよかったな、一輝」
「火に油を注がないでくれる⁉︎」
そんな感じでワイワイと騒いでいると、敵意を一切隠そうとしないともしない粗暴な、声がかかった。
その声がする方を向くと、ぞろぞろと、五人の目つきが悪い少年が周りにいた少女たちを押しのけて、一期の前に立った。
五人の中でも一番体躯のいい少年が、威圧を込めた声を一輝に向けた。
「ずいぶん人気者ッスねぇセンパイ。でもちぃーと調子に乗りすぎなんじゃねーッスか?教室のだってのに、女侍られてイチャイチャと」
こめかみに青筋を立てながら、一輝を睨みながら詰め寄る少年を見て、一樹は首を捻った。
(あの喋り方どこかの部族か何かかな?それともあれが世に言う頭の弱い人かな?)
「んだとテメェ‼︎」
「あれ?声出てた?」
一輝とステラだけではなく、周りにいたクラスメイトたちが一斉に笑い始めた。それとは対照的に体躯のいい少年はこちらに詰め寄ってきた。
「ぷふふ。ま、真鍋。嫉妬してんのやめなさいよ。くふふふ」
「ふふ、自分がないからって、ふふ、ひがんでるじゃないわよ。ふふふふ」
一輝の周りにいた女子たちが一樹に詰め寄っている体躯のいい少年こと真鍋を注意しようとするが、さっきのがツボに入ってしまったのか笑っているため、真剣味が全く伝わってこない。
「何笑ってんだこのアマ!マー君に向かってナマ言ってんじゃねぇよッ!」
「マー君って可愛いな」
すると、堪え切れなくなったのか、全員が笑い出してしまった。一樹は場を和ませようとしただけなのに、悪化したように感じた。案の定、それに耐えきれなくなった眞鍋が
「ちょ、ちょっとあんた達本気⁉︎こんなところで霊装使ったら停学よ⁉︎」
「うるせぇよ!んなこと知るか!こいつに一発入れてやらなきゃ気が済まねぇ!」
加賀美の注意を一蹴し、霊装を顕現させた少年たちがハイエナのようにして一樹を囲んだ。
「一樹君!「大丈夫だよ」」
一輝が心配して間に入ろうとしたのを一樹は止めた。理由は二つ。一つはこの程度の相手に遅れは取らないということ。もう一つは今の自分はこの学園でどれくらいの力で闘っていいのかを測るため。
「真鍋くんだったけ?今その霊装を仕舞うってくれると嬉しいんだけどな?」
「ふざけんじゃねぇぞテメェ!」
「だよね」
一樹は初日から問題を起こしてしまったことにふぅとため息を吐いた瞬間、教室の雰囲気はがガラリと変わった。いや、変えさせられた。
「俺はどれくらいまで手加減しなきゃいけないかがわからないから、なるべくだったら闘いたくないんだ。……だからそれしまってくれるかな?」
その声は何処までも穏やかだが、纏う雰囲気がそれらを狂気に変えた。
(そ、底が見えない)
一輝は一樹の実力の一端を体感し、戦慄した。全く底が見えないのだ。この学園で、いや、生きてきた中で一度もそんな人とは会ったことがなかった。隣にいるステラも驚きに顔を染め、脂汗をかいている。Aランク騎士がである。正面から受けている真鍋たちはというと、勝てないことを悟ったのか、いつの間にか顕現させた霊装を解除していた。それを見るや否や、一樹は満足そうな顔をし答えた。
「ありがとう」
真鍋たちはその言葉にカクカクと頭を動かし、頷いた。そしてそれは真鍋たちだけでなく、一輝やステラを含むクラスメイト全員もだった。
「「「………………………」」」
誰一人と傷つけず、最低限の
「あ、あれ?おかしいな。あんまり威圧してないはずだけど」
「一樹君。もう少し抑えたほうがいいかも」
「え⁉︎まじか、かなり落としたんだけどな」
一樹は周りで怖がっている女子たちに謝り始めた。その様子を見つつ、一輝とステラは思う。
((かなり弱くして
こうして夕霧 一樹の初めての学園生活が幕を開けたのだった。