BBちゃんのFate/Zero   作:火影みみみ

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第1話

 とある屋敷の地下に存在する巨大な空間、蟲蔵と呼ばれその屋敷の住人にも忌み嫌われる場所に彼女はいた。紫色の服に身を包んだ歳は小学生ほどの、短く黒髪にリボンを付けたかわいらしい少女だ。

 幼い彼女の眼下に広がるは蟲。それも幾百、いや下手すると千にも到達しかねないほどの膨大な数の、矮小で劣悪な蟲どもだった。

 怯える彼女の背後に立つのは一人の老人。和服に身を包み、坊主頭で深いしわが刻まれたその顔は見る者を不快にさせるような嫌な笑みを浮かべている。

 その理由は単純だった。

 老人はこれから起こることを知っているから、この少女にこれから口にするのもおぞましい所業を行おうとしているのだから当然である。

 間桐臓硯とよばれる老人は、怯える少女の肩に手をかける。

 それは震える彼女を慰めるためのものではなく、むしろその逆そのままの意味で地獄へと突き落とすためのものだ。

 

 老人は乱暴に、彼女を突き落とす。

 

 彼女は抵抗しようとしたものの彼女の歳は小学生の低学年程度、いくら力がない老人相手とはいえあまりにも幼い過ぎた。

 悲鳴と共に彼女の体は重力に従って、老人の使い魔たる蟲たちの元へ落ちてゆく。

 後5秒もしないうちに彼女は蟲に飲み込まれ、未来永劫その記憶に今日これから起こる出来事を刻んだことだろう。体の隅々を凌辱しつくされ、いじくられ、改造されるのだから。

 

 彼女が蟲の群れに飲み込まれ成功を確信した老人はさらに深い笑みを浮かべた。それもそうだろう。彼から見た限りでは彼女はあることを除けば普通の少女、500年生きた彼を出し抜くことなどできるはずもなかったのだから。現に幾十幾百と同じくことを繰り返したとしても、彼女が助かることなど万に一つもない。

 

 

 

 そのはずだった。

 

 

「……?」

 

 最初に異変に気が付いたのはやはりというか、当然その老人だった。

 少女の悲鳴が聞こえない。余りにも静かすぎる。

 そして注目して視ること数秒、更なる異変を発見する。

 

「なんじゃ、あれは……」

 

 蟲の群れの中央、ちょうど少女が飲み込まれた所が淡く光り輝いているのだ。

 薄い青色の光が蟲たちの間から漏れて……、いや、先ほどまではそうだったが今はその蟲たちそのものが淡く光り輝いている。

 その異変は伝染する。中央から末端の蟲に、蟲蔵全ての蟲に伝播する。

 やがて全ての蟲が輝きを放つようになると、パシャリと水のような音を立てて溶けて弾けた。

 

「馬鹿な、ありえん」

 

 老人は目の前の出来事が信じられない、といったように目を見開いてそれを見ていた。

 それもそうだろう。こんなことが起こりうるはずはないのだから。

 蟲どもに命令を出そうとしても反応がない。それは蟲たちがもう存在していないことを意味していた。

 瞬く間に水へと変化し、全滅してしまった蟲たち。せめて母胎(さくら)だけでも確保しようと新たに蟲を呼び出そうとした時に、それは起こった。

 

 最初に響いたのは激しい水音だ。滝から落ちる水の音と聞き違うような激しい水音が蔵中に響き渡った。

 どうしてそんな音が聞こえたのかはすべてを見ていた老人には理解できていた。

 液体状になった蟲の残骸が、まるで台風のように渦を巻いて中央に収束し始めていたからだ。

 それはすぐに終わり、そこで初めて水以外のものが現れた。

 

 それを見て、老人は訝しげに目を細める。

 渦があった中心にいたのは、先ほど蟲に飲まれた少女だった。

 しかし、先ほどとはその風貌が変わっている。

 短かった髪は長く、黒かった髪は紫色に変わっていることもそうだが、何より目に付くのはその奇抜な恰好だ。

 上半身にコートのようなものを羽織ってはいるが、適正な大きさの胴体とは異なりあまりに長い袖のせいで両手ができってはいない。

 脚部にはか弱い少女の体に似合わず、固い鎧のような防具を纏い、その膝と足はまるで西洋の槍のように近づくものを鋭く突きさすような形状になっている。

 これらも奇抜なのだがそれより目を引くのは下半身、それも股間部だろう。

 

 彼女の胸から股間部までを覆う布、もしくは金属がほとんどないのだ。みっともない言い方をすれば大事な部分以外全部出していると言ったふうに。

 一応乙女の大事な部分は金属のようなモノで隠されてはいるが、それもあまりにも面積が少ない。普通の女の人ならこんなファッションは一部の特殊な場所でしかしないだろう。

 

 それを彼女は恥じることなく堂々としてその場に立っている。

 老人は我を忘れてそのことに驚愕していたが、すぐに思い直して彼女を観察する。

 彼女から漏れる人ならざる気配に見え覚えがあったのだ。

 

「まさか、あれはサーヴァントとだと言うのか」

 

 サーヴァント。それはとある儀式において召喚される歴史上の人物たちの総称だ。

 その力は現代の人間とは比較にならない程強力で、サーヴァントにただの人間が勝つことなど余程の偶然がない限りありえない。

 しかし、引っかかることがあった。

 まず、あの少女にはサーヴァントの主の証たる令呪が発現していなかったはずだ。蟲蔵に入れる前に入念に身体検査をしたのだから間違いがない。

 それにサーヴァントというものは実体を持ってこの世に顕現する。

 見たところあの少女以外に変化はなく、まるであの少女こそがサーヴァントだとでも言うように仁王立ちしている。

 だかそれはありえない。あれはただの人間だったはずだ。そう自らが考えたことを否定する。

 

 その一瞬が、老人にとって命とりだった。

 

「はじめましておじいさま、そしてさようなら」

 

 その声は、すぐ近くから聞こえてきた。

 瞬きをするくらいの一瞬の間に、少女は老人の目の前まで距離を縮めていた。

 少女が何をしたかと言えば簡単だ。ただ走っただけ。その走りが目にも止まらぬほど早さだっただけのことだ。

 

 彼女は膝に付けられた突起で、老人を突き刺す。

 老人は動くこともままならずに、胸の中央をその突起で貫かれる。

 しかし、その老人には恐怖の表情はない。なぜか? それは老人の体の秘密にあった。

 500年の長い時を生きる彼には人間としての体は既になく、老人の体は先ほど消えたのと同じ蟲でできていたのだ。本体とも呼べる蟲を殺されることがなければ、老人の体は何度でも別の蟲を代用して復活することができる。だからこそ、老人は余裕を保てた。

 

 今さっきまでは、の話だが。

 

「なんじゃと!?」

 

 体の、体中の蟲の制御が効かない。それどころか蟲が消えて、いや溶けていっている。

 ここに来て初めて老人の顔に恐怖の色が現れる。

 体を蟲にしてまで生き長らえた老人にとって死とはもっとも忌諱するものであった。

 ここで死ぬかもしれないという恐怖が老人を支配する。

 

「まあ、ここで殺しはしないわ。だってあなたは色々と使えるもの。桜のためにこの後の人生……蟲生?を使いなさい」

 

「貴様、い、たい……」

 

 もはや人間としての体を保つことができなくなった老人は服を残して文字通り崩れ落ちる。

 老人が最後に見たのは妖艶にほほ笑む、彼女の姿だった。

 

 

 

 

 

 




私の文章力はここで尽きた!
どうもクトゥグア信者です。
今まで別名でやってたのですがずいぶん前にエタッてしまいまして。
その間に新しい設定やらが出てきたり、考えがまとまらないうちに別のアイデアが出たりして、とりあえず別名で出すことにしました。

更新速度とかは未定です。
就職出来たら安定するかもしれません。

とりあえず何が言いたいかと言いますと、シリアスな文面はおそらくここだけになります、
あとはギャグやら一人称やらが多くなるので。
では、また会える日を願って。
また近いうちに。

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