お節介の桃源郷
「口開けなさいよ、馬鹿」
いや、馬鹿ってなんだよ、馬鹿って。と言うか鈴さん、この状況何?
場所は鈴の自室。そこで手作りのチャーハンを僕に食べさせようとしている。所謂、「はい、あーん」である。
「は、早く口開けなさいよ。は、恥ずかしいじゃない…」
じゃあ、やらなければいいのでは?
「あ、あんたが骨折して食べにくいだろうから、そ、その、食べさせてあげる、って言ってるんでしょ!」
でもね、鈴。折れてるのは左。僕右利き、つまり支障ない。オーケー?
「いいから、は、早く、食べなさいよ…馬鹿」
ここまで言われて食べないのも男じゃない、のかもしれない。何よりそれなりに顔のいい鈴にそんなこと言われて何も思わないわけじゃない。その、少し、ほんの少しだけ、ドキッとした。
「わ、わかったよ」
「そ、そう。…じゃあ、その…あーん」
「…あーん」
多分、ぎこちなさ世界トップクラスだよ。いや、知らないけど。
「…どう?」
緊張で味なんてわかんないよ、馬鹿。鈴の口癖移っちゃった。でも頬を上気させ、上目遣いで聞いてくるもんだから…。
「お、美味しいよ。―あれ?」
鼻血出ちゃいました。たまたまだからね!偶然だからね!
「な、な、な、なに鼻血出してんのよ、変態!」
鼻血=変態はいくらなんでも偏見でしょ!
「違うよ!これは別に鈴が可愛かったからとかそういうのではなく―」
あー、何言ってるんだろう、僕。
「……!!」
鈴は上気した頬をさらに赤く染め、黙り込んでしまう。
「「…………」」
当然僕も何も言えなくなってしまい、必然的に気まずい沈黙が漂う。
「あ、あのー、鈴?」
「ひっ」
なんで怯えてるのさ。というか、腕で体を覆うな。何もしないから、本当に!
「鈴、落ち着いて。何もしないから、大丈夫だから」
「…何もしないの?」
どういう意味だ、馬鹿。
「そんなこと言ってると襲っちゃうぞー。ガオー」
「…」
はい、滑りました。それも盛大に。
「…い、言ってくれれば、あたしは…その……別に」
あぁ、これは不味いね。主に僕の理性が。
「落ち着けー!」
そう言いながら僕は鈴の口にチャーハンを突っ込む。
「な、何…すんの…よ…」
「落ち着いた?」
「うっさいわよ、馬鹿!」
大口開けて叫ぶもんだから、まだ口に残っていたチャーハンのご飯粒が飛ぶ。すると必然的に真正面にいた僕の顔に――。
「あ、あ、あんた」
僕は特に気にすることもなく、それを食べたんだけど。どうも鈴的にはよくなかったらしい。
「な、何してんのよ、馬鹿」
関係ないけど馬鹿、って言いすぎじゃない?変なキャラ付けはお勧めしないよ?
「関節キスくらいで…。初心だよねー。鈴って」
「は、はあ!?だ、誰があんたなんかとの、か、か、関節キスくらいで」
「動揺し過ぎ」
お仕置き、とばかりに中腰になり頭を撫でる。
「鈴ちゃんはまだ子供ですからねー。よしよし」
「あんたねぇ~」
「じょ、冗談だって。ごめん、ごめん」
怒りが収まる様子は…ないな。
「僕怪我人だよ?鈴さん、落ち着いてください」
「問答無用!」
鈴はそう言いながら殴りかかってくる。でも僕は今、中腰だし、片腕。鈴の勢いに従ってそのまま倒れてしまう。倒れた先がベッドだったのは不幸中の幸いだね。…ん、ベッド?
「ええっと…」
「あ、あ、あ、あ」
ベッド、僕、鈴の構図。早く離れたいんだけど鈴が退かないと動けないんだよね。
「鈴、どいて」
「あ、あ、あ」
壊れたな、これ。そろそろ退いて欲しいんですけど。これ以上は怪我人的にも、男としても不味い。…主に後者。
「鈴、ちょっと触るけど勘弁してね」
「…や、やぁ」
動かすためだから!他意はないから!頼むからそんなエロい声出さないで。
「ココ、IS学園。鬼イル。落チ着ケ!」
何故か片言で自分を落ち着かせる。それにしても小柄な鈴とはいえ片手で動かすのはなかなかに大変だ。なので、仕方なく、本当に仕方なく腕を鈴の腰に回す。もう一度言う、仕方ないんだ。
「…んっ」
もう、わざとでしょ、ってくらいエロいんだけど。負けるな、僕。気を確かに。
「…光輝」
何でこのタイミングで目を閉じる!?さ、さすがにそろそろ限界だよ…。
「…鈴」
「こう…きっ」
二人の顔はみるみるうちに近づき、やがて一つに―――。
「起きろ、貧乳!」
「…ブチッ!」
この場を乗り切る策、それは禁句を口にすること。鈴には申し訳ないが仕方ない。もう一度言う、仕方なかったんだ。この後鈴にボコボコにされたのは言うまでもないね。途中、意気地なし、とか聞こえたのも気のせいだよ…きっと。
ちなみに、そのせいで怪我が一週間伸びたのは鈴には内緒の話。