転校生はブロンドの貴公子
「瀬戸光輝、完治した事をここに宣言します!」
「「「「おぉー」」」」
現在地は一年一組の教室内、もっと言えば僕の席の真上。そこで左腕に巻かれた包帯を勢いよく剥がし取り、左腕を天井に向け、掲げる。するとクラスから歓声が上がった。
「よかったな、光輝」
「おめでとうございますわ」
「片手では何かと不便だっただろう」
箒の言う通り不便だったなー。その度に鈴が手伝ってくれたんだけどね。あ、ちなみに鈴は二組にいるよ。なんたって、もうすぐSHRだからね。
「諸君、おはよう」
「「「「お、おはようございます」」」」
鬼教官の登場により、賑やかだった教室は軍隊のように空気が張り詰める。
いや、すごいな、毎回思うけど。
「貴様は何をしている?」
「えっと、完治宣言?」
無言の出席簿アタック。辛辣ですね。
「で、では、ええっと、あの、SHRを始めます」
なんか今日の山田先生はいつも以上に慌てている気がするな。
「今日はなんと、転校生を紹介します。…しかも二名です」
「「「「ええええええっ!?」」」」
いきなりの転校生の紹介に教室全体がざわつく。
「ていうか、何でうちのクラス…?普通分散させるもんじゃないのか?」
「一夏、普通じゃないんだよ、きっと」
その言葉を裏切ることなく、転校生は普通ではなかった。その証拠にあれほど騒がしかったざわめきがピタリと止まる。
そりゃそうだ。だってそのうちの一人が男だったんだから。
「シャルル・デュノアです。フランスから来ました。この国では不慣れなことも多いかと思いますが、みなさんよろしくお願いします」
僕を含め、クラス全員が呆気にとられる。
「お、男?」
「はい。こちらに僕と同じ境遇の方達がいると聞いて本国より転入を―」
「きゃ…」
あ、これ耳ふさがないとヤバいやつだ。
「きゃああああああ―――っ!」
「男子、三人目の男子!」
「しかも、守ってあげたくなる系の!」
「爽やか系、馬鹿系、可愛い系、三拍子そろったー」
一夏、馬鹿系だってさ、ドンマイ。
「光輝、お前、馬鹿系だったんだな」
え、僕なの?僕が馬鹿系なの?
「み、みなさんお静かに。まだ自己紹介が済んでませんからー!」
もう一人も個性強くない?銀髪、長髪、赤目、ロリ、そして何より黒眼帯!?……萌えだ!
「…挨拶をしろ、ラウラ」
「はい、教官」
「ここではそう呼ぶな。もう私は教官ではないし、ここではお前も一般生徒だ。織斑先生と呼べ」
「了解しました」
今の会話から察するに、千冬さんの教え子。しかもドイツ軍の。また大変そうだね、この子も。
「ラウラ・ボーデヴィッヒだ」
「「「「………」」」」
まあ、妥当な反応だよね。
「あ、あの、以上…ですか?」
「以上だ」
うわー、一夏より酷い挨拶。山田先生も可愛そうに。
「貴様が!」
え、僕?
バシンッ!
「え?」
いきなり殴られたよ、完璧な平手打ちでしたとも。
「私は認めない。貴様があの人の弟であることなど認めるものか」
弟?僕には兄弟どころか、親もいませんけど。…というか勘違いだよね。狙いは一夏ですよね、絶対。いや、僕も外国人の顔が一緒に見える時はあるけど、間違えるかね、普通。
そうこう考えている間に去って行ってしまった。
訂正できなかったー。これ、ややこしくなるやつ!千冬さん今笑ったでしょ、このドS!
「あー…ゴホンゴホン!ではHRを終わる。一限目は実習だな。各人遅れないように」
と、とりあえず、置いておこう。まずは移動、移動。
「織斑、瀬戸。デュノアの面倒をみてやれ」
おっと、そうだった。
「君が織斑君?初めまして僕は―」
「一夏!」
「お、おう」
「とりあえず男子は空いてる更衣室で着替え。これから実習の度にこの移動ね。早めに慣れてね。あ、僕、瀬戸光輝ね」
「俺は織斑一夏、よろしくな」
「よ、よろし―」
「一夏、シャルル、早く」
「わかった、行くぞ」
「え、ええ!?」
その後、僕たちは他クラスの包囲網により、織斑先生の主席簿アタックをくらうハメになった。解せぬ。
「では、本日から格闘及び射撃を含む実戦訓練を開始する」
二組と合同だから人数多いなー。ちなみにまだ頭痛いよ。出席簿で何故あんなに威力が出せるのか知りたいね。…やっぱ、いいや。
「ずいぶんゆっくりでしたわね」
「道が混んでいてね」
「光輝さんは女性の方との縁が多いようですから?そうでないと二月続けて女性からはたかれたりしませんわよね」
いや、鈴はノーカンでしょ。それに今回は人違いだよ。一方的な被害者と言ってもいいね。というか、セシリアの言葉に棘があるのは気のせいですか!
「なに?またなんかやったの?」
「お、鈴いたのか」
またとは何だ。失礼なやつだな。僕がいつ、問題を起こしたって言うんだよ。
「…」
痛い、痛い、黙って蹴るな。せめてなんか言えよ。
「こちらの光輝さん、今日来た転校生の女子にはたかれましたの」
「はあ!?あんたはなんでいつも馬鹿なの!?」
だから人違いだって。馬鹿は一夏!
「今日は実戦をしてもらおう。ちょうど活力が溢れんばかりの十代女子もいることだしな。凰、オルコット、前に出ろ」
ほら、ご使命だぞ。バーカ、バーカ。
「どうしてわたくしが…」
「光輝のせい、光輝のせい」
ブツブツ言いながらも前に出る二人。僕を殴ることも忘れないあたりは、さすが代表候補生、と言ったところか。
「お前ら少しはやる気を出せ。―――。」
千冬さん、なんて言ったんだ?二人のやる気が最高潮に…。
「それで相手はどちらに?わたくしは鈴さんとの勝負でも構いませんが」
「こっちのセリフ。返り討ちよ」
「慌てるな、馬鹿ども。相手は―」
キィィィン…。
この音は?
「ど、どいてくださいー」
「シャルル、一夏の能力について説明しよう」
「え?」
ドカーン!
どうやったのか知らないけど山田先生の上に覆いかぶさる一夏。この後の展開はテンプレだね。
「こ、光輝、一夏の能力って?」
「一夏の能力、それは―。ラッキースケベ体質だ!」
「え?」
え?むしろ何で、「え?」なの?今、目の前で起こってるじゃん。狙撃するセシリア、双天牙月を投げる鈴、それを弾丸で逸らす山田先生。…山田先生!?
「山田先生はああ見えて元代表候補生だからな。今くらいの射撃は造作もない」
「む、昔のことですよ。それに候補生止まりでしたし…」
「さっさと始めるぞ」
「え?あの、二対一で?」
「さすがにそれは…」
「安心しろ。今のお前たちならすぐ負ける」
「「…っ!!」」
あらら、プライドのお高い二人にあんなこと言ったら…。
「手加減しませんわ」
「さっきは本気じゃなかったしね」
「い、行きます」
なんという小物発言。…二人が上空に飛行してなかったら、殺されてたかも、割とマジで。
「ちょうどいい。デュノア、山田先生が使っているISの解説をしてみせろ」
「は、はい!」
シャルルも大変だねー。
試合はシャルルが解説を終えると同時に終了した。結果はもちろん山田先生の圧勝。
「これで諸君にも教員の実力は理解できただろう。以後は敬意を持って接するように」
ぱんぱんと手をたたいて意識を切り替える。
「専用機持ちは織斑、瀬戸、オルコット、デュノア、ボーデヴィッヒ、凰だな。六グループに分かれて実習を行う。各グループリーダーは専用機持ちがやること。いいな?」
千冬さんが言い終わるや否や、一夏とシャルルの元へ女子が詰め寄ってくる。
そんなの想定内さ。でも意外だったのが…。
「瀬戸君、一緒にがんばろう」
「とりあえず、瀬戸君よね」
「確かに、安パイよね」
褒められてるのかよく分かんないんだけど…。というよりも僕のとこにも人が来るとはね。予想外だったよ。
「出席番号順に並べ、馬鹿ども。次はないぞ」
蜘蛛の子を散らすがごとく、ってやつか。すごいね、千冬さん。怒られるのも嫌だし、さっそくやりますか。
「やあ!」
「お、うまいね。ちゃんと狙いもつけられてるし」
そう言って僕はトライデントで弾丸を防ぐ。アイギスを使わないのかって?さすがに手加減位するよ。
「瀬戸君って思っていた以上に強い!?」
まあ、専用機持ちの中では最弱だろうけどね。それはあくまで専用機持ちの中では、の話。
「はい、終わり」
トライデントを相川さんの喉元に突き付け、終わりを宣言する。
「ああー、負けちゃったー」
「いやいや、相川さんもなかなか強かったよ」
直後、ISの転倒音が響き渡る。反射的に音の発信源に目を向ける。そこには訓練機に乗る女の子が倒れており、その横にはラウラの駆る《シュバルツェア・レーゲン》が立っていた。
「やりすぎだぞ!」
げっ、一夏のやつ…。
「邪魔するなら容赦しないぞ」
「なんだと!」
「は~い、そこまで。戻りな、戻りな」
「でもよ!」
「言いたいことは分かるけどね、グループの子が困ってるよ?」
「うっ、でも」
「僕らのとこは終わってるからここは任せてもらうよ」
「…分かった。頼む」
「おっけー」
ちゃんと戻ったみたいだね。
「織斑一夏、何のつもりだ?」
「いや、遅れてるみたいだから手伝いにね」
気に入りません、って顔してるね。というかまだ一夏と勘違いしていたのか。別にここで誤解を解いてもいいんだけど、それだと矛先が一夏に移るだけで、何も解決しない。
「まあ、いい。織斑一夏、私と戦え!」
う~ん、とりあえず、様子を見るか。
「どうしよっかな~。じゃんけん三回勝負とかにする?あ、五回じゃなくて三回ね!」
さ、殺気!?茶化すと殺されそう…。
「じゃあ、二対一ね?」
「…なに?」
「アシストは任せて!」
「え?私?」
倒れていた女の子の手を引き、立ち上がらせる。
「行くよ?」
「う、うん」
気に入らない、とばかりに舌打ちをする。僕は構わずおそらく二組の女の子と共にラウラへと向かった。
「貴様、ふざけているのか?」
「まさか」
飛来する《ワイヤーブレード》を僕が弾く。するとラウラは《プラズマブレード》を展開する。どうやら初心者には本気を出さないらしい。
「ちっ」
二組の子を狙ったワイヤーブレードを僕が防ぎ、その間に二組の子が刀を振り下ろす。
「いい感じだよ。もっと踏み込むスピードを速めれば当たったんじゃないかな」
「ありがとう」
ある程度動いたところでアドバイスをし、交代させる。
「じゃあ、次行こうか」
そうしてなんとか実習を終えた、僕だった。