光り輝くその瀬戸際に   作:いろすけ

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掴めぬ群青、見えざる黒幕

 僕は今、生徒会室の前にいる。何故かと言うと、シャルルの件を相談しようと思ってね。なんせここの生徒会長は暗部組織、更識家当主。つまりは裏工作のスペシャリスト、ってとこだね。まったく、とんでもない学園だよ。

 

「失礼します」

 

 僕は生徒会室と書かれた扉を開く。

 

「あれ~?こっきーだ~」

「あ、間違えました」

 

 すぐさま扉を閉める。

 あれー?生徒会室って書いてあるのになぁー?一応もう一回。

 

「こっきー、どうしたの~?」

「のほほんさんも生徒会に何か用なの?」

「こっきーは面白いこと言うね~。私、書記なんだよ~」

 

 あなたの方がよっぽど面白いよ。そのダボダボの袖でどうやって書くのさ?

 

「本音!あなた、またサボって―」

「あ、どうも」

 

 今度はいかにもな感じの人が出て来たよ。絶対頭いいと思う、この人。

 

「君は…瀬戸光輝君ですね?」

「は、はい、そうです」

「私は〝布仏虚〟生徒会会計を担当しています。三年なので困ったことがあれば聞いてください。」

 

 いやー、これはご丁寧にどうも。…布仏、って聞いたことある気がする。

 

「本音の姉です」

「本音?」

 

 そう言いながら虚さんはのほほんさんの肩に手を置く。

 

「え?のほほんさんのお姉さん!?」

「そうだよ~」

 

 ええー!…というか、のほほんさんの本名って〝布仏本音〟だったんだ。

 

「こっきーが変な顔してる~」

「変とは失敬な。ダンディーな紳士顔と言ってくれたまえ」

「面白いね~、こっきーは」

 

 ぐっ、ナチュラルに傷つく…。

 

「ところで、今日はどうなさったのですか?」

 

 なんか年上の人に敬語を使われると萎縮しちゃうよね。のほほんさんの姉だなんて信じられないよ。

 

「実は生徒会長に用があって来たんですけど…」

「ああ、会長なら――」

「あは、こーきくんから会いに来てくれるなんて、お姉さん嬉しいわ」

「ひゃ、ひゃいっ!」

 

 この人は普通に登場できないんだろうか?今も僕の耳に息がかかるほど接近して―。

 

「なにしてるんですかー!?」

「こーきくんはリアクションが大きいから好きよ」

 

 そう言いながら〈油断大敵〉と書かれた扇子を広げる。

 

「で、楯無お姉さんにいったい何の用かしら?」

 

 いや、みんながいるところでは言いにくい内容なんですよね…。

 

「ちなみにお姉さんのスリーサイズは上から――」

「聞いてませんから!そんなこと」

「あら、残念。こーきくんはお姉さんの体に興味は無いということね」

「きょ、興味はありますけど…。じゃなくて!」

「うふふ、分かっているわよ」

 

 口元に扇子を寄せ、上品に笑う楯無さん。そこには〈恋愛相談〉と書かれていた。

 いや、違いますよ。それに、いつ入れ替えたんですか!?

 

「ちょっと楯無さんにお話ししたいことがあるんです」

「あら、もしかしてお姉さんに告白!?困っちゃうわぁー」

 

 突っ込まないぞ、何があってもペースに乗ってたまるか…。そんな僕の気持ちを察してくれたのか、布仏姉妹に席を外すよう頼んでくれている。…この人、いい人なのかも。

 

「というわけで、こーきくんからの告白があるそうなので二人とも席外してくれる?」

 

 前言撤回。面白がってるだけだ、この人。

 

「では、そうさせていただきます。用が済みましたら連絡をください、お嬢様」

「こっきー、ふぁいと~」

 

 のほほんさんには後で釘刺しておくか。

 

「それで、何かしら?」

「実はですね…」

 

 いざ口に出そうとすると気が引けるね。情けないぞ、瀬戸光輝よ!

 

「デュノアちゃんのことかしら?」

「………っ!!」

 

 僕が躊躇っていたことをサラッと言っちゃったよ。というか今デュノアちゃん、って。

 

「彼女がスパイとしてIS学園に編入してきたことは知っているわ。そして狙いが君達だということもね」

「そ、そうなんですか」

 

 僕が思っていた以上に進展していたようだね。説明する手間が省けてよかったよ。

 

「それで今週中にも退学してもらって、本国に帰ってもらうわ。公表するかは向こうの出方次第ね」

 

 待て、待て、進展しすぎだよ。退学、って冗談じゃない!

 

「ちょっと待ってください。シャルルは悪くないです!」

「どうして?彼女は男装してIS学園に来た。この時点で罪の意識がないはずないわ」

 

 そうだけど違う。この件はそんなに単純じゃない。

 

「楯無さん、少し考えてみてください。この件にはいくつか矛盾点があります」

「…デュノア社の意思ってとこかしら?」

 

 さすがだ。正直、驚いたよ。まさかここまで感づいているなんて。

 

「そうです…」

「明らかにばれる男装。目的の不明確さ。仮に君達のISデータを盗めてもそこから男性用ISなんて作れないでしょうに」

 

 頭を抱えながら話す楯無さん。僕はその続きの言葉を紡ぐ。

 

「IS学園にスパイを送り込むには随分拙い作戦ですよ。デメリットの方が大きい」

 

 それにシャルルは広告塔だと確かに言った。でも三人目の男性操縦者なんて聞いたことすらなかった。僕らと違って報道は一切されてないしね。それでは広告にはなりはしない。まあ、それ以前にシャルルがそんなことにも気づけない環境にいた事実の方が僕には重要だけど。

 

「では、裏に何かあると?」

「はい。IS云々はおいといて、シャルルをここに送り込むことが目的だとしたら?」

「どういう意味かしら?」

「デュノア社は経営不振らしいですね」

「…ええ」

 

 ここでも驚かないあたり、この人は本当に裏の事情に詳しいのだろう。

 

「反社長勢力も大きくなっているでしょうね」

「ええ、そうね」

 

 やっぱり。推測だったけど楯無さんの反応でそうだと確信したよ。

 

「シャルルを反社長勢力から守るため、ってことです」

「…考えられない話じゃないけど」

「IS学園、特記事項二一。デュノア社長も僕と同じこと考えたんでしょう。…皮肉なものですけどね」

「それは、デュノアちゃんから聞いたの?」

「いいえ、僕の推測に過ぎませんよ」

「推測って、あなたね!」

 

 まあ、そう言われることは予想してましたよ。

 

「僕には親子なんてわかりませんけどね。なんとなく気になったんですよ」

「…?」

「スパイに愛人との子、なんて弱みの塊みたいな奴、送り込みますかね?」

「…まあ、確かにただIS適正が高いだけではリスクが釣り合わないわね」

「そう。関係の薄い人間なら他人のせいにもできるでしょう。でも、シャルルを選んだ。ばれたら経営不振どころじゃないのに」

「でも、仮にデュノアちゃんが嘘をついているとしたら?」

 

 楯無さんは試すかのように扇子で口元を隠し、僕に問う。そこには〈疑心暗鬼〉と書かれている。本当に喰えない人だ。

 

「それはありえませんよ」

「何故?」

「だって…」

 

 この人には嘘では敵わない。だから正直な気持ちを伝えよう。

 

「シャルルが泣いていたんです」

「…それだけ?」

「はい」

「…涙は女の武器よ?」

 

 そうかもしれない。でも僕は――。

 

「嘘だと疑うくらいなら、騙されてみますよ。もしも本当だったら、もったいないじゃないですか」

 

 楯無さんは呆れたような、感心したような笑みを浮かべた。

 

「光輝君って、噂通りの人なのね」

 

 一体どんな噂なのか問いただしたいところですね。

 

「分かったわよ。お姉さんの負け。お望み通りお姉さんを好きにしていいわよ?」

「…お望み通り、って引っかかりますね」

「あら?ご不満?」

 

 そういう問題じゃなくて!はあ、やっぱり勝てないわ、この人には…。

 

「で、本当のお望みは?」

「あ、はい。シャルルの退学取り消しとあとは――」

「お姉さんの初めて?」

 

 話の腰を折らないでもらえますか!

 

「無言の肯定かしら?」

「それはとても魅力的ですが、今回は遠慮しときます」

「残念」

 

 広げた扇子には〈残念無念〉と……もういいわ!

 

「…はぁ、シャルルの今後の処置についてですよ」

 

 

 

 

 

 

「ということがありました」

 

 楯無は学園長室に来ていた。窓の外は暗く、夜のとばりが辺りを包んでいる。

 

「なるほど、面白いですね、彼は」

 

 楯無の報告を聞いてそう呟いたのは、この学園の裏の学園長、〝轡木十蔵〟表向きの学園長はこの初老の男性の妻である。

 

「更識君には苦労をかけますね」

「いえ、それより十蔵さん」

「はい」

「デュノア社についてはいかがいたしますか?彼の言ったことはまず間違いなく、当たっています。更識の情報網でも同じことを掴んでいますので」

「何もする必要はありませんよ」

「どうしてですか?」

「…彼に任せてみるのも面白そうじゃないですか」

 

 学園長の言葉に楯無は呆れるしかなかった。

 

 

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