光り輝くその瀬戸際に   作:いろすけ

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こくはく、こはく

「あぁー、疲れた」

 

 ようやく事情聴取から解放されたよ。ラウラの一件は何とか解決だね。

 結果だけ言うとラウラも僕も無事だった。事故の原因はシュバルツェア・レーゲンに搭載されたVTシステムによるものらしい。

 VTシステム――ヴァルキリー・トレース・システム。読んで字のごとく、ヴァルキリーを模倣するシステム。

 つまりはブリュンヒルデ、千冬さんのコピーらしいけどね。一夏とシャルルによって事なきを得たんだけど。VTシステムを搭載させたドイツのお偉いさんは涙目だって。…自業自得だね。

 

「怪我人はいないし、良しとしますか…」

 

 過ぎたことを愚痴っても仕方ないしね。切り替え大切!

 

「そう言えば今日って…」

 

 確か、男子が大浴場を使える日なのでは!?今までシャワーだったから一刻も早く入りたいよ。

 

「でも、時間遅いしなぁー」

 

 僕はシュバルツェア・レーゲンに飲み込まれたこともあり、身体検査をしていたせいで遅くなってしまった。その時、ラウラに謝られたんだけど、さすがに焦ったよ。だってあのラウラがだよ!

 

「今日は疲れたから入る!文句があるやつは出て来い!」

 

 …………。

 誰も出てこないのは、それはそれで寂しい。いいよ、一夏も入り終わっただろうし、貸し切りだね。…寂しくなんかないよ、寂しくなんかね。

 

「善は急げ!」

 

 意気揚々とお風呂に向かったのだった。…寂しくないし。

 

 

 

 

 

 

「うひょ~」

 

 いやー、貸し切り最高。マジ最高。日々の疲れが吹き飛んでいくね。

 

「日本人最高!」

 

 なんて馬鹿なことを叫んでいると大浴場の扉が開く音が聞こえる。

 ん?一夏かな?まあ、それ以外いないか。

 

「ババンバ、バンバンバン~♪」

「光輝、なんかご機嫌だね」

「いや~、お風呂に入るとつい、ね…」

「変なの」

 

 シャルルは僕の歌が気に入ったのか口ずさんでいる。

 これも日本の文化だからね。フランス人のシャルルに分かってもらえて…シャルル!?

 

「シャルル、ど、どうしたの!?」

「こ、こっち見ないで!」

「ご、ごめん」

 

 振り返ろうとした体を強引に戻す。

 

「いや、え?ど、どうかしたの?」

「え、あの…僕も入りたいなって」

「じゃあ、僕上がるよ。もう十分堪能したからね」

 

 一刻も早くこの場から立ち去ろうとするが、シャルルに腕を掴まれる。…ちなみに後ろから掴まれているのでシャルルは見えない。べ、別に見たいわけじゃ…ないよ?

 

「待って、光輝。話があるの」

 

 話なら部屋でもよくないですか?

 

「…すごく……すっごく、大事な話なの」

 

 そう言われると聞くしかないよね。仕方ないからその場に座る。

 

「…ありがとう」

「えっ?」

「織斑先生から聞いたよ」

 

 あぁ、その話か。

 

「いいよ。僕が勝手にしたことだし。むしろ迷惑じゃなかった?」

「うんうん。嬉しかった」

 

 …そっか、ならよかったよ。

 

「僕ね、本当に、本当に…嬉しかったんだよ」

 

 直接見えないけど、きっとシャルルは顔をぐちゃぐちゃにして泣いているんだろう。

 

「こんなにも…優しくしてくれたの…光輝だけだったんだから」

 

 シャルルの言葉に嗚咽が混じりだす。

 

「光輝には、返しきれない恩ができちゃったなぁ」

「別にそんなつもりじゃ」

「うん、知ってるよ。光輝だもんね」

 

 泣きながら笑うシャルルはとても綺麗なのだろう。

 

「…光輝」

「なに?」

「シャルロット、そう呼んで。二人だけの時でいいから…」

「それは…本当の?」

「そう、僕の本当の名前」

 

 シャ、シャル…ロト?ギリギリセーフか。いや、せっかく本名を教えてくれたんだから覚えなくちゃ。

 

「クスッ、お馬鹿な光輝にはちょっと難しかったかな?」

 

 ううっ、早速見破られてるし…。

 

「ボーデヴィッヒさんも言えてなかったし、セシリアの名前も覚えられなかったんでしょ?」

 

 な、何故そのことを!?

 

「セシリアが嬉しそうに話してくれたよ」

 

 おのれ、セシリア!…いや、完全に悪いのは僕ですけどね。

 

「じゃあ、光輝が呼びやすいように呼んで」

 

 それは…あだ名をつけろ、ということですか。

 

「えっと、じゃあ、シャルなんてどう?」

「シャル、シャルかぁ。うん、いいよ。ありがとう」

 

 そんなに喜んでもらえるなんて逆に申し訳ないよ。

 

「改めて、ありがとう。光輝」

 

 いったい何回目だろうか。シャルはそう言いながら近づいてくる。

 

「え、シャ、シャル!?」

「動いちゃダメ!」

 

 僕を後ろから抱きしめ、振り向けなくするシャル。

 ちょ、シャルさん!当たってますよ。直で、直で!

 

「…光輝のえっち」

 

 全力で無実を主張します。

 

「もう少し…もう少しだけ、このままでも……いい?」

 

 今にも消えそうな声で問うシャルを振り払うことはできなかった。

 

「シャル…」

 

 ちょっと逆上せて来たかも。

 

「ここに来てよかった。最初は正直嫌だったけど、今は違う。私、光輝に会えてよかった」

 

 一人称が変わっていたのはシャルロットという女の子の心の底からの気持ちなのかもしれない。

 

「そっか、少しでも力になれたのなら嬉しいよ」

「謙遜しすぎだよ。光輝はね、自分が思っている以上に素敵な人だよ」

 

 そうなのかな。僕には到底そうは思えない。けどシャルがそう言ってくれるなら、僕は自分を信じることができる気がする。

 

「お礼を言うのは僕の方かもしれないね」

「え?」

「一つ聞いていい?」

「うん」

 

 今更な質問だけど、ここで聞くのは反則かもしれないけど、聞いておかなければいけない。そんな気がした。

 

「僕はシャルを助けられたのかな?」

「うん、もちろんだよ」

 

 そっか、そうなんだ。僕は間違ってなかったんだ。そう思うと途端に涙が溢れてきた。

 

「光輝?」

 

 僕はシャルに悟られないため、湯に顔をつける。そんな僕をシャルは子供をあやす様に撫でてくれた。

 なんで僕の思考はバレるのかな。本当にさ…。

 

「僕ね」

 

 抱きしめた状態からシャルは僕の耳元に顔を近づける。

 

「光輝のこと………好きになっちゃったかも」

 

 浴場に響いた呟きはとても心地よく僕の耳に届いた。

 

「…責任取ってよ」

 

 シャルの最後の呟きは僕には届かなかった。

 

「え、光輝?だ、大丈夫!?」

 

 あー、逆上せたみたい。

 シャルの叫び声を最後に僕は意識を失った。

 

 

 

 

 

 

「はーい、皆さん席についてください。SHRを始めますよー」

 

 山田先生の掛け声で一斉に席に着く。

 

「…え、えーっと、今日はなんと転校生を紹介します。…すでに紹介は済んでいるのですが」

 

 突然の報告にクラスは騒めく。そりゃそうだよ。僕だって知らなかったらそうなったと思うよ。

 喧騒の中、教室に入ってきたのは――

 シャルだった。

 

「シャルロット・デュノアです。皆さん、改めてよろしくお願いします」

 

 クラス全員ポカンだよ。一夏でさえ驚いてる。面白いね、これ。

 

「デュノアは男性操縦者の護衛のため、今まで男装してもらっていた。だが外部への催しである学年別トーナメントが終わった今、晴れて任務から解放された。というわけだ」

 

 すかさず千冬さんがフォローに入る。

 うん、我ながら良い言い訳だね。実際、皆納得してるし。

 

「今まで騙すようなことして申し訳ありません。皆さんさえよろしければ、クラスメイトとしてよろしくお願いします」

 

 ここまで丁寧に頭を下げられれば許さない方がおかしいよ。第一みんなは「任務なんてすごい」くらいの認識だろう。こういう時にお祭り好きの空気は助かる。

 

「おかしいと思った。美少年じゃなくて美少女だったのね」

「でゅっちーはでゅっちーだよ~」

「私は女の子でも構わない」

 

 うん、ちょっとおかしなのもいるけど、基本的にはいいクラスだ。

 こうしてシャルル改め、シャルロットは一年一組に迎え入れられたのだった。だがしかし、このまま終わるほどIS学園は甘くない!…ってね。

 

「織斑一夏!」

 

 突然のラウラの乱入に一同は驚きを隠せない。また喧嘩が起こるだろう、と誰もが思った。

 

「き、貴様を…」

 

 ラウラは一夏の元へ一直線に進んで行き。…って、逃げろ、一夏!

 

「貴様を私の嫁にする!異論は認めん。決定事項だ!」

 

 そう言うなりキスするからクラスメイトの悲鳴がこだました。今日も平和で何よりだよ。

 

「ようこそシャル。IS学園に」

「え、う、うん、ありがとう。なんでそんなに落ち着いてるの!?」

 

 何言ってるのさ。これがここの日常だよ。

 

「よろしく、シャルロット」

 

 僕の呟きは周りの喧騒にかき消され、シャルには届かなかった。

 

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