ちょっと大人なビターオレンジ
SIDE ~シャルロット~
「どうしてこうなった…」
「そんなこと言っちゃダメだよ。色々頑張ってくれたんでしょ?生徒会長」
「…まあ、そうだけどね」
僕たちは楯無さんに借りを返すため、ここにいる。ここがどこかというと、雑誌「インフィニット・ストライプス」の控え室。詳しく説明すると長くなるんだけど――
『光輝君、モデルやらない?』
『やりません』
『そんなこと言わずにさー』
『拒否します』
『シャルロットちゃん元気?』
『やらせていただきます』
――と言った具合らしい。光輝は人が良すぎるよ。…まあ、僕の為なんだろうけどさ。
「こんな機会そうないからなぁー」
なんだかんだ楽しみにしてるのかな。
「楽しまなきゃもったいない気がしてきた」
ふふっ、ちょっと可愛い。
ど、ど、どうしよう。モデルなんてやったことないよぉ~。…光輝はあるのかな?と、というか光輝と一緒に撮るんだよね?どうしよぉ~。
さっきのまでの余裕はどこへやら。一気に緊張と不安が押し寄せて来た。
「シャル?」
「え?な、何?」
「いや、なんかボーっとしてたから。調子悪い?」
「だ、大丈夫。全く問題ないよ?」
もう、光輝は優しいなぁ~。
「シャルもこういうのは初めて?」
「うん」
「へぇー、そうなんだ」
光輝は予想外という反応をしている。どうしてだろう。きっと、そんな考えが顔に出ていたのかな?光輝は答えてくれた。
「いや、シャルって可愛いからそういう感じのことできそうだと思ってさ。ほら、セシリアもしてるらしいし」
え、ええぇー!!い、今、可愛いって…。こ、光輝が、か、可愛いって…。
「でもすごいよね、セシリア。まあ、あそこまで美人だと当然か」
「………」
「シャ、シャル…さん?」
…光輝の馬鹿。
「じゃあ、二人とも衣装に着替えてくれるー?」
突然入って来た副編集長さんによって会話が中断される。ノックくらいしてくださいよ。
「噂の男性IS操縦者とその彼女、いい記事になりそうね」
か、彼女!?
「出鱈目書かないで下さいよ」
………。
「あら?瀬戸君はデュノアちゃんではご不満と?」
「い、いや、そういうわけじゃないですけど…」
「なら、いいじゃない?」
僕は光輝の言葉に耳まで真っ赤になる。
「じゃあ、更衣室で着替えたらスタジオまで来て頂戴」
光輝に真っ赤なのを気づかれないよう、小走りで更衣室に向かった。
「うん、とっても似合っているわよ」
僕は慣れない薄いオレンジのドレスに身を包んでいた。
こ、こんな恰好したことないから恥ずかしいよぉ~。光輝、遅いな。似合ってない、って言われたらヤダな…。
「そこいらのモデルよりよっぽど可愛いから安心しなさい。うちの専属になって欲しいくらいだわ」
「…ほ、本当ですか?」
少し大人っぽすぎないかな。背中とか…その、結構開いてるし。
「これなら彼もメロメロね」
副編集長さんの言葉に再び真っ赤になる。
「お、彼も来たようね」
え、ちょ、ちょっと、まだ心の準備が――
「ごめん、シャル。待たせちゃった?」
見惚れちゃったよ。だって、だって、とっても―
「かっこいい…」
「そ、そうかな?」
声に出しちゃったよ。何してるのさ、僕。で、でもスーツ姿の光輝はいつも以上にかっこよくて、照れて顔を真っ赤にしているもの可愛くて。…本当にずるいよ、光輝は。
「シャルも、その……か、可愛いよ」
なんて言ってくるもんだから僕はこれ以上ないくらい真っ赤になり、俯くことしかできなくなる。
「はいはい、イチャイチャするのは終わってからにしてね」
これ以上ないって言ったのにまた赤くなっちゃったよ。…光輝のせいだからね?
「もうちょっと寄って」
「こ、こうですか?」
「もっと、もっと」
「…これでいいですか?」
「もっと!思い切ってくっついて!」
うわぁ~、近い、近いよぉ~。すぐ隣に光輝がいて、息遣いまで聞こえてくるよ。…ぼ、僕のも聞こえてるのかな?大丈夫かな?変じゃないかな?
「瀬戸君、デュノアちゃんの腰に手を回しましょうか」
「え、ええ!?」
「…シャル、いい?」
「え、あ…うん」
光輝の手が僕の腰に回る。ううっ、ドキドキで死んじゃいそうだよ。
「はい、お疲れ様。おかげでいい絵が撮れたわ」
あとちょっとでもくっついてたら、死んじゃってたかも。
「はい、今日のお礼。二人で行ってきなさい」
そう言っていかにも高級そうなディナー券を渡してきた。
「いや、こんなの悪いです」
「そうですよ、受け取れません」
「人様の厚意は受け取るものよ。それにこれは今日のお駄賃だと思いなさい」
「いや、ですが」
なおも光輝は遠慮するが副編集長さんの厚意を受け取らないのも悪い気がする。
「それとも瀬戸君はデュノアちゃんと行きたくないのかしら?」
「…わ、分かりましたよ。ありがたく頂きます」
「最初から素直にそうしなさい」
さすがの光輝もこれには折れたみたいだね。ちょっと嬉しいかも。それに光輝と二人で行くんだよね?当たり前だけど。
「ではでは、健全なる夜を過ごすのよ?」
も、もうー。なんでそういうこと言うのかな、この人は。
「当店のスペシャル・ディナーにようこそお越しくださいました」
ウェイターの丁寧なお辞儀に光輝はつられて頭を下げる。
クスッ、可愛いなぁ、光輝は。
「基本的にコースメニューで順にお料理を出させていただきます。お客様は未成年なのでアルコール類は出せません。代わりにミネラルウォーターを提供させていただきます」
光輝は緊張しているようで頻りに頷いている。それから暫く説明が続いて、やっと解放された僕たちは自然と息を吐いた。
「なんか、場違いじゃない、僕ら?」
「あはは、そ、そうだね」
でも本当に僕たちが来てよかったのかな?絶対お店の雰囲気にも合ってないし。
「でもシャルは、なんというか、その…似合ってるよね」
「え!?そんなことないよ」
「高貴というか、上品というか。とにかく、あれだよ。………いつもより大人っぽくてビックリしてる」
う、うわぁ、ダメだよ。そんなこと言っちゃ。
「いつもが可愛いなら、今日は綺麗だね」
な、なんでそういうことが平気で言えるのさ。
順番に運ばれてくる料理の味は分からなかった。光輝が変なこと言うからだよ!
「しかし、さすが一流だね。どの料理も美味しい」
「そ、そうだね」
いつも通りだね、光輝は。この前のこと、覚えているのかな。
この前、それは大浴場でのことである。そこでシャルロットはハッキリと告白した。問題は光輝がそれをどこまで聞いていたのか、ということだ。
もし、聞こえてなかったら、もう一回ちゃんと伝えるべきだよね。聞こえていたのなら…フられた、ってことなのかな?
「ん?」
どうかした?という笑顔に僕はますます分からなくなる。
馬鹿。卑怯だよ、光輝は。
「シャル、僕なんかしたかな?」
「え?」
「今日ずっと元気ないよね?…その、楽しくなかった?」
「ち、違うよ。そんなことない!」
「そう、ならいいけど。悩みなら言ってね。たいして力にはなれないだろうけどさ」
僕のせいだ。僕のせいで光輝に嫌な思いさせちゃった。
「楽しいよ。光輝といて、とっても楽しい。だから気にしないで」
「シャルは本当に優しいよね」
そう言って笑う光輝はどこか寂しそうだった。
迷っても、仕方ないよね。答えてもらえないなら僕は何回でも伝えるだけ。
「こ、光輝!」
「どうしたの!?」
僕は少ない勇気を振り絞る。そしてもう一度、伝えるね。
景気づけにミネラルウォーターを飲み干す。
「あ、あのね、僕」
緊張のせいかな。暑いし、ボーっとする。
「光輝のことがね」
あれ?光輝がいっぱいいる。…どうしてぇー?
「だ、大丈夫、シャル!?」
あ、光輝の声が聞こえるぅー。ふふっ、楽しいなぁー。
「シャル、それもしかしてお酒!?」
「ふにゃ………。ふにゃ………」
「酔ってるの?」
…酔ってないってばぁー、光輝のバーカ。
「お客様、どうされましたか?」
なんだろ。光輝とウェイターさんがお話してるぅー。
しばらく、話していたと思ったらウェイターさんは光輝に頭を下げていた。
「シャル、立てる?」
「たてにゃい」
「僕の肩、持っていいからさ」
「やだぁー」
「困ったな。シャルってお酒弱いんだね」
「おしゃけー?」
「とにかく帰ろう?周りの視線がつらいよ、結構」
「…じゃあ、おんぶ」
「お、おんぶ!?」
「おんぶしてぇー、おねがい」
「え、わ、分かったよ…」
光輝は周りからの痛い視線を浴びながら店を後にしたのだった。
「こうき、しゅきぃー」
「…知ってるよ、バーカ」