気持ち華やぐ薄桜
照りつける日差し、賑わう街中。そして隣には美女。男冥利に尽きるね。
「どうかしたの?」
そう言って首をかしげるシャル。ネックレスのリヴァイヴが日光を反射して輝く。
「いや、いつも制服だからさ、私服は新鮮で」
「に、似合ってるかな?」
その質問は反則だよ。
「うん、似合ってる」
「そ、そうかな、えへへ…」
緩み切った表情だねー。まあ、可愛いけどさ。
「今日は水着買いに来たんだよね?」
「そうだよ。…光輝が選んでね」
近々行われる臨海学校に向けての準備らしいんだけど、女子って大変だよねー。男子なんて選ぶほど水着の種類なんて無いんだから。
「別にかまわないけど、水着のことなんて分からないよ?」
「いいの。光輝がいいと思ったのを選んでくれれば」
そうか、男子の意見を聞きたいのか!
「一夏と僕だけしかいないから、気にする必要もないと思うけど」
「…光輝のバーカ」
あれ?シャルが拗ねた?
「何か変なこと言った?」
「ふん…」
顔を逸らして、頬を膨らませるシャル。う~ん、気に障るようなこと言ったかな?いつまでもそんな顔してると頬っぺたプニプニするぞ。
「シャルさーん」
プニ、プニプニ。
や、柔らかい…。
「こ、光輝!何してるのさ!」
「シャルがふくれっ面してたから」
「ば、馬鹿。光輝のバーカ」
もっと拗ねちゃった。シャルは機嫌を損ねると長引くタイプだからなぁー。早いとこフォローしないとね。
「ごめん、ごめん。お詫びと言っちゃ、なんだけどちょっと待ってて」
「え?光輝!?」
僕はお詫びの品を手に入れるため、シャルを置いて立ち去った。…決して逃げたわけじゃないよ!お詫びのためだからね!
「君、可愛いね。遊び行かない?」
「…結構です」
古典的。シャルは三人のチャラ男に絡まれていた。今のご時世こんな分かりやすいナンパがあるのか。そう思ってしまうくらいベタなナンパだ。
「そんなこと言わずにさ。ちょーっとだけでいいから」
「友達を待っているので」
「その子も一緒にどう?」
チャラ男の一人がシャルの肩に触れようとした、その瞬間。
「ちょっと君達!!」
「ああ?」
チャラ男同様、シャルも声の発信源に目を向ける。そこにいたのは―
「光輝っ!」
「シャル、大丈夫?何もされてない?」
自分のことのように心配する光輝に少し笑みが漏れる。
「おいおい、彼氏持ちかよ」
「ちっ、邪魔すんな」
そう言って指をパキパキ鳴らすチャラ男三人組。
あ、これヤバい。
「シャル、ちょっとごめん」
耳打ちするなりシャルをお姫様抱っこして逃走を開始する。三対一なら確実に負けていたね。一対一でも負ける自信あるけど。突然のことにチャラ男達は追いかけるのを忘れ、ポカンとしていた。よし、逃走成功。
「本当に大丈夫?触られたりしてない?」
「うん、大丈夫だよ」
「そっか、よかったぁ~」
何とか逃げることに成功。とりあえずシャルの様子を確かめている。
「ごめんね、シャル」
「え?なんで光輝が謝るの?」
「いや、だってシャルを一人にしたから。冷静に考えればシャルみたいな子が一人だったら危ないよね。ごめん」
「光輝のせいじゃないよ!だから謝らないで」
シャルは困惑しつつも顔がほんのり赤い。お姫様抱っこが恥ずかしかったのかな。
「それに助けてくれたでしょ?だから、むしろ…ありがとう、だよ」
「本当はもっとカッコよく助けたかったんだけどねぇー」
「…十分カッコよかったけどなぁ」
「何か言った?」
「な、なんでもないよ」
なおも難しい顔をしている光輝にシャルは見かねたように言葉をかける。
「じゃあ、僕のお願い聞いて」
「え?」
「光輝への罰だよ」
僕はしばらく考えた後で頷いた。
「えーっと、じゃあ、その…手、繋いで」
僕へと伸ばされるシャルの手。そ、それは罰なのか!?
「「…」」
……照れ臭いという意味では罰かもしれないね。
「は、早く行こうよ!」
「そ、そうだね」
ではいざ、水着売り場へ!
「ねえ、あれってどういうこと?」
「手を握ってらっしゃるように見えますが…」
「ふーん、そっか。…よし、殺そう」
今しがた物騒なことを口走ったのが鈴。そして無言で凝視しているのがセシリア。どちらも近寄りがたいオーラを全身から発している。
「こんなところで何してんだ、お前ら?」
「ぃ、一夏!?」
「それに…ラウラさん!」
とある一件のせいで反射的に身構えてしまう。
「まあ、落ち着け。ラウラも反省してるからさ」
「そ、そのだな。…すまなかった」
意外にもすんなり頭を下げるラウラに二人は驚きを隠せない。
「というか、なんで一緒にこんなところにいるわけ?」
「千冬姉に頼まれたんだ」
「夫婦なら当然だろう」
「会話が噛み合っていないようですが…」
ラウラは些細なことだと言わんばかりに胸を張る。
「で、そっちは何してたんだ?」
「そ、そう言えば」
鈴とセシリアが視線を戻した先にはもう誰もいなかった。
「しまったぁー」
「や、やられましたわ」
一夏が理不尽な八つ当たりをされたのは言うまでもない。
「…どっちがいいかな?」
「えーっと、右かな?」
女性の水着と言うのは非常に難しい。ハッキリ言うと僕には分からない。
「そっか、光輝はこういうのが好きなんだ…」
聞こえなかったことにした方がいいよね、今の。
「実際に着てみないと分からないんじゃない?こういうのは」
「そ、そうだね。じゃあ、ちょっと待ってて」
そう言って更衣室に入るシャル。ふぅー、緊張した。なんて気を抜いたのがいけなかった。
「光輝、いいよ」
いいよ、って何?これはまさか水着披露というやつなのか!?
「いいって?」
わざと惚けたように聞くと、更衣室のカーテンの隙間から白い手が伸びて来た。そのままその手は僕を更衣室の中まで引っ張り込む。…シャ、シャルさん!?
「シャ、シャル!な、何してるのさ!?」
「…どうかな?似合う?」
冷静ですね、あなた。
「に、似合うよ。とっても似合う。だから僕は外に―」
「もぉー、ちゃんと答えてよ!」
近い、近い。顔が近い!そして、その、あの、胸が…。
「こーき!」
「は、はい」
怒られたので改めてシャルを見る。
「…ど、どう?」
「に、似合ってるね。…とっても…可愛い…よ」
オレンジに黒のラインが入った水着。嘘偽りなく、可愛かった。
「あ、ありがと…。じゃあ、これにするね」
決まってよかったね。…じゃなくて!
次の瞬間、カーテンが勢いよく開かれた。
「貴様ら…」
「瀬戸君、デュノアさん」
そこには呆れて溜息をつく千冬さんと慌てふためく山田先生がいた。すなわち死が待っている。