光り輝くその瀬戸際に   作:いろすけ

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海色、夏色、プチパニック

 ゴクリッ、と息をのむ。辺りが緊張で支配されていく。鈴、セシリア、箒にラウラ、一夏まで固唾をのんで見守っている。唯一、シャルだけは笑顔を崩さない。左手首のブレスレットを眺めながら。

 

「で、どういうことなのよ?」

 

 臨海学校当日。楽しいはずのバス内は重々しい空気で満たされていた。ちなみにバスの面子は一組、あと二組の半分。…分断されるクラスって、なんかドンマイだよね。

 

「せ、説明を要求いたしますわ!」

「だから何もないってば」

「嘘をつけ」

 

 本日三度目の否定も空しく終わる。

 

「手をつないでデート…しかもプレゼントまで…不公平ですわ」

 

 シャルのブレスレットのことだろうか。ただのお詫びだよ。第一、安物だからね?

 

「嫁の話だと随分前からいい雰囲気だったと聞いているぞ」

 

 よし、一夏を殴ろう!

 

「直球に聞くぞ。光輝はシャルロットと…その…つ、付き合っているのか?」

 

 箒の問いかけに全員の注目が集まる。重圧が半端ないですってば、本気で!

 

「付き合ってないから!」

 

 正直に答えると鈴とセシリアは途端に笑顔になる。ラウラと箒は未だに疑り深い目でこちらを見ている。

 

「……」

「シャ、シャル?」

「光輝なんかしらない」

 

 あーあー、拗ねちゃったよ。

 

「なんだ。俺はてっきり付き合ってるのかと思ったぞ」

 

 なるほど、原因はこいつか。

 

「付き合ってらっしゃらないのですね。ならば問題ありませんわね」

 

 付き合っていたら問題あるんだろうか?

 

「はぁー、あんたって、あんたよねぇー」

 

 何言ってるのさ、鈴。せめて日本語で。

 

「なによ。蹴って欲しいわけ?この変態!」

 

 り、理不尽だ!

 

「あ、見て!海!」

 

 クラスの女子の一言で今までの空気はどこへやら、歓声が上がる。今日は晴天、絶好の海水浴日和だね。学校行事とは言え初日は終日自由時間。羽目を外さない方が難しい。

 

「よっしゃー!遊びまくるぞー!」

「なに話題変えてるのよ」

「まだまだ聞きたいことはありましてよ?」

 

 そう簡単には逃がしてくれませんよねー。

 

「一夏」

「いやー、楽しみだな。ラウラ、箒」

「シャル」

「…ふんっ、だ」

 

 …僕には味方はいないらしい。頼む、早くついてくれ。

 

 

 

 

 

 

 結局セシリアと鈴に根堀葉堀聞かれ、早くもグロッキー状態だった。別にやましいことはないからいいけどね。でも否定するたび隣にいたシャルが不機嫌になっていくから参ったよ。ちなみに今は自由時間。着替えを済ませた人から海へレッツゴーな時間だね。

 

「あら、光輝さん?」

 

 噂をすればなんとやら。蒼穹の狙撃手、セシリア・オルコット様のお出ましだ。

 

「失礼なことを考えてはおりませんでした?」

 

 むむっ、こやつできる。

 

「それより何ですの、それ?」

 

 やっぱり気になるよねぇー。まあ、誰でもそうか。地面からウサミミが生えていたらさ。しかもそこには「引っ張ってください」と書かれている。

 

「セシリア、引っ張ってみる?」

「…そういうのは男性がお願いしますわ」

「レディーファースト、みたいな?」

「このような場面で使う言葉ではありませんわね」

 

 そこまで言われちゃ仕方ない。そもそも引っ張らなければいい気もするが、そこはノリだね。僕は覚悟を決め、いかにも怪しいウサミミを引っ張る。緊張で力んだためか、はたまたウサミミが予想以上に簡単に抜けたためか、とにかく僕は盛大にずっこける。

 

「いててっ…あ、セシリア」

 

 転んだ先が悪かったらしい。僕の真正面にはレースの付いた白い布地が――

 

「こ、こ、光輝さん!?」

 

 スカートを押さえ、後ずさるセシリア。言うまでもないが顔は真っ赤に染まっている。

 

「ご、ごめん、セシリア」

「…い、いえ、その」

 

 気まずい、とても気まずい。

 

「じゃ、じゃあ着替えて来るね。あ、あはは」

「…」

 

 返事がないただの屍のようだ。

 

「光輝さん」

「は、はい!」

「…その、サンオイルを塗っていただけますか?」

「へ?」

「ですから!サンオイルを塗っていただけるのでしたら許して差し上げますわ」

 

 セシリアにサンオイルを塗っている僕。うん、男子的にはよろしくないね。

 

「よろしいですか?」

「はい、よろしいです」

 

 この状況で断れるやつがいるなら是非とも会ってみたいものだよ。

 

「ふふっ、約束でしてよ?」

 

 まあ、セシリアの機嫌もよくなったみたいだし、いっか。というかウサミミは一体何だったのかな?

 この時、近くで一夏と箒がとある天災に巻き込まれていたとは知る余地もない。

 

 

 

 

 

 

 僕は更衣室で一夏と合流し、その後二人で海に向かった。

 

「ねえ、一夏」

「なんだ?」

「きっと世の中の男は羨ましがるだろうね」

「…そうかもな」

 

 見渡す限り女子、女子、女子!しかもレベルの高い子ばかり。まさに楽園!…一般的には。

 

「い、ち、か~~~!!」

 

 ん?ああ、鈴か。

 

「こら、鈴、飛びつくな」

 

 相変わらずの身のこなしだね。フルスピードからの飛びつき、人間業じゃないな。猫みたいだ、結構本気で。

 

「鈴、一夏は真面目に準備運動する奴なんだから邪魔したらダメだよ」

「相変わらず爺臭いわね」

「お前らもちゃんと準備運動しろよ。溺れるぞ」

「あたしが溺れたことなんかないわよ。前世は人魚ね。多分」

 

 そう言いつつ一夏から僕へと飛び移ってくる。…前世はサルだね、絶対。

 

「あんた、また蹴って欲しくなったわけ?」

 

 断じてそんな趣味はない!

 

「り、鈴さん!な、な、何をしていますの!?」

 

 ビーチパラソルとシート、それにサンオイルを持って立ち尽くすセシリア。鈴のスポーティーなタンキニタイプと違い、鮮やかなブルーのビキニ。腰に巻かれたパレオは優雅で、見惚れてしまうほどだった。

 

「痛い、痛い」

「なに鼻の下伸ばしてるのよ、あんたはー」

 

 伸ばしてない、伸ばしてない。

 

「で、ではサンオイルをお願いしますわ」

「お、おう。…ということだから降りて、鈴」

「なによ、馬鹿」

 

 そう言うと再び一夏に飛び移る鈴。…本当に猿みたい。鈴を上に載せた一夏はすぐに数名の女子に囲まれた。ご愁傷様。

 

「コホン。それではお願いしますわね」

「背中だけだよね?」

「光輝さんがされたいのでしたら、前も結構ですわよ?」

「背中だけで勘弁してください」

 

 しゅるり、とパレオを脱ぎ、ブラ紐を解くセシリア。なんだかその仕草はやけに色っぽくて、ついついドキッとしてしまう。

 

「さあ、ど、どうぞ」

 

 体に潰され、むにゅりと形を歪めた乳房は少し――いや、かなりセクシーだ。

 

「じゃあ、塗るね」

「ひゃっ!?光輝さん、サンオイルはすこし手で温めてから塗ってくださいな」

「ご、ごめん。こういうこと初めてだから」

「そ、そうなんですか。それでは仕方ありませんわね」

 

 気のせいかな。なぜかセシリアは嬉しそうにしている。

 

「んっ…。いい感じですわ」

 

 しかし、セシリアの肌ってスベスベして…なんというか、その……気持ちいいね。

 

「では、足と……お尻もお願いします」

「うえっ!?」

 

 話が違いますよ。お、お尻はまずい。絶対にまずい。

 

「はいはい。あたしがやったげる」

 

 いきなり乱入してくるなり、ペタペタと塗りだす鈴。

 

「ちょっ…冷たっ!」

「いいじゃん。塗れればなんでも。ほいほいっと」

「ああもうっ!いい加減に―」

 

 怒って体を起こすセシリア。そうすると水着は必然的に落下して――

 

「きゃああっ!?」

 

 運が良かったのか悪かったのか、大事なところは見えなかったけど、セシリアは真っ赤になって蹲る。さっきとは比べ物にならないくらい真っ赤だ…。

 

「あー…ごめん」

「今更謝ったところで…。鈴さん、絶対に許しませんわ」

「うん、じゃあ逃げる」

 

 鈴はそう言って一夏を引っ張って逃げ出す。相変わらずのフットワークだな。途中、一夏の叫び声が聞こえたけど気のせいだよね。

 

 

 

 

 

 

「で、光輝は一体セシリアに何をしたのかなぁ?」

「シャルさん?それに何してるのさ、ラウラ!?」

「ん、尋問だが?」

 

 さらっと恐ろしいこと言うな。そして腕の手錠を解いてくれ!軍か?軍事力なのか!?

 

「セシリアも黙ってないで何とか言ってよ」

「…」

 

 俯いてないで助けてください、セシリアさん。

 

「こうきー?」

「…鈴のせいだよ。うん、そう、鈴のせい!完全無欠に鈴が悪い!」

「ホント?」

「怪しいな」

 

 頼むから余計なこと言わないで…。

 

「本当だよ。ね、セシリア」

「…ですが……見たのですよね?」

「えー、まあ、はい」

「…にもかかわらず、ご自身に一切非はないと?」

「う、そ、それは…」

 

 正確には見えちゃった、だけど…。そんなのセシリアからしたら些細なこと、なんだよね。…たぶん。

 

「こ、光輝は一体何を見たの!?セシリアの何を見たの!?」

「シャル、落ち着け」

「うるさい、光輝の馬鹿」

 

 バスからそうだったけど今日のシャルは荒れてるなー。まあ、僕のせいなんだろうけど。セシリアは俯いたままだし、シャルはこんなだし。何かこの状況を打破する一手は…。

 

「ラウラ、水着似合ってるね。いつもと雰囲気違うし」

「あぁっ、話題変えたでしょ!」

「そ、そうか?」

「それで誤魔化せたなんて思わないでよ!」

「うん、これを見たら一夏の奴もイチコロだね、きっと」

「なっ!よ、嫁はどこにいる?」

「ちょっと、無視した?今、無視したでしょ!?」

「鈴に連れられて泳ぎに行ったよ?」

「こーうーきー!!」

「で、では私も行ってくる」

「手錠を解いてから行ってね。……って、ラウラ!?ラウラ!!」

「もう、光輝なんてしらない」

 

 マジで解かずに行きやがった。…ちょっと可愛そうになってきたな。拗ねちゃったし。

 

「悪かった、悪かった。だから拗ねないで」

「…拗ねてないもん」

 

 拗ねてますよね、絶対。

 堪え切れずに笑うと噛みつくような勢いで反論してきた。

 

「拗ねてないもん!」

 

 どうしたもんかね、この状況。右手に黙って俯く金髪美女。正面には自称、拗ねてないブロンド美女。…どうしたもんかねー。

 

「………デート」

 

 はい?

 

「デート一回で許してあげる」

 

 シャルロットさんよ、なぜそうなった。

 

「わたくしもそれで今回のことは水に流して差し上げますわ」

 

 セシリアまで…。というか、それでいいのか!?

 

「光輝、返事は?」

「優柔不断な男性は嫌われますわよ?」

 

 ぐっ…退路は無しか…。まあ、嫌なわけじゃないし、それで許してもらえるならいいけど。

 

「じゃあ夏休みにでもどう?」

「うん、いいよ!」

「楽しみにしていますわ」

 

 先が思いやられるよ、全く。…というか手錠外して、お願い。

 

「光輝君、ビーチバレーしよー」

「こっきー、でゅっちー、セッシー」

「ふふふっ、七月のサマーデビルと呼ばれたこの私と勝負よ!」

 

 そのあとは谷本さん、のほほんさん、相川さんの三人組とのビーチバレー対決が予想以上に盛り上がり、僕らは自由時間を満喫したのだった。余談だが、僕の手錠はシャルロット様の寛大な慈悲により、外していただきました。

 

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