「では、現状を説明する」
旅館の一番奥に設けられた宴会用の大座敷。そこで僕たち専用機持ちと教師陣が集められた。照明が落ちた薄暗い部屋に浮かぶディスプレイが事の深刻さを際立たせている。
「二時間前、ハワイ沖で試験稼働にあったアメリカの第三世代型の軍用IS《銀の福音―シルバリオ・ゴスペル》が制御下を離れて暴走した」
いきなりの説明についていけず、ポカンとしてしまう。
「監視空域より離脱したとの連絡があった」
軽く、いや、かなり混乱してるんだけど…。僕と一夏、それに箒を除いた全員が厳しい顔つきになる。正式な代表候補生、こういった事態に対しての訓練も受けているのだろう。
「その後、衛星による追跡の結果、福音はここから二キロ先の空域を通過することが分かった。時間にして五十分後。学園上層部からの通達により、我々がこの事態に参加することになった」
自分がここにいていいものか、そう思ってしまうほど張り詰めた空気が充満していた。
「本作戦の要は専用機持ちに担当してもらう」
…これはちょっとまずい展開かな?
「それでは作戦会議を始める。意見があるものは挙手するように」
「はい」
早速、手を挙げたのはセシリアだった。
「目標ISの詳細なデータを要求します」
「分かった。ただし、これらは軍事機密だ。けして口外するな」
「了解しました」
公開された情報は僕にはほとんど理解できなかった。しかし、それでも分かることが一つだけ…。
「…何も分かんないじゃん」
「ですわね。広域殲滅を目的とした特殊射撃型。…ですが」
「具体的な武装についての情報は一切なし…。厄介だわ」
「攻撃と機動の両方を特化した機体だね。しかも軍用機だから内蔵エネルギーがどれくらいか見当もつかないよ」
「うむ、このデータだけでは不明なことが多すぎる。偵察は行えないのですか?」
僕の言葉に代表候補生が意見を交わす。一夏と箒は未だに状況が理解できてないらしい。
「無理だな。この機体は現在も超音速飛行を続けている。アプローチは一回が限界だろう」
となると、まさか…。
「一撃必殺の攻撃力を持った機体で当たるしかありませんね」
山田先生の言葉で全員が一夏に注目する。
「え?」
「あんたの零落白夜で落とすのよ」
「それしかありませんわね。ただ問題は―」
「どうやって一夏をそこまで運ぶか、だね」
「目標に追い付ける速度が出せる機体でないといけないな」
「ちょっと待ってくれ!俺が行くのか!?」
それだけでなく――
「ぼ、僕も?」
「「「「当然」」」」
四人の声が重なった。
「光輝さんのスピードと一夏さんの攻撃力が必要なのですわ!」
「目標地点までならエネルギーも持つわよね」
「その後の自衛分のエネルギーも考えないとね」
皮肉なことにそれが一番丸く収まるらしい。
「織斑、瀬戸、これは訓練ではない。実戦だ。覚悟がないなら無理強いはしない」
「…だってさ、一夏」
「やります。俺が、やって見せます」
そう言うと思ったよ。
「瀬戸、お前は?」
争い事は性に合わないんだけどなぁー。どうやらそうも言ってられないみたいだしね。
「一夏を運ぶというのが気に入りませんけど、やらせていただきます」
他の誰かが危険にさらされるくらいなら、争いでもなんでもやってやる。
「それでは具体的な内容に入る」
「待った待ーった。その作戦にはもっと適任者が~!」
天井から突然声が響く。全員が声の発信源に目を向けると、そこには件の天才、篠ノ之束博士がいた。
「束、お前、いつから?」
「聞いて、聞いて!ここは断然、紅椿の出番なんだよ」
「…なに?」
「紅椿の展開装甲を調整すると~スピードはばっちり~!」
へえ、このタイミングで出て来るんだ。
「確かに、適任だ」
「でしょ、でしょ~?」
「しかし、最高時速は琥珀の方が上だ」
「琥珀?」
千冬さんは無言で僕の方へ目線を送る。
「この男のISが紅椿より速い?」
超絶睨まれてるなー。
「でも紅椿なら白式のフォローもできると思うよ」
「発言いいですか?」
「許可する」
「篠ノ之博士の作戦には一つ欠点があります」
僕の発言に全員の視線が集まる。特に篠ノ之博士の視線は恐ろしい。
「箒は専用機を起動して間もないです。いきなり実戦は荷が重い、いえ力不足だと思います」
「なんだと!?」
激昂したのは箒だった。
「同じ素人でも僕と一夏は専用機に慣れています。しかし箒では…」
「なっ、光輝、貴様!」
今にも飛びかかってきそうな勢いで叫ぶ。…ごめん、箒。
「感情的になって暴れまわっては成功するものも、失敗します」
「なっ、なっ」
「機体以前の問題です。今の箒では務まりません」
「ちょっと、お前、なんなのさ!そう言うのは全部ちーちゃんが決めるんだから黙ってろよ」
篠ノ之姉妹からの殺気を感じる。プレッシャーで潰されそうだよ、全く。
「そうですね。出過ぎたことをしました」
この場は引かないと殺されそうだ。…というか殺される。
「ふむ、確かに瀬戸の言うことも一理ある。しかし、織斑も瀬戸もその点に差はない。図に乗るな」
あははは、手厳しいなぁ。
「篠ノ之。覚悟があるなら任せる。そうでないなら棄権しろ」
「やります。やらせてください」
「よし、それでは各人、準備をしろ。出来次第、作戦に移る」
「「「「「「はい!」」」」」」
千冬さんの掛け声と同時にそれぞれが動き出す。さて、こうなったら仕方がない。一夏に忠告しとくか。
「一夏」
「ん、光輝か」
「箒の奴、頼むよ。もちろん僕の杞憂で終わればいいんだけどね」
「おう、任せとけ」
全く、頼りになりすぎだよ。集中しているせいか何となく雰囲気が違う気がしたけど、気のせいかな?