光り輝くその瀬戸際に   作:いろすけ

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銀との演舞

 僕らは座敷内のディスプレイで一夏と箒の様子を見守っていた。

 

「気にすることないと思うよ」

「…シャル」

「光輝は間違ったこと言ってないもん。だから気にしすぎるのはダメだよ」

 

 そうかもしれないけど、箒には悪いことしたよ。

 

「後で一発殴られなさい。あたしじゃなくて箒よ!」

 

 そうだね、それがいい。

 

「なんなら今殴ってあげてもいいわよ?」

「それは遠慮しとく」

 

 なんて話していると少し楽になった気がした。

 

「一夏聞こえるか!?」

 

 突然、千冬さんが声をあげる。それにつられ自然と画面に目が行く。

 

「一夏、一夏、聞こえるか!?」

「教官、一体何が?」

 

 ラウラの質問に答えたのは千冬さんではなく、山田先生だった。

 

「織斑君が、織斑君と通信ができないんです」

 

 画面に映る一夏。そこには一夏の姿をした、何かがいた。こちらの声が聞こえていない。それは単純に補助システムのせいではない。一夏ではなく、もっと機械じみていて…。まるで白式そのものが動いているような印象を受けた。

 

「一夏、一度引け!」

「織斑君!」

 

 嫌な予感が当たった。そう思った時にはすでに走り出していた。

 

「光輝!?」

 

 シャルの不安そうな声も、みんなの焦った顔も、篠ノ之博士の殺気も無視して、駆け出した。

 

「光輝、どこへ行く!」

 

 最後に千冬さんの声が聞こえたが、その時にはすでに琥珀を纏い、飛び発っていた。

 

 

 

 

 

 

「一夏、今だ!」

 

 箒の掛け声と同時に零落白夜を発動するが、躱されてしまう。

 

「くっ、なんて急加速だ」

 

 攻撃は三回目。福音は精密すぎるほど正確に、それこそ数ミリ単位で回避する。

 

「箒、援護を頼む」

「任せろ!」

 

 持久戦は圧倒的に不利だと判断し、再び福音に斬りかかる。

 

『敵機確認。迎撃モードへ移行。《銀の鐘―シルバーベル》発動』

 

 まずいっ、直感でそう思った。

 

「くっ……!このっ……!」

 

 福音から放たれる抑揚のない敵意、零落白夜の使用時間。分かっていても焦ってしまうのが人間だ。そして人間はミスをする生き物だ。

 

「しまった!!」

 

 焦りから生まれた大振り、それを見逃す福音ではなかった。

 銀色の翼。スラスターでもある装甲の一部が本物の翼のように開く。間違いない、これは砲口だ。

 

「ぐうっ!?」

 

 弾丸は高密度に圧縮されたエネルギーの塊。羽の形をしたそれはISアーマーに突き刺さったかと思うと、次の瞬間には爆ぜた。

 

「一夏!」

「大丈夫だ」

 

 とは言え、かなりのシールドエネルギーを持ってかれた。狙いがそれほど精密でなくとも、あれだけの連射と爆発力があれば関係ないだろう。

 

(集中しろ!研ぎ澄ませ!)

「左右から攻めるぞ」

 

 箒の作戦にも耳を貸さず、集中する。深く、深く。意識を沈め、研ぎ澄ます。限界まで。

 

「おい、聞いているのか、一夏!」

(遮断しろ。無駄な情報は考えるな。ただ、目の前の敵を――)

「一夏!」

「―――コロス」

 

 瞬間、福音に突撃する。福音は全方位に無茶苦茶な砲撃をする。

 

「聴覚を遮断。嗅覚を遮断。味覚を遮断。触覚を遮断」

 

 無茶苦茶な砲撃を回避できるはずもなく、被弾する。しかしそれでも止まらない。

 

「一夏、一夏!」

「イタミを遮断。キオクを遮断。カンジョウを遮断」

 

 ボロボロになりながら一夏は福音を斬りつける。その攻撃に一切の情はなく、福音の、もとい操縦者の体を傷つけるには十分だった。

 

「やめろ!やめてくれ!」

 

 一夏の二撃目が届く寸前に箒が間に入る。紅と白が激突する。

 

「どうしたというのだ、一夏!」

 

 一夏の目は光を失い、そこに意志や精気は感じられなかった。

 

「…誰だ、貴様は?」

「――コロス」

 

 無機質な声。機械的で情のない動き。

 

「まさか…お前は…」

 

 箒の言葉は眩い光に包まれ、消えた。

 

 

 

 

 

 

 僕が駆けつけると同時だった、一夏と箒が撃墜されたのは。

 

「一夏!箒!」

 

 今まさにとどめを刺そうとしている福音に光速加速を行い、突っ込む。福音は琥珀を認識する前に海へ叩き落される。

 

「こ、光輝?」

「よかった。箒は無事みたいだね」

「ああ、だが、一夏が!」

 

 一夏の方を見るとISは強制解除されており、意識はない。確認するまでもなく重症だと察した。

 

「箒は急いで一夏を先生たちのところへ!」

「だ、だがっ」

「急げ!」

 

 僕が叫ぶと同時に海中から福音が現れる。福音が砲撃のモーションに入るよりも早く、トライデントを投擲する。

 

「ひ、一人で、こいつの相手なんて…無理だ!」

「大丈夫。僕の逃げ足の速さは知ってるでしょ?」

 

 おどけた調子で答えるが、箒は一向に逃げようとしない。…頑固すぎだよ、馬鹿。

 

「…一夏を頼むよ」

 

 だからやめた。おどけるのは。箒はそのことを察してくれたのか、頷いてくれた。

 

「大丈夫なんだな?」

「ああ」

 

 一言返すと、そのまま福音に向かって加速していく。ハイパーセンサー越しに箒が離脱していくのが見えた。

 

「それじゃあ、始めようか」

『La………』

 

 甲高いマシンボイスを返事に、僕は銀との演舞に身を投じた。

 

 

 

 

 

 

「先生、僕に出撃許可を!」

「認めん!各自、別室で待機と言っただろ」

 

 今から一五分前、箒が一夏を連れて戻ってくる少し前、事態は急変した。福音と交戦中だった瀬戸光輝が撃墜された。光輝の捜索をしようにもすぐそばに福音が待機しているため、手が出せない。どうしようもない状況だった。シャルロットだけではない。鈴にセシリア、ラウラも出撃許可を求めて来た。しかし現状は待機命令。無力感で押しつぶされそうだった。

 

「デュノア、入れ」

 

 そんな中、門前払いされたシャルロットの入室が許可された。

 

「通信が切れる直前の映像がある」

「…それをなんで僕に?」

「…お前へのメッセージだ。選べ」

 

 簡潔にまとめられた言葉。ここでは見るか見ないかを選べ、と言うことなのだろう。そんなのは選ぶまでもない。決まっている。

 

「見ません、絶対」

 

 織斑先生は心底意外そうな顔をする。だって、そんなの――。

 

「見たら、帰って来ない気がするんです。だから見ない。光輝が帰ってきて、説教して、それから甘いものでも奢らせて…。それからです」

「そうか…」

 

 だからまずは、決着をつけないとね。

 

「強いな、お前は…」

 

 強くなんかないですよ。ただ強くあろうとしてるだけ。好きな人に追い付けるように。

 

「僕、もう待ちくたびれちゃったんで、行きますね」

「…ああ」

 

 織斑先生との会話を切り上げ、部屋を出る。戦場に向かうために。

 

「ラウラ、位置は?」

「ここから三キロ離れた沖合上空に待機している。衛星による目視で発見した」

「さすがドイツ軍。こっちも準備オッケーよ」

「わたくしもたった今、インストール完了しましたわ」

「箒は、大丈夫?」

「ああ、次は負けん!絶対に!」

 

 箒の頬が腫れているのを見ると鈴あたりに喝を入れられたのだろう。とにかく塞ぎ込んでいないようでよかった。

 

「よし、じゃあ、行こうか」

 

 こうして僕は戦場へ向かう。みんなと一緒に。

 

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