光り輝くその瀬戸際に   作:いろすけ

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中間色は苦労人

 

「なぁ、一夏よ」

「ん、どうした?」

「どうした、じゃねえよ、馬鹿野郎!」

 

 現在時刻は一六時、放課後だ。教室で僕は一夏のアホを説教している。

 

「こうなっちまったもんはしょうがないだろ、やるだけやるさ」

「…」

 

 そんなこと言われると、こっちが小物みたいじゃないか。…ちくしょう。

 

「勝算は?」

「専用機が来ればなんとか…」

 

 そう、僕たち二人には日本政府から直々に専用機というものが渡されるらしい。異例中の異例だからね。データ取りってやつでしょ。なんでもISの本体であるコアというものはISの生みの親の〝篠ノ之束〟以外作れないらしい。そして現存するコアは467個しかない。しかも篠ノ之束博士はコアを一定数以上作ることを拒絶しているとか、なんとか。つまり専用機を持てる者はエリート中のエリートなのですわ、ということらしい。

 引用元セルシウス・オルゴール

 

「そんな大層なもの貰ってもなぁ」

「光輝は嫌なのか?」

 

 嫌というわけじゃないけど、争うのは性に合わないし。ISを兵器利用、何度考えても、もったいない。

 

「まあ、空を自由に飛ぶ分には最高だと思うけどね」

「そっか、光輝らしいな」

「よかったー、二人ともまだいたんですね」

「山田先生?一夏が何かやらかしたんですか?」

「さすがに怒るぞ」

 

 山田先生の慌て様からしてそれ以外ないでしょ。

 

「ええっと、寮の部屋が決まりました」

 

 そう言って部屋番号の書かれた紙とキーをよこす山田先生。

 あれ?僕らの部屋って決まってないんじゃなかったっけ?ほら、事情が事情だし。

 一夏も同じことを思ったのか山田先生に質問をしている。

 

「部屋割りを無理やり変更したらしいんです。二人とも政府から何か聞いています?」

 

 僕らは特異ケースだから狙われる可能性が無きにしも非ず。まあ、その辺はよく分からないけど保護のために寮に入れた方が楽、ってことでしょ。

 

「荷物を取りに帰らないといけないので今日は帰ってもいいですか?」

 

 まあ、一夏の言う通りだね。どの道一回帰らないと。

 

「私が手配しておいてやった。ありがたく思え」

 

 あれ、どこからかダースベーダーの音が…。

 

「瀬戸」

「すみませんでした。もうしません。」

「お前の荷物だ」

「へ?」

 

 あれ~?鍵かかってたはずなんだけど…。

 

「安心しろ、大家さんに許可は得た」

「さいですか」

 

 許可ならぜひ本人にお願いしますよ。それか家族とかね。…まあ、僕は小さいときに親を亡くしてるから一人暮らしなんですけどね。なおさら本人に…。

 

「なんだ、見られて困るものでもあったのか?」

 

 困る以前にプライバシー。…言っても無駄な気がしてきた。というか山田先生、なんで赤くなってるんですか!?いや、ないですからね、マジで。

 

「光輝の荷物多くないか?」

「一夏が少ないだけじゃないの?」

「…確かに。着替えと携帯の充電器だけって酷くないか、千冬姉」

 

 まあ、僕の荷物には愛器が入っているからかな。きっと千冬さんが気を利かしてくれたんだよ。全く、一夏にはもったいない姉君だよ。

 

「必要なものがあれば休日に取りに行け」

 

 今日月曜日だよね?一夏から一週間日々の潤いが取り上げられたわけだ。

 

「一夏にはもったいないくらいの姉君ですこと」

「…俺もそう思うぜ」

 

 こうして僕たちは長い初日を終えたのだった。

 

 

 

 

 

 

「くだらん挑発に乗るからだ、馬鹿者」

「…」

 

 今がどういう状況かって?簡単さ、食堂で篠ノ之さんが一夏に説教している。昨日の僕みたいだね。そこまでなら別にいい、むしろ続けてくれたほうが馬鹿の為だろう。

 でも問題なのは―

 

「全く、お前らときたら」

 

 …僕も説教対象らしい。なんで?一応初対面なんですけど。

 

「挑発に乗る方も馬鹿だが、貴様」

「は、はいぃ」

 

 怖ええ、千冬さん並の迫力。

 

「何だ、あの逃げ腰は、それでも男か!?」

「生まれてこの方十五年、男を名乗っておりました」

「まあまあ、光輝は仲裁しようとしてくれたわけだし、許してやれよ」

 

 一夏ぁーー。やっぱり持つべきものは親友だね。…ん?いつの間にか僕だけ責められている気がする。おのれ、図ったな。

 

「…まあ、そうだな」

 

 お許しが出ましたよ。あ、一応フォローしておくと、僕の仲裁が一部の人から逃げ腰のように思われてね。同じ男である一夏も悪く見られるのが篠ノ之さんは嫌だったんだと思うよ。詰まるところ、この子は一夏に…ちっ、色男(ヒーロー)が。

 

「で、どうするつもりだ?」

「何をだよ?」

「一週間後に決まっているだろ」

 

 うん、やっぱ、一夏は馬鹿だ。ここはひとつ助け舟でも出そうかな。

 

「一夏って剣道やってたんでしょ?」

「だいぶ前の話だけどな」

「じゃあ、篠ノ之さんに稽古つけてもらいなよ」

「…な、なにぃ!?」

「篠ノ之さんって全国優勝者なんでしょ?なら適任じゃん」

「…し、しかし」

「おお、さすが光輝」

「しかもあの篠ノ之束博士の妹ときたもんだ。一夏にはもったいないくらいの先生だね」

 

 何を隠そう篠ノ之さんはISの生みの親である、稀代の天才篠ノ之束の妹なのである。

 名字でなんとなく分かるか。実際クラスメイトにも聞かれていたし。

 

「…」

 

 え?めちゃくちゃ睨まれた。…地雷だった?

 

「箒、頼むよ」

 

 気まずい空気を察したのか一夏が話を進めてくれた。

 絶対偶然だけどね、断言する。

 

「お、お前がそこまで言うのなら考えてやろう」

「本当か、ありがとう箒」

 

 何とか収まりそうでよかったよ。じゃあ、茨の道を進む者にアドバイスをしとこうかな。

 

(一に笑顔、二に笑顔、三四はなくて五に素顔だよ)

(なんの話しだ?)

(ん?一夏攻略法)

(な、な、な…)

(がんばってねー、ライバルは多いよ)

(お、おい、それはどういう―)

「じゃあね、一夏、篠ノ之さん。教室で」

「もう食べたのか、早いな」

 

 何か聞かれる前に立ち去ろう。こういうのは言い逃げがベストなのさ。あ、篠ノ之さん、顔真っ赤だ、してやったり。

 

 

 

 

 

 

 放課後、一夏は篠ノ之さんに引っ張られて剣道場に連れ去られたらしい。一夏的にはISについて教えてもらう予定だったのに、とかなんとか。ご愁傷様。

 僕は愛器を持ってIS学園の校舎裏に来ていた。校舎裏だと侮ることなかれ、花壇に咲く美しい花の数々、それを鑑賞するが如く備えられたベンチ。国立万歳!高校生にはもったいないくらいさ。今日も用務員の人が手入れをしている。お疲れ様です!中庭はもっとレベルが高いけど。…もはや別世界、わりとマジで。それでもここは中庭以上に優れている点がある。それは――。

 

「人がいないことだ!国立万歳‼」

 

 …むっ、国立は関係ないか。

 

「校舎裏万歳‼」

 

 そんなアホなことを考えながらも、愛器を取り出す。愛器―サックスを。

 実のところサックスについては結構自信があったりする。僕の数少ない長所だ。…言ってて悲しくなってきた。

 

「フゥーー」

 

 一度大きく深呼吸して、息を整える。指を皿に沿わせ、撫でるように感覚を確かめる。そして姿勢をただし、一呼吸おく。フラジオ奏法―サックスの倍音を吹き分け通常の運指ではないhightF#より上の音を出す奏法。えっと、つまり簡単に言えば通常とは違った吹き方でそれっぽく聞かせる方法、って感じ?簡略化し過ぎ?と、とにかく演奏中は何も考えなくていいから好きさ。え、普段から何も考えてない?…ご明察。気を取り直して構え、愛器に息を吹き込んだ。

 

 その音色は僕自身を癒してくれるかのように優しく――

 

「楽器を奏でる感性がおありだとは思いませんでしたわ」

「…オルゴ―」

「オルコットですわ」

「ごめん、ごめん」

「何をしていますの?」

「ん?」

「もう一人の方は剣道場で訓練をしていますのにあなたは日向ぼっこですか?お気楽ですわね」

「一夏のこと気にかけてたんだ」

「ち、違いますわ」

「う~ん、僕は格闘技の経験があるとか、運動神経が優れているとか、そういう才能ないからね」

「なら、勝負は諦めたと?」

「いやいや、違うよ。ただ僕の長所は耳なんでね。それを養っとこうと思ってね」

「………」

「どうかした?」

 

 一息ついて背伸びをすると、関節から小気味のいい音が響く。

 関節が鳴ると痛くなくても、痛いって言っちゃうのは僕だけ?

 

「…何故あなたは怒らないのですか?」

 

 …逆に起こる理由ありましたっけ?

 そう思っていても答えないのは失礼だろうと思い一応答える。

 

「…怒るほどでもなくない?」

「しかし、侮辱されれば怒るのは当然」

「怒れば争いが生まれる。なら最低限怒らない方がよくない?」

「ですが―」

「何よりせっかくクラスメイトになったんだ、喧嘩なんてもったいないでしょ?」

「…」

 

 何とも言えない顔してるなー。そんな難しいことじゃないんだけど。

 

「ひとつ聞いていいかい?」

「…ええ、どうぞ」

「君には今、何色に見えている?」

「え?」

「ごめん、質問がおかしかったね。楽しいかい?」

「…あなたたちを除けばそれなりに」

 

 なかなか辛辣ですね。

 

「なら僕たちも含めて楽しい、って言ってもらえるようにがんばるよ」

「…馬鹿なんですの?」

「そうかもね、オルゴールさん」

「オルコットですわ」

 

 短くそう言い放つとどこかへ行ってしまった。去り際顔が赤かったのは怒っていただけではない気がする。

 

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