SIDE ~シャルロット~
今から三〇分前。IS学園の食堂内。一番窓側の席でぐったりしていた光輝に声をかけた。
「ああ、シャル」
光輝は冷やし茶漬けなるものを食べている。正直あんまり美味しそうじゃない。なんてどうでもいいことを考えながらマカロニサラダを口に運ぶ。
「え?どうしたの?」
ボーっと僕を見つめる光輝はカッコよ――じゃなくて!あの顔は絶対、変なこと考えてるよ。
「失礼なこと考えてたでしょ?」
あからさまに目を逸らす光輝。…クスッ、分かりやす過ぎだよ。
「ホントかなぁー?」
少し悪戯っぽく返してみると、光輝は何故か微笑んでいた。
「……?」
「いや、ごめん。マカロニに苦戦してるシャルが可愛くてさ」
え?完全に無意識だったよぉ~。こ、子供っぽいかな?……というか今可愛いって。
高速切替の名が泣いている。今日も思考に忙しいシャルロットだった。
「そうだ。どっか遊びに行かない?」
「え!?今日!?」
「うん!というか今から」
それってデート!?………あ、でも今日は。
「あー、予定あった?」
「…うん。織斑先生に呼ばれてるんだ。せっかく誘ってくれたのに…その、ごめん」
「いいよ、いいよ。それに織斑先生じゃ、仕方ないよ」
もぉー、間が悪いよ。せっかく誘ってくれたのに……。
「それより早く行かなくていいの?鬼は時間に厳しいよ?」
言われるがままに時刻を確認すると――
ええっ、もうこんな時間!?急がなきゃ。
「え、あ、うん、そうだね。じゃあ、行くね。ごめん」
「いってらっしゃーい」
光輝の声を背に職員室へと向かう。
でも織斑先生からの呼び出しって怖いな。特に心当たりはないんだけど…。
シャルロットの足取りは重い。しかし、嫌だと思えば思うほど職員室までの道のりは短く感じる。それは今回も同様で、あっという間に着いてしまった。
「し、失礼します」
職員室って入りにくいよね、なんとなく。
「来たか」
職員室も夏休みだからか、織斑先生以外の先生はいなかった。先生は…だ。
「せ、生徒会長?」
「あん、楯無でいいわよ」
屈託のない笑み。それが余計にシャルの緊張を高める要因になる。
「あ、あの、どうして僕は呼ばれたんでしょうか?」
「まあ、座れ」
そう言って織斑先生は目の前の椅子を指す。
「…えっと、失礼します」
僕が座ると織斑先生は言いにくそうに話を切り出した。
「実は、デュノア社から帰国命令が出た」
「…え?」
「フランス政府も一枚噛んでいるらしくてな。無視を決め込むのは難しい」
「あ、あの人が…」
今更、なんで…?
「いや、デュノア社とフランス政府の意向だそうだ」
「もし、帰国しなかったらどうなるんですか?」
恐る恐る、ってこんな感じなんだろうね。声、震えちゃってるよ。
「分からん。学園の条例上は問題ないが、フランス政府が絡んでいるしな。国家候補生の剥奪くらいはしてくるかもしれん」
僕らはまだ学生だ。学生が学校に通う以上、お金がかかる。そしてそれは国が支援してくれている。国家候補生だからだ。もしも、代表じゃなくなったら?きっと支援は打ち切り。学園の校則上問題がなくてもここにはいられなくなってしまう。
僕は目の前の現実が受け入れられずにいた。
「お前のことは瀬戸や更識から聞いている。はっきり言って帰国はさせられん」
隣でだんまりを決め込んでいた楯無さんが口を開く。
「デュノア社長が何をお考えかは分かりませんが、ISデータの中間報告のようなものかと。デュノア君がデュノアちゃんであることはIS学園の中だけの事実ですので」
そっか、フランスはまだ正体がバレたことに気づいてないんだ。
「更識、それがお前の考えか?」
「…いえ、違います。どの道、帰国しない方がいいことには変わりありませんけど」
…何が違うの?あの人は僕に光輝と一夏のISデータを盗むように言った。
「デュノア、瀬戸を呼んで来い」
「え?光輝を、ですか?」
「ああ」
それだけ言うと先生は退室するよう促す。僕はそれに逆らうことなく、廊下へ出る。
「……」
頭の中がグチャグチャで整理できない。それでも何とか電話を掛ける。
プルルル、プルルル――――。
電話の音がやけに大きく聞こえ、次第に状況が飲み込めてきた。
―――ガチャッ。
何度目のコール音だろうか。とにかく光輝が出た。
『…もしもし』
光輝の声を聞いたその瞬間、今まで現実味のなかった問題が嫌というほど理解できた。
「光輝!どうしよう、どうしよう!?」
『どうしたの?ちょ、ちょっと落ち着いて!』
「あ、あの人がフランスに帰って来いって…」
『な、なにそれ…今更…なんだよ…』
「僕、どうしたらいい?光輝、助けて」
今までなら躊躇していた言葉も光輝にならすんなりと言える気がした。
『待ってて!すぐ行くから!!』
光輝が来てくれる、そう思うと少しだけ楽になった気がした。しかし同時にシャルロット・デュノアという人間はいつからここまで瀬戸光輝に依存してしまったのだろう。ふと、そんなことを考えていた。