光り輝くその瀬戸際に   作:いろすけ

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白紙の切符

 それから少しして、光輝は大慌てでやって来た。

 

「シャル!」

「…光輝」

 

 シャルは少し顔色が悪い。当然と言えば当然なのかもしれない。

 

「織斑先生が…呼んでる」

 

 必死に笑顔を作ってはいるけど、バレバレ。不安で仕方ないって顔してるね。

 僕はシャルの頭を撫で、そっとシャルの手を引きながら職員室に入る。

 

「早かったな」

 

 そこには千冬さんと楯無さんがいた。

 

「詳しく聞かせていただけますか?」

「入って早々いきなりね」

「…かまわん」

 

 千冬さんに促されるまま、僕とシャルは席に着く。

 

「聞いていると思うがデュノアにフランスへ帰国命令が下った。通常なら問題ないが、今回はフランス政府が関わっている」

「つまり命令に従わざるを得ない状況なのよ」

 

 フランス政府、か……。

 

「そうなればデュノアがお前らのデータを盗んでいないことが分かる」

 

 それは確かに不味い。

 

「で、でもまだ途中ってことにしたら―」

「それじゃあ、ダメよ。シャルロットちゃん」

 

 そんな言い訳通じるはずないよね。もしも、それで使えない奴だ、と判断されたらIS学園に戻って来られる保証はないしね。使えない駒をスパイとして送り込ませるわけないからさ。

 

「仮にうまくいっても先送りになるだけよ」

「そ、そんな…」

 

 たとえ僕らのデータを盗めたとしてもダメだろう。一番怖いのはどんな形であれ、スパイが終了することなのだから。

 

「じゃあ、どうすれば…?」

 

 八方塞がり、打つ手なしって感じだね。もしも、デュノア社長が前提道理の人ならね。デュノア社長は悪人で僕らのデータを本気で手に入れようとしているのなら。デュノア社長に会ったことはない。だから推測。でも、推測ではデュノア社長はシャルを守るためにIS学園に送り込んだ。だったら今回の帰国は形だけなんじゃないかな?

 

「瀬戸、お前の言いたいことは分かる」

 

 千冬さんはお得意の読心術で僕の考えを読み取る。相変わらず、人間離れしてらっしゃいますね。

 

「だがな。それはデュノア社が一枚岩であればの話だ」

「反社長勢力は拡大しているわ。そしてそれはデュノア社長を失脚させるには十分すぎる火種になり得る」

 

 きっと、シャルの心中はゴチャゴチャだろう。

 

「織斑先生」

「ああ」

 

 楯無さんは織斑先生と何やらアイコンタクトを交わし、僕らに向き直る。

 

「そこでデュノアにはIS学園からの任務を任せることにした」

 

 え?どういうこと?

 

「あら、珍しく察しが悪いわね」

 

 そんなこと突然言われても分かりませんよ。シャルも同じようにポカンとしているし。

 

「つまり、忙しいから行けない、ってことよ」

「あっ……」

 

 横に目をやると僕と全く同じ顔をしているシャルがいた。

 帰国命令が出た時には運悪く、予定が入っていました。しかも学園からの要請なので断れません。……なんというか、楯無さんっぽい作戦だな。

 

「その呆れた目は何かしら、光輝君?」

 

 どこからか取り出した扇子の文字は〈唯我独尊〉。…まさにその通りですね。

 

「あの、いいですか?」

 

 話がまとまりかけたところでシャルが手を上げる。

 

「僕なんかのためにいろいろ考えて下さったことにはとても感謝しています。ですが、それも問題の先送りにしか、なっていないのではないでしょうか?」

 

 確かにシャルの言う通りだ。でも正直今はそれが精一杯。先送りにするしかない、という方が正確だろう。

 

「僕は帰国しようと思っています」

「な、何で!?」

「…どういうつもりだ」

 

 帰国、どう考えても危険だ。どうしても最悪な未来しか浮かばない。

 

「僕、あの人に会ってみたいんです。…会って話したいことがあるんです」

 

 ……シャル。

 

「ずっと、あの人のことは嫌いでした。今も嫌いです。きっと会っても嫌いだと思います。でも、誤解したままなのはよくない、気がします。ちゃんと知りたい。…そう思います」

「フランス国内には手の出しようがない。万が一、帰って来られない状況になったら…」

「覚悟の上です!」

 

 澄んだ瞳、ってこんな感じなんだろうね。迷いのない、躊躇いのない、瞳。

 

「そう言うことならしょうがないですね」

「光輝!まさかお前も!?」

 

 その場に立ち上がり、シャルの頭に手を置く。

 

「当然です」

 

 もしも、デュノア社長が推測通りの人なら、きっとシャルとうまくいく。違ったとしても実際に会わなきゃ始まらない。それすらしないのは、きっと、もったいない事。

 

「琥珀は整備中でしょ?万が一を考えると心配だわ」

 

 確かに僕に今、ISはない。でも、いつか誓ったように、それは関係ないんだ。

 

「シャルを守る。それにISは必要ないですよ」

 

 守ることに必要なのは気持ち、ってね。ベタだけどその通りだと思う。

 

「はぁ~、結局こうなるのか…」

「織斑先生の言った通りになりましたね」

 

 え?言った通り?

 

「万が一のつもりだったが。まあ、いい。馬鹿同士、お似合いだ」

 

 全然理解できないのはシャルも同じらしく、目があった。

 

「はい、シャルロットちゃん、光輝君」

 

 渡されたものを確認すると――。

 

「…航空券?」

「…しかもフランス行き?」

「「………………。」」

 

 僕らはたっぷり黙った後、驚きの声をあげる。

 

「「え、ええぇぇっーーーー!!!」」

「織斑先生がきっとこうするんじゃないかって」

「更識、余計なことを言うな」

 

 つまり、こうなるかも、って予想してたの?人間離れなんてレベルじゃないぞ、これ。

 

「ちなみに今日の夜中発だからな」

 

 そ、それはまた急ですね。

 

「…光輝」

「行ってこようか」

 

 もう一度撫でるとシャルは恥ずかしそうに頬を染めた。

 

「…うん!」

 

 いつかの約束を思い出す。この子を守るために。

 僕は結果がどうであれ、デュノア社長は絶対に一発殴る、そう心に誓った。

 

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