現在地、フランス。日本とは違い、八月にもかかわらず爽やかな日差しが僕らを照らす。湿気は少ないが、日差しが強い。嫌になるくらいの晴天とは、きっとこのことだろう。
「「………」」
僕らはお互い言葉を交わさずにいる。当然、シャルは不安だろう。不安でない訳がない。
「シャル」
「…なに?」
……ぎこちない笑顔を浮かべながら言われてもね。ちなみにシャルは当たり前だけど男装をしている。私服姿の男装は新鮮だけどやっぱりちょっと違和感があるね。
「せっかくだし観光しない?」
「…えっ?」
「シャルお勧めの場所とか教えてよ。あ、こう見えてもフランス語は話せないからね!」
「……」
最初は呆気にとられていたようだけど暫くして頷いてくれた。…強くなったな。爺臭いけど、そう思わずにはいられなかった。
「光輝、ありがとね」
「何言ってるの、エスコートはシャルに丸投げだからね」
「…ふふっ、そうだね」
少しは元気になったようでよかったよ。
「あと、どこからどう見てもフランス語は話せそうにないよ、光輝」
…なんというか、強くなったね。
シャル、エスコートのもと僕らはフランス観光を存分に楽しんだ。
凱旋門では―
「上にあがれるんだね。知らなかったぁー」
「ホント、いい景色…」
「シャル見て、見て。シャンゼリゼ大通りだよ!知ってる?」
「もぉー、当たり前でしょ」
「あ、次はエッフェル塔行こう、エッフェル塔!」
「はいはい、でもお昼食べたらね」
「えぇー、エッフェル塔ぉー」
「後でね」
シャンゼリゼ大通りでは―
「『オムレツとガレットを一つください。あとデザートに白桃のマリネと葡萄のテリーヌ』」
「『かしこまりました。デザートは食後にお持ちいたします』」
「『はい。お願いします』」
「『それではごゆっくり』」
「どうしたの、光輝?」
「シャルが……フランス語話してる」
「なにそれ。当たり前だから」
昼食では―
「何このクレープ、甘くないよ!?」
「あはは、それはガレットだよ。そば粉のクレープ、って感じかな?」
「そば粉!?」
「うん。最近は小麦粉が主流なんだけど、ここではそば粉を使ってるみたい」
「へぇ~。シャルのは何?」
「オムレツ。日本のより、かなりフワフワで美味しいよ」
「一口頂戴」
「え、ええ!?…え、ええっと…その……」
「あ、ごめん。嫌ならいいよ」
「い、嫌じゃないよ!ちょ、ちょっと恥ずかしい…だけ」
「別に切ったやつをくれれば…」
「あ、あーん!」
「き、聞いてた!?」
何でもない街並みでは―
「オ、オシャレ…」
「そう?」
「絵本の中みたい」
「それは言い過ぎだよ」
「ここで育てば、そりゃオシャレになるね」
「日本の瓦の方がすごいと思うけどなぁー」
「よーし、エッフェル塔まであと少し!」
「どれだけ楽しみなのさぁ」
エッフェル塔前広場では―
「いやー、近くに来ると結構高いねー」
「凱旋門の六倍だって」
「ろ、六倍!?」
「まあ、凱旋門が意外と小さいっていうのもあるけどね」
「なるほど。…ここで昼寝したら気持ちいいだろうね」
「盗まれても知らないよ」
「…」
そして最後に―
「ここが、お母さんの……?」
「…うん」
シャルの母親のお墓に来ていた。
「『お母さん…久しぶり…』」
シャルロットはデュノア社に呼ばれてから二年の間、軟禁状態にあった。無断での外出はおろか、情報統制もされた。そんな彼女が墓参りに行けるはずもない。
「『二年も来られなくて、ごめんなさい』」
フランス語で語られた言葉。何を言っているかは分からない。だけど、何となく分かる。そんな気がした。
「『私にも大切な人ができたよ。もう一人じゃないんだ。それも全部、光輝のおかげ。この人が私の大好きな人だよ、お母さん』」
お墓を見つめるシャルはとても儚く、それでいて力強く見えた。
――羨ましいな。
「光輝、大丈夫?」
いつの間にか隣にいたシャルが心配そうにこちらを見つめている。
「え?あぁ、うん。それより、もういいの?」
「うん。行ってきなさい、って言われた気がしたから」
「…そっか」
「だから、行こ!」
シャルはそう言うと自然に手を繋ぐ。普通なら嬉しいはずなのに、僕は何故だか胸のモヤモヤを悟られないよう必死だった。きっとそのせいだろう。尾行されいてることに気がつかなかったのは…。