光り輝くその瀬戸際に   作:いろすけ

33 / 64
トリコロール

 現在地、フランス。日本とは違い、八月にもかかわらず爽やかな日差しが僕らを照らす。湿気は少ないが、日差しが強い。嫌になるくらいの晴天とは、きっとこのことだろう。

 

「「………」」

 

 僕らはお互い言葉を交わさずにいる。当然、シャルは不安だろう。不安でない訳がない。

 

「シャル」

「…なに?」

 

 ……ぎこちない笑顔を浮かべながら言われてもね。ちなみにシャルは当たり前だけど男装をしている。私服姿の男装は新鮮だけどやっぱりちょっと違和感があるね。

 

「せっかくだし観光しない?」

「…えっ?」

「シャルお勧めの場所とか教えてよ。あ、こう見えてもフランス語は話せないからね!」

「……」

 

 最初は呆気にとられていたようだけど暫くして頷いてくれた。…強くなったな。爺臭いけど、そう思わずにはいられなかった。

 

「光輝、ありがとね」

「何言ってるの、エスコートはシャルに丸投げだからね」

「…ふふっ、そうだね」

 

 少しは元気になったようでよかったよ。

 

「あと、どこからどう見てもフランス語は話せそうにないよ、光輝」

 

 …なんというか、強くなったね。

 

 

 

 

 

 

 シャル、エスコートのもと僕らはフランス観光を存分に楽しんだ。

 凱旋門では―

 

「上にあがれるんだね。知らなかったぁー」

「ホント、いい景色…」

「シャル見て、見て。シャンゼリゼ大通りだよ!知ってる?」

「もぉー、当たり前でしょ」

「あ、次はエッフェル塔行こう、エッフェル塔!」

「はいはい、でもお昼食べたらね」

「えぇー、エッフェル塔ぉー」

「後でね」

 

 シャンゼリゼ大通りでは―

 

「『オムレツとガレットを一つください。あとデザートに白桃のマリネと葡萄のテリーヌ』」

「『かしこまりました。デザートは食後にお持ちいたします』」

「『はい。お願いします』」

「『それではごゆっくり』」

「どうしたの、光輝?」

「シャルが……フランス語話してる」

「なにそれ。当たり前だから」

 

 昼食では―

 

「何このクレープ、甘くないよ!?」

「あはは、それはガレットだよ。そば粉のクレープ、って感じかな?」

「そば粉!?」

「うん。最近は小麦粉が主流なんだけど、ここではそば粉を使ってるみたい」

「へぇ~。シャルのは何?」

「オムレツ。日本のより、かなりフワフワで美味しいよ」

「一口頂戴」

「え、ええ!?…え、ええっと…その……」

「あ、ごめん。嫌ならいいよ」

「い、嫌じゃないよ!ちょ、ちょっと恥ずかしい…だけ」

「別に切ったやつをくれれば…」

「あ、あーん!」

「き、聞いてた!?」

 

 何でもない街並みでは―

 

「オ、オシャレ…」

「そう?」

「絵本の中みたい」

「それは言い過ぎだよ」

「ここで育てば、そりゃオシャレになるね」

「日本の瓦の方がすごいと思うけどなぁー」

「よーし、エッフェル塔まであと少し!」

「どれだけ楽しみなのさぁ」

 

 エッフェル塔前広場では―

 

「いやー、近くに来ると結構高いねー」

「凱旋門の六倍だって」

「ろ、六倍!?」

「まあ、凱旋門が意外と小さいっていうのもあるけどね」

「なるほど。…ここで昼寝したら気持ちいいだろうね」

「盗まれても知らないよ」

「…」

 

 そして最後に―

 

「ここが、お母さんの……?」

「…うん」

 

 シャルの母親のお墓に来ていた。

 

「『お母さん…久しぶり…』」

 

 シャルロットはデュノア社に呼ばれてから二年の間、軟禁状態にあった。無断での外出はおろか、情報統制もされた。そんな彼女が墓参りに行けるはずもない。

 

「『二年も来られなくて、ごめんなさい』」

 

 フランス語で語られた言葉。何を言っているかは分からない。だけど、何となく分かる。そんな気がした。

 

「『私にも大切な人ができたよ。もう一人じゃないんだ。それも全部、光輝のおかげ。この人が私の大好きな人だよ、お母さん』」

 

 お墓を見つめるシャルはとても儚く、それでいて力強く見えた。

 ――羨ましいな。

 

「光輝、大丈夫?」

 

 いつの間にか隣にいたシャルが心配そうにこちらを見つめている。

 

「え?あぁ、うん。それより、もういいの?」

「うん。行ってきなさい、って言われた気がしたから」

「…そっか」

「だから、行こ!」

 

 シャルはそう言うと自然に手を繋ぐ。普通なら嬉しいはずなのに、僕は何故だか胸のモヤモヤを悟られないよう必死だった。きっとそのせいだろう。尾行されいてることに気がつかなかったのは…。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。