IS学園、閑散とした教室の一角。腕を組み、静寂を保っている人影が一つ。
「ああ、更識君ですか」
「学園長!」
十蔵とは対照的に焦りを隠しきれない様子の楯無。
「あなたですね。織斑先生に助言したのは」
「ええ、そうですよ」
「そうですって……それがどれだけ危険なことか分かっているんですか!?」
「それを決めるのは彼らですよ」
腕を組み直し、続ける。
「それにここへ残る選択もあったはずです」
「で、ですが…」
会話は終わりであることを示すかのように立ち去ろうとする。
「…学園長」
「何ですか?」
「…更識が掴んだ情報ですが、今朝、倉持技研が襲撃されたとの情報が入りました」
「…」
「目的は琥珀のデータ…」
「データ?」
十蔵が怪訝に思うのも無理はない。なぜならデータでなく、実物が傍にあるのだから。
「おそらく琥珀が倉持技研にあることを知らなかったのでは…」
「ただの偶然だと?」
その問いに対しては楯無も十蔵も肯定しかねるだろう。なんせ光輝がフランスへ行った直後の襲撃なのだから。
「…まさかデュノア社が?」
「いいえ、襲撃者の名は――」
「『デュノア社長の娘さんですね』」
明らかに怪しいスーツの男二人組。フランス語なので内容は分からないがシャルの反応を見る限り良い連中ではないのだろう。
「あ、あの…あなた達は?」
「『デュノア社長の御命令によりシャルル・デュノア様をお迎えに参りました』」
シャルル、分からないなりにそこだけハッキリと聞き取れた。その名はデュノア社の一部の人間以外は知らないはず。
「あ、あの」
「突然なんですか、あなた達」
「こ、光輝!」
シャルとスーツの男たちの間に入る。
「『部外者は引っ込んでいてもらおう』」
何を言っているのか、伝わっているのか、分からない。けど―
「いい大人が説明も無しに、って誘拐かよ。おっさん達」
「『邪魔だ、どかせ』」
後ろに控えていた男に何やら命令したと思ったら、突然突き飛ばされた。
「光輝!?」
「ぐっ、こいつら…」
「『さあ、シャルル様、こちらへ』」
「い、いや!」
男がシャルに近づこうとした瞬間、光輝は足に全ての力を入れ、バネのように飛び出す。
相手の一拍子目よりも早く仕掛ける、動の動き。零拍子。篠ノ之流古武術が裏奥義。もちろん一夏と箒の受け売りだけどね。
「はあ!」
勢い任せに放たれた掌打は運よく男の顎を捉えた。
「『貴様!』」
もう一人の男が激昂する。光輝は相手のリズムに合わせるように攻撃をいなす。当て拍子。
相手の呼吸に合わせ、自在に支配する技。
「ふぅ、日ごろの特訓の成果かな…」
なんとか男を押さえることに成功した。
「『ガキが!殺してやる!!』」
振り返るとそこには最初に倒した男が拳銃を向けていた。
パァン!
「光輝、大丈夫!?」
間一髪、リヴァイヴを起動させたシャルが割って入る。
「ナイスすぎ」
するとシャルは加速し、拳銃を持った男を取り押さえる。
「とりあえずは大丈――」
「『動くな、動けば殺す』」
背後から三人目の声。それは光輝にかけられたものではない。光輝を人質に取り、シャルにかけられた言葉だ。
「…IS」
何処からともなく現れた女性はISを纏っていた。
「『あなたに来ていただけるのであればコレに用はない。大人の対応を求める』」
「くっ…光輝…」
「ダメだよシャル。一旦逃げるんだ」
「で、でも」
「『早くしろ。さもないと―』」
「『待って…分かったから!』」
フランス語なのに不思議と分かる、なんて馬鹿なことを考える余裕もない。
「…ごめんね、リヴァイヴ」
そう言うとシャルはISを待機状態に戻してしまう。
「…シャル、ダメだ!」
瞬間、後頭部に重い衝撃が走り、光輝は意識を手放した。