なかなか急がしくて纏まった時間が取れなかったので投稿ができませんでした。
お詫びの意味も込めて今回は二話連投です。
次回はもっと早く投稿します。
「着いたわよ」
僕はスコールさんに連れられ、デュノア社の本社前に来ていた。現在は車中で目下、作戦会議中なんだけど…。
「スコールさん、流石に本社に真正面からはないでしょ」
「あら、大丈夫よ」
何が大丈夫なんだろうか。確かに一刻も早く乗り込みたいところだが。
「受付でスコールと名乗りなさい。それだけでデュノア社長と会えるわ」
「…」
唖然。そりゃそうだ。それでは入れるのならこの人は一体…。
「いいから、急ぎなさい。早くしないと愛しのお姫様が大変な目に―」
「何者なんですか!?さっきからどうにも訳知りだし」
「さっきも言ったでしょ?謎の美女、スコールよ」
そう言って笑うスコールさんは少し不気味な色を含んでいるような気がした。
「…誘拐?」
「はい」
目の前の女性が返事をするや否や、眼鏡の男が扉を開けて入って来た。
「お初にお目にかかります、シャルロット嬢」
「…あなたは?」
当然シャルロットの疑問に答えるわけもなく、隣の女性に席を外すよう言い渡す。
「あなたはあの人に命令されているんですか?」
その問いに対して男は薄気味悪く顔を歪ませる。
「大変失礼しました。わたくし、アルストラ社の者です」
アルストラ社…フランス国内でデュノア社に次いで二番目に巨大な企業。デュノア社程ではないがIS生産の分野にも手を出すくらいの最先端技術を有している。
「なんでそんな人が…?」
「なんで、と言われましても」
「誘拐なんてして何が目的なんですか!?僕を人質にしてもデュノア社は―」
「まさか。そんな悪い事しませんよ。ただ、不正は見過ごせないだけです」
「不正?」
男は短く笑い、眼鏡を一度かけ直す。
「実はIS学園にデュノア社の犬が編入した、との情報が入りましてね。にわかに信じがたいのですがそいつは男だとか」
「…!?」
「もしそれが男のふりなら大問題だと思いませんか?」
「…」
男はシャルロットの表情を舐め回すように観察する。まるで反応を楽しむかのように。
「クハハハ、お前の存在をIS学園、および全世界に公表する、って言ってんだよ」
「そ、そんな…」
例えIS学園の書類上、男性操縦者の護衛のための男装だとしても影響は大きいだろう。IS学園どころかフランス国内にもいられなくなってしまうかもしれない。生徒の目を誤魔化すのとはわけが違う。IS絡みの問題は想像以上にデリケートなのだ。よくて牢屋、まさしくその通りだ。
「お前に利用価値はないが専用機と男性操縦者のデータは使えそうだな」
「い、いや!いやゃ!」
「喚くな、小娘。取り押さえろ」
そう言うと扉からスーツに身を包んだ如何にもな装いの男たちが現れる。
「殺すなよ。大切な容疑者なんだからな」
僕は現在、デュノア社内部にいる。おそらくは応接室…なのだろう。本当にスコールと名乗るだけでここまで来られた。いよいよ何者なのだろうか、あの人は。なんて考えていると応接室の扉が開かれる。
「『何の用だ。お前たちとはもう二度と―』」
怒鳴り声を上げ、入って来たこの男こそが一代でデュノア社を作り上げたシャルロットの実の親。つまりはこいつがシャルを…。
「『…日本人?』」
「あんたがシャルロットの父親か?」
「…君は噂の男性操縦者じゃないか」
どうやら日本語を話せるらしい。デュノア社長は一度こちらに目を向けると、今度は窓の外に視線を向けた。
「質問しているのはこっちだけど」
「ああ、そうだ」
短く吐き捨てられた言葉。抑揚のないその言葉からは娘の心配をしているようには到底思えない。
「時間が惜しいから単刀直入に聞くけどシャルロットは?」
「何の話だ?」
シラを切っているようには思えないが、一応カマかけておくか。
「まあ、IS学園の部隊が既に救出したんですけどね」
「…だから何の話だ?」
…惚けている、というよりこの話自体、知らないのか?ならこれは反社長勢力の仕業か?
「さらわれたんですよ、シャルロットが」
「…」
「デュノア社が命じた帰国命令に従ったらね」
「…そうか」
あまりに落ち着いた返事だった。実の娘が誘拐されたというのに。まるで他人事のように。そう絶望していたときのシャルロットのように。
…なんだ、やっぱり親子だね。
もっと怒りが湧くかと思った。もっと虚しいと思った。でも、何故だか不思議と落ち着いている。
「申し遅れました。瀬戸光輝です」
この人ならきっと大丈夫。そう直感したのかもしれない。
「反社長勢力にさらわれたとして、目的は何だと思いますか?」
「…私を疑わないのかね?」
僕の問いが予想外だったのか今まで窓の外に向けていた視線を僕へ向ける。
「質問しているのはこっちだと言いませんでしたか?」
「…おそらくは私の失脚を狙ってのことだろう。アレの存在が公表されれば私は終わりだからな」
アレ、か…。
「それはデュノア社も同じでは?」
確かにシャルロットの存在は社長を失脚させるに足るものだろう。それどころかデュノア社自体、存続できないほどだ。しかしそれではいけない。乗っ取る会社が倒産してしまっては意味がないのだから。
「簡単さ。バックに別の企業がいる、それだけだ」
潰すついでに乗っ取る、ってことか。腹黒すぎでしょ。
「まあ、どうなろうと私が終わりであることには変わりないがね」
自嘲気味に笑うデュノア社長。その諦めにも似た表情に沸々と怒りが湧いてくる。
「シャルロットを助けたくないのか?」
「今更だな」
「確かに今更だが、このままだとあいつはあんたより残酷なことになる」
「…」
だんまりか。まあ、予想通りだけどさ。
「IS学園特記事項二一」
「…」
「あなたも望んでいたのではないですか?」
「…!?」
僕的にはこの問いだけで動揺している時点で答えは出ているのだが、それは本人の口から聞かなくては意味がない。
「あなたはシャルロットのことを―」
「必死に考えてもらったとこ悪いが私はアレを邪魔者としか見ていない」
強引に言葉を遮り、反論するデュノア社長。しかし、僕にはそれは言い訳をする子供のようにしか見えなかった。
「じゃあ、殺せばいいじゃないですか?」
「なに?」
「あなたを除けば天涯孤独。後ろ盾どころか、親しい人の一人もいない。いなくなったところで誰も悲しまない。なんなら事故でも装えばいい」
実際、いくらでもやりようはあるだろう。フランス政府すら味方につける大企業の社長が餓鬼一人消すくらいわけはない。
「そ、それはアレに利用価値があったから」
「……」
冷静を装っていた仮面にボロが出始める。
「あいつは…シャルロットはあなたに会いたいと言っていました」
「なっ…」
「大嫌いだけど勘違いしたままなのはよくない、って」
「………」
「本当に馬鹿ですよね。けど、信じたいんですよ」
「…あの子がそう言ったのか」
こちらを睨む視線はどこか期待を含んでいるように感じた。
「知りたければ直接聞いてください」
それだけ言って僕はデュノア社長を睨み返す。
「シャルロットの居場所に心当たりは?」
「…君一人で行く気か?」
「当たり前です。シャルは大切な友達ですから」
「…そうか」
これ以上ここにいても無駄骨かな?さて、どうしようかな。
「待て!」
「何ですか?」
「…あの子は元気か?」
泣き出しそうで気まずそうな下手くそな笑顔。その顔はよく知っている。シャルロットの顔だ。
「ええ、とっても」
「そうか」
…しょうがないから殴るのはシャルロットに任せることにするよ。