光り輝くその瀬戸際に   作:いろすけ

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番外編5
夜空に浮かぶ色彩論


SIDE ~セシリア~

 

 長かった夏はもう終わり。来週からはいつも通り、学校が始まる。世の学生なら今頃は前半戦を放棄したつけとして、課題の消化に追われている頃だろう。しかし代表候補生であるセシリア・オルコットには当てはまらない。だからこそ浴衣で夏祭りに行く、という勝ち組イベントが発生しているのだ。

 

「セシリア!」

「こ、光輝さん」

 

 セシリアと光輝は臨海学校での約束を果たすため、夏祭りに来ていた。約束のため、とはいえ両者がデートと認識したお出かけ。傍から見てもガチガチに緊張しているのが伝わりそうなほどセシリアはテンパっていた。

 

「ごめん、待った?」

「い、いえ、そんなことは…」

 

 …か、かっこいいですわ。

 光輝も浴衣で来たのだが、その姿に早くもノックアウト寸前のセシリア。

 

「へぇー、セシリアも浴衣なんだね。可愛いね」

 

 そんな何気ない一言でさえ嬉しいと感じてしまうのは恋する乙女の特権だろう。

 

「光輝さんも…その…かっこいい、ですわよ」

「そう?ありがと」

 

 互いに褒め合い、笑い合う。今となっては当たり前のことだが入学当初は想像もできなかった光景だ。

 本当に信じられませんわね。

 

「セシリア?どうしたの?」

「…い、いえ。あまりにも屋台の種類があるので驚いておりましたの」

「あぁ、そっか。どれから行く?」

「ええっと、あまりよく分からないので光輝さんのお薦めでお願いします」

「おっけ」

 

 そう言って光輝はお目当ての屋台へと向かって歩き出す。セシリアの手を引きながら。

 こ、光輝さん!?いきなり…そんな…積極的ですわ。

 光輝的には逸れないため、くらいの認識なのだがそんなことはお構いなし。恋する乙女には関係ないのである。

 

「まずは屋台のド定番、射的だよ!」

「射的?」

「射撃成績では敵いっこないけど、これは別だよ」

「なるほど。確かにISの射撃とは勝手が違うようですわね」

「生まれてこの方、一五年。屋台で培ったこの腕前。とくとご覧あれ」

 

 

 

 

 

 

「ふっ、こんなもんかな」

「あ、ありえませんわ!?」

 

 慣れた手捌きで放たれた結果は―

 

「ぜ、全弾外すなんて…」

 

 …あまりお上手ではないようですね。それにしても掠りもしないのは流石に。

 

「セ、セシリアもなかなかやるね。あは、あはは」

 

 射撃成績も射的成績も散々な光輝とは対照的にセシリアはスナイパーを思わせる構えから次々と景品を落としていく。

 

「コツさえつかめば案外簡単ですわね」

「お、おう」

 

 あの顔はかなり悔しがっていますわね。相変わらず分かりやすいんですから、ふふ。

 

「一回戦目はセシリアに譲るよ」

 

 いつの間にか戦いになっておりましたの!?

 

「でも、次は勝つ!行くよ、セシリア」

 

 意地になって、子供みたいですわね。弟とはこんな感じでしょうか?

 ふと、そんなことを思うと途端に光輝が愛らしく見えてきた。

 

「セ、セシリア!?」

 

 無意識に。本当に無意識に光輝の頭を撫でてしまった。

 

「もしかして馬鹿にしてる?」

 

 少しムッとして顔をしかめる仕草も今のセシリアには愛おしい。

 

「そんなことないですわよ。ただ光輝さんが可愛らしいからつい」

 

 そう言って撫でると今度は赤くなってそっぽを向いてしまう。

 クスッ、光輝さんったら、これでは本当に弟ではないですか。

 

「光輝さん、次はあちらに行きませんこと?」

 

 珍しく光輝から主導権を握り、上機嫌なセシリアだった。

 

 

 

 

 

 

「もうすぐだよ」

 

 夏祭り名物の花火を見るためセシリアたちは待機していた。

 

「むむっ、光輝ではないか」

「ん?ラウラ?」

 

 ラ、ラウラさん!?何故、ここに!?

 

「むっ、セシリアもいるのか」

 

 綿あめを食べながらこちらに近づいてくる。ラウラも浴衣に身を包んでおり、その姿は妖艶で、普段の可愛らしい雰囲気とはまた違った魅力があった。

 

「内緒でセシリアとデートとは光輝も隅におけないな」

 

 な、な、な、何を仰っていますの!?

 

「あはは、ラウラは一人?」

「いや、私は―」

「おう、光輝。なんだよ、お前も来てたのか」

「どうしてあんた達がいるのよ」

「なっ、セシリアと二人きりなのか!?」

 

 一夏さんに鈴さん、箒さんまで。それに…。

 

「ど、どうして光輝とセシリアが二人でいるのさ!?」

 

 シャルロットさん…。

 

「こんなことなら初めからみんなで来ればよかったな」

「ねえ、光輝ってばぁ!」

「シャル、浴衣似合うね」

「え、そうかな。えへへ。…じゃ、じゃなくて!」

「嫁、箒、花火の隠れスポットとはどこだ?」

「おお、そうだった。みんな、急ぐぞ」

「まずい、もう始まるぞ」

「あんたらも急ぎなさいよ」

 

 何気ない会話なのに、なぜでしょうか。胸がざわつく…。いつもと変わらないはずなのに、なぜでしょうか。胸が締め付けられる…。ああ、光輝さんも…そうでしたのね。

 

「嫁よ。花火が始まったぞ」

「一夏が金魚すくいなんかでムキになるからいけないのよ、馬鹿」

「俺のせいかよ」

「セシリア、早く。みんなに置いてかれるよ」

 

 差し出された手。それはいつもなら嬉しいはずなのに…。握り返すことなく、光輝の隣をすり抜けた。

 

「―――。」

 

 すれ違いざまに発せられた言葉が光輝の鼓膜を揺らし、そして静かに響く。夜空に映し出された花火の音に紛れて。

 

「…セシ…リア?」

 

 夜空に咲いた花びらは儚く消えた。

 

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