光り輝くその瀬戸際に   作:いろすけ

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青は藍より出でて藍より青し

 第二整備室。普段の僕なら絶対に訪れないような小難しい場所に来ていた。

 

「一夏?」

「ん?光輝、なんでここに?」

 

 それはこっちのセリフだよ。一夏だってこんなとこ来そうにないのに。

 

「一夏こそどうしたのさ?」

「いや、ちょっと白式をな…」

 

 一夏の専用機である白式は福音戦で暴走している。理由は不明。まあ、それがハッキリしないことにはまともにISを扱えないだろう。一夏には悪いけど福音戦は確実にそれが原因で劣勢になったのだから。

 

「んで、光輝は?」

「えっと、僕はね」

 

 ある方向を指さすと一夏もそれに倣う。そこにいたのは一人の女の子。ショートカットの青い髪。眼鏡をかけ、無表情で何やら難しそうな作業に没頭するその姿は髪色とは対照的に内気なイメージを連想させた。

 

「この子は?」

「〝更識簪〟さん。通称、かんちゃん」

「…怒りますよ」

 

 どうやら内緒話がバレちゃったみたいだね。まあ、大してヒソヒソしてなかったけど。

 

「俺は織斑一夏。よろしく」

「…知ってる」

「流石、一夏。有名人だね」

「…あなたも同じ」

 

 簪ちゃんの得意とするボソッとツッコミが炸裂する。

 

「……」

 

 何も睨まなくてもねぇ。

 

「更識って楯無さんの妹さん?」

「…っ!」

「え?」

 

 はあー、馬鹿だな、一夏は。人の触れたくないところを突かせたら右に出る者はいないね。

 

(なあ、光輝。なんで睨まれたんだ?)

(簪ちゃんに楯無さんの話は禁句だよ)

(なんで?)

(それは僕より一夏の方がよく分かってるんじゃない?)

(!!)

 

 そもそも僕がここにいる理由は楯無さんからの頼みによるところが大きい。

 

『お願いがあるの』

『お、お願い?』

『そう!私の妹をお願いします!』

 

 さっぱり意味の分からない頼みだったけどね。

 詳しく聞いてみるとどうやら更識姉妹は仲が悪いらしい。悪い、というか単にすれ違っているだけな気がするけど。

 突如現れた男性操縦者のせいで日本代表候補生の専用機が用意できなくなってしまった。つまりは簪ちゃんのISが未完成のまま放置されたんだって。僕が言えたことじゃないけど仕事しろよな、倉持技研。

 本当の問題はその後。一人で専用機を調整した姉を意識するあまり整備科の上級生にも頼らず、たった一人でISと睨めっこ、というわけだ。

 

「かんちゃーん、こっきー、調子どうー?」

「…本音」

「のほほんさん!?」

「って、おりむー。どうしたのー、珍しいねー」

 

 なんだか似てるんだよ。一夏、それに箒に。頼みによるところは確かに大きいけど、関わってみて分かった。きっとこの子はいい子だ。だから力になる。

 

「い、一夏!?」

「おう、箒。俺を見つけるとみんな同じ反応するんだな…」

「当然だよー。かんちゃんどうー?」

「…武装がまだ………それに稼働データも取れていないから…実戦は無理」

「そうなのか。しかし逆に言えばそれだけなのだろ?もうすぐだ、簪」

「そうそうー。今までに比べたらビックリする速さだよー」

「…箒…本音……」

 

 一人で睨めっこ、それが今では簪ちゃんにのほほんさん、箒に僕の四人で睨めっこだ。最初こそどうなることかと思ったけど案外仲良くやれている。対姉同盟ってとこかな。

 

「簪さん、ちなみに武装って?」

「マルチロックオンシステムによる高性能誘導ミサイル…。それと荷電粒子砲…」

「荷電粒子砲!それなら白式のデータを使えるな!」

 

 おぉ!その手があったか!!

 そう思ったのはみんな一緒のようでまるで賢い人を見る目で一夏を見ている。…馬鹿のくせにね。

 

「おりむー、頭いいー」

「武装に取り掛かる前に一度機体のチェックをしておいた方がいいのではないか?」

「…確かに」

「それなら早速試してみようよ」

 

 口々に意見を言い合っていると簪ちゃんが遠慮がちに口を開く。

 

「あ、あの…ありが…とぅ」

「どうってことないって。それより調整始めようぜ」

「一夏、一応確認しておくがIS整備には頭を使うぞ?」

「…うっ」

「おりむー、ふぁいとー」

 

 みんなに混じって笑い合う簪ちゃんを見ていると楯無さんは心配し過ぎなんだって思うよ。

 

 

 

 

 

 

「スラスター出力………チェック……」

 

 第六アリーナのピットで自らの専用機である《打鉄弐式》のコンソールを開きながら、全ての数値に目を通していく。調整に調整を重ね、いよいよテスト飛行を迎えたのだ。

 

「大丈夫か?」

「う…うん……」

「じゃあ俺が先に飛ぶから、後に続いてくれ」

 

 そう言うと一夏は最低速で飛行を開始する。

 

「わ、わかった…」

 

 簪は腰を落として偏向重力カタパルトに両足をセットする。一気に機体を加速、第六アリーナの空へ飛び出した。

 

(機体制御は…大丈夫……。あとはハイパーセンサーの…接続、連動……)

 

 ピピピッとハイパーセンサーが白式を捕捉する。

 

「かんちゃん、成功だよー」

 

 スピーカーからコンソールルームにいたのほほんさんの声が聞こえる。出力自体はまだまだだけど第一段階は完了だろう。

 

「…ふぅ」

「やったな、簪!」

 

 二人はスラスターの出力を押さえ、空中で静止する。

 

「よし、それじゃあ一夏、お願い」

「おう」

 

 答えると同時に雪羅の形状が変化し、荷電粒子砲を呼び出す。

 

「どう?のほほんさん」

「やっぱり実戦データが少ないかなー」

「では試しに撃ってみてはどうだ?」

「さんせー」

 

 上空で待機していた二人も伝わったらしく簪が降りてきた。誰もが安心したとき、打鉄弐式の右脚部ブースターが爆発した。

 

「!?」

 

 突然の衝撃と姿勢崩壊で簪は機体ごと大きく傾いて中央タワーの外壁へと一直線に突き進んでいく。

 

(反重力制御が効かない…!?)

 

 ディスプレイに浮かぶエラーの数々。迫る外壁に反射的に目を閉じてしまう。

 

「簪ぃぃぃっ!」

 

 瞬間加速によるスラスター最大出力で一夏は簪さんと壁の間に割り込む。

 

「お、おりむら……くん…」

「大丈夫か?」

「え?……う…うん…」

「そうか。それならよかった」

 

 色男の手によって更識簪が攻略された瞬間だった。

 

「おりむーの女たらしー」

 

 簪の専用機の完成はまだ先になりそうだ。

 

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