光り輝くその瀬戸際に   作:いろすけ

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忍び寄る警告色

「つ、疲れた…」

「こっちはサックスまで吹いたんだから…」

「お疲れ…」

 

 僕と一夏は想像を絶する忙しさにグロッキー寸前だった。お店の方が少し落ち着いてきたので今は休憩中である。とはいえ、燕尾服でウロウロしていても目立つし、逆に疲れることになるので人のいないところに避難した。具体的にどこかと言うと最近お世話になっている整備室だ。ここなら一般開放もしていないし、生徒もいない。

 

「なんで女子ってあんなに盛り上がれるんだ?」

「今回ばかりは一夏に同意」

 

 いざという時のテンションの高さは男子には到底ついて行けないよ。冗談抜きでね。

 

「…一夏…光輝」

 

 誰もいないと高を括っていたからか、飛び上がって驚いてしまった。

 

「…そんなに…驚かなくていい」

「簪ちゃん!?」

「簪も一時避難か?」

「…そんなとこ」

 

そう言うと一夏の隣に座る簪ちゃん。

 

「「「…………。」」」

 

 たっぷりと沈黙がその場を支配する。けれどそれは嫌な沈黙ではない。僕を含め、みんなこの沈黙が好きだ。爺臭いとは自分でも思うけどね。その沈黙を破ったのは意外や意外、簪ちゃんだった。

 

「…白式…調子どう?」

「あー、いや、悪い」

 

 結局のところ白式の暴走の原因は分からずじまい。何度も整備科の人に見てもらったし、倉持技研にも聞いたんだけどね。

 

「意識を失う前にさ、誰かに会った気がするんだよな」

「…?」

「不思議な雰囲気の人だった…」

「…その人とは……どこで会ったの?」

「え、えーっと、ISの中?」

「…何言ってるの?」

 

 一緒だ。情報は少ないし、確証もない。でも直感的にそうだと感じた。

 

「悪い、勘違いだよな。忘れてくれ」

 

 違わないよ。僕もその人に会ったんだ。とは、何故だか言い出せなかった。

 

「休憩時間も無限じゃないし、そろそろ行くか」

 

 一夏の言葉に従って立ち上がろうとしたとき、突如声を掛けられた。

 

「ちょっといいですか?」

「はい?」

「失礼しました。私、こういうものです」

 

 スーツの女性は手早く名刺を取り出して渡してくる。

 

「えっと…IS装備開発企業みつるぎ渉外担当、巻紙礼子さん?」

 

 名刺の内容を丁寧に読み上げる一夏。正直、この手の企業は後を絶たない。自惚れる気はないけど男性操縦者がもたらす宣伝効果は絶大なのだ。

 

「ぜひお二人には我が社の装備を使っていただきたいと思いまして」

「あの、こういうのはちょっと……とりあえず学園側に許可を取ってからお願いします」

 

 一夏はいつも通りに断っている。一般開放されていないところにまで侵入して交渉するガッツはすごいけどね。

 

「そう言わずに。追加装甲や補助スラスターなどいかがでしょうか?」

「いや、本当にいいんで」

 

 なかなかしつこい人だな。

 一夏に助太刀するため立ち上がろうとしたところで異変が起きた。

 

「では仕方ありません」

 

 スーツの女が一夏に触れた瞬間、突然電流が走った。

 

「がああああっ!!」

「一夏!」

 

 反射的に立ち上がった僕と簪ちゃんだがスーツの女が展開したISに弾き飛ばされる。

 

「素直に渡さねえからこうなるんだぜ」

「ぐっ」

 

 電流が弱まり、一夏が解放される。不意打ちには驚いたけど一夏がそれでくたばるはずがない。明らかな油断だった。そして、それを見逃す一夏ではない。

 

(今だ――!)

「当たらねえよ、ガキ。ISのないお前じゃな!」

「なっ!?」

 

 腹を殴られ、床に叩きつけられる。その痛みでようやく気が付いた。白式がないことに。

 

「な、何が起こったんだ。白式、おい!」

「死ねや」

「一夏、後ろ!」

 

 簪の叫び声が届くより先に女のISが一夏を切り裂いた。

 

「そうはいかないんだな、これが」

 

 寸でのところで光輝が割り込む。

 

「あと、一匹か」

「はぁ!」

 

 最優先事項は一夏を敵から遠ざけることだ。そう判断すると相手の攻撃を利用して一度距離をとる。

 

「ハハハ!やるじゃねえかよ、ガキ」

「一夏、何があったの!?」

「白式が…白式がないんだ」

 

 その言葉通り装甲も装備もすべてなくなり、ISスーツだけが残っていた。

 

「へっへっ、お前の大事なISならここにあるぜ」

 

 女が手にしているものは、菱形立体のクリスタルだった。それは紛れもなく白式のコア。第二形態まで発展した証として通常のコアより強い輝きを宿している。

 

「さっきの装置はなぁ!剥離剤―リムーバーっつうんだよ!」

 

 聞いたこともない兵器だが、現に一夏の白式は奪われてしまった。

 

「…あなた、何が目的なの!?」

「はあ?あなたじゃねえ。秘密結社『亡国機業』が一人、オータム様だ。覚えとけ」

 

 そう言うなり完全なIS展開状態になるとクモの脚に似た八つの装甲脚をこちらに向ける。どうやら先端は刃物になっているようだ。その先端が割れたかと思えば、銃口が姿を現す。

 

「一夏、簪ちゃん。逃げて」

「でも!」

「誰かを呼んで来てね」

「光輝、お前!」

「どう考えてもそれが最善でしょ」

 

ISをまともに扱える人が僕だけである以上、仕方ない。むしろ、いち早く増援を呼んでもらえると助かる。

 

「…分かった」

「簪!?」

 

 簪ちゃんは僕の意図を酌んでくれたようで一夏を連れて行こうとする。

 

「ああ、そうそう。ついでに教えてやるよ。第二回モンド・グロッソで織斑一夏、お前を拉致したのはうちの組織だ!感動のご対面だなぁ、ハハハハ!」

「―――!!」

 

 マズい!

 沸点を超え、闇雲に飛び出そうとした一夏を押さえる。ISを装備していない状態で飛びかかればまず間違いなく殺される。

 

「離せ、光輝!!」

「落ち着け、馬鹿!!」

 

 ここまで怒りを露わにした一夏を見るのは初めてだ。

 

「お前ら、ここから出たいようだがそれは無理だぜ」

「…なんで」

「全システムをロックしてんだよ。外へ出ることはもちろん、外から入ってくることもできねえよ」

 

 IS学園のシステムを乗っ取った!?ハッタリだと思いたいけど簪ちゃんの表情を窺う限り本当らしい。

 

「簪ちゃん、一夏を押さえてて」

「光輝、待て!」

「…ごめん、一夏」

 

 簪ちゃんは打鉄弐式を呼び出し、一夏を押さえる。戦いに参加できなくとも身を守るくらいなら今の簪ちゃんのISでも可能だ。

 

「さぁて、お楽しみタイムといこうじゃねぇか」

 

 僕は一呼吸おくと、トライデントを構え、オータムと名乗る女と向き合った。

 

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