新たな色
倉持技研。IS学園はもちろん、中心街からも離れた場所にある研究所。山奥と言って差しつかえない場所だが、これでも日本が誇るIS開発の総本山だ。
「…光輝」
「どうしたの?シャル?」
倉持技研が発表した内容はこうだ。
フランスの大企業、デュノア社と統合。両社の名はそのままに技術提供を行う。また共同でIS開発を行う。
もちろん、第三世代のISを作る倉持技研とデュノア社が対等な技術提供などできるはずはない。裏があるのだ。
「また楯無さんに迷惑かけちゃった。それに織斑先生にも」
「大丈夫。二人はそんなこと思ってないよ」
デュノア社は言うまでもなく第三世代の技術提供。対して倉持技研は操縦者の提供。今までは国として渡された琥珀だったが、デュノア社と提携を結ぶすることにより、正式に倉持技研の操縦者となったのだ。男性操縦者を獲得できるチャンスをみすみす棒に振る訳はない。とは言え千冬さんと楯無さんの力によるところが大きいのは事実だ。
「…光輝にも迷惑かけちゃったね」
「もぉー、ネガティブ発言禁止。それ以上言ったらクラスター爆弾丸呑みの刑だよ」
「え、なにそれ…怖い」
というわけで、瀬戸光輝は倉持技研所属の操縦者になりました!就職難のご時世に有難いオファーですよ、ホント。
「それにしても遅いね」
「…そうだね」
僕らは倉持技研に来ていた。今は社員の人に待機していて、と言われた場所にいるのだが、一向にやって来ない。かれこれ三〇分以上は待っている気がする。
「お待たせ!待った?」
長い犬歯が特徴的なこの人は〝篝火ヒカルノ〟。倉持技研の第二研究所所長。驚くほどフランクな…というより変人なのかもしれない。
「さっそくだけど瀬戸君は新兵器のテストよろしくね。デュノアちゃんは彼の相手ね。初めてでぎこちないだろうけどちゃんと満足させてあげなさいな」
…変人と言ったことを訂正しよう。この人は変態だ。
「…ひゃ、ひゃあ!?」
「ああ、安心して。私は女。ゆえに気にしない」
あろうことか、この人、シャルのお尻を揉んでやがる。
「いやー、十代のお尻はいいねぇ」
「こ、光輝!?」
…何も考えていませんよ?全く、一切、微塵も!
なんて馬鹿なことをしているうちに試験場に着いたらしい。
「じゃっじゃあーん!ここでテスト飛行を行ってもらおうか」
「「おおぉー!」」
さすがは日本が誇るIS開発研究所、と言ったところか。そこはIS学園、いやそれ以上の設備が揃っていた。白を基調とした清潔な部屋、その隅に待機している大型の機材。天井を這う太いコードに無数の照明機材。さらに特筆すべきは二階席のように設置された卓。周りは強化ガラスらしきもので覆われている。いかにも研究室、と言った雰囲気の部屋だった。
「IS展開よろー」
「あ、はい」
おそらく倉持技研とデュノア社の研究員なのだろう。日本人とフランス人が点在している。
「琥珀、行くよ」
僕は琥珀を呼び出すとヒカルノさんはケーブルを繋ぎ、インストールを開始する。
「今入れたのが琥珀専用の武装。円盤型移動砲台。その名も《ゴルゴーン》。武器リストに入っただろうから一度、展開してみて」
「はい」
それは僕の両肩辺りに浮かび、たとえ激しい動きをしても必ずついてくる。
「おほぉー、いい感じ。じゃあ、デュノアちゃんも」
シャルもリヴァイヴを展開し、飛翔する。
「んじゃあ、さっそく実践テストといきますか」
「あ、あの」
「なにかな?男の娘ならぬ女の娘」
それ普通ですから!
「僕は、どんな風に攻めればいいですか?」
「んー、私的にはデュノアちゃんは受けな気がするけど」
「な、なんの話ですか!?」
真っ赤で怒るシャル。…うん、確かに受けだな。
「光輝!」
ごめんなさい。
「いつも通りでいいわよー」
「わ、分かりました」
シャルは切り替えるとすぐさまアサルトライフルを二丁展開。発砲を開始する。
「いくよ」
初撃を躱し、接近を試みるが、さすがはシャル。容易に距離を詰めることはできない。
「やるね……けど!」
ゴルゴーンが火を噴く。左右に浮かぶ二門の円盤からレーザーが射出された。
「狙いがあってる!?光輝なのに!?」
シャルの驚きはとても心外だが、確かに僕に射撃のセンスはない。では何故、扱えるのか?その疑問に答えるようにヒカルノさんが続ける。
「ゴルゴーンには目がある。正確には常に放出している人間には聞こえない超音波の跳ね返りを感知しているんだけどもね」
「それって!」
そう、僕が得意とする反響定位そのものだ。
「感知したら自動でロックから砲撃までこなす。瀬戸君のようなお粗末な技術でも扱えるってわけ」
「それ、ズルくないですか!?」
「…確かに」
「それだけじゃない」
ヒカルノさんの言葉と同時に僕はアイギスを展開。そしてゴルゴーンがアイギスへとはめ込まれる。これこそがゴルゴーンが琥珀専用たる所以。
「プラズマ装填!」
全身を覆うゴルゴーンを含むアイギスがプラズマエネルギーに包まれる。瞬間、消えた。
「え?」
比喩ではない。プラズマを纏ったと思った瞬間、アイギスが霧散したのだ。
「光輝?」
「構わず続けて、シャル」
最初は戸惑っていたシャルだが僕のセリフを聞くと射撃を再開する。弾丸に当たらないよう接近するが、シャルはそれを承知であえて突っ込んできた。しかもお得意の高速切替ですでに近接武器を呼び出している。
ガキイィィィン―――――。
互いの武器が衝突する――かと思ったがシャルの攻撃は一部のみ展開したアイギスによって防がれた。
「隙あり!」
予想外の盾に防がれ、動きの止まったシャルにトライデントの一閃を浴びせる。しかし、シャルは直前で立体機動を行い、難を逃れていた。
「すごっ!今の躱すなんて!瀬戸君、彼女のが強いってどうなわけ」
ヒカルノさんが何か言っているけど無視しよう。分かりきった事実ですけどね、そんなこと。というかシャルはシャルでどうして真っ赤になっているのさ。
「光輝、今のは?」
冷静になったシャルが聞いてくる。
今のは《プラズマ化》によるアイギスの非実体化。そしてゴルゴーンの能力により攻撃を察知。その瞬間だけ必要最低限のアイギスが実体化し防いだ。詰まる所、完全な自動絶対防御。
「…ヒカルノさん、ちょっとやり過ぎじゃないですか?」
「ぬはは、わが社とフランス一の名企業、デュノア社の手に掛かればこんなものよ」
…本当にぶっ飛んでいるな。
「へぇー、確かにすごいね。でもインターバルがない訳じゃないでしょ?」
そう言いながら銃を構えるシャル。どうやら本気みたいだね。
「いくよ、光輝!」
飛び出そうとしたとき、プライベート・チャンネルにメッセージが入った。
「ん?ちょっと待って!」
「え、どうしたの?」
送信者は楯無さん。…嫌な予感しかしないな。
そう思いながらコールに出る。
『やっと、つながった!』
『どうしたんですか?今それなりに忙し―』
『IS学園が何者かの手によって襲撃されているの』
『はぁ?』
『早く戻ってきなさい。生徒会長命令よ』
余程焦っていたのかそう告げるなり切れてしまう。僕は理解しきれないままシャルに伝える。
「襲撃!?と、とにかく急がなくちゃ」
やはり代表候補生。緊急時の対応の早さは群を抜いている。
「このままIS学園まで行くよ?」
向こうがどんな状況なのか分からない。どれほどの緊急事態なのかも理解できない。だけど―。
「僕一人で行く」
「な、なんで!?」
シャルにはまだ、ここですべきことがある。だから僕一人で行く。
「光輝!」
シャルが浮かべている感情は焦りや驚きと言ったものではない。怒りだ。僕が一人で危険なところに行くと言ったことに対する怒りだ。
「シャル、よく聞いて。シャルはまだ会わなきゃいけない人に会ってない」
「…え?」
「ヒカルノさんに言えば会わしてくれるはずだよ」
「光輝?なんの話?会うって誰に?」
全く理解できない、と言った顔で聞いてくるシャル。だから僕は一言だけ告げた。
「君のお父さんだよ、シャル」