【数日前】
僕は訳あって倉持技研という研究所に来ている。そもそも倉持技研とは僕や一夏、それに簪ちゃんのISを作った日本のIS製作機関だ。まあ、そんな凄いとこなのだから都会にあるのだろうと決めつけていた。実際にある場所は人里離れた山の中。
「…迷った」
だから迷った。大体ここに来るのにすでに電車を乗り継いで一時間。そこからさらにバスで一時間。いや、冷静に考えたらISという一歩間違えれば兵器になり得る最先端技術の塊を作っているのだ。人がいるところではできないのだろう。
「ここかな?」
その後たっぷり一時間ほど遭難したところでそれらしき建物を発見する。
「…近くまで迎えに来てくれるんじゃなかったのー」
迎えとか子供じゃないんだから、とか出発前に思っていたのは内緒だよ。
――さわさわっ!
「のわあっ!?」
いきなり尻を撫でられ、すっ転びそうになる。どうにか体制を立て直すとそこには水中メガネをつけた見るも怪しい女性が立っていた。
「んーふふ。未成年のお尻はいいねぇ」
にやりと三日月のように口を歪ませ笑うとドラキュラのような長い犬歯が顔を出す。
僕は篝火ヒカルノ―――もとい、変態に出会った。
「君が瀬戸君ねー。思ったより普通なのね」
結局、変た――ヒカルノさんに連れられ研究室の一部屋へやって来た。
「んでんで、君の専用機に装備する武器を作るんだけど何か要望あったりする?」
「…いや、特には」
「つまらないなー。そこは全世界を手中に収める兵器をくれー、とか言えよ」
どう返したらいいの。
「美学の分からん奴だなー」
「そ、そうですか…」
「射撃武器とかどうだい?」
「遠慮しときます」
「即答!?」
いや、だって射撃は…。
「あ、下手なの?」
…ぐっ。もう少しオブラートに包んでほしかった。
「任せなさい。君でも使えるものを作ってあげるよ」
射撃武器で決まりですか!?もう、いいや。
「瀬戸君や」
「はい?」
「君と琥珀のシンクロ率は相当高い。これはハッキリ言って異常なほどにね」
突然、スイッチが入ったかのように真面目な顔つきになるヒカルノさん。
「では問題。コア・ネットワークの本質とは?」
「…全てのISが繋がる電脳世界。電子機器がインターネットで繋がるようにISにもお互いを繋ぐバイパスが存在する。言わばISだけの世界、ってとこですか?」
「まあ、だいたいそんな感じだにゃー」
「…それが?」
「確かにコア・ネットワークとは?という問いに関しての答えとしては十分。けどコア・ネットワークの本質とは?という問いの直接的な答えではない」
「……?」
「コア・ネットワークとはね、本来不要なものなんだよ」
そんなはずはない。ISは宇宙空間での活動を想定して作られたものだ。その際、星間通信プロトコルとして必要になってくるはず。
「通信ならISそのものに通信衛星と同じ機能をつけさせればいい。そのための非固定浮遊部位―アンロック・ユニットだからね」
確かに宇宙空間での作業を行う以上、複数で行うことが前提ではある。複数の通信衛星があればその中のみでの通信回路くらいは作れるだろう。
「それに一番初めのISは白騎士一つだけだったしね」
これ、常識。と付け足すヒカルノさんの言葉は何故だか説得力があった。
そうだ、最初のISが白騎士というのは世界的に有名な話だ。そう、一機だけしか存在しなかったのだ。いったい誰と通信するための機能なのだろうか?
「私はね、コア・ネットワークは後から作られたものじゃないかと思っているんだよ」
………。
「瀬戸君、コア・ネットワークは偶然できたのさ」
琥珀の整備を行うらしく、僕はその間暇なのでヒカルノさんの勧め通り釣りをしていた。なぜ釣りかというと、時間をつぶせるから。それ以外に理由はない。
「釣り、かぁ……」
そういえば久しぶりな気がする。中学生の時に一夏達と一緒に行ったきりな気がするね。
そんなことを考えて山道を歩いていると、川のせせらぎが聞こえてきた。
「おー、さすが田舎」
懐かしいなー。ふと中学時代のことを思い出す。
「こんなところにいたのか」
「ん?」
こんなところにいる人間はそうそう多くない。だからおそらく声を掛けられたのは僕だろうと思って振り返る。
「久しぶりだな」
「デュノア社長?」
倉持技研と併合したってことは知っていたけどまさか社長本人が来ているとは知らなかった。
「君のためとあればどこからでも来るさ」
そうきっぱり言い放つとデュノア社長は表情に影を落とす。
「君にはなんと礼を言ったらいいのか分からんな」
「いや、礼なんてそんな…」
僕は礼を言われるようなことはしていない。それなら楯無さんや千冬さんに言った方がいい気がする。
「君は謙虚だな」
そう言うわけじゃない、本当に。
「わざわざ日本に来たということはシャルには?」
僕の質問には首を横に振る。一瞬期待した僕が馬鹿だったよ。
「まだデュノア社の再建が終わっていない」
シャルに会う条件の一つがなくなっていたことに気づき自然と笑みが漏れる。
「だから悪いがあの子には会わないさ」
デュノア社長も、もしかすると微笑んでいたのかもしれない。