ヒカルノさんに連れてこられた場所はとても暗く、陰鬱な雰囲気の研究室。パソコンの明かりだけが異様に明るく感じる。もしかすると先程のIS稼働データを記録しているのかもしれないな、とシャルロットは考える。
「またこんな暗い部屋でー。これだから技術者はー」
あなたもでしょ、というツッコミを何とか抑える。ヒカルノさんは部屋の主の返事も待たずに部屋の電気をつける。
(うっ…)
突然明るくなった反動で目に刺激が走る。しかしそれも次第に慣れていき、部屋にいる人物がハッキリと確認できた。
「…あ」
そこにデュノア社長がいた。
「んじゃあ、私は作業に戻らせてもらうよ、バイビー」
気を利かせたのか、逃げ出したのか分からないがヒカルノさんはその場を立ち去る。
「………」
「………」
気まずい沈黙。この場から今すぐに逃げ出したい衝動に駆られる。足が竦み、思考がまとまらない。嫌な汗が流れるのをシャルロットは感じ取っていた。
(…ダメだよ!逃げちゃダメだ!)
たくさんの人がシャルロットのために努力してくれた。ここで逃げるということはその努力を水の泡にするも同じ。なにより、瀬戸光輝に追いつきたい。そのためには逃げるわけにはいかない。
「…あ、あの!」
「…彼にはまだ会わないと伝えたはずだが」
「え?」
「…お節介だな、彼は」
デュノア社長は笑っていた。それはシャルロットの知っている顔ではない。あの冷たく、恐ろしい、大嫌いな顔ではなかった。
「光輝から聞きました…」
だからかもしれない。ほんの少し勇気が出た気がした。
「あなたは…本当に……」
「すまなかった!」
デュノア社長はただ、深々と頭を下げた。
「すまなかった?……私がどれだけ辛かったと思っているの。どれだけ悲しかったと思っているの。怖かった…怖かった、怖かった!」
涙が溢れるがそれに構う余裕はない。
「死にたいって何度も思った…。あなたを殺してやりたいって…何度も…何度も…」
もはや意味をなしていない言葉。それでもシャルロットはただひたすら続ける。この、今の気持ちをぶつけるために。
「…大っ嫌い!」
ついには立っていることもできなくなり、その場に崩れ落ちてしまう。デュノア社長は反射的に支えようとしたが、それをシャルロットは拒絶する。
「…うっ…うっ…ぐすっ」
「…すまない」
もう一度、短く頭を下げるデュノア社長。
「謝る権利すらないことは分かっている。謝って許されることでもないだろう。だけど謝ることしかできない」
区切り、さらにもう一度、頭を下げる。深く、深く。
「すまない」
「…っ!」
頭を下げているため表情は窺えないが声色が確かに変わった。わずか、本当にわずかだがその声には涙が含まれているような気がした。機械のような無機質な昔とは違う。この人も自分と同じ人間であることを改めて思い出した。
「いくら謝られても私はあなたのことが嫌いです。…この先何があろうと許さない」
「…」
「…でもあなたにもあなたなりの理由があることは分かりました。だから…嫌いだし、許さないけど、恨みません」
「…」
「……だって今…楽しいですから」
「!!」
いきなり全てを許せるわけがない。いきなり全てが解決するわけない。でも、きっと。少しずつ変えていくことはできるはずだ。
――親子なのだから。