『ワールド・パージ完了』
セシリアはチェルシーから両親の訃報を聞かされていた。
「そ、そんな…」
嘘だ、嘘だ、嘘だ。
「お嬢様」
「………」
不思議と涙は出なかった。それも当然。九つの子供が突然受け入れられるわけがない。
「…鉄道事故?」
「はい、周囲の建物を巻き込み、数百人の死傷者が出ました。オルコットご夫妻も巻き込まれ―」
「馬鹿なこと言わないでください!そんなこと起こるはずが…」
「原因は分かりません。ですが…」
「ですが、何?」
思わずチェルシーに詰め寄ってしまう。しかしチェルシーもそれが一種の防衛本能だと分かっている。
「…ご夫妻はお嬢様のことを最期まで大切に思っておりました」
「……」
セシリアにはそうは思えなかった。いつも仕事優先な母親と母親にくっ付いているだけの父親。誕生日の前日も当日も傍にいてはくれない両親。そんな二人が自分のことをそんな風に思ってくれているとは到底思えなかった。
「仕事、と仰っていたのですか?」
「…は、はい」
「私の知る限り、その日はお仕事の方はなかったように思われます」
「で、ではどうして!」
どうして普段別々の二人が一緒にいたのだろうか。セシリアの誘いを断ったのか。
「お嬢様の誕生日プレゼントを買いに行かれたのですよ」
ザザッ…ザザッ……ザ、ザアァー…――
ノイズが走る。突然視界が眩み、混濁する。
「ご夫妻は―」
歪みが激しさを増す中、セシリアはやけに鮮明に聞こえてくる音を感じ取っていた。
「―お嬢様様のせいで亡くなられたのです」
僕がセシリアのもとに駆け付けた時にはすでに手遅れだったのかもしれない。セシリアは自室と思われる部屋に一人でいた。
「…セシリア?」
「…」
泣くでもなく、笑うでもない。そこに一切の表情はないように感じた。
「だ、大丈夫?」
「……」
虚ろな目をこちらに向ける。その視線の先に僕は映っていない。
「しっかりして!セシリア!」
「…こう…き…さん……?」
「そうだよ。僕だよ!」
「…ど、どうして……?」
「助けに来たんだよ。帰ろ、セシリア」
反応が取り敢えずあったことに安心する。
「ダメです…」
「え?」
「思い出しましたわ。わたくしは光輝さん達と一緒にいていい人間ではありません」
「…どういうこと?」
セシリアは視線を落とし、僕との距離をとる。
「わたくしが…殺したんです…」
「誰を?」
「…両親をですわ」
「!!」
セシリアがどういう意味で言ったのかは分からない。僕が来る前に何があったのかは知らないが、きっと勘違いをしているのだと思う。
「だから―」
「セシリア、やめなよ」
「え?」
「全然話がみえてこないんだけどさ。傍にいていい理由なんてないと思うよ」
「…」
「両親について何か思い出したんだろうけど、セシリアはセシリアでしょ?」
「…で、ですが」
「ですがじゃない!」
僕の突然の大声に驚くセシリア。
「いいんだよ。君が何者でもさ」
セシリアが誰だって、どんなことをしたって、関係ない。だって僕たちはセシリアのいいところを知っている。それで十分だ。
「何者でも…」
「だから帰ろ?」
僕はセシリアに手を差し出す。今度は絶対、その手を掴んでもらえるように。