原作で言うところの夏休みの話です。この作品内では夏休みは終わっていますが…。
タイトルを見てもらえばわかると思いますがこの番外編はまだ続きます。続きは次の章が終わってからまた上げるつもりです。
奏でる音色1
心地よい日差しがシャルロットを照らす。ここはIS学園ではない。路上である。シャルロットの目の前には『織斑』と書かれた表札があった。
ピンポーン…………。
インターホンを鳴らして数秒、扉の向こうから足音が聞こえてきた。さらに待つこと数秒、扉が開かれ一夏が顔を出す。
「よお、シャルロット。上がってくれ」
「お、お邪魔します」
今日は土曜日。よって学校はない。長期休みというわけではないが一夏は家に帰っているのだ。使っていなくても誰かが手入れしないといけないのでこうしてたまに帰ることがあるらしい。
「…わぁ」
予想通りというべきか、織斑宅はかなり清潔だった。長いこと家を空けていたとはとても思えない。一夏の案内に従い、リビングへと足を運ぶ。するとそこには先客がいた。
「遅かったな、シャルロット」
「よーやく来たわね―ああ!?今の卑怯でしょ!ラウラ!!」
「ふん、戦場では一瞬のスキが命取りになる」
「たかだかゲームで何言ってんのよ!」
ラウラと鈴がゲームに熱中しながら声をかけてくる。せっかくの休日だからみんなで遊ぼうということになったのだ。でも、みんな予定があるので各自、好きな時間に集まろうということになった。
「他のみんなは?」
「んー、箒とセシリアは少し遅れるらしいぞ」
「光輝は?」
「一旦家に帰るってさ」
近いからな、と付け足す一夏。光輝はいないのかと残念がる反面、自宅というワードにどこか心躍らせている自分を自覚する。そんなシャルロットの心中を知ってか知らずか。確実に後者。とにかく一夏はとんでもないことをサラッと言ってのけた。
「ちょっと遅いし様子見に行くか?」
「え?」
思考が止まる。一夏が発した言葉を頭の中で反芻してみる。いや、反芻する意味は特にないが意中の人の家に行くことが十代乙女にとってどれだけ特別なことか説明は必要ないだろう。
「…う、うん。…行こうかなぁ」
別に何かを期待しているわけではないのだが、不思議と頬に赤みが差す。そのせいもあってか、気持ち、本当に一瞬、返答が遅れた。一夏はともかく、鈴がその変化を見逃すほど甘くはない。
「あたしも行くわ。いいでしょ、シャルロット?」
「ええ!?」
抜け駆けはさせない。そう、語っていた。
「ふむ、それなら私も同行しよう」
立ち上がるなり、胸を張り宣言。嫁が行くなら共に行くのが当然だと付け足していた。
「待てよ。みんな行くのはマズいだろ」
一夏にしては珍しく正論である。確かに全員で光輝の家に押しかければ織斑家は無人。もし箒とセシリアが来ても入れなくなってしまう。
「ならあんたが残りなさいよ」
「俺が残ったら誰が光輝の家まで案内するんだよ」
再びの正論。しかし目の前の鈴は深いため息をついて呆れている。
「あんたねぇ…」
「ん?どうした?」
「あたしが幼馴染だってこと忘れてない?」
「あっ」
考えれば当然のこと。中学からの旧友であるはずの鈴が光輝の自宅を知らないわけはない。事実、何度も光輝の家で遊んだこともある。それも一度や二度ではない。
「ラウラ、あんたはどうすんの?」
「嫁が残るのなら残ろう」
「そっ、じゃあ行くわよ、シャルロット」
そう言うなり早速歩き出す鈴。シャルロットも遅れて後に続いた。
「えっと…」
「ああ、初めてだから仕方ないわよね」
目の前に書かれているのは表札ではない。ましてやアパート名でもない。いや、訂正。アパート名なのは確かだ。
「…児童養護施設」
「正確にはそこが経営してるアパートらしいんだけど」
「…」
「ほら、あいつ親いないから」
鈴の発した呟きはとても小さいもので、意識しないと聞き逃してしまうほどだ。それでもシャルロットには鮮明に聞き取れた。
「そう…なんだ…」
暗い空気も一瞬。鈴は慣れた様子で歩を進める。鈴が教えてくれたことによると、この施設は養護施設が児童の自立を考えて建てたものらしい。将来社会に出た時のことを考えて疑似的な一人暮らしをさせるらしい。もちろん人によってこの施設で暮らす年齢は違うし、全員が使用するわけでもないようだ。そう考えれば中学時代から施設を利用している光輝は孤児院の中でも少し特殊だそうだ。
「こーうーきー。いるんでしょー」
まるで取り立て屋のようにドアを叩く鈴。しかも結構強め。四回目のノック音と同時にドアが勢いよく開かれた。
「ちょっと鈴、迷惑だからやめてよ!隣の部屋にも人いるんだよ!!」
「いいじゃない、別に。どうせ知り合いでしょ?」
「そうだけど、そういう問題じゃないよ!」
そう言いながら二人を招き入れる光輝。
「シャルも来たんだね。まあ、とりあえず上がってよ」
「う、うん。お邪魔します」
「相変わらず殺風景な部屋ね」
鈴の言う通り光輝の部屋にはほとんど物が置かれていなかった。必要最低限な家具のみで余計なものの一切を排除したかのような空間。織斑宅とはまた別の清潔感があった。
「寮の方にあるからね」
鈴とシャルロットは適当にテーブルの周囲に腰掛ける。
「ごめんね。お茶くらい出したいんだけど突然だったから」
「い、いいよ、そんなの。ね?」
「まあ、あたしたちもあんたの様子見に来ただけだし」
そう言うと光輝も二人と向かい合うように腰を落とした。
「……」
「……」
「……」
「やること…ないね」
「…あはは、そうだね」
わざわざ来てもらったが一夏の家みたいにゲームもなければ漫画もない。そもそも織斑家だって一般的な男子高校生と比べたらない方だと思う。比較元は五反田家である。
「…」
鈴は退屈なのかベッドに寝そべってゴロゴロしている。それだけならまだいいのだが、あろうことかベットの下を物色し始めた。
「鈴、何を探しているのか知らないけど何もないよ」
「何よ、面白くないわねー。エロ本の一冊や二冊、男なら隠してなさいよね」
そういうのは弾に期待してよ。
「り、り、り、鈴!?何言ってるの突然!?」
シャルロットは耳まで真っ赤になっている。予想通りと言えば予想通り。シャルはそう言うことに免疫なさそうだもんね。
「せっかく光輝の部屋まで来たんだから一体どんなエロ本持ってるのか気になるじゃない」
そんなこと気になるのは鈴だけだよ。断言する。
「…そ、それに…好みとか、分かるかもしれないいし」
「こ、好み!?光輝の?」
ちなみに鈴とシャルはこそこそ話しているので僕には何を言っているのか分からない。くだらないことだということ分かるけどね。
話が終わったのか離れる二人。そのままゆっくりと立ち上がると何やらアイコンタクトをとっている。
「シャルロット、あの押し入れが怪しいわね」
「わ、分かったよ鈴!」
こういう無駄な結束はマジで止めて欲しい。切実に思うよ。
そのあと、十分ほど二人の捜索は続けられたが収穫はなかったという。