光り輝くその瀬戸際に   作:いろすけ

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番外編奏でる音色の続きです。


奏でる音色2

 鈴とシャルロットが光輝を迎えに行ってから少し経ったとき、織斑家のインターホンが再び鳴った。

 

「もう帰ったのかシャルロットたちは」

「いや、さすがに早過ぎだろ」

 

 それにこう言っては何だが、あいつらがわざわざインターホンを鳴らすような律儀な真似をするとは思えない。シャルロットはもちろん例外だが。

 

「では箒かセシリアか」

「その可能性の方が高いと思うぞ。そろそろ着いてもいい頃だしな」

 

 一夏が返答している間にラウラはすでに玄関に向かっていた。まあ、とくに止める必要もないので一夏は気にしない。しかし、数秒後にラウラは絶望を味わうことになる。

 

 ――――ピンポーン。

 

「待っていろ、今開ける」

 

 ガチャ―――。

 

「全く、夫婦水入らずを邪魔するとは」

「…ほう」

 

 扉の先には修羅がいた。

 

「きょ、きょ、きょ、きょ―」

「いつの間に義妹になったんだ?」

「千冬姉」

 

 千冬は目の前の自称夫を見下す。それもかなりの絶対零度で。対するラウラは怯えた兎のように震えている。

 

「ひいぃ」

「私は貴様のような不躾な義妹はいらん」

 

 相手の弱点を的確についた無慈悲な言葉。事実、ラウラは魂が抜けたように、いや、あれは完全に魂が抜けている気がする。

 

「…きょ、教官に…嫌われた。教官に…」

「だ、大丈夫ですの?」

「…自業自得だろ」

 

 鬼の後ろからセシリアと箒が顔を出す。どうやらここへ来る途中で会ったようだ。

 

「さっきから失礼なことを考えているな、貴様」

「い、いえ、なにも」

 

 相変わらずの読心術。学習しない一夏も一夏だが。

 

「千冬姉、お茶でも飲む?冷たいのと熱いの、どっちがいい?」

「そうだな…いや、すぐに出る」

「え?そうなんだ。朝に作ったコーヒーゼリーそろそろ食べれるのに」

「また今度もらうさ。では、着替えてくる」

「あ!スーツまた別の出しておいたから。忘れないで持って行ってくれよ」

「わかった」

 

 会話だけ聞けば夫婦のようなやり取りを平然とする織斑姉弟。周りの三人も全く同じことを思っただろう。そんな空気を察したのだろう。千冬は足早に家を出て行ってしまった。

 

「…ずいぶん仲がよろしいんですわね」

「そうか?姉弟なら普通だろ」

「そんなわけないだろ」

 

 箒のツッコミもどこ吹く風。当の本人は惚けた顔をしている。ラウラが間違った知識を堂々と披露するのは一夏のせいかもしれない。ま、ほとんどの原因はラウラが隊長を任されているシュバルツェ・ハーゼ、通称黒ウサギ隊の副官にあるのだが、みんなは知る余地もない。

 

「まあ、一夏のブラコンは今に始まったことじゃないしね」

「そうね。アレには慣れるしかないわよ」

「二人とも言い過ぎだって」

 

 なんて掛け合いをしながら入って来たのは光輝たちだ。当然鈴もシャルロットも一緒だ。一夏の予想通り、インターホンは押さずに。

 

「遅かったな」

「まあね」

「織斑先生とは入れ違いになったみたいだね」

「よかっ――じゃなくて残念だったわ」

 

 そう言う鈴はあからさまに嬉しそうだった。

 

「じゃあみんなそろったことだし、ボードゲームでもしよっか」

「おい、光輝。うちにそんなのないぞ」

「知ってるよ」

「はいはい、あたしが持って来たわよ」

 

 鈴がよこした紙袋には様々なカードゲームやボードゲームが入っていた。トランプから花札、モノポリーに人生ゲーム、とにかくたくさんの暇つぶし用品で溢れていた。

 

「すごい量だな」

「鈴はこういうのが好きなのか?少し意外だな」

「まあね」

 

 胸を張ってそう宣言する鈴。ない胸を、とは絶対に言わない。

 

「今、あんたを殴るべきだって直感したわ」

 

 そんなことで人を殴るな。結構真剣に。

 

「でも鈴がボードゲーム好きなのは確かに意外だったかも。外でばっかり遊んでそうなイメージだったのに」

「だって勝てるもん」

 

 それは同時にテレビゲームでは勝てないということを意味する。そう、鈴はテレビゲームがめっぽう弱い。中学時代はよく弾と光輝にボコボコにされていた苦い過去もある。先程も全くの初心者のラウラに負けかけていたし、その点は折り紙付きだ。

 

「せっかくだから罰ゲームをつけましょうよ」

「ほう、おもしろい」

「まあ、勝つのはわたくしでしょうけど」

「ボードゲームなどひさしぶりだが、いいだろう。受けて立つ」

 

 どうやら全員やる気らしい。光輝と一夏、それにシャルロット以外のメンバーはすでにやる気を滾らせている。せめてなんの罰とか、どのゲームなのか、そこから決めればいのに。そう思わなくもない。

 

「で、罰ゲームって何するんだ?」

「ふふん、それは―」

 

 一夏の問いに無駄にためながら答える鈴。

 

「負けてからのお楽しみよ」

 

 あ、こいつ逃げたな。

 自信に満ち溢れながら保険をかけておく用意周到さに呆れるしかなかった。

 

 

 

 

 

 

 競技は人生ゲーム。ペナルティーは未定である。そんな中、白熱したゲームは続いた。そして結果は―。

 

「こ、こんなの認められませんわ!!」

 

 ラウラとの激戦に敗れたセシリアが最下位となった。冷静に考えれば鈴はやり慣れてるし、光輝も一夏も同様だ。箒だって初めてではないはず。となれば、海外組が不利になるのは必然。その中で器用なシャルロットが頭一つ抜け、残るはセシリアとラウラ。結局予想通りなのだ。

 

「ぐぬぬぬ」

 

 貴族あるまじき声を上げて悔しがるセシリア。そんなに真剣になるところだろうか、と思うがこの負けず嫌いの精神が彼女を代表候補生にさせたのだろう。…たぶん。

 

「じゃあ、セシリア。罰ゲームなんだけどぉー」

 

 ここぞとばかりに鈴が元気になった。水を得た魚とはまさにこのことか。余談だが鈴は大口を叩いていた割に光輝、箒、シャルロットに続いての四位だった。

 

「な、な、な、なんですの!?」

「うふふふ、まずはぁー」

 

 やばい。軽く鈴がおっさん化してる気がする。いや、気のせいだと信じたい。

 

「普通決めるのは一位の人じゃないのか?」

 

 一夏のもっともな意見に鈴は顔を顰めた。対する敗者セシリアは救いを求めるような眼差しで一夏を眺めている。当の一位の人物は―――。

 

「ああ!」

 

 突如奇声を発していた。

 

「どうした、光輝!?」

「いつもの事な気もするがな」

「確かに」

 

 箒もシャルロットもなかなかに失礼なことを言う。確かにその通りかもしれないが。

 

「鍵…かけたっけ?」

「知らないわよ」

「えっと、ごめん、覚えてないや」

 

 鈴もシャルロットも微妙な反応だ。しかし、普段が学生寮なだけあって鍵をかける習慣が無くなってしまっているのだ。故に自宅の鍵をかけた自信がない。

 

「心配なら今からでも確認しに行ったらどうだ?」

「そうだぞ。万が一ということもある」

 

 一夏と箒の後押しもあって光輝は腰を浮かせた。

 

「僕も行こうか?」

 

 すごく自然な流れでそういうことが言えるシャルロットは本当に優しい。少しオーバーな表現かもしれないが天使みたいだ。

 

「いや、悪いよ」

「大丈夫。それより夜中に一人で出歩くのは危険だよ」

 

 シャルロットのような子が出歩く分には危険だろうがむさい男が出歩いても何も起こらないと思う。第一近所だし、全く問題はない。でも、心配そうなシャルロットの表情を見ていると無碍に断るのも違う気がする。

 

「行こ?」

「う、うん」

 

 だから言われるがまま行こうとしたらセシリアが声を上げた。

 

「お待ちになって!一位の光輝さんの願いはわたくしが答えます。当然、罰ゲームとして!」

「なに言ってんの。あんたの罰ゲームは晩ご飯を作るのに参加しないことよ。今決めた」

「なっ、それはどういうことですの!?」

 

 セシリアは当然激昂するがそれ以外の人は心なしかホッとしている気がする。一夏に至っては頭のいい人を見るように鈴を眺めている。

 

「そうだな。晩飯はこっちで作っとくから早く行って来いよ、光輝」

「分かった」

「買い出しはいいのか、一夏」

「おう、もう昼間に済ませたぞ」

「さすが嫁だ」

「もう。みなさん、どういうことですの!?わたくしを無視しないでくださる!?」

 

 セシリアは一夏達に任せてここは退散するか。そう判断するとそそくさと織斑宅を後にした。

 

 

 

 

 

 

 織斑宅を出て自宅に戻る途中、僕は星空を見上げていた。字面だとどうしても陳腐な表現になってしまうが、仕方ない。とても綺麗だったのだから。

 少し肌寒くなってきた今日この頃、吐く息が白くなっているような気がする。実際には白くなってなどいないが気持ちの問題だ。

 

「シャル」

「どうしたの?」

 

 呼びかけると首をかしげて僕を見つめるシャル。立ち止まると合わせてシャルも止まってくれる。

 

「少し寒くなってきたね」

「そうだね」

 

 ゆっくりと歩き出すとシャルも同じようについて来てくれる。そんな様子が少し可笑しくて自然と笑みが漏れる。

 二人の間を沈黙が支配する。それは嫌な沈黙ではない。心地よい、そんな感覚。そうこうしているうちに自宅へと着いてしまった。

 

「鍵はどうだった?」

「あー、大丈夫だったみたい」

 

 どうやら杞憂だったらしい。

 

「ありがとね。わざわざついて来てくれたのに」

「いいよ、いいよ。それよりよかったね」

「だね」

「これからは気をつけなきゃダメだよ」

「ですね」

 

 御もっともすぎて何とも言えない。言い返すつもりはないけどさ。

 

「……ねえ、光輝」

「ん?」

「ありがと」

「え?」

 

 突然お礼を言われても困る。むしろお礼を言うべきは僕の方のはずなのに。

 

「…えっと…あの人、お父さんのこと…」

 

 お父さん。デュノア社と倉持技研が協定を結んだとき、シャルは自身の父親と再会した。その際に僕はシャルとシャルの父が再会できるよう仲を取り持った。いや、そんなに凄いことはしてはいないのだが、とにかくそのことに対してのお礼なのだろう。

 

「僕は何もしてない、とか言うんでしょ。どうせ」

「よく分かったね」

「分かるよ。光輝のことならね」

 

 ドキリッ。心臓が飛び跳ねる音がした。

 

「帰ろうか」

「…う、うん」

 

 シャルはごく自然な流れで手を取り、歩き出した。

 

「みんな何作ってるのかな?」

「鈴も箒もいるし期待していいと思うよ」

「それは他の人に失礼だよ、光輝」

「シャルの料理も食べてみたいけどね」

「え!?う、うん……また今度ね」

 

 僕らは足早にみんなの元へ向かった。たまにはこんな日もあっていいよね。そう思い、最高の休日を過ごすんだ。

 

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