わぁぁぁ……!と盛大な歓声が聞こえる。そこでようやく実感が湧いてきた。
「…すごい熱気だな」
「なによ、今更怖気づいたわけ?」
「そんなわけないだろ」
「まあ、あたしと甲龍の勝ちは確定だろうけどね」
鈴の高機動パッケージ、風―フェンは増設スラスターが四基、さらに衝撃砲が真横に向いている。まさしくキャノンボール・ファスト仕様なのだ。他のみんなの機体はそう言った意味ではあり合わせだ。
「すぐに余裕をなくしてやるさ」
一夏と鈴が張り合っていると、ラウラと箒が負けじと口を挟む。
「武器で勝敗が決まったりはしない」
「その通りだ。流れを制した者が勝つ」
昨日からスタート直前までずっとこの調子だ。
「ふふ、全力で戦おうね」
シャルロットが締めるように呼び掛けると、山田先生の掛け声がかかる。
『みなさーん、準備はいいですかー?』
どこかのんびりした口調なのは気を遣ったのか?いや、いつものことか。
『一年生の専用機持ち組のレースを始めます。みなさんは所定の位置についてください』
大きなアナウンスが響く中、僕はセシリアに目をやった。
「どうしました?」
「いや。ただ、がんばろって」
「ええ、お互い頑張りましょう」
にこやかに微笑むセシリアは本番直前とは思えないほど落ち着いていた。
全員がスタート位置につく。ハイパーセンサーを下ろし、集中する。
……3……2……1……ゴー!
カウントと同時にレースがスタートした。
「ッ!?」
超加速により、一瞬視界がブレる。すぐにハイパーセンサーの補助で視界が戻るが、そのときにはすでにセシリアが飛び出していた。
「やっぱり、強い」
「悪いわね」
次に飛び出たのは鈴だった。
「させないよ」
シャルロットも負けてない。
第一コーナーに差しかかったとき、動きがあった。
(赤いレーザー!?これは箒!?)
しかし、何も躱す必要はない。レーザーが当たる寸前でアイギスが発動。完全に防ぎきる。
「やるではないか。ではこれなら!」
「俺もいるぜ!」
一夏の荷電粒子砲と箒のレーザー、どちらも完全に防ぐとなると厳しい。仕方がないので僕は回避行動に出る。先頭ではラウラがレールカノンを放ち、鈴とセシリアが大きくコースを逸らされていた。
(ラウラとシャルの接戦か。僕も負けてられないな)
コーナーを抜け、光速加速を使おうとしたとき異変が起きた。
――ビュン。
突如、真上からレーザーがラウラとシャルロットに降り注ぐ。
「シャル!?ラウラ!?」
直線に入ろうとした瞬間の出来事だったため、全員が即座に反応できなかった。打ち抜かれた二人はまともな防御もできず墜落する。
「誰だ貴様!」
箒の睨みつけた先にいたのは―
「…サイレント・ゼフィルス」
セシリアの顔色が急変する。
「セシリア!あいつは何者なんだ?」
箒の問いにセシリアは最短の単語で返事をする。
「…亡国機業」
セシリアの言葉に反応するより速く、六発ものレーザーを放つサイレント・ゼフィルス。
(この方向、狙いは鈴と箒か!?)
しかし、レーザーが到達する前に一夏が飛び出す。
「おおおぉぉぉ!!!!!」
雄叫びを上げ、闇雲に突っ込む。そんな一夏を見てバイザーの下の顔が笑った気がした。
「いけません!一夏さん!」
一夏を通過したはずのレーザーの四本がぐにゃりと曲がる。
「なっ!?」
―ドガアァァァン!
視界を覆う爆風と耳を劈く爆発音。その衝撃だけで僕らは地面に叩き落される。
「一夏!?」
視界が晴れた時には目の前の事態は最悪だった。一夏の纏う白式の装甲は無残に破壊され、一夏自身無事なのかすら定かではない。
「…ぐっ」
「……卑怯な…」
鈴も箒も一撃もらったようですぐに動けそうにない。まさに絶望的な状況だ。しかし、サイレント・ゼフィルスの操縦者は事態を把握する時間さえくれない。
「…!?」
一夏達に気を取られた一瞬。その隙をついて攻撃を繰り出す。
「武装に救われたか」
ライフルの先端に備え付けられた銃剣の攻撃はアイギスの自動防御によって防がれる。しかし、二度目はない。
瞬時に行われた瞬間加速。しかも独立したスラスターそれぞれから多角的に加速を行うことで滑らかに後ろに回り込む。超高難易度加速、個別瞬間連続加速―リボルバー・イグニッション・ブースト。
「!?」
さながらそれは光速加速のようだった。
「死ね!」
的確に関節を狙った一撃。たった一撃なのに耐え難い激痛が襲う。続けざまに二発、琥珀のスラスターを破壊する。
「……」
無慈悲に振り下ろされる銃剣はセシリアの狙撃に阻まれる。
「やらせませんわ」
「雑魚が」
「セシリア!」
サイレント・ゼフィルスは標的をセシリアに変えたのか上空に飛び発った。
「ここはわたくしが引き受けます。光輝さんはみなさんを」
「ダメだ!セシリア!」
セシリアはサイレント・ゼフィルスが破壊したであろうバリアの隙間から飛び立つ。
「来なさい。BT一号機ブルー・ティアーズの力、存分にお見せしましてよ」
「…貴様」
絶対に追いかけなければならない。そう思ってもダメージの影響で動けない。それにスラスターを壊されている状態ではPICで飛べることはできても追いつくことはできないだろう。
…だけど、それでも追わなくちゃ。今飛べないなら意味がない!
「セシリアァァァァーー!」
刹那、意識が深い闇に沈んでいく感覚があった。