セシリアは長大なBTライフル《ブルー・ピアス》を構える。対するサイレント・ゼフィルスはただセシリアの攻撃に合わせ、レーザーを発射するのみ。しかし、その射撃が恐ろしく正確なうえ、出力もブルー・ティアーズより高い。
(…強い)
何より偏向射撃がセシリアを苦しめた。
(このままではいすれ…かくなる上は……)
「インターセプター!」
一か八か近接格闘武器をその手に呼び出すと、サイレント・ゼフィルスに向かって突撃を開始する。
「……」
サイレント・ゼフィルスは決死の突撃さえも遊びとばかりに、踊るように防いでみせた。
「なら、これでどうですの!」
収納したはずのブルー・ピアスを再度呼び出し、超至近距離で発砲する。
「笑わせるな」
やはり大型ライフルの発射は遅く、連射もできない。絶対的な隙が生じたセシリアに銃剣の一太刀が襲い掛かる。
ゴッ――。
鈍い金属音。殴り飛ばされたのは勝利を確信したはずのサイレント・ゼフィルスだった。
「逃がしませんわ」
大型ライフルを放った直後に致命的な隙ができた。しかし、それはセシリアの読み通り。相手が勝利を確信することで生まれた一瞬の隙。その隙に大型ライフルそのもので殴り飛ばしたのだ。
「…ちっ」
セシリアは休まず攻撃を繰り出すも、さすがに連続で当たってはくれなかった。
(ここですわ!)
距離を取ろうとしたサイレント・ゼフィルスを逃してはなるまいと思い、勢いよく前に出る。しかしセシリアの瞳に映ったサイレント・ゼフィルスの操縦者は焦りの表情を浮かべない。それどころか顔に刻まれた笑みがより一層深くなった気がした。
(…っ!?)
本能というやつだろうか。脳内に五月蝿いくらいの大音量で危険信号が鳴り響く。セシリアが回避を行おうとしたときにはすでに遅かった。遅すぎた。
四発の焼ける感覚。遅れて空中にブルー・ティアーズの破片が飛び散る。偏向射撃により大きく旋回したレーザーが死角からセシリアを貫いたのだ。
「…な…にが…」
背部に走る激痛。何がどうなって撃たれたのか全く理解できない。セシリアは体勢を崩し、そのままビルの屋上に墜落する。
「くだらんな」
圧倒的な技術と絶対的な強さ。力尽きた自身がこれからどうなるかは容易に想像ができる。それなのに…いや、だからこそなのかもしれない。
(…わたくしに……ない…もの…)
分不相応にも憧れた。羨ましいと思ってしまった。そして、戦うべき敵にそのようなことを思ってしまう自分がひどく脆弱に感じた。
「…いい目だ」
すでに勝利を確信したサイレント・ゼフィルスの操縦者は嘲るように口を動かす。
「オルコット家の者だな」
予想外の言葉にセシリアは驚く。
「貴様に興味が湧いた。少し話をしてやろう」
まるで返答を求めているように。まるで試しているかのように。
「貴様の両親の話だ」
まあ、聞いた話だが、と付け足すその女にセシリアは目を離せなくなる。聞いてはいけない、と心のどこかで鳴っている警鐘を無視して。
「単刀直入に言うと貴様の両親を殺したのは瀬戸博士だ」
「…瀬戸?」
ダメだ、ダメだ、ダメだ!絶対に聞いてはダメだ!
「……それは誰ですの?」
心の感情とは裏腹にセシリアは問うてしまう。
「歴史に名を残すことはなかったが、篠ノ之束とともにISを作った天才科学者」
ああ、そうだ、とわざとらしく。それでいてからかうような調子で。
「世界で二人しかいない男性操縦者の一人、瀬戸光輝の父親だ」
あっさりと、とてもあっさりと拒絶したい言葉を口にする。
「当時はガキだったのだから無理はないが、あの事故には不自然な点がある。ポイントの転換点でもなければコーナーでもない、そんなところで事故が起こると思うか?」
頭が割れるように痛い。それなのに紡がれる言葉は不自然なほど鮮明に聞き取れる。
「量子変換。ISでは当たり前のように使われている技術だが、こいつを生み出したのが当時、中学生の篠ノ之束と瀬戸博士だ。この技術を用いれば脱線事故などいとも簡単に生み出せる。しかも列車自体は潰れ、原形はない。車輪の一つや二つ見つからなくとも不思議ではないだろう?」
締めだ、とばかりに口を三日月形に歪ませる女。
「完成すれば兵器利用されることを見越してIS製作には反対していたそうじゃないか。優秀だからこそ殺されたのだろう、お前の母親は。…皮肉だな」
「…あっ……そんな…」
頭の中がぐちゃぐちゃになり、整理がつかない。ただひとつだけ分かったことがある。
「……私の名はM。この世界に復讐する者だ」
この女は決して嘘はついていない、と。
目の前に差し出された手。それが何を意味するのかは分からない。この手をとればどうなってしまうのかも分からない。ただ、なんとなく、その手に吸い込まれていく。吸い込まれ、互いの手が触れ合おうとしたそのとき、サイレント・ゼフィルスの操縦者が吹き飛ばされた。
「何だ…貴様は!?」
サイレント・ゼフィルスを吹き飛ばした正体は光輝だった。
「ど、どうなっていますの…」
しかし、その姿は普段の光輝とは似て非なるのもだった。琥珀の武装はすべて溶け、原形を保ってはいない。VTシステムのように液状に溶けたわけではない。武装そのものがプラズマと化し、光輝に纏わりついている。
「……セ…シ…リア」
まるで壊れた機械のように呟くその姿は味方であるはずのセシリアですら、恐怖を感じる程だった。
「…光輝…さん?光輝さんなのですか!?」
反響定位を発動しているようにはみえないが、両目は固く閉ざされていた。
「……」
くるりとサイレント・ゼフィルスに向き直るその仕草にセシリアの声は聞こえていないように感じる。
「…」
突如、サイレント・ゼフィルスに向かって飛翔する。もはや、どのような原理で飛んでいるのかすらわからない。
「…ッ!?」
勝負は一瞬だった。レーザーの被弾も気にせず突っ込んだ光輝がMに触れた。たったそれだけでサイレント・ゼフィルスがコアごと消滅したのだ。
「…なっ、何が!?」
突如ISスーツだけにされたMはセシリアのいる屋上へと叩き落される。
「……」
「聞いていた話と違うぞ!…これは、まさか!?」
圧倒的殺意を持った一撃。確実に相手を殺めることが出来る一撃。
「そうか、貴様の唯一仕様は―」
Mのセリフが終わるより速く、その体を引き裂こうと光輝が動く。
「ごめんなさいね。悪いけど引かせて頂戴」
二人が交わるより前にスコールがMを離脱させたのだ。
「久しぶりね、瀬戸光輝君。まあ、今の状態では分からないわよね」
「……」
ぐったりとしたMを脇に抱えるスコール。
「今度はちゃんと会いましょ?」
スコールはナイフを投じる。そんなものはISの前では脅威にはならない。もちろん、光輝はいとも簡単に弾いてみせた。しかし、その瞬間、ナイフは大爆発を起こした。
立ちこめる煙幕が晴れた時にはすでに亡国機業の姿はなかった。
「…光輝さん?」
バタリと、まるで電池が切れたかのようにその場に倒れ込む光輝。セシリアは何故だかすぐには駆け寄ることが出来なかった。