原作で言うところの七巻あたりです。
おそらく原作に沿うのもこの章までかと…。
純白の騎士
第一アリーナのピット内。そこで僕は琥珀の調整を終え、一息ついていた。
キャノンボール・ファストの一件後、僕は身体検査を受けた。理由はもちろん琥珀の暴走。正直に言うと僕は全く覚えていない。ただセシリアを助けたいと願った。次の瞬間には意識が途切れた。いや、違うな。その間も僕の意識は確かにあった。でも、同じ場所にはいなかった。少なくとも亡国機業と戦った記憶はない。とは言え、どこにいたと問われれば明確に答えることも、説明することもできやしない。結論を言ってしまえば、よく分からないのだ。
「セシリアの話だと一夏のやつとは別みたいだし…」
考えても仕方のないこと。そう割り切れる程お気楽なわけじゃない。それでも分からないものは分からないのだ。
「光輝、どうしたの?変な顔して」
ムッ、失礼な。これでも結構真剣に悩んでたんだぞ。
「シャル」
「なに?」
「いや、それはこっちのセリフなんだけど…」
ニコニコと満面の笑みを浮かべるシャルはとてもかわいっ…じゃなくて、問題は手に持っている紙だ。そこには大きな文字で《専用機持ち限定タッグマッチトーナメント開催》と書かれていた。
「えーっと、これは?」
「う、うん」
もしかしなくてもペアのお誘いですよね。いや、まあ、僕的にも有難い申し出なんだけど。
「どうしたの?」
邪推だと知っていても考えてしまうことはある。
「…また事件でも起こりそうじゃない?」
「そ、そうだね」
だって今までのイベントでの事件発生率は脅威の一〇〇%。そんな中、性懲りもなくこんなイベントをやるなんて、ねえ?
「それでも僕はね、楽しみかな」
「え?」
「だって…今までがうまくいかなかったからこそ、今度こそ。今度こそはみんなで楽しみたい」
「………」
「…変、かな?」
「い、いや、変じゃないよ。ただ、そんな風に考えたことなくてさ」
ポジティブというか、なんというか。とにかく僕にはない考え方だ。
「そうだね。今回こそは楽しみたいよね」
きっとシャルだけじゃない、同じことを思っている人だっているはずだ。だったら成功させないとダメだ。絶対に。
「光輝――――、助けてくれ―――――!!」
突然の絶叫と共に一夏がやって来る。毎度のことだけど大変だよね。
「どうしたのさ、一夏」
「はぁ、はぁ…ほ、箒たちが…」
「箒がどうかしたの?」
いつものことなのに変わらず反応してあげるシャルはいいやつだ。
「一夏!タッグマッチのペアは当然私なのだろうな!」
「いいや、嫁は私と組むのだ!」
プシュッというドアの開く音が響くと同時、箒とラウラのもはやお馴染みの言い合いが聞こえてきた。普段ならここに鈴も参戦するのでさらに騒がしくなる。
(そう言えば鈴はどうするんだろ…)
「シャルロット!光輝!!」
一夏の悲痛な叫び声で現実に戻される。というか一夏よ、何故僕を巻き込む。
「光輝からも嫁に言ってやってくれ」
「なっ!?抜け駆けか、ラウラ!」
「はいはい、収拾つかないからとりあえず座って」
言い争っていても仕方がないのでラウラと箒と一夏の三人を座らせる。三人とも素直に座ってくれる辺り可愛いもんだ。だって、どこぞのチャイニーズは僕の言うことなんて聞きやしない。
「光輝!俺と組んでくれ!ここは俺を助けると思って、頼む!!」
「「なっ!?」」
「えぇっ!?」
ちなみに反応したのはラウラと箒。あと遅れてシャル。
一夏が締め上げられるのは構わないけど、これは正直他人事とは思えないんだよね。なんとなーく、隣に目をやるとにっこりと微笑むシャルがいた。
「…」
「どうしたのかな?光輝君?」
………。
「すまない、一夏。僕は――」
「こーうーきー!」
え?高貴?後期?好機?………光輝ですよね、ごめんなさい。
すごい大声でやって来たのは中国が誇る桃色のバーサーカー、凰鈴音。どうやら退路は絶たれたようだ。
「それがお互い無難かもね」
「だろ?」
僕が一夏に賛同するとどよめきが起こる。唯一声を上げていないシャルが一番怖いのは内緒だ。
「一夏、まさかそれで引き下がるとは思っていないだろうな?」
「なによ、あんたたち。男同士で気持ち悪いのよ」
箒、そして鈴の罵声が飛ぶがそれどころじゃない。
「フフフ、僕は光輝が誰と組もうが別に構わないよ。うん、構わないよ、ホントに」
尋常じゃなく怒ってらっしゃる。そりゃ、さっきまでシャルと組む流れだったんだから当然か。
「ああ、俺、倉持技研に白式点検してもらうんだった」
この状況で見捨てるのか、親友よ!?
「ってなわけで、じゃあな」
ま、待って。そんな見え透いた嘘で逃げ切れるとでも…。
「すまん光輝!」
「一夏、貴様―――――!!!!」
「逃がすと思うか?」
さすがはドイツ軍。敵の逃亡を許すほど甘くはないね。あの薄情者が捕まったのはうれしいけどAICはやりすぎな気もする。
「ほ、本当に行かなきゃダメなんだって。ラウラー!!」
十代乙女たちにそんな常識は通用するわけもなく、ラウラと箒の怒りの鉄拳が一夏を襲う。補足しておくと僕の方にはシャルの冷たい眼差しだ。…笑えないよ。
「いいわ、許してあげましょ」
一夏がお亡くなりになる直前、仏のような鈴様のお声が聞こえた。バーサーカーとか言った奴は即刻腹を斬ればいい。
「鈴、正気か!?」
僕からしたらISまで持ち出す箒たちの方が―
「何か言ったか?」
「いえ!何も!!」
全力で首を振る。もちろん横にだ。
「こいつらがそんなに組みたいって言うならそうさせときましょ。ただ…」
「ただ?」
「あたしたちを敵に回すってことになるだけじゃなーい」
「「…」」
「ねえー、シャルロットー」
「フフフ、そうだね、鈴」
「なるほど、それはいい考えだ。異論はないな、箒」
「もちろんだ」
次々と強敵のペアが出来上がっていってしまう。果たして僕らは生きてこのイベントを楽しむことが出来るのだろうか。…できないと思う。ごめん…シャル…。
ここ最近よくお世話になっている倉持技研の研究室。いつものように白式の点検をしてもらっている。しかし、今回はそれだけではない。先刻の戦いで受けたダメージの影響で不具合が起きていないかなどを調べるのだ。それに白式は―――。
「んー、これはちょっと厄介だにゃーん」
「どうしたんですか?」
白式の点検をしていたヒカルノさんが突然声を上げた。それに反応して研究員の人とおそらくデュノア社の人たちが集まっていた。俺はその様子を邪魔にならない端の方で見守っている。一応、いざという時に動かす操縦者がいないと意味がないからな。
「…」
しばらく経ってヒカルノさんがこちらへやって来た。その表情はいつもの含みを帯びた笑みではなく、真剣そのものだった。顔をのぞかせている犬歯もこのときばかりは引っ込んでいた。
「織斑君、結論から言うと君の白式はおかしい」
「は?」
予想外の言葉に惚けた声が出てしまう。だっておかしいって、作ったのはあんたたちじゃないのか。という疑問をなんとか飲み込む。
「ダメージ自体は完璧に治っているんだけど、どーも別の問題があるらしい」
「別の…問題…?」
そう、と一言いうと懐から飴を取り出し、口に含む。口の中で飴玉を転がしながら、ヒカルノさんは続けた。
「…白式そのもの……いや、白式のコア自体に深刻なダメージがみられた。原因は分からない」
「そんな」
「前回はただのダメージによる影響だと考えたんだけどねぇ。治まるどころか悪化している」
ガリッと飴玉をかむ音が響く。
「これはただの私の予想なんだけどねぇ。君、白式が暴走したことが何度かあった、って言ってたよね?」
「は、はい」
「それがコアにダメージを蓄積させた原因だと思うのよ」
その意見を否定することはできなかった。むしろ納得がいった。自我さえもなくなるような暴走が度々あって何も影響がない方がおかしいのだ。なので今回はようやく見つかったと思わざるを得ない。
「原因がそれであっても…肝心の暴走の原因はまだ分からないんだよねえ、コレが」
「……そう、ですか」
「コア・ネットワークは未だ謎が多い。いや解明されている事の方が少ない。それがハッキリすれば篠ノ之束が稀代の天才と言われることもなかっただろうさ」
つまりコアのダメージはおろか、暴走だってどうしようもないということ。篠ノ之束というISの生みの親以外は。
「気落ちすんな、とは言わないが君に責任はないんだ。あまり深く考えるな」
「…で、でも」
「こちらとしても最善は尽くすさ。倉持技研とデュノア社の名に懸けて、ってやつよ」
「………」
「まあ、どの道白式は預からせてもらうんで、君はその間くらいはISから離れるといい」
「え?それって?」
「気分転換だよ。」
気分転換…。とてもそんな気分にはなれないが。
「ま、強制はしないけどな。悩んでても楽しんでても結局は同じ時間なんだぜ~、び・しょ・う・ね・ん」
ヘンタ…もといヒカルノさんの言うことも一理ある。それに、その底抜けにポジティブな考え方は一夏のよく知る人物と同じだ。だからかもしれない。少しだけ冷静になれたのは。
「へえぇー、君は随分彼を信頼しているようだね」
「え?」
「いいねぇー、青春だねぇー」
この人、わざと光輝っぽい言い回しで…。
数秒前の感謝はどこへやら、恥ずかしさとその他の色々な感情(主に変態に対しての憤り)でどうでもよくなってしまった。まあ、気が楽になったとも言うが、なんとなく認めたくないのでどうでもよくなったことにしておく。
「あ、あと、これも強制はしないけど、できることなら彼に深く関わることはお勧めしないよーん」
「え?それってどういう…?」
「なーんて意味深なことでも言ってみたりぃー」
またいつもの冗談か、と一夏は呆れて溜息をついた。そのときのヒカルノの顔も見ずに。
瀬戸光輝は今までで一番の焦りを感じていた。理由は簡単。数分前に一夏からの連絡が入ったのだ。内容は一夏がタッグマッチトーナメントを辞退するということ。別に一夏と組めないからとか、ペアがいないとかではない。
「…殺されるかもな…ホントに」
懸念材料は専用機持ちの制裁だ。いや、マジで。
『や、やあ、シャル』
『…ふんっ』
『よ、よお、鈴』
『なによ、馬鹿』
酷すぎないか!?声を掛けただけですよ!……鈴に至ってはいつも通りな気もするけど。
とにかく、こんな調子で会話をしてくれない。
「というか、僕もペア探さなくちゃな」
今回のタッグマッチトーナメントは専用機持ち限定の特別なイベントらしい。ただ専用機持ちだけが参加というだけではなく、学年の縛りがないのが特徴だ。つまり同学年はもちろん上級生と戦うことになるかもしれない、ということ。
「あれ?いないなー?」
そして僕が今誰を探しているかというともちろん僕のペア探しだ。そしてその人とは―
「ん、いたいた。セシリアー!!」
学園中探しまわった結果、校舎裏のベンチに座っているのを発見した。
「こ、光輝さん!?」
不意を突かれたのか慌てて振り返るセシリア。振り返った反動で髪が後ろになびき、雨粒が日光を反射する。
………雨粒?
「…っ!?」
おかしい。今日は晴天。雨なんて降ってはいない。用務員さんが水まきをしたせいでもないだろう。だったら何故?
「…こ、これは…何でもありませんの」
セシリアが瞳を擦ったところでようやく僕は理解した。
「…どうかしたの?」
僕にしては珍しくそんなことを問うていた。