再会のち飴色
「織斑君、瀬戸君、おはよー。ねえ、転校生の噂聞いた?」
朝、席に着くなりクラスメイトに話しかけられた。この子は〝相川さん〟。入学から数週間で、なんとかクラスに溶け込めるようになった。
「今の時期に、か?」
一夏が疑問に思うのも無理ないね。何たってまだ四月、入学でもギリギリ間に合う時期だからね。…それは違うかな。
「なんでも中国の代表候補生なんだってさ」
「パンダみたいな専用機だったりして~」
〝谷本さん〟、それに狐の着ぐるみ姿で馬鹿なこと言ってるのが〝のほほんさん〟。 えーっと、確か本名は…。
「ど、どんな奴だろうね、あ、あはは」
「こっきーが失礼なこと考えてる~」
「な、何故わかった!?」
こ、こやつも千冬さんスキル発動か!?
「光輝、今のは俺でもわかるぞ」
なにぃー!一夏ですらわかるのか!?
「おりむーにも失礼なこと考えてたでしょ~?」
「グハッ」
「あはは、話し戻していい?」
「おのれ、春先のチャップリンと呼ばれた、この私を差し置いてボケ倒すとは、ぐぬぬ」
何だろう、突っ込みどころは多いけど相川さんのボケは嫌いじゃない。
「わたくしの存在を危ぶんでの転入かしら」
ごめん、違うと思う。…睨まれた。僕の心の声にプライバシーはないのか!?
「このクラスに転入してくるわけではないのだろう?騒ぐほどのことでもあるまい」
さすがに箒も女子、噂に敏感なのか、ちょっと意外だ。ちなみにこの数週間でお互い名前で呼び合う仲には成長した。まあ、箒は篠ノ之って呼ばれるのが嫌いらしい。だから向こうから言ってきたんだよね。
「どんなやつなんだろうな」
「むっ…気になるのか?」
「ん?少しは」
「ふん…」
あーあ、拗ねちゃった。こうしてみると箒もよっぽど分かりやすいな。それでも気づかない一夏の方がもっとすごいけどね。
「一夏さん、来月のクラス対抗戦に向けて、より実戦的な訓練をしましょう。もちろん光輝さんもお付き合いくださいな」
今ではセシリアは僕たち二人のコーチみたいな立ち位置だ。正直言ってありがたい。
「おう、サンキュー、セシリア。光輝もよろしく頼むよ」
「織斑君、頑張ってね」
「フリーパスのためにもね」
「ケ~キ、ケ~キ」
御三方からの熱い声援なんて羨ましいね。三分の二は景品目当てらしいけど。
「今のところ専用機持ってるのは四組の代表と一夏だけなんでしょ?マジでいけんじゃない、一夏」
「おい、光輝。プレッシャーかけるなよ」
なんて言いながら笑いあっていると珍入者が現れた。
「その情報古いよ」
ん?何だろう?めちゃくちゃ聞いたことある声なんだけど。
「二組も専用機持ちがクラス代表になったの。そう簡単には優勝できないから」
腕を組み、片膝を立ててドアにもたれていたのは―
「「鈴!?」」
僕と一夏の中学時代の同級生〝凰鈴音〟。驚きすぎて一夏とハモっちゃったじゃんか。変わんないなー。ツインテールなのも、胸が小さいのも…。
「死にさらせー!!!」
「グ、グフッ」
ドアの位置からドロップキックだと!?身軽なとこも変わってないな。(ゲホ、グホ)その時スカートの中身が見えたのは決して言わない。ちなみにピンクの縞々(バタッ)ここまでの思考、およそ一秒。
「中国代表候補生、凰鈴音。今日は宣戦布告に来たってわけ」
頼むから僕の上で話すなよ。そしてみんなスルーなの!?僕ドロップキック、もろに喰ったよ。
「何かっこつけてるんだ?すげえ似合わないぞ」
「んなっ…なんてこと言うのよ、アンタは!」
一夏この状況でこいつを刺激したら…。
「痛い、痛い、悪かったから、鈴、どいて」
「あっと、ごめん、ごめん」
ああ、死ぬかと思った。
「おい」
「何よ!?」
バシンッ!聞き返した鈴に痛烈な主席簿アタックが入った。
鈴、お前のことは忘れないよ。ざまあみろ、とか思ってないよ。
「SHRの時間だ。教室に戻れ」
「ち、千冬さん」
「織斑先生と呼べ」
鈴に記念すべき二回目の指導(物理)が入った。
「待ってたわよ。一夏、光輝」
どーん、って効果音でもつきそうな勢いだな。
「とりあえずそこどいてくれ。食券出せないし、普通に邪魔だぞ」
「う、うるさいわね。わかってるわよ」
一夏の冷静な突っ込みも珍しいな。少し鈴が不憫だな。よし、乗ってやるか。
「お、お前は噂の転校生じゃないか(棒)」
「よくぞ聞いてくれたわね、あたしこそが噂の転校生、凰―(棒)」
「ラーメンのびるぞ」
二人そろって一夏を睨む。しかもジト目で。
「な、なんだよ、お前ら」
「見損なったぞ一夏」
「そこまでか!?」
「あっち、席空いてるわよ」
切り替え早いな。お前に乗ったんだぞ、鈴。
「それにしても久しぶりだな。元気してたか?」
「あ、あんたこそたまには怪我、病気しなさいよね」
「どういう希望だよ…そりゃ」
今朝は気が付かなかったけどブレスレットを左腕にしている。鈴の専用機なのかな。代表候補生なら十分にあり得る話だしね。なんて考えていると、おいていかれたらしい。すると、さらにおいていかれていた奴らに捕まった。
「光輝!い、一夏とその、あいつはどういう関係なんだ」
「とても親しそうに見えますが…」
箒さん、怖い。マジで怖いから。
「一夏、鈴、自己紹介」
「ああ、悪い、悪い。ええっと、こいつは凰鈴音。箒とは入れ違いで転校してきたんだ。箒が小四の終わりに転校しただろ?ええっと、鈴が―」
「小五の頭よ。んで、中二の終わりまで一緒だったわけ」
「あ、ちなみに僕は中学からの付き合いだよ」
「箒がファースト幼馴染なら、鈴はセカンド幼馴染、ってとこか」
おいおい、そのネーミングセンスは酷いだろ、主に鈴が。
「篠ノ之箒だ。よろしく頼む」
「凰鈴音よ、よろしく」
火花散ったぞ、今。この状況で昼飯を堪能できる一夏の精神はマジですげえ…。
「わたくしの存在を忘れてもらっては困りますわ。中国代表候補生、凰鈴音さん」
「誰?」
「な、イギリス代表候補生、セシリア・オルコットでしてよ!」
「あたし他の国とか興味ないし」
言わんこっちゃない。まあ、鈴に悪気はないんだけどな。性格だからな、これ。
「な、な、な…」
怒りで顔真っ赤だな。ゆでだこみたいなんて言ったら殺されるね。
「…光輝さん、あとでお話しがありますわ」
うん、そんな気がしてた。せめて林檎にしとけばよかったかな?
「一夏。アンタ、クラス代表なんだって?」
「おう、成り行きでな」
「あ、あのさぁ、IS操縦、見てあげてもいいけど?」
「ブフッ」
「こ、光輝さん!?」
こいつを知ってるやつが聞いたらみんなこうなるわ。…一夏以外な。別にこいつ自身はそこそこ、いや、かなり美人だと思うんだが…。単純に似合ってない。
「一夏に教えるのは私だ」
「あなたは二組でしょう。敵の施しは受けませんわ」
セシリアまで一緒になって…。
「私は一夏に聞いてんのよ、関係ない人は引っ込んでて」
そろそろほっとくのはマズいな。
「もしかしたら戦うかもしれないし、そうなったら互いにフェアじゃないでしょ?」
「…むっー」
「頬っぺた膨らませても可愛くないよ」
「うるさいわよ、馬鹿」
可愛くないわけではないけどね、似合ってないからさ。…痛っ、蹴るな、蹴るな。
「鈴、日本に帰ってきたってことは店やるのか?」
「…お店はやらないんだ」
「何でだよ。親父さんの料理久々に食いたいのに」
一夏、お前は勇者か。そうじゃなきゃ馬鹿だ。…馬鹿だったな、そういや。
「そ、それよりも…さ、えっと…今日の放課後、時間ある?」
「生憎だが、放課後は訓練なのでな、埋まっている」
「…え、あ…そ、そうなの?」
やっぱりまだ禁句なんだ。当たり前だけど。仕方ない、ここは鈴の味方してやるか。
「訓練の後なら空いてるでしょ?一年ぶりの再会なんだ、それくらいの時間はつくれるよ」
そう言って鈴に目配せすると恥ずかしそうに笑いやがった。その顔が一夏の前でもできればいいんだけどな。
「じゃあ、待ってるわよ、一夏」
そう言って去っていく鈴はどこか寂しそうにも見えた。