光り輝くその瀬戸際に   作:いろすけ

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White out

 専用機タッグマッチトーナメント。学園から外部へ開示される多数ある行事の一つだ。視察に来るであろう企業の関係者は国籍を問わず、IS学園内と同様の独特の空気を放つはずだ。そんな大会もいよいよ明日に迫っている。普通のペアなら作戦会議や連携の最終確認を行っている頃だろう。はたまた、明日に向け鋭気を養っているのかもしれない。どちらにせよ明日に向けて気を引き締めていることには変わりない。僕らも例にもれず、最後の訓練を終え、ピット内にいた。しかし、二人の間の空気は少し違った。

 

「光輝君?」

「…は、はい」

「………」

「……」

 

 気まずい空気が漂う。理由は明白。ここ最近楯無さんの顔を直視できない。ただそれだけ。何故直視できないかも分かっている。いや、この数日で分からされたと言った方が正しい。結論から言ってしまえば僕は楯無さんのことを意識してしまっている。そしてそれに気がつかないほど楯無さんは鈍感じゃない。むしろ鋭い。だからこそ気まずい空気が漂っているのだ。

 

「本番までに言っておきたいことがあるのだけどいいかしら?」

「…はい、どうぞ」

 

 沈黙を破り、口にされた質問に僕はすぐさま同意の言葉を口にする。一つの溜息の後、楯無さんから言葉が発せられるまさに直前、地震が起こったかのような大きな揺れが僕らを襲った。

 

 ――――ズドォオオオンッ!

 

「「!?」」

 

 遅れてとんでもない爆音が聞こえてきた。

 

「な、なに!?今の!?」

 

 狼狽える僕とは対照的に楯無さんの判断は迅速だった。

 

「光輝君!伏せて!!」

 

 突き飛ばすような形で僕を伏せさせる楯無さん。何事かと思い、周囲を確認すると見覚えのあるISがそこにいた。

 

「あのときの無人機!?」

「違うわ。おそらくその発展機。余分な装備が無くなっているわね。より機動力に特化したんでしょう」

「そ、そんな」

「しかも腕の武装を見る限り高出力の砲口は変わってない。いえ、さらに強化されているとみて間違いなさそうね」

 

 ISを瞬時に展開し相手の分析を的確に行う楯無さん。僕もすぐさまISを展開した。途中、後ろに目をやると、見るも無残なほどに焼け焦げ、原形を失くしているピット内の景色が飛び込んできた。確かに楯無さんの言う通り、出力は以前のものより上らしい。そして同時に楯無さんに無理やりにでも伏せさせられなかったらと思うと全身から嫌な汗が溢れてきた。

 

「はあぁぁ!」

 

 大型ランス《蒼流旋》を構え、無人機に向け突きを放つ。

 

 ガキイィィィ―――――。

 

 耳を劈く甲高い音が響く。特殊ナノマシンによって超高周波振動の水を螺旋状に変化させ貫通力を飛躍的に高めた、文字通り必殺の一撃。しかし、それは無人機の装甲を突き破るに至らず、巨大な左腕に掴まれてしまう。

 

「くらいなさい!」

 

 言い終わると同時、蒼流旋に装備された四門のガトリングガンが火を噴いた。それに怯んだ無人機の隙をつき、ランスを真上に弾くことで捕縛から逃れる。

 

「なんて硬い装甲なの!?」

「大丈夫ですか!?」

「ええ。でも厄介ね」

 

 襲撃者の名は《ゴーレムⅢ》といった。以前現れた無人機《ゴーレムⅠ》よりはるかに強化されていた。黒を基調とした色合いに変わりはないが全体的にスマートな印象を与え、人間にいくらか近づいたようにも思える。その両腕を除けば。右腕は肘から先が巨大なブレードになっており、高い格闘性能が伺える。対して左腕はそこだけがゴーレムⅠの意匠のままで、巨大な腕になっている。先程にも楯無さんが説明した通り、出力は上がっているらしいが。

 

「私が正面、光輝君は側面から」

「はい」

 

 言い終わるなりすぐさま楯無さんはゴーレムⅢと打ち合った。馬鹿でかいブレードを蒼流線でいなす。楯無さんのランスも小さくはないのだが、いかんせん相手の武器が大き過ぎる。二メートル、下手をすれば三メートを超えているかもしれない。そんな攻撃を受け止めでもしたら笑い事にならない。

 

「琥珀!」

 

 楯無さんがゴーレムの注意を引き付けている間に僕は側面からの攻撃を試みる。しかし、ゴーレムとてそう易々と攻撃をもらってはくれない。楯無さんと打ち合っている最中にもかかわらず立体機動を行い寸分の狂いなく回避してみせた。

 やはり知っている。この正確すぎる回避能力と異常なまでの機動力。

 

「もう一度よ!」

 

 そのまま一時離脱しようとしたゴーレムを楯無さんは逃がさない。再び打ち合う体制に持っていくと先程と同じように僕に指示を出す。

 

「…ふっ」

 

 先程と同じ、いや、一点だけ違う。僕は目を閉じ反響定位を発動させた。そのままゴーレムの真後ろまで回り込み、トライデントで斬りつける。ゴーレムは再び回避しようとスラスターを最大出力で噴かせる。

 

「逃がさないわよ」

 

 打ち合いの最中、楯無さんが武装《ラスティー・ネイル》を呼び出す。《ラスティー・ネイル》という名の蛇腹剣。それはそのままS字に曲がり、ゴーレムの行方を防いでみせた。

 

(――ここだっ!)

 

 動きが止まった一瞬、プラズマエネルギーを最大限に装填したトライデントの一閃を浴びせる。

 

 ―――ガキィ、ガキィ、キイィ。

 

 三連撃。しかしそのどれもが装甲を破るに及ばない。相手の武装が硬すぎるのだ。

 

「光輝君!」

 

 楯無さんはこちらに手を伸ばす。それだけで僕は意図していることを理解する。伊達に一緒に訓練をしていたわけじゃない。これくらいのコンビネーションは取れるつもりだ。

 僕がしたことは単純。ただ楯無さんの手を掴んだだけ。それも一瞬。でも、それだけで充分だ。

 一瞬の眩い光。プラズマエネルギーの譲渡が完了した証だ。

 

「いくわよ!」

 

 プラズマエネルギーのほとんどを推進力に回し、強引にゴーレムを突き飛ばした。

 

「光輝君、一度この部屋から離脱しなさい」

「え、なんでですか!?」

 

「クリア・パッションであの装甲を破る。水のベールを展開すれば大丈夫だろうけど一応光輝君は離脱しなさい」

 

 熱き熱情―クリア・パッション。ISから伝達されたエネルギーをナノマシンが一斉に熱に転換することで対象物を破壊する能力。今のような密閉空間でしか使用はできないが強力すぎる技だ。この硬いゴーレムにも試してみる価値はある。

 

「分かりました。楯無さん、気を付けて」

「あら?おねえーさんの心配してくれるの?」

 

 離脱前に見た楯無さんの顔は口調とは裏腹に険しいものだった。

 

 

 

 

 

 

(…行ったようね)

 

 光輝が離脱した直後のピット内。そこには楯無と無人機ゴーレムⅢしか存在しなかった。それ以外のものはゴーレムの無茶苦茶な火力の砲撃で跡形もなく消し飛んでしまったからだ。楯無は珍しく今の状況に焦りを覚えていた。

 

(マズいわね)

 

 それは予想をはるかに上回るゴーレムの硬さのせいだ。初撃の一撃を弾かれたときから確信していた。

 

(おそらく…クリア・パッションでも倒せない)

 

 熱き熱情―クリア・パッションの威力は計り知れない。しかし、もっとも特筆すべきことは範囲性にある。空間全体を支配して爆破させる技は点ではなく、面の攻撃である。だからこそ回避しずらく、幾重にも爆破を誘発させることでダメージの相乗効果を生むもの。

 

(……逆に言えば一点の突破力は劣る)

 

 国家代表になるほどの実力を持つ楯無が自身の技の特性を理解していないわけがなかった。

 

 ドガアァァァ―――。

 

 瓦礫の中からゴーレムが姿を現す。左手の砲口をこちらに向け、スラスターを滅茶苦茶に噴かしながら突っ込んでくる。楯無は砲弾を確実に躱しながらゴーレムを迎え撃つ。

 

 ―――ドオォォォン。

 

 武器が交わる直前、相手の勢いをそののままに、攻撃をいなすことによって事なきを得る。

 正直、厳しい。それでも楯無は諦めてはいない。

 

「だって私は、IS学園の生徒たち…その長…」

 

 今まで両手で支えていた蒼流旋を左腕一本に任せ、右腕を突き上げる。するとミステリアス・レイディの周囲に存在する水流が突き出した右腕の掌に集まっていく。

 

「ゆえに……そのように振る舞うだけ!!」

 

《ミストルテインの槍》。ミステリアス・レイディの全身を覆う水をすべて奪い形成された一撃必殺の大技。槍を構成するアクア・ナノマシンが超振動破砕を行う破壊兵器の塊。正真正銘、楯無の全力だった。

 

「…ふふん、おねーさんは不死身なのよ」

 

 誰に言うわけでもなく、ただいつものように笑って見せる。防御の一切を捨て、この一撃に全てを捧げる。たとえ自身の攻撃の余波で命に危険が及んでも。

 

 ――――――――《ミストルテインの槍》発動。

 

 その攻撃の余波はピット内の全てを巻き込んで爆発する。鼓膜を破らんとするほどの轟音の直後、肌を焼く熱風が驚異的な速度で襲ってきた。そこにあったはずのロッカーも何もかも全てが一瞬で瓦礫なって吹き飛ばされる。まるでそれがとても軽いものだと錯覚してしまうほどに。

 

「……………」

 

 そんな爆煙の中、唯一動いた影は楯無だった。すでに装甲はボロボロで、今この瞬間にでもISが強制解除されてもおかしくはない傷を負いながら、それでも楯無はその場に立っていた。

 

「…やり…すぎた、かしら?」

 

 目の前の惨状にそんな軽口を叩いてみせる。しかし、その余裕の笑みは長くはもたなかった。

 視界が晴れたそこには変わらずにゴーレムがいたのだから。ダメージこそ負っているようだが、それは微量。楯無の一撃を腕を使って防いだのだろう。その腕は見るも無残に半壊しているが、肝心の胴体の装甲にはヒビが入った程度。ダメージは楯無と比べるまでもなく、軽傷だとわかる。

 

「そん…な……」

 

 この瞬間、楯無は恐怖を覚えてしまった。絶対的強者を前にした圧倒的な絶望を。自身の持てる最大の一撃をもってしても目の前のゴーレムの装甲にはヒビを入れる程度にしかならない。完全な敗北だと悟った。

 そんな思考を助長するかのように眼前に巨大なゴーレムの砲口が映る。恐怖が思考を鈍らせ、意識を闇に引きずり込んでいく。

 

(…ダメ…ね……わた、し…)

 

 薄れゆく意識の中、浮かんだ顔は最愛の妹だった。そしてもう一人―――。

 

『――そんなことない』

 

 ふと、そんな声が聞こえた。絶望的で心も折れかけていたのに、嫌にハッキリと。その声は聞き覚えのあるようで全くない。そんな不思議な声。

 

『大丈夫だから』

 

 瞬間、ミステリアス・レイディが眩い光を放つ。そう、まるで琥珀からエネルギーを受け取ったときように。

 

 ――バチッ―バチッ――バチバチバチバチッ――。

 

 ノッキングするような甲高い雷鳴。光はそんな音を纏いながら楯無の持つミストルテインの槍から溢れ出す。その光はゴーレムの装甲を覆う。そして瞬く間にプラズマは霧散した。ゴーレムの装甲の一部とともに。霧散し、露わになったところにはコアらしき掌サイズの球体が鎮座している。

 

(…何が…………?)

 

 理解が追いつかない。譲渡されたプラズマエネルギーの全てを使い切ったわけではない。それでも残量はかなり少ないはずだ。ましてやこんなこと聞いたこともない。

 

『…もう一度』

 

 緩んだ右手に力が入る。もはや考えてなどいなかった。

 

(そうよね…負けられない。…だって)

 

 ミストルテインの槍を構え直し、渾身の突きを再び放つため楯無は自身の脚に力を入れる。一度は崩れた闘志を、抱いた絶望を、今ならいとも容易く吹き飛ばせる気がしたから。

 

「…生徒会長というのは…最強の称号なのだから!」

 

 立ち上がらないわけにはいかない。何故なら楯無はIS学園の生徒会長なのだから。

 

 

 渾身の一撃を放った瞬間、意識はそこで闇に飲まれた。そして途絶えた。

 

 

 

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