光り輝くその瀬戸際に   作:いろすけ

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暴走編を蒼い雫編に変更しました。


繧繝彩色

 僕がピット内に戻ったのは鼓膜が破れそうなほどの爆発音が聞こえてからだった。そこは悲惨としか形容のしようがなかった。室内にあったはずのもの全てが熱線に焼かれ、または溶け、戦闘の衝撃で壊れ、砕けている。今この部屋にあるもの全てが瓦礫と形容されるべきものに化しているのだ。そう、ゴーレムもミステリアス・レイディも。

 

「楯無さん!!」

 

 瓦礫の山の中から僕は楯無さんを見つける。遠目から見てもわかるほど血を流しており、うつ伏せの状態でぐったりしている。最悪の結末が頭をよぎった。

 

「しっかりしてください楯無さん!」

 

 そっと体を起こすと意外にも楯無さんは意識があった。

 

「…もう…女の子に触れる、ときは…もっと、丁寧に……なさい」

 

 息も絶え絶えにそんなことを言う楯無さんに僕は深い安堵を覚える。

 

「……泣いて…るわよ。こーきくん」

 

 この涙は安堵だけじゃない。悔しいのだ。楯無さんに全てを押し付けてしまった不甲斐なさと、そうすることしかできなかった無力さが。

 

「ごめんなさい。僕…」

「…なんで…光輝君が謝る…の?」

「あなたを、守りたかったのに…守るどころか押し付けて…」

 

 僕の言葉に楯無さんは薄く笑う。

 

「そういう…ことは、好きな子に…言うものよ?」

「なら、問題ありません」

 

 自分でも驚くほど自然に言葉が出てきた。きっと今が危機的状況で、いつもより何倍も思っているからかもしれない。それでも不思議と不快感はない。

 

「僕は楯無さんが好きです。だから問題ないじゃないですか」

 

 僕の思いの丈を伝えた言葉。しかし、楯無さんは小さく首を振ってみせた。

 

「違う…わよ。あなたは何も分かってない」

「え?」

「あなたが好きな子は…本当に私、なの?」

「もちろんです」

「じゃあ…シャルロットちゃんは?…鈴ちゃん、それにセシリアちゃんは?」

「…え?」

 

 楯無さんの問いに僕は完全に固まる。質問の意図が理解できない。シャルたちはもちろん好きだ。でもそれは―それは?

 

「光輝君にそう…言って、もらえる…のは、嬉しい。誇りに思う。でも…」

「……」

「他の子が好きな人を、好きになるほど…おねーさんは安くないの」

「………」

「否定…しないのね…」

「いや、これは―」

「君は気づいてる。自分の…気持ちに。そして周りから寄せられる、好意…にも…ね。だから無意識のうちに遠慮してしまっているの」

 

 そうきっぱりと言い捨てる楯無さんの言葉を僕は否定することができない。こんなにも体中ボロボロで意識さえも手放しそうなのに、今の楯無さんお言葉には不思議な力強さがあった。

 

「もっと…自分に素直に、なっても…いいのよ」

 

 その言葉で気がついてしまった。自分の、僕自身の気持ちに。

いや、最初から分かっていた。でも気づかないフリをしていた。その過程で悩んで、迷って、楯無さんという余裕を持った女性に魅かれていった。それが嘘だとは言わない。確かに僕は楯無さんが好きだ。それは間違いない。でも、それ以前、根本的に僕はずっと一人の女性が好きなんだ。

 

(…ああ、そっか)

「フフ、ようやく…ね?」

 

 ようやく、だ。

 

 ドオオォォォン――。

 

 どこからか爆発音が聞こえる。どうやらゴーレムⅢは一体だけではないらしい。楯無さんをここまで追い詰める程の奴らが複数体近くで暴れている。恐怖する場面のはずなのに何故か落ち着けた。

 

「行ってあげて」

 

 楯無さんはそう告げるが聞き入れることはできない。僕は楯無さんの言葉を無視して抱き上げた。

 

「こ、光輝君!?」

「まずは楯無さんからです。あなたを安全な場所に連れて行ってからです」

「…もう、女たらし」

「なんとでも言ってください」

 

 お姫様抱っこのような体勢で楯無さんを抱きかかえ、そのまま駆け出す。IS学園の状況は僕が思っている以上に深刻なようだった。冷静に考えればゴーレムが襲来したのに教師陣の救援が来ないのはおかしい。その理由は目の前にある通り、襲撃者が複数だったからだ。もちろん数は未知数。おそらくだが今も専用機持ちが相手をしているはずだ。

 

「お姉ちゃん!?」

 

 なんてことを考えていると突然人の声がした。それはこちら、正確には楯無さんに掛けられた言葉だった。

 

「かん…ざし、ちゃん?」

「お姉ちゃん!」

 

 簪はこちらに駆け寄って来るなり、心配の声を漏らした。

 

「簪ちゃん、楯無さんを安全な場所まで頼める?」

「う、うん。光輝は?」

「みんなのところに行かなきゃ」

「分かった。…私も」

「いや、簪ちゃんは避難してる人達や逃げ遅れた人達を助けてあげて」

 

 簪ちゃんはそれでも行く意思を見せるが、そうはいかない。はっきり言うとゴーレム相手に調整中の未完成ISでは勝ち目はない。僕も簪ちゃんを守りながら戦うのはさすがに厳しい。そしてそれを一番理解しているのは他でもない簪ちゃんだ。だから、思いの外素直に首を縦に振ってくれた。悔しそうに歪ませた顔がチラリと見えた。

 

「簪ちゃん、みんなを頼むよ」

「光輝も、みんなをお願い」

 

 たった一言、それだけ言葉を交わすと僕はその場を後にした。

 

「…お姉ちゃん」

 

 簪は自身の姉を抱く。今の楯無は自分が勝手に作っていた理想の完璧な姉ではない。ボロボロになって自身の腕の中にいる。こんなにも弱った姉を簪は知らない。こんなにも弱く、人間らしい姉を初めて知った。

 

「光輝、行ったよ」

「……」

「よかったの?」

「…ええ」

「…………不器用」

「…そうね。お姉ちゃん、不器用なのよ」

 

 最愛の妹に支えられている楯無の頬には一筋の光るものがあった。

 

 

 

 

 

 

(……ん、ここは?)

 

 目を覚ますとそこには見慣れた天井があった。間違うはずもない。そこはセシリア・オルコットの自室だった。

 

(…いつの間にか眠ってしまったようですね)

 

 ゆっくり体を起こすと一件の着信が入った。

 

「はい。こちらオルコットですわ」

 

 すぐさまISを介して着信に出ると声の主は短く告げた。

 

『ゴーレムⅢが一機落とされた。アレを使え』

 

 用件だけ伝えると声の主は着信を切る。少しのノイズが頭に響く。しかし、それでもセシアは理解していた。

 

「…了解…ですわ」

 

 

 

 

 

 

 楯無さんを簪ちゃんに任せた後、僕はIS学園の中を駆け回っていた。いたるところで爆発が起きている。すぐにでも駆けつけたいのだがそう言うわけにもいかない。

 

「大丈夫?」

「瀬戸君、ありがとう」

 

 まだ逃げ遅れた生徒が結構いるようで僕はその人たちを先導するのに忙しかった。

 

「もう大半の生徒が避難を終えました。瀬戸君も避難を!」

 

 いつもの慌てた様子とは違う、頼れる表情の山田先生が僕に言う。

 

「専用機持ちのみんなは?もう避難しているんですか?」

「…いえ、でもすぐに皆さんも―――って瀬戸君!?」

 

 僕は山田先生の言葉を遮ってみんなの元に向かった。

 

 

 

 

 

 

「ラウラ!」

「任せろ!」

 

 掛け声と同時、シュバルツェア・レーゲンのレールカノンがゴーレムを撃つ。しかし、ダメージは期待できない。かれこれ四回目の試みだ。

 

「どうする?このままでは…」

「私がAICで拘束しよう。その隙に展開装甲でやつをぶち抜け」

「分かった」

 

 作戦を立て直し、再び動き出そうとしたその時、異変が起こった。

 

「…ぐっ…があっ」

「どうした、ほう――ぐっ」

 

 突如襲う頭痛。いや、そんなレベルものではない。脳が何か得体の知れないものに干渉されているような感覚。うまく形容する言葉が見つからないのもそのはず。今まで体感したことのない感覚だったのだから。

 

「…なに…ISが動かない!?」

 

 頭痛の次に感じた異変はそれだった。ありえない。ISが何者かの干渉を受け、動きを封じられたのだ。目の前のゴーレムが何かしたようには思えない。ただ一つ確かなのは、この状況はマズい、ということ。

 

 ブウオォォン―――。

 

 空気を斬る、何て生易しい表現では足りない。空気を殴る音が響く。同時にラウラがISごと人形のように吹き飛ばされた。

 

「ラウ…ラ…」

 

 地面に叩きつけられたラウラはぐったりとしていて反応を示さない。

 

「おのれ貴様!!」

 

 箒は激昂するもこの状況ではどうすることもできない。それどころか自身がラウラと同じ目に合うのも容易に想像できる。事実、ゴーレムはすぐにこちらに向き直った。

 

「…なっ…く、来るな!!」

 

 忍び寄る死の恐怖に箒は身がすくんでしまう。どちらにせよ動くことはできないのだが、それすらも忘れてしまうほど箒は恐怖していた。

 怖い、怖い、怖い。極限の状況になって自身がこれほどまでに臆病だったのかと、考えてしまう。

 仕方のないことだろう。専用機を持つ者といえど中身はまだ高校生。子供なのだ。しかし、箒はそんな臆病さが許せない。いや、許すことが出来るほど強くないのだ。それもまた仕方のないことではあるが。

 

「…………っ」

 

 ついには言葉すら発することができなくなる。諦めかけたその時、聞きなれた声が聞こえた。

 

『諦めちゃダメだ!』

 

 その言葉に反射的に顔を上げる。そこにいたのはIS《琥珀》に身を包んだ光輝だった。

 

「光輝?」

 

 光輝はアイギスを光速加速で砲弾のように射出し、ゴーレムを弾き飛ばしたようだ。

 

「箒、すぐにラウラを連れて逃げて!」

 

 安堵したのも束の間、光輝の表情を窺う限りどうやらゴーレムは倒せていないらしい。

 

「む、無理だ!」

「大丈夫。福音の時みたいにはならないから」

 

 箒は光輝が以前のような無茶をしないか心配した。そして同時に、前回と全く異なることがある。

 

「ISが動かないんだ。離脱どころかISの解除もできない」

「ど、どういうこと!?」

「分からない。それよりお前の方は大丈夫なのか?」

「いや、特に問題ないけど…」

 

 会話中、疑問に思ったことがある。ゴーレムが立ち上がらないのだ。確かに今の一撃には相当な威力があった。しかし、その程度で倒せるのであれば楯無さんも僕も苦労はしない。だが現にゴーレムは機能を停止している。

 

(個体によって強さが違うのか?)

 

 そう考えることもできるが相手は無人機、可能性は薄いだろう。では、どうして?そのまま思考の海に沈みそうにもなるが状況を考えると最優先事項ではない。

 

「箒、本当にどうにもならないの」

「できたら当にやっている」

 

 それもそうだ。僕はとりあえずラウラを抱きかかえ、四苦八苦している箒のもとに向かう。他のみんなのところにも行きたいけど箒とラウラをこのまま放って行くことなんてできない。どうしたものかと悩んでいると一人の女性が現れた。この状況でやって来る女性がまともであるはずはなく、当然のようにISを展開している。

 

「誰だ!」

 

 瞬時に敵と判断した僕は箒とラウラを庇うように立つ。

 

「久しぶりの再会だというのにそんなにいきり立たないで頂戴」

 

 その女性に僕は見覚えがあった。

 

「スコール…さん?」

「久しぶり、と言っても少し前に会っているのだけれど…覚えていないわよね」

「光輝の知り合いなのか?」

「……うん」

 

 でもスコールさんと会ったのはフランスだ。何故、日本のIS学園、しかもISを装備しているのだ。

 

「ISの硬直を解く方法があるわ」

「え?」

「コアを取り出すのよ」

「光輝!どう考えても罠だ!!」

 

 確かに箒の言う通りだ。この状況、考えたくないけどスコールさんが黒幕の気がしてならない。だから安直にこの人の言うことを聞いてはダメだ。

 

「コアを取り除けばその機体は長時間使用できなくなるけど、それだけ。乗っ取られて暴走するよりよっぽどいいと思うのだけれど?」

「そんな話信じられんと言っている!」

「箒!」

 

 僕の大声に箒は黙る。それを確認すると僕はスコールさんに質問を投げた。

 

「あなたは何者なのか、それだけ教えてください。そうじゃないと信用できない」

「フフフ、そうねぇ」

 

 以前も謎の多い人だった。関わりがないから、なんて理由ではない。むしろその逆。関わりがないのに謎が多すぎる。

 

「前にも言ったでしょう?謎の美女よ?」

「茶化さないでください」

 

 真剣にそう答えるとスコールさんは観念したように続けた。

 

「じゃあ、改めて自己紹介しておくわ。私の名はスコール。亡国機業の一人よ」

 

 告げられた事実に慄くことはなかった。どこかで少し予感していたのかもしれない。

 

「あら、驚かないのね」

「これでも結構驚いてるんですけどね」

「そうは見えないわ」

 

 とにかくこれで決まった。この人の言う通りに動いてはダメだ、と。

 

「まあ、いいわ。どうせ私が言わなくともすぐに分かることだから」

「どういう―」

 

 僕の言葉は通信によって遮られる。

 

『瀬戸聞こえるか!』

 

 千冬さんの声だ。その声はいつも通り厳格でありながらいつも以上に焦りを感じる。当然といえば当然だ。

 

「はい、聞こえます」

 

 僕は目の前の敵、スコールから目を離さないように千冬さんの通信に答える。

 

『今現在、お前以外の専用機持ちとの連絡が取れない。どうやら何者かに遠隔的に干渉されているようだ』

 

 その言葉は今の箒を見れば分かる。しかし、次に発せられた千冬さんの言葉はあまりにも予想外だった。

 

『専用機がこのまま乗っ取られる可能性もある。教員が専用機持ちの救助に向かっているが間に合うかは怪しいところだ。もし近辺に専用機持ちがいれば迷わずコアを抜き取れ』

「え?」

『しばらく専用機を扱えなくなるだろうが一時のこと。気にするな』

 

 まさか千冬さんから出された指示が、たった今否定したスコールの提案と全く一緒だったのだ。

 

「その表情…もう指示が出たようね。さすがはブリュンヒルデ」

「本当にいいんですか?」

『ああ、構わん』

 

 半信半疑な僕を後押しするかのように千冬さんは断言する。

 

「…分かりました」

「おい、光輝。正気か!」

 

 僕は箒に向き直るとトライデントを展開する。

 

「箒、僕は千冬さんを信じる。千冬さんを」

「……分かった」

 

 念を押すように言うと箒も分かってくれたらしい。僕は一思いに紅椿の装甲を破壊した。普段ならここまで簡単には破壊できないだろうけど、相手が無防備でガードを一切しないとなれば別だ。紅椿の装甲は思いの外あっさりと破壊され、紅色に眩くコアが露出した。

 

「…ごめん、箒、紅椿」

 

 そう告げ、コアを取り出す。するとISは機能を停止し、箒はISから解放された。よろけた反動で僕の胸に飛び込む箒。

 

「まさか本当にコアを取り出すとはな。やはり馬鹿だ、お前は」

「…それが僕のいいところだよ」

 

 もたれ掛かってきた箒をそっと地面に寝かせる。悪い気もするけど喜ぶにはまだ早い。

 

「……いない」

 

 スコールと戦うことも想定していたのだが、予想に反してそこには誰もいなかった。

 

「大丈夫ですか?」

 

 そうこうしていると、どうやら教員の救援が来たらしい。僕は箒とラウラを先生たちに任せ、次のところに急いだ。

 そう時間はかからなかったと思う。僕はすぐに見知った人影を発見した。

 

「セシリアー!」

「光輝さん」

「大丈夫!?怪我は?機体は?」

 

 すぐさまセシリアのもとに駆け寄る。するとセシリアは少し表情に影を落とし、一言告げた。

 

「大丈夫です」

「よかった」

 

 見る限り怪我はなさそうだし、機体は展開こそしていないが制御を失ったようには見えない。

 

「これからシャルと鈴のところに行くよ。セシリアも一緒に来て!」

「…それは無理ですわ」

「え?」

 

 予想外の反応。驚き、見つめたセシリアの表情は今にも泣き出してしまいそうな程深い悲しみが刻まれていた。

 

「どこか怪我してるの?それとも機体に問題?」

 

 矢継ぎ早に問いただしてもセシリアは首を縦に振ってくれない。それは僕に何とも言えない不安を与え、次に紡がれる言葉を本能的に拒絶しようとした。しかし、無情にもセシリアの言葉ははっきりと僕の耳に届く。

 

「ゴーレムを呼んだのも…専用機を暴走させたのも…全てわたくしですのよ、光輝さん」

「なに……言って…るの……?」

 

 思考が追いついていない僕とは裏腹にセシリアはブルー・ティアーズを展開してみせた。

 

「亡国機業所属、セシリア・オルコット。今この時をもってわたくしはあなた、瀬戸光輝の敵となります」

 

 深く刻まれていたはずの悲しみはとうに消え、彼女の顔には何も映っていない。最後に一言だけ、彼女は叫んだ。

 

「踊りなさい。わたくしセシリア・オルコットとブルー・ティアーズの奏でる円舞曲で」

 

 

 





終盤になるにつれて内容が重くなるので最近書くのが辛いです。(キャラ愛的な意味で)

最終的にセシリアがどうなっていくのか。また、他のヒロインたちがどうするのか。楽しみにしていただけたらな、と思っております。


とりあえず光輝は誰が好きなんですかねー?(…他人事)
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