光り輝くその瀬戸際に   作:いろすけ

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中学時代は笹色デイズ

 

 僕は小さい頃に両親を亡くした。顔すらも、はっきり覚えていない。なんだか優しそうで、気難しそうな印象だった。そんな気がする。別に不幸だなんて思ってないよ。実際よくある話だと思うし。それに僕には親友と呼べる人ができた。だから僕は幸せ者だと思う。一夏に鈴、その他にも繋がりができた。そういえば鈴のやつ、前にも寂しそうにしてたことあったなぁ。そうだ、確か――

 

 

 

 

 

【一年と半年前 中学二年の秋】

 

 

 

 

 

「一夏、ごめん。鍵忘れたから取ってくるね」

「俺も行くよ」

「いいよ、取りに行くだけだし。一夏こそ早く帰んないと千冬さんに怒られるぞ」

「千冬姉はいないから大丈夫だぞ」

 

 いつものように鈴の両親が経営している中華料理屋「鈴音」で夕食を済ませて、帰宅しようとした後、僕は自宅の鍵を忘れてきたことに気づいた。鍵についているカエルのキーホルダーを店内で見せびらかしたのが仇となった。

 

「本当に大丈夫だから。じゃあ、また明日ね」

「おう、じゃあな」

 

 僕も一夏も親なき子だからね。しかも千冬さんも訳あって、ドイツに行っていたし、鈴の家族にはかなりお世話になっていた。

 

「お、ちょうどよかった。鈴、ゲコ太ストラップ見なかっ――」

 

 たぶん言葉を失う、っていうのはこういうことなんだな。本気でそう思った。そこにいた鈴は普段の活発な姿なんて微塵もなく…。

 

「……」

 

 ―――泣いていた。

 

「こ、光輝…?」

 

 こいつ、こんなにか細い声出せたのか。涙の理由よりも、そんなことが初めに過ったのは僕がまだ餓鬼だったからだろう。

 

「…鈴?」

 

 ようやく思考が追い付いてきたと思ったら、店の奥から怒号が聞こえてきた。鈴のおばさんとおじさんの声。それだけでなんとなくだが察することができた。

 

「おじさんとおばさん、喧嘩してるの?」

 

 本当は喧嘩なんてレベルのものでないことくらい、すぐにわかった。けど、僕はどうしていいのかわからず、下手に核心を突く聞き方をしてしまった。

 

「…お、おい、鈴!?」

 

 いきなりの逃走だったが反射的に伸びた手が鈴の腕をつかむ。いつもならこの辺りで文句の一つでも言ってくるのだが、今はそんな余裕もないらしい。

 正直、親のいない僕にはなんて声を掛ければいいのかなんてわからない。けど、このまま鈴を一人で行かせるわけにはいかない気がした。

 

 

 

 

 

 

 とりあえず近くの空き地にやって来たのだが、鈴がいつもと違い過ぎてどうしていいのか分からないのが本音だ。なんて考えていると鈴はその場に崩れ落ち、膝を抱えてしまった。

 

「…」

「…」

 

 相変わらず俯いたままの鈴につられそうになるが、ここで僕も暗くなってしまっては元も子もない。だからといってうまい言葉が出てくるわけではないので、とりあえず隣に腰掛ける。

 

「理由、聞かないの?」

「話したいなら聞くよ?」

「…話したくない」

「じゃあ、聞かない」

 

 そう言ったきり黙り込むので僕もそれに倣う。

 

「………」

「………」

 

 どれくらい経っただろうか。しばらくの間無言を貫くと、またしても鈴の方から口を開いた。

 

「…もし、もしよ?あたしが国に帰るって言ったらどうする?」

 

 その問いは僕の足りない頭で立てられていた仮説を裏付けるには十分だった。

 帰郷―すなわち両親の離婚。

 

「…どうするって」

 

 そんなのどうしようもない。あんなにも仲の良かったおじさんとおばさんが離婚するなんて信じられない。それ以上に凰家の暖かい雰囲気を壊してしまうなんて、もったいない。家族のいない僕は純粋にそう思う。けどそれは鈴の両親が決めることであって僕なんかが口を出していい問題じゃない。

 

「…あたしね、一夏のこと好きなんだ」

 

 突然の告白に驚く。別に鈴が一夏を好きなのは知ってた。けどそれを本人の口から聞けるとは思っていなかったからだ。

 

「…離れたくない」

 

 主語も目的語もクソもない言葉。けど、その言葉に今の鈴の思いが含まれているような気がした。しかし結局のところ何もできない。助けてやりたい、救ってやりたい。そう思っても何もできない。おのれの無力さを痛感しながら、鈴の頭をなで続けることしかできなかった。

 

 

 

 

 

 

 結局のところ僕がしてやれたのは、話を聞いただけ。鈴が転校するまでの間、ずっと。なんとか勇気を出させて一夏に告白させたのはきっと、間違いじゃなかったんだろう。

 

「光輝!光輝!光輝!」

「そんなに何回も呼ばなくても聞こえてますよー」

「…ど、どうだった?」

 

 僕は今、鈴の告白の見とどけ人として感想を聞かれている。一応言っておくが、鈴に頼まれたから見てたんだからね。僕は鈴に任せるつもりだったよ、マジで。

 

「ばっちりだよ、ちゃんと言えたね」

「うん、これも光輝のおかげね」

「じゃあ、これで思い残すことはなさそう?」

「…あ、えっと、実はまだあって」

 

 珍しく歯切れがわるいな。

 

「何?できる範囲ならなんでもするよ?」

 

 僕は鈴を救ってやれなかった罪滅ぼしでもしてるのかな?…我ながら最低だな。

 なんて考えながら鈴の方へ目をやると、

 

「ぐえっ」

 

 思いっきり殴られた。

 

「いってぇーーー」

「え?そんなに強かった?」

 

 めちゃくちゃ強いわ!!

 

「ごめん、ごめん」

 

 そう言って、倒れた僕を引っ張り起こす。何なんだよ…。

 

「あたし、あんたには感謝しきれないくらい感謝してるの。あんたがどう思ってようが関係ない。あたしが感謝してるんだから黙って受け取りなさい、いいわね?」

「……お、おう」

 

 あまりに強引な物言いに頷くことしかできなくなる。

 

「あんたが責任感じてるなら、あたしに貸し一つ、ってことで納得しなさい」

「…言ってることめちゃくちゃ、だよ?」

 

 気にするなだの、貸し一つだの。でも、それが鈴の優しさだってことくらいはわかる。きっとこいつなりに気を遣ってくれたんだろう。

 

「それと、あたし………あんた、光輝のことも好きよ」

「…え?それって?」

「女の子に二回も言わせる、普通?」

「いや、ごめん、でも―」

「いいから、あたしの告白も受け取っときなさい」

 

 そう言いながら僕に背を向ける、鈴。どうしたものかと黙っていると呆れたように声を掛けられる。

 

「…返事はいいわよ。それが聞きたいのは一夏だもん」

「…」

「でもあんたのことも同じくらい好きだっていうのも知っといて」

 

 微笑む鈴に僕は何も言えなくなる。

 だってその顔は、今まで見てきたどんなものよりも綺麗だったから。

 

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