光り輝くその瀬戸際に   作:いろすけ

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招かれざるはダークグレー

 

 試合当日、組み合わせは何の因果か一組対二組。つまり一夏対鈴。

 

「どんな星の元に生まれてきたんだよ」

 

 僕は別に試合があるわけじゃないから、こうして校舎裏で愛器の手入れをしている。今日も用務員さんは手入れに勤しんでいる。お疲れ様です!ちなみに試合開始まで一時間を切っている。

 

「そろそろ行こうかなー」

 

 そう思ってベンチから立ち上がろうとしたんだけど、なんか気配を感じるんだよね。

 

「あら、気づいちゃった?」

 

 嘘でしょ、隣に見知らぬ女子生徒が。というか、いつから?思いっきり隣だよ!

 

「怪我を隠しているのは彼女のためかしら?」

「…」

 

 確かに左腕を骨折していた。制服の下から固定しているのだが、まさか知らない人に一瞬で見抜かれるとは思っていなかった。僕は相当分かりやすい方だという自覚はある。しかし何とか今回は鈴にもばれていない。つまりは、この人の観察眼が異常だということを示している。

 

「相当なサックスの腕らしいじゃない」

「…あの、あなたは?」

「ンフフ、だ~れだ?」

 

 いや、それを聞いたんですが。でも、この人見たことあるなー。…誰だっけ?

 

「正解は〝更識楯無〟この学園の生徒会長よ」

 

 笑いながら扇子を開くと〈学園最強〉と書かれていた。

 生徒会長かー、道理で見たことあるわけだ。

 

「腕が治ったら聞かせて頂戴ね」

「え、あ、はい」

「あなたも遅れないようにね」

「え?」

 

 遅れない、って何に?まあ、普通に考えればクラス対抗戦だろうけど。リボンの色的に二年生だよね、あの人。腕のことを追及してこなかったのは気を遣ってくれたのかな。不思議な人だったなー。

 

 

 

 

 

 

 噂の新入生同士の戦いとあって、アリーナは全席満員。それどころか立ち見の人まで大勢いる。《白式》を纏った一夏の視線の先には、鈴とそのIS《甲龍―シェンロン》が静かに試合開始の時を待っている。

 

「一夏、今謝るなら痛めつけるレベルを下げてあげるわよ」

「そんなのいらねえよ。全力で来い」

「そう、それじゃあ遠慮しないわ」

 

 お互い臨戦態勢に入る。

 

『それでは両者、試合を開始してください』

 

 ビーッと鳴り響くブザー、それが切れると一夏と鈴は同時に動き出した。

 ガキンッ!

 一夏が瞬時に展開した《雪片弐型》が見えない衝撃に弾かれる。

 

「なんだ、今の!?」

「ふうん、初撃を防ぐなんてやるじゃない」

 

 二メートルはあろうかという《双天牙月》をバトンのように振るう、鈴。両端に付いた刃を高速で回転させ、一夏に迫る。しかも縦横斜め、と自在に角度を変えながら斬り込んでくる。

 

(マズい、このままじゃ消耗戦になるだけだ。もっと相手の動きを見ないと!)

「甘いっ!」

 

 鈴の掛け声と同時に一夏は見えない衝撃に殴り飛ばされた。

 

「今のはジャブよ」

 

 牽制(ジャブ)の後は本命(ストレート)と相場は決まっている。

 

 

 

 

 

 

「なに、今の?」

「《衝撃砲》ですわね」

 

 僕はピットからリアルタイムモニターを見ていたところ、一夏が不自然に飛ばされたのを見て疑問の声を上げた。すると隣にいたセシリアが答える。

 

「空間自体に圧力をかけて砲身を生成、余剰で生じるそれ自体を砲弾化して打ち出す、ブルー・ティアーズ同様、第三世代兵器ですわね」

「砲弾どころか砲身まで見えないなんて…」

「な、そんなの躱しようがないだろ」

 

 箒が焦るのも無理はないよ。事実、躱しようがない。

 

「しかも、あの衝撃砲は砲身射角がほぼ制限なしで撃てるようですね」

「それでも射線は直線だ。ハイパーセンサーに空間の歪み値と大気の流れを探らせれば対処はできる」

 

 補足をしながら山田先生と千冬さんがやってくる。

 

「なるほど、確かにあいつならできそうですね」

「…どういうことですの?」

「まあ、見てなよ。すぐわかる」

 

 そう言うとこの場の全員がモニターを見る。それと同時にアリーナで動きがあった。

 

 

 

 

 

 

 驚くべきことに一夏は善戦していた。放たれる衝撃砲をことごとく避ける。それは最早、異常の域だった。

 

「くっ、ちょこまかと!」

(見える。衝撃砲も、鈴の動きも。これならいける!)

「ああ、もう、鬱陶しいわね」

 

 痺れを切らした鈴は接近戦を仕掛ける。双天牙月による多角攻撃。しかし一夏は武器を使うことなく避け続ける。

 

(体が軽い…)

 

 音を遮断したかのように周囲が静まり返る。否、一夏自身が音を完全に遮断していた。そう、光輝の戦い方そのもの。ただし光輝とは真逆。聴覚を遮断し、視覚の補助を上げたのだ。

 

「で、出鱈目じゃない!?」

「ああ、出鱈目だな、あいつは」

「!?」

 

 鈴には一夏のつぶやきの意味が分からない。しかし、それは鈴の声がまだ聞こえている証拠。つまりは完全に聴覚を遮断していない、ということ。

 

「本気じゃない、ってことね。…上等!」

 

 双天牙月の連結を解き、二刀流で斬りかかる。これにはさすがの一夏も苦戦を強いられる。それを逃す鈴ではなかった。

 

「はあああぁー!!」

「ぐっ!」

 

 近距離での衝撃砲。たとえ見えていても避けられなければ同じだ。実際、一夏は見えていたようだが対応しきれず、被弾した。その隙をついて鈴は距離をとることに成功する。

 

(接近戦はやばいわね。でも、手数を増やせば問題なし)

「鈴!」

「何よ?」

「本気で行くからな!」

「当たり前よ。返り討ちにしてやるわよ、馬鹿」

 

 一夏は集中する。今度こそ完全に聴覚を遮断するべく。

 それが仇となり、真上から接近する光源体に気づかなかった。

 

「一夏、危ないっ!」

「えっ!?」

 

 ズドーン!!

 直後、アリーナのシールドを突き破り、エネルギー砲が猛威を奮った。

 

「一夏、無事!?」

「…お陰様でな」

 

 鈴がとっさに放った衝撃砲に弾き飛ばされたため、一夏は直撃を避けていた。

 

「何なんだ、あれ?」

「そんなのあたしが知るわけないじゃない」

 

 二人の視線の先にいるのは灰色のIS。その恰好はまさに異形。肩と頭が繋がっているような形をしている。そして何より、全身装甲(フル・スキン)顔が伺えないのが不気味さをより一層引き立てる。

 

「一夏、あたしが時間を稼ぐから今のうちに――」

「お前を置いて行けるか!」

「あんたの方が弱いんだからしょうがないでしょ!」

「でも―」

「別に最後までやり合うつもりはないわよ。こんな異常事態、すぐに先生達が来て―」

「それまで足止めしとかなくちゃいけないのか」

「そうよ、分かったらさっさと―」

 

 当然のごとく、会話中にも攻撃は続いている。

 

「じゃあ、鈴の背中くらいは守ってみせるさ」

「……あ、ありがと。いやいや、じゃなくて――」

「鈴、危ない!」

 

 ギリギリのところでレーザーを躱す。一夏が鈴を抱えて逃げたので今は鈴をお姫様抱っこしている形だ。

 

「ちょ、ちょっと、離しなさいよ、馬鹿」

「おっと、悪い」

 

 鈴は赤い顔を左右に振ることでなんとか切り替え、一夏にプライベート・チャンネルを飛ばす。

 

「…ったく、わかったわよ」

 

 再びレーザーを撃ってくるが難なく躱す。

 

「向こうはやる気みたいね」

「みたいだな」

 

 一夏と鈴の即席コンビは正体不明のISとの死闘に身を投じた。

 

 

 

 

 

 

「織斑君、凰さん!」

 

 先ほどから山田先生が一夏達に呼びかけているが一向に返事がない。すぐに救援を送りたいところだが、システムがロックされている。もしかしなくても敵ISの仕業だ。

 

「現在、三年の精鋭がシステムクラックを実行中だ。遮断シールドを解除できたらすぐに部隊を突入させる」

「待っていることしか、できないのですか」

 

 そう呟いたセシリアの言葉にはどこか無力感のようなものが感じられる。

 

「そういえば、光輝さんと箒さんはどちらに?」

「何?」

 

 真っ先に反応したのは千冬だった。その顔は面倒事が増えた、と呆れたような複雑な顔だった。

 

 

 

 

 

 

「なあ、鈴。あいつの動き、なんか機械じみてないか?」

「どういうことよ?」

 

 一夏はこれまでの戦闘から一つの疑問が生じていた。

 

「人が乗っているのか、本当に?」

「はあ!?何言ってんのよ」

 

 だが、あのISの動きは確かに不自然だ。避け方も攻め方も正確すぎる。

 

「無人機だったら勝てるっていうの?」

「ああ」

「言い切ったわね。じゃあ、あれが無人機だと仮定して責めましょうか」

 

 鈴のこうした臨機応変な対応はなかなか有難い。

 

「俺が合図したら衝撃砲を撃ってくれ、全力でな」

「いいけど、当たらないわよ」

 

 作戦を伝えている、そのさなか、アリーナのスピーカーから大声が響いた。その声は箒のものだった。

 

「一夏ぁ…男なら、そのくらいの敵に勝てなくてなんとする!」

 

 敵ISは館内放送の発信者に興味を持ったのか、じっと箒の方を見ている。

 

「まずいっ!鈴、やれ!」

 

 鈴に促し、一夏は前へ出る。そう、鈴の前に。

 

「ちょ、どきなさいよ」

「いいから、早くしろ」

「ああ、もう、どうなっても知らないわよ」

 

 衝撃砲が爆せる。瞬間、一夏は加速し、敵ISに肉薄する。

 瞬間加速(イグニッション・ブースト)。後部スラスターから放出したエネルギーを内部に取り込み、圧縮して放出。その際に得られる慣性エネルギーを利用して爆発的に加速。

 つまりは、外部からのエネルギーであってもいい、ということだ。

 

「――うおおおおお!!」

 

 雪片弐型が強く光を放つ。《零落白夜》―バリア無効化攻撃。相手のバリア残量に関係なく、本体に直接ダメージを与える。するとISの絶対防御が発動してシールドエネルギーを大幅に削ることができる。その反面、零落白夜使用時には多大なシールドエネルギーを消費する。いわば諸刃の剣。

 必殺の一撃は敵ISの右腕を切り落とした。しかし、それだけ。すぐさま反撃が来る。

 

「くそっ!」

 

 瞬間、雷が敵ISの頭部に迸った。

 

「倒し損ねなんて、もったいないよ。色男(ヒーロー)」

「こ、光輝!?」

 

 僕は全身の装甲にプラズマエネルギーを装填して、自らの体ごと加速することで割って入ることに成功。その速度は一切の誇張なし光速のそれだ。一夏の零落白夜以上の諸刃の剣だが威力は絶大。右手に持ったトライデントで敵ISを一閃する。さすがに停止しただろう。

 

「まあ、とにかくこれで―」

「光輝、後ろよ!」

 

 鈴の声に従い後方のISを確認するが、それよりも先に敵ISにロックされていた。

 

「「光輝!!」」

 

 一夏と鈴の声を聞いたのを最後に僕は意識を手放した。

 

 

 

 

 

 

「う……」

 

 僕は全身の痛みに呼び起こされ、目を覚ました。

 

「起きたの?」

 

 ん?その声は鈴か。ここは病室?保健室か?…ああ、そっか、思い出した。

 

「鈴…一夏とは仲直りできた?」

「第一声がなんでそれなのよ。自分の心配しなさいよ」

 

 うっ…そんなこと言っても僕的には二人の仲の方が重要だし。

 

「大丈夫よ。心配ないわ」

「そっか、よかった」

「ちなみにあのISの被害もあんた以外怪我人ゼロ。心配ないから」

 

 カッコつけて登場しといてこの有様。まあ、怪我人がいないならいいけどね。

 

「…自分のことも大切にしなさいよね」

 

 小さい声で聞き取れなかったけど、大体予想つくよ。

 

「…左腕、見せなさいよ」

「なんだ、バレてたんだ」

「当たり前でしょ。ただでさえ分かりやすいのに隠し通せると思ったわけ?」

 

 僕に隠し事は出来そうにないね。

 

「…光輝、ごめん」

 

 そう言いながら僕の左腕に申し訳なさそうに触れる、鈴。

 また泣きそうな顔してるよ。この顔には弱いんだよな。

 

「気にしてないって、それに鈴が手加減してくれたから、たいしたことないしね」

「でも、あたし…」

 

 鈴は昔から強情だったな。決めたことは絶対曲げない、男前な性格。バレたら怒られそうだね。

 

「じゃあ、こうしよう。鈴に貸しあるの、覚えているよね?」

「…!!」

 

 僕の言葉で何を思い出したのか顔を赤くする。

 全く、何を思い出してるんだろうね。

 

「その時の貸しで今回の件はチャラ」

「はあ!?何言ってんのよ、馬鹿!そんな卑怯な貸しの返し方なんて無しよ!」

 

 お、やっと、こいつらしくなってきたな。…でも卑怯か。確かにそうかもね。

 

「なら、鈴も僕に貸し一つ。それでいい?」

 

 つまり互いに貸し一つ。これでやっと対等、ってこと。

 

「そ、それなら」

 

 ふぅ、どうにか納得してもらったかな。でも、まだ暗いんだよなー。よし、少しからかってやるか。

 

「鈴、お前の取柄は元気だろ?いつまでも落ち込んでたらもったいないよ、可愛いのに」

 

「えっ…なっ…ちょっと…」

 

 予想以上の狼狽えぶり、面白い。

 

「僕的には泣き顔も可愛いと思うけど」

「………っ!!」

 

 よし、とどめだ。

 

「でも、笑顔の方がいいね、保証する。…例え胸が小さくても」

 

 耐えられませんでした、ごめんなさい。こっちまで恥ずかしくなって、ダメだ。

 

「あ、あんたねぇ」

 

 甘んじて受けよう、来い、鈴!

 目を閉じるが一向に殴られる気配がない。すると予想外のことに鈴が飛びついてきた。

 詰まる所、抱きしめられた?

 

「鈴?」

「お返し」

 

 いや、でも、小さいのが当たってるんですけど。勘弁してください。

 

「あたしね、実は迷ってるんだ」

 

 話なら離れてからにしてくれませんか。お願いです。

 

「一夏と光輝、どっちが好きなのか」

「え?」

 

 思考が完全に止まった。

 え、だって、鈴は一夏が好きで、そりゃ、僕も好きだ、って言われたけど、結局一夏が好きで、でも、迷ってる、って今――

 

「冗談よ」

「…え?」

「だから冗談、さっきのお返しよ」

 

 タチ悪くないですかぁー。恥ずかしながら本気にしちゃったよ。ダッサー、僕。

 

「なに本気にしてんのよ」

 

 そうやって鈴はいつものように元気よく笑っていた。

 

「もし、本気だったらどうした?」

「ん?そーだなぁ」

 

 突然の質問だけど答えるのは難しくない。

 

「僕なんかに鈴はもったいないよ」

「そ、あんたらしいわね」

 

 鈴は呆れたように笑っていた。

 

「もう夕方か。寝すぎちゃったかなー」

「…ホントよ、馬鹿」

「綺麗だね」

「…そうね」

 

 鈴の頬が赤いのは夕日のせいだね。

 少なくとも今はそう思おうとした。

 

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