つまらない、今の自分が感じているものを、人間用に表現するならその一言で十分だろう。
どの相手も羽虫を落とすかのようだった。
あの一件から数年たち、不覚を取った相手がどれだけ進化していても負けないようにしていたのだ。
自分は装甲が回復するまで水中で何万何千という仮想戦闘を繰り返しシュミレートし続け、武装を奪い完全な装備でいったというのに、相手はほとんど進歩していなかった。
確かに技術は進化していた、エネルギーを無効化する刀、視認できない大砲、無線で遠隔操作する銃器、間違いなくこちらに来た時よりも進化していると言える。
しかし、それだけだ。
いくら兵器が強くなろうと、使い手が弱ければ意味が無い。
対峙したもの達を思い出す、戦った相手は皆がまだ戦闘経験の少ない少年少女だった。
何故年端もいかない子供に戦わせるのか、自分には分からない。
まるで緊張感の感じられない、戦いを遊びかなにかと思っているかのようだ。
間違いなく装備に釣り合わない、取るに足らない者、自分ならば速攻で決着がつけられるはずだった。
それに、最も疑問に思うことは自分の行動だ。
先程羽虫を落とすように容易だと言ったのに、自分は敵に止めをささなかった。
させなかったのではなく、自らの意思で取りやめた。
兵器である自分の存在意義とかけ離れた行動、おかしいと思っているはずなのに出来ない理由は、その原因は前回の戦いにあった。
大破しかけた船の中での戦い、その最後の瞬間に感じたあの高揚、まるで全身がオーバーヒートしたかのようだった。
その時の相手と、最後の織斑一夏はどこか似ていた。
織斑一夏ならばもう一度、自分はあの感覚を知ることができるかもしれない、そう思ったために、自分は止めをささなかった。
生命の危機は文明の進化を助長する、これは自らの目標を困難にする行動なのかもしれない、しかし、それでも自分は知りたかった。
あの興奮を、作られた命である自分が、初めて感じた感情を。
自分はまた近いうちにまた奴らと戦うだろう、その時に、あの高ぶりの答えがわかるのではないか。
だが、答えを得ることができなければ、自分は目的を遂行し、すべての『敵』を破壊しよう。
そこで思考を中断すると、名も無き破壊者は次の戦いへ向けての準備を行うのだった。
「…………」
夕方過ぎ、IS学園内の屋上、そこに備え付けられたベンチに、織斑一夏は座り込んでいた。
俯き、無言のまま、ただ時が過ぎるのを待つ彼は、以前の彼とはまったく別人のようだった。
IS学園の教護施設は、通常の学校の保健室などとは桁違いの規模で、万が一事故などが起こった際にもすぐに治療ができるようになっている。
前回のクラス代表戦での乱入者との戦闘後、織斑一夏、鳳鈴音、セシリア・オルコットの三名はすぐにここに運ばれ、治療を受けた。
三人の怪我の情報は、鈴音はISの絶対防御などに守られて軽傷で済んだが、乱入者のシールドを無効化する兵器により、直接攻撃を受けたセシリア、は少しでも傷口がずれていれば即死だったと言われるほどの重症で、学園側の必死の治療のおかげか何とか一命はとりとめることができた、というような状態である。
そして自分、織斑一夏は――――
「ここに居たのか」
屋上の入り口近くから、声をかけられる。
ゆっくりとした動作でそちらを振り向くと、そこにいたのは一夏の幼馴染、篠ノ之 箒(しののの ほうき)がいた。
箒は、長い髪を揺らしながら一夏の隣に座る。
「もう、出歩いてもいいのか?」
一夏は頷く、彼は、あの時の戦いで倒れた後、一日中寝ていたらしい。
目覚めたときにはすでに応急処置が終わった後だったので、実際に感じたわけではないが、相当ひどい状態だったらしい。
受けた傷は深くなかったが、量が多く、相手に戦うために肉体とISを酷使していて、精神的な疲労でほとんど動かず、ただただ眠りについていた、と姉の千冬は言っていた。
「そういえば、鈴音はもう退院して復帰したぞ。先に待っている、だそうだ」
「そうか、俺も早く戻れるようにならないとな」
一夏はそう返答すると、はにかんだ。
箒はそれを見ると、すこし怪訝そうな顔をした。
そして、少し心配そうな口調で聞いた。
「それで、腕の調子はどうだ?」
一夏の左腕には、白い包帯とギブスがつけられていた。
その問いに、一夏はすこし表情をしかめると、答えた。
「今は、動かせない、もう少ししたら包帯は外せるらしいけど、もう、剣は振れないって」
一夏の声は、少し震えていた。
その内に秘められた感情を、察した箒は「……そうか」とだけ答えた。
箒は、昔から織斑一夏という男の性格を知っている。
おそらく、いまの彼には慰めは意味をなさないだろう。
そう思った箒は、ベンチを立つ。
「私は、そろそろ戻る」
「ああ」
「あまり長居はしないほうがいい、春だといっても、夕方は冷えるからな」
「ああ」
一夏の変わらぬ返事を聞くと、箒は振り向かずにその場を去った。
一夏が今、どんな表情をしているか、箒にはわかっていたから。
そして、自分にその表情を見られるのが、彼が何よりも嫌いだったから。
箒が去った少し後、一夏は涙を零した。
彼女が一夏の性格を知っているなら、もちろんその逆も同じである。
篠ノ之箒は、口下手な人間である。
だから、今の一夏にかける言葉が見つからないことを、一夏は知っている。
一夏が、他人に涙を見せることが、なによりも屈辱的なことなのか、彼女が知っていることも。
それでも、彼女は去った。
心に溜め込んでいた、口にして伝えたい気持ちを押し殺して。
情けなさに、涙が止まらない。
自分は、友人を、仲間を守ることができなかったくせに、自分よりも苦しんでいる少女に気を使われて。
もう、自分に守る力は無い、一夏のIS『白式』には、武装が近接用のブレードしか付いていない。
剣を振るうものにとって、腕を一本失うというのは、両腕を失うのとさほど変わらない。 つまり、一夏にとってISを失うのと、ほぼ同意義である。
一夏は涙を流しながら、自分に激怒し、思考する。
このままで、いいのか?
そう考えた瞬間に、仲間の、彼女達の姿を思い浮かべる。
そして、乱入者が現れ、頭の中のセシリアと鈴音を、あの時のように無残に痛めつける。
一夏は手を伸ばすが、乱入者は、一夏の腕を切り落とす。
現実ではないので痛みは無いが、一夏は彼女たちを助けることが出来なくなった。
そして、二人を瀕死の状態まで痛めつけられる様を、一夏はただ見ていることしかできない。
そして、乱入者は箒の近くに寄ると、一夏のISのブレードと、同じ見た目をしたブレードを振り上げると、そのまま――――
一夏は頭を振るい、そのイメージを掻き消した。
乱入者は「また会おう」と言った。
これは一夏の直観だが、近いうちに、また奴と戦うことになる。
だが、一夏にはもう戦う手段は無い、仲間を守ることも出来ない。
再び、先ほどのイメージが浮かび上がる。
次、やつと戦うときに、あのイメージは現実になるかもしれない。
そう思った瞬間、一夏を恐怖という感情が襲った。
寒気を感じ、わずかに身震いをすると、一夏は涙を拭い、立ち上がる。
震えは、風に当たりすぎたせいだ、と自分自身を誤魔化し、病室へと戻る。
ベッドに横になっても尚、寒気が止まることはなかった。
そして、一夏が退院し、数日ほど時間が経ったころ、一夏は相談したいことがあるという理由で、寮長である姉の部屋を訪れた。
「それで、相談したいこととはなんだ?」
一夏は姉の前に立つと、頭を地にこすりつけ、こう言った。
「織村先生、俺に戦い方を教えてください!」
織斑一夏は、諦めない。
厨二主人公設定
ADAM(煉獄弐)
煉獄の世界でひたすらに殺し合っていた兵器の一体、最高クラスのAIを内蔵した樹脂によって構成されている。破壊されても再生し、ほぼ無限に近い命を持っている。
武装データを読み込むことで樹脂を武器に変え、エネルギーを弾丸に変え戦う。
煉獄の世界で主人公GRAMに破壊された後、何の因果かISの世界へ移動していた。
他の生物を根絶するという命令が自分の存在意義だと思っており、IS世界に来てもその任務を遂行しようとしている。
織斑千冬、篠ノ之束の活躍により撃退されたため、ISを第一の殲滅対象としている。
武装採集のために襲撃した化学施設でドイツのIS、シュヴァルツェア・レーゲンのデータを所持しているため、VT(ヴァルキリー・トレースシステム)やAICを使うことが出来る。