辺りを見回すと古い規則的に並んだ町並。ここは祇園という京都の町だという。着物、と呼ばれる随分華やかな服を来ている人や、違う国、同じ国から来た旅行者、地元の人など歩いている人は見かけるが私と同じ服を着た人は見かけない。
そう、つまり
「……はぐれた」
携帯に予め入れておいた地図のデータを見る。神崎さんの候補である、早々人が入って行かない小さな路地に行くと言っていたのでこの大きな通りではないのだろう。携帯の電源を落としてポケットに入れ、溜め息を吐く。……虱潰しに探さなければ。
先ほどまで人通りが多く、それに流されてしまい人が減って気付いたときには1人になっていた。会話が賑やかになっていたので私がはぐれたことに多分気付いていないと思う。
小さな暗い路地を見つけたのでそのまま入って行く。さっさと見つかればいいのだけれど、最悪時間に間に合わなかったら携帯で連絡を入れなければ。携帯に入っている連絡先はカルマくんと烏丸先生しかないから気はあまり進まないけれどしょうがないと、仕方ない。自分が気をつけていれば何もなかったのだ。
小さな路地の奥から人の声が微かに聞こえた。聞き慣れた声、恐らく班のメンバーだろう。よかった、合流出来る。そう安堵して声の在処を探していると気がつく。声が、班のメンバーより多い?違和感に不安を感じ駆け足で声のする方向に向かう。
バキィッと軽々しい渚くんが吹っ飛ばされる音。男子は皆倒れ、女子は知らない輩に取り押さえられてる。私たちよりも図体が随分と大きい柄の悪い制服を着た恐らく違う学校の男子。
「ーッ!ーーッ!!」
茅野さんが私に気付いたらしく、口を抑えられているが助けを求めるために必死になっている。その様子に柄の悪い人たちも気付き、最初は舌打ちをしたがどこかにんまりと気色の悪い笑みを浮かべた。
「お友達ぃ?随分と美人だねぇ、こいつもさらっちまえ」
1人の男が大人しくしろよー?と近づいて来る。渚くんを殴った奴か。殺気を出すとそいつは怯み、怯んだその隙に懐に近づく。相手の急所、みぞおちを狙って膝蹴りを食らわせると男は受け身も取れず倒れた。
図体が大きくて力だけが取り柄の奴らか。数は1、2……倒れているのが2人、神崎さんと茅野さんを抑えているのが2人、立ち向かう余裕があるのが2人。倒されたうちの1人は班の誰か……多分喧嘩っ早いカルマくんがやったのだろう。けれどそのカルマくんも倒れている。……忠告したのになぁと思う。
「おい、抵抗するのか?」
「……みんなを離してくれませんか。私らの先生が黙ってませんよ」
「随分と威勢いいがこいつらがどうなってもいいのかぁ?」
1人の……恐らくリーダー格だろう男は、手に持ったパイプ棒を1番近くにいた倒れているカルマくんに突きつける。思わず戸惑う。体重をかけてしまえばいつでも突き刺せる状態だったのだ。戸惑ったことに察した男はやれ、と合図を出した。後ろから攻撃が来るけれど抵抗が出来ない、違う男が持っていたパイプ棒で後ろから殴られ
めのまえがまっくらになった。
__……だよ…………もうじ……場所……らない……
__オレら…………なりゃ……だよ
頭が痛い。
人の声で意識が黒から微弱の光を感じ戻される。捕われたことを思い出し、悟られないように僅かに瞼を開ける。横向きに倒された自分の目に映る。目が瞑っているように人から見られるくらいの僅かに開いた目に見えたのは手を縛られた茅野さんと神崎さん。先ほどより仲間が増えた柄の悪い男らの姿。
段々と意識がハッキリしてきた。1人淡々と気色悪い笑みを浮かべながら喋るリーダー格の男。……そういえば、この場にもあの時も奥田さんはいなかった。気が弱い性格から考えるに隠れて無事でいるのだろう。きっとみんなが助けにくるだろう。それまで無事に……
茅野さんがぼそっと呟いた言葉が聞き取れた。さいてーという言葉に淡々と喋っていた男の表情は変わる。……まずい。
咄嗟に動いた体は茅野さんの前に立つ。叩かれた手を覚悟して、手に寄る防御は出来なかったが体がよろめくことはなかった。
「如月ちゃん!?」
反射的に私の睨みに後ずさりをした男。2人を自分の背中に隠すように立つ。茅野さんの言葉に手を動かして大丈夫だ、とサインをする。腕は縛られていて、
で、あれば。今出来る事は皆が来るまでに“2人に触れさせない”ようにすること、だ。
「……はっ、大人しくしてれば傷付けるつもりはなかったんだけどよぉ……お前から台無しにしてやるよっ!」
その言葉に3人ほど一気に向かって来る。あぁ、一度気絶させられたからだろうか。頭痛はするものの頭が冴え渡っていた。
手が使えないので向かって来る3人を足技で近づけさせないように、かといって傷付けすぎないように飛ばす。手が使えないのなら気絶させることは出来ない。けれど時間稼ぎには充分だ。
私は気付かれないように暗殺することが特技だけれども、昔は用心棒もしていた。暗殺業として裏から依頼が来るようになってからはもう用心棒することも出来ず、その経験も忘れたと思っていたけれど体はちゃんと覚えているようだ。
向かって来る男らを遠ざけるように飛ばして、それを何回か繰り返すと外からの音に気付く。
「観念しな、うちの撮影スタッフがご到着だ」
……?その言葉に理解し不安を感じながらもなんだか物騒な音が僅かに聞こえた。それに気付いていないようで。本当にあいつらの仲間が増えるのだろうか?流石にこの場にいる奴らをあしらうのがぎりぎりで、これ以上増えると私も危ないのだが。
扉が開き、出て来たのは確かに柄の悪い男。……だけれど明らかに男らは動揺する。それはそうだろう。ぼこぼこにされた状態の男が出て来たのだ。そいつは地面に倒れ後ろから出て来たのは、あぁなんだ。もう着いたのか。
先頭はカルマくん。その後ろから班のメンバー全員が出て来る。
突然渚くんは何かを朗読し始める。あの分厚い大きな本は……先生の作った辞書並みの修学旅行について書かれた栞。渚くんが読んでいるのは班員が拉致された場合の対処法の項目。あの分厚さは何が書いてあるのかとも思ったが、なるほどそういうことが書かれているのか。それでみんなが助けにくるのも早かったわけだ。
……そうだなぁ、渚くんなら持っていそうだもんな。流石に自分は旅にあの重い本を持って行く気にはなれなかったので家に置いて来た。
もうみんなが来たから大丈夫だろうと2人の近くに座り込む。自分は頭が痛いのだ、後は任せた。
その後柄の悪い男が追加されると言っておきながら追加されたのは真面目っぽい学生に先生が手入れされたぼろぼろの男たち。黒い布を顔面隠すように現れた先生によって、そして先生の作った
「いやぁ、よかった。如月さんが全員倒さなくて。処刑したかったんだよねー俺」
「……懲りないね」
何の事?と素っ恍けるカルマくんは縛られた腕のテープを解く。痛い目に遭っておきながらまだ観念してないようで。深い溜め息が零れる。
テープが解かれ立ち上がろうとするとカルマくんに頭を抑えられる。一体なんなんだ、まだ頭が痛いのに。丁度パイプ棒で殴られた場所に触れられ、痛みで声が漏れる。
「殴られたのはここだけ?」
「……分かってるなら触らないでよ、痛いんだから」
「たんこぶが出来てるだけ。大丈夫そうだね」
聞いてるのか、聞いてないな。諦めたようにされるがままになると腕を掴まれ持ち上げられる。そうして立ち上がる。
「行くよ」
「……なんなんだ」
立ち上がらせておいてさっさと建物から出て行く。ちょっかいが来ると思えば来ないし、今日されたと言えば新幹線のものくらいだし。
一応忠告は効いたのだろうかと自己解決した。